OHPトップ > オスマントップ > 2003年11月の日記より
このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。
日記形式だと、どうしても日にちが過ぎてしまうと大量の過去ログの中に個々の作品が埋もれてしまうため、このコーナーではダイジェスト的にまとめてみました。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則としてしませんので、普段日記を読んでくださっている方にとっては読む意味がないかもしれません。手抜きといえば手抜きなんですが、まあその点はご容赦ください。
なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でもどんどん入れていきます。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、わりと省略しがちです。
▼強くオススメ
【単行本】「エロ魂!」1巻 黎明編 ダーティ・松本 オークラ出版 A5 [bk1][Amzn]
待望の単行本化(関連リンク:作者ページ)。エロ漫画生活30年を超える大ベテラン、ダーティ・松本が、自身の作家歴やこの業界の歩んで来た道程を記した一作。物語にはエロ漫画史を彩った数々のスターおよび無名の作家、編集者が続々登場。そして表現がものすごく激しい! 若き日のダーティ・松本が、編集者との打ち合わせで激昂して長ドスを振り回したり、編集部でショットガンを乱射して部員を皆殺しにしたり。ダーティ・松本の叫びとともにビルが崩れ、町が崩壊、トキワ荘の看板が吹っ飛んだり。それはもちろん誇張なんだけど、そんな表現がたいへん似つかわしい熱さがある。ダーティ・松本独特のものすごくクセの強い、いろいろなものが迸りしぶきが飛び散る華麗というかゴージャスというかな絵柄も迫力満点。しかも激烈ではあるんだけど、現れては消えていった数々のエロ漫画関係者の姿を見てるとちょっと感動もしてしまったり。これはダーティ・松本くらいのキャリアのある人でないと描けない。買い、読み、そして時代の生き証人の熱き叫びを受け止めるべし。
【単行本】「U-31」1巻 画:吉原基貴+作:綱本将也 講談社 B6 [bk1][Amzn]
面白い。サッカー漫画は野球漫画に比べるとまだ熟成が進んでいないジャンルだが、こういうスタンスの作品も出てきたのだなあと思った。主人公の河野は、日本代表がオリンピックでブラジルを破る金星を挙げたときのヒーロー。しかし今は27歳、名門チームから戦力外通告を受けて、かつて見捨てた古巣に客寄せパンダとして引き取られた身。ポジションも若いころはFWだったが今はボランチ。どん底まで落ちたサッカー選手が、再起、そして代表復帰を目指して努力を重ねていくというストーリー。「U-31」というのは「アンダー31」のこと。かつてJリーグや代表で活躍したが、旬が過ぎてしまった選手にスポットライトを当てるという渋みのあるお話。
この設定だと、どうしてもかつて一世を風靡して増長、凋落の一途をたどっていった前園や城といった実在の選手たちのことが思い起こされる。たぶんこの作者さんはそういった選手たちがいまだ好きなのだろうし、彼らにもう一度夢を見せてもらいたいと思っているんじゃなかろうか。だからキツいお話ではあるんだけど、愛も感じられるし、そこが作品の魅力ともなっている。漫画としての出来もなかなか。とくに河野の復活への道を密着取材したTVのドキュメンタリー番組形式で進む第5話は、いかにもNUMBERとか、スポートイラストレイテッド雑誌的な雰囲気がよく出ている。あと単行本の最後に、サッカー雑誌編集長コラムみたいなのが掲載されてて、これもいかにもソレっぽい。作画は洗練されているとはいえないかもしれないけれども、確かなペンタッチで力強い。お話もそれに負けず芯がしっかりしてて読みごたえがある。かなりなサッカー好きな人が作った作品という感じで、マニア層も十分楽しめると思う。
