オス単:2005年4月の日記より


 このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則として行っていません

 なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でも入ってくることがあります。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、取り上げないことが多いです。


▼強くオススメ

【単行本】「岳」1巻 石塚真一 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 これはオススメ。新人の初単行本、しかも掲載誌がビッグコミックオリジナルの増刊号ということであまり知名度は高くないかもしれないが、すごくしっかりと描かれた良作。ジャンルとしては山岳モノで、主人公は日本アルプスの山あいに住みつき、ボランティアで遭難者の救助などを行っている男・島崎三歩。彼の目を通して、山に登る人たちそれぞれのドラマ、自然の厳しさ、山の素晴らしさを描写していく。

 山岳モノの場合、まず大事になってくるのが自然描写。これについては、石塚真一は高いレベルでクリアしている。雪だけが空中に張り出した雪庇、深いクレバス、絶望的な断崖など、山でなければ見られないような自然条件を分かりやすく描いてて臨場感がある。また登山や救出時のアクションもリアル。転落して大けがした人を背負って岩壁を登る最中、けが人が息絶えその重みが三歩の背中にズシンとのしかかってくるシーンとか、「ああ、こういうことが起こるのも山なんだ」ってことが、しみじみ伝わってくる。

 山に関わる人々のドラマも印象的。山で人は素晴らしい体験もするが、ときには大けがをしたり、死ぬことだってある。残される人たちだっている。それを通じて人は何を思うか、三歩はそれをどう見るかといったことを、一つひとつ丁寧に描いている。山では人は本当にあっけなく死ぬ。自然から見れば本当にちっぽけなことでしかない。でもそれが当人や周囲の人々にとってはどれだけ重いことであるのか。その対比をきちんと描き出している。重い死を描く一方で、山を登ることや人間の素晴らしさも同時に語っていく。その熟練味さえ感じさせる構成力は大したもの。

 作画も良い。新人ながら非常に落ち着いたタッチ。登場人物たちの表情もイキイキ描けていて魅力的。とくに三歩の普段はゆったりとして、時に毅然とした表情を見せる顔は、安心感をもたらす雰囲気がある。こういう新人とは思えないような安定感を備えた新人がポッと出てくるのは、ビッグコミック系、というか小学館ならではだなあと思う。初単行本ながら本当に隙がない。

【単行本】「まじかるストロベリィ」1巻 まつもと剛志 白泉社 A5 [bk1][Amzn]

 いやー、なごみますなあ。魔法の苺の鉢植えから出てきた妖精の女の子・いちこと、その御主人様である植物マニアの大学生・日下部の、ほのぼのとした日常を描いていくという4コマ。いちこは妖精だけどまるっきりこどもで、日下部に対して無邪気に甘えてくる。そのこどもっぷりが見ててなんとも微笑ましい。肩の力が抜けた絵柄もええ感じで、ほのぼのした内容と相まって、ほにゃーっと脱力しまくり。途中から登場する、日下部の後輩の女の子・ヒナちゃんも、天然ボケののんびりした娘さんでこちらも見ててなごむ。力を抜いた絵が、さらりとしていながらかわいいのはお得。アニマルのプレゼントコーナーに掲載されていた、脱力系の2コマ漫画もお話のあいまあいまに収録されてるけど、これがまた味があって良い。登場人物たちのやってることはテキトーだけど、かわいいからいっかーと素直に思える。4コマ漫画はあまり読むほうじゃないけど、これは良いなあと思いつつ毎回見てます。そういえば、いちこが1巻の時点ではまだあんまりにゃんにゃん攻撃(にゃんにゃんいいながら日下部に甘えるという攻撃)をしていないのは今から考えるとちょっと意外。

【単行本】「はたらくカッパ」 逆柱いみり 青林工藝舎 A5 [bk1][Amzn]

 主にアワーズガールで連載された作品。就職面接に向かう途中、ひょんなことからカッパの潜水艦に拾われてそこで給仕係をやることになった女性の日々を、のたりのたりと描いていく。いちおうお話はあるものの、それに力点は置かれておらず、ゴチャゴチャした街の風景や奇怪な海の景色などを、いかにも楽しそうに描いていくのがメイン。逆柱いみりの描く事物は、おおむね異形だけどユーモラスでチャーミングで、見ているだけで幸せになれる。ちょうどいい具合にしっとりと吸いついてくるような皮膚感覚。最近の逆柱いみりはますます物語性を捨てて、奇矯な背