【単行本】「アバンギャルド夢子」 押見修造 講談社 B6 [bk1][Amzn]
少女はちんこの夢を見る。どうしても男性のちんこが気になって気になって、でも男とSEXしたりする勇気はない。そんな少女・夢子がとった行動は、学校の美術部に入部し、そこの部長である本田くんにヌードモデルになるよう強要することだった……という物語。この作品、なかなか面白いです。描いていることは妙なんだけど、やけに情熱にあふれている。ちんこが気になる→見たい→その姿を描き止めたい→そして……と突っ走る夢子のやみくもな姿勢がディープインパクト。ちんこ即エロスというふうには結びつかず、とにかく内なる衝動をなんとかすべく、観察したりスケッチしたり絵の具を塗りつけたりするさまが妙に楽しい。あと絵もけっこう好きで、技術的に卓越してるってタイプじゃないけど引きつけられるモノは確かにある。この表題作のほか、気の弱い少年の魂が夜な夜なハエになって好きな女の子の元へ飛んでいくという読切「スーパーフライ」も収録。こちらはラブコメ的な風味もある。けっこう期待をかけてみたい新鋭であります。
【単行本】「さくらん」 安野モヨコ 講談社 B6 [bk1][Amzn]
お見事ですなあ。安野モヨコって漫画うまいよねーとしみじみ思わせる一作。江戸時代の色町、吉原で生きた一人の女の物語。長じてきよ葉と呼ばれた遊女の人生を、禿(かむろ。遊女の付き人的な小娘)のころから描いていく。さすがに女性向け漫画でバリバリ鳴らしてきた実力派の作家だけあって、おんなの描き方がすごくうまい。向こうっ気が強いじゃじゃ馬・きよ葉が、だんだん美しく成長していくさま、そのはねっ返りな気性、そして女としての心根、遊女であることの喜び哀しみを物語の中に織り込んで鮮やかに描き出す。凜としてキレのいい作風がたいへん粋でとてもカッコイイ。キリリと引き締まったお話作り、華麗な画面構成はいちいち打てば響くようで、読んでて気持ちがいい。木口が紫で塗られた造本も雰囲気があって良い本です。
【単行本】「ラブ・クラシック」 比古地朔弥 太田出版 B6 [bk1][Amzn]
いやあいいですね。色気があって。この本はマンガ・エロティクスFに掲載された短編5本と、描き下ろしの「白花曼珠沙華」34pを収録。判型ばB6なのはちょっと意外だった。で、内容のほうだけど比古地朔弥ならではの艶めかしい描線が威力を発揮し、どの作品も読める。それぞれのお話は叙情たっぷりなんだけど、物語の骨格もしっかりしてて一つ一つのモノゴトを描く手際も確か。どの作品も「しのぶ恋」と申しますか、こそこそとエロいことをしている様子で、なんかすごく風情あります。例えば巻頭の「背中合わせのリルケ」なんかは素晴らしい出来。昭和30年代。駅のホームの椅子に腰かけ毎日朗読をしている少女と、その声に惹かれ、その背中合わせの席でそれを聞き続ける少年。そして芽生えるほのかな恋心。顔も見ない、もちろん直接触れ合うことなんかない。そんな二人の気持ちのやりとりを実に美しく描いてて、しかもエロチックな風味もしっかりあって、とてもいい。大胆で細やかで、比古地朔弥の作家としての地力を感じさせる本であります。
▼一般
【単行本】「灰色の乙女たち」2巻 加藤理絵 スクウェアエニックス B6 [bk1][Amzn]
いい作品でございました。父親が失踪して一人でなんでもやらねばならぬと張り詰めていた娘さん、村山ミサキが主人公。いろいろ迷ったりして周囲の人をやきもきさせつつも、彼女は学生生活を続け、自分の道を選びとっていく。このシンプルでスッキリした、でもほんわりとした暖かみもある絵柄にはいっぺんでやられてしまう人も多いのでは。学園青春モノの絵としてはかなり魅力的。お話のほうも少女の葛藤などを重くなりすぎず、しかもちょっぴり切ない気持ちを漂わせながら進めていて、いい具合にしみこんでまいります。最終回なんかはけっこう感動させられる。今だったら2巻ともまだ買えると思うので、この機会にぜひどうぞ。
【単行本】「硫伽といた夏」4巻 外薗昌也 集英社 B6 [bk1][Amzn]
最終巻。なかなかいいお話でした。歴史の流れを変えるために未来からやってきた少女・硫伽と、主人公・貴士、そして貴士の妹である弥衣らの姿を描いていく。SF的な要素がふんだんに盛り込まれた、愛の物語でありました。SFアクション的なあたりはけっこうガチンコで、それからラブストーリー的な部分もしっかりと盛り上がる。とくに貴士に対して妹の弥衣や硫伽あたりがトキめくあたりは、甘さ切なさが濃い目で心地よい。青春物語としても、甘さと苦さの同居するいい出来。良い作品だったと思います。
【単行本】「デッド・トリック!」上下巻 華倫変 講談社 A5 [bk1:上/下][Amzn:上/下]
28歳にして夭逝した特殊作家・華倫変が描いたミステリーものの中編。長らく未単行本化だったが、2000年の連載終了から3年以上が経過し、ようやくまとまってくれた。このお話は人格ぶっこわれ気味の科学捜査官である徳川徳子さん、それから凡庸な刑事のである一森、そして幼女趣味の変態だけど凄腕の畠山。この3人が難事件を解決していくというお話。トリック自体はハッキリいって大したことはない、と思う。でも読んでて面白いのが華倫変らしいキャラクターの異常な行動。徳子さんはヒマだからといってアリやハチをつぶしてウヒウヒいってるし、一森は妙な妄想膨らませてアツくロマンやらを語りまくっちゃうし、畠山は幼女をビデオで撮影したりしてるし。各所にちりばめられた毒をウヒョウヒョ喜びながら読んでいくべき作品でありましょう。
でも正直なところ、華倫変作品の中ではおそらくこれが最も大人しい作品ではないかと思う。推理モノで探偵や刑事がぶっ壊れてたり毒舌だったりすることは、珍しいわけではなかったりもするし。ありていにいっちゃえば、彼の作品の中では凡作の部類に入るし、あとがきで華倫変がこの作品の単行本は出し渋っていたようなことが書いてあったけど、それもうなずけないわけじゃない。ただやっぱり、この不思議にひん曲がった空間、空気というのは華倫変独自のものだったと思うし、特殊で稀有、惜しい才能であったことは間違いない。ただあっという間に読者に強烈な印象を残して呆気なく消えていった作家としてのありようは、なんだか華倫変の作風に似つかわしかったような、そんな気もする。
【単行本】「タマゴと創造性」 J・マツオ 幻堂出版 A5 [Amzn]
J・マツオはものすごく個性的でアーティスティックな作品を描くが、名の広く知られた雑誌とかには全然出てこない人だ。以前「キャンバス」という自費出版の単行本(感想は1998年2月8日の日記を参照のこと)を読んで、その独特の作風にすごく驚かされた。この単行本は2002年2月8日初版のもので、奥付によると500部限定生産だった模様。実は以前ネット書店で注文しようとしたが、そのときは在庫切れだったので諦めていた。ちなみに上記のAmazonへのリンクでも在庫切れになっている。JBOOKではお取り寄せになっているけれどもどうなんだろう。まあそんな感じだったのだが、昨日町田の福家書店に行ったらなんか積んであったのでめでたく購入。相変わらずこの書店は侮れない。
で、今回の作品についてはタイトルどおり、タマゴと創造性をめぐる短編を12本集めたもの。例えば「Lu Ruelle」は、芸術家たちに「創造性」を与えることのできる不思議なモノを持っているという噂の男が経営するアパートに、レスという男が入居するところから始まる。そして「創造性」なるものを求める奇怪な道中を描いていく。なんだか生姜みたいな形状でウニョウニョ動く虫を燃やして、その煙によって創造性を与える「シガー」とか、どうにも異様でグロテスクなアイテムが出てきたりしてお話はたいへん奇妙で濃厚。「創造性」というのはわけのわからないものではあるが、それに具体的に奇妙な形態を与え、さらにぐねぐね動かしてしまうあたり特殊。作風全体にもぬめぬめとした独特の粘着質な肌触り、得体の知れない迫力と存在感がある。とても風変わりで面白い味わいのある作品を描く作家なので、この作品タイトルでピンとくる人は、機会があったら一読してみるとよろしいのではないかと。
【単行本】「春ノ虫虫」 田村マリオ 太田出版 A5 [bk1][Amzn]
「社会不適合者の穴」を描いた田村マリオの初短編集。「生存者は今日も嗤う」「白い肉」「ラカン」「春ノ虫虫」「勝手にしやがれ」の5本を収録。いかにも耽美的でエロチックな風味もある絵柄は完成度が高く、カッチョよいです。個人的にはイカれた作家が蝉の中身の白い体液を……という「白い肉」がとくに好き。まあこれは蝉が好きなだけかもしれないけど、中の体液をすするシーンとかはやっぱゾクゾクするものがある。男と女のドラマという意味では、カタブツの女教師が出張ホストもやっている男子生徒に自分の想いを赤裸々に打ち明ける「勝手にしやがれ」あたりがドラマチック。死体のパーツを継ぎ合わせて得体の知れない芸術みたいなものを作り続けている男のお話「生存者は今日も嗤う」も、異形な造形物といじりまわされる少女というイメージがいい具合にマッチ。すでに自分ならではの作風が確立できてる感じで、今後もハズレなくやっていけそう。個人的にはまた長編も読みたいところ。
【単行本】「絹の紐」 近藤ようこ 太田出版 A5 [bk1][Amzn]
近藤ようこらしさの詰まった短編集。しんねりとした女の情念のこもった作品が集められている。例えば表題作の「絹の紐」は、一人の男を巡る女ふたりの物語。男が死んで残された妻のもとに、誰とも知らぬ女から届けられる夫の遺品。実は夫は結婚以前から送り主の女と関係していたらしいが、今となっては彼がどのような想いで二股をかけていたのかを語る者はおらず、残された二人の女は見えない紐のような絆で縛られ続ける。線はシンプルなんだけど、語り口に静かに迫ってくる力があります。あと近藤ようこの描く女の人って何気にきれいだったりかわいかったりするなあと思う。それだけでは終わらないんだけどね。
【単行本】「スクナヒコナ」1巻 南Q太 祥伝社 A5 [bk1][Amzn]
28歳のかわいい女性の恋やら何やらの物語。会社の同僚のバツイチイケメン・辺見に結婚を申し込まれた、大石紺28歳。結婚したら女は家に入るべきでしょーという主義の持ち主である辺見にいわれて、うまくいってた職場を辞めた紺だが、その後辺見がリストラされどんどんダメ男ぶりを見せ始める。借金はこさえるわ、無駄な浪費はするわ、全然反省しないわ……といった具合。そんなこんなでだんだん嫌気が差してくる中で、紺は自立する決心を固め、また新たな恋に出会っていくのでした。
この作品ではまず紺のフツーの娘さんぶりが見ててけっこうかわいらしい。そういう娘さんを振り回すダメ男に対してはイライラが募ってくる。最初はとにかく不幸な女性話でスタートするので息苦しかったりするのだが、だんだん先の希望も見えてくるのでストレスなく読めるようになってくる。でもそれはそれで苦労しそうだなーという予感も。いつもながら間のとり方がうまく、テンポも良くて読みやすい。とりあえず皆さんが幸せになりますように。ダメ男の辺見でさえ幸せになれるといいなと思いますよ。
【単行本】「喜喜」 宇仁田ゆみ 白泉社 B6 [bk1][Amzn]
ヤングアニマル本誌と増刊のArasiに掲載された短編、「グラス・スパイダー」「たりないひと」「ひみつのこと」「ウサギ」「むく」「プレゼント」を収録した短編集。青さ、甘さ、瑞々しさの詰まった爽やかな作品揃いで楽しめる。とくにこの中では、フラれたばっかりのちょっと斜に構えた感じの男が、紹介された友達のいとこの娘(実は17歳)と付き合い始めてどんどんハマっていく「グラス・スパイダー」がとくに面白い。このころは作風的にまだこなれてないのも味。現在はFEEL YOUNGが主戦場になってるけど、女性誌に行ったのも頷けるポップでチャーミングなシャレた作風。恋愛模様が気持ち良く描けていて楽しく読める。最初の短編集が「楽楽」[Amzn]だったから次は「哀哀」か「怒怒」かな。
【単行本】「うすバカ二輪伝」 東陽片岡 青林工藝舎 A5 [bk1][Amzn]
東陽片岡はこれまでにも何冊か単行本を出しているが、いつかオートバイ漫画の単行本を出そうと、オートバイがらみの作品はずっと収録せずにストックしていたらしい。それをまとめたのがコレ。「BURST」「オートコミックGT」「アックス」に掲載された作品を中心として、けっこうボリュームあります。東陽片岡ってこんなにバイク漫画描いてたんだな〜とちょっと驚いた。で、内容のほうはバイク漫画とはいえ、いつもの東陽片岡節は不変。別に走り屋の物語でもチューニング屋の物語でもなく、平凡でしみったれた男たちがバイクに乗ったり酒飲んで管まいたりソープに通ったりとそんな具合。全然カッコ良くもないしイカす格好悪ささえもないが、これが非常に味がある。どの作品を見ても登場人物がええ感じの雰囲気をまとった人揃いで、読んでるとなんか気持ちいい。意外と収録本数が多くて読んでるうちにちょっと飽きてくるところがなくもないが、まあのんびり急がず読むのが吉でしょう。
【副読本】「エマ ヴィクトリアンガイド」 森薫+村上リコ エンターブレイン B6 [bk1][Amzn]
実はまだ隅々まで熟読できてはいないのだけど、ざーっと読んでみただけでも力の入った本であることは伺えます。「エマ」の舞台となったヴィクトリア朝イギリスの生活や文化を細かく丁寧に解説してくれていて、いろいろ勉強になる。「エマ」を読み進めながら参照するも良し、一冊のイギリス本として眺めていくのも良し。「エマ」という作品はメイドものというよりは英国ものであると常々思っているのだけれども(ついでにいえば「シャーリー」はメイドものといったほうが正しいかもしれない)、改めてこの本を見るとやっぱり英国なんだなーと感じた。まあなんにせよ「エマ」好き、メイド好き、英国好きの人は迷わずゲットな本でありましょう。
▼エロ漫画
【単行本】「日々そりゃ妄想」 なめぞう 桜桃書房 A5 [Amzn]
なめぞう作品は味が濃いですな。この本はコミック大我とかに掲載された作品を中心にした単行本。もしかすると大我だけかもしれないけど、調べるのが面倒なので言葉を濁しましたよ。まあそれはともかくとして、このシリーズでメインとなっているのが「透明インターハイ」「透明校則」などの一連の透明モノ。陸上の大会が行われている最中の競技場の真ん中に、場違いな男が一人。でもその存在を誰も意識しているふうでない。それをいいことにこの男は女子選手の服を脱がしたり、ちんこをこすりつけてみたり。それでも誰もそれを意識しないし咎めるものもない……。そういうシュールな光景が延々展開されていくという作品。本当にこの人は見えていないのか、服脱げてるんだけど大丈夫か、周りは何もいわないのか……などなどという疑問にはまったく答えを出さずに、お話をずんずん進めてしまう。ここらへんの呼吸がなかなか楽しい。あと描写もたいへん濃くって、考えていることに口が追いつかなくなっているときのような、そんなもどかしさというか焦燥感みたいなのがいっぱいに詰まっている。あとこの単行本あたりだと女の子の肉体描写が今までにも増した肉感的になってます。けっこうHだと思うけど、まあ大向こうウケするかというとしないかなあ。そういうところがまた好きなんだけど。
【単行本】「ひそひそ遊び」 ほしのふうた 東京三世社 A5 [Amzn]
いつもながらにたいへんかわいい、ほしのふうたの単行本。今回の本は珍しくちょっとダークな雰囲気の全4話の中編「人形の家」がメイン。これは謎の美人姉妹の住む家に少年少女が監禁されて、めくるめく淫靡な体験をするというお話。ラストのあたりはちょっと怖いです。ほのぼの路線では「ノリちゃんと私」がいいなあ。主人公の女の子・岬が、同じアパートに住む年下のかわいい男の子ノリちゃんのぺースに乗せられて、ついHしまくっちゃうというお話。個人的には描き下ろしのおまけまんが「ちょこっとノリちゃんと私」4ページが好き。岬がラブレターをもらってノリちゃんが子供心にやきもちを焼くというエピソード。いかにも子供らしくていいです。あと岬の表情もイイ感じ。
【単行本】「やさぐれラバーズ」 小林王桂 FOX出版 A5 [Amzn]
現在ヒメクリで活躍中の期待の若手、小林王桂の初単行本。描線としてはまだ手慣れたって感じじゃないんだけど、たいへん爽やかないい絵をしてます。青くて清々しくて、青春臭が漂ってますよ。お話のほうも秀作がけっこうあって、父を亡くした少年と幼なじみの少女の優しいエピソード「The Day/Father die」、幼なじみの恋人の死によって失意に沈む兄と彼を慕う妹の物語「残り火」あたりはけっこう泣きも入る。また冒頭の「やさぐれラバーズ」なんかは若者ならではのズルズルした愛と性の日々が描かれていて、こちらはなんだかんだいってラブラブである心地よさとかが十分感じられる。下品でガッツンガッツンエロスでない、読ませるエロ漫画をお求めの人にオススメ。かつてオシャレ系だったころの快楽天が好きだった人なんかにもいいのではないかと。この人はいいっすよ。ただ、表紙の絵はあんまり良くないなあ……。FOX出版の紹介ページに表紙画像と内容サンプルが出てるけど、サンプルのほうが断然いい雰囲気出してると思うし、その雰囲気が出ていれば売上的にもプラスだったんではないかと。そこはちょっと残念。
【単行本】「姫雛たちの午後」 岡すんどめ 三和出版 A5 [Amzn]
だるまー。というわけで姫雛とはだるま少女のこと。といってピンと来ない人に説明しておくと、要するに四肢が切断された芋虫少女であります。収録されている作品のすべてにだるま少女が登場する、なかなかすごい作品集。絵柄はけっこう萌え絵系だったりするんだけど、やっていることはソレ。しかもお話はすごくヒドいことをやったりもするんだけど、基本的にはだるま少女と、彼女たちを愛する女性たちのラブストーリーになっていたりする。悲恋あり幸福なアツアツラブもあり。どちらも片方もしくは両方がそういう身体をしているだけに、ドラマ性が高まって恋愛のボルテージが向上しているのが長所。幸福であれ陰惨であれ、ドラマチックなのです。
で、この単行本を買うかどうか、実はちょっと躊躇していたところがあって少し購入が遅れた。なんで躊躇していたかというと、自分的にはもう少しヒドい話のほうがいいかなあとかいうイメージを持っていたから。意外とハートウォーミングな話も多いし、女の子たちもこれはこれでけっこう可愛かったりする。個人的にはもっとエグくて正視できないようなほうが好きなので、買うほどでもないかなとか思っちゃったのだ。でもやっぱりこういう珍しい才能が発露した本は買っておくべきだと考え直した。そして実際読んでみたら面白かった。イメージだけで判断するとやっぱ良くないな。ちなみに作者は「『ゴマちゃんのようなもの』と認識してはいかがでしょうか」とあとがきで述べており、不謹慎ながら言い得て妙だな……とか思った。
【単行本】「しあわせエッチ」 田中ユタカ 蒼竜社 B6 [bk1][Amzn]
久し振りにエロ漫画方面からの新作単行本。爽やかで甘い、初恋エッチを真摯に描いた作風は健在。作者があとがきで「すっかり道を見失って腑抜けになって」いたと書いているけれども、確かに読んでみるとまだ本調子でないかなという気はしないでもない。絵はいいのだが、輝きというか温度、密度が「愛人 −AIREN−」終了前に描いていた作品レベルにまではまだ戻ってないかなという感じはした。それでもこのジャンルとしてはやはり水準以上のものは確実にあるし、何よりこの人がまた復活してくれたのはうれしい限り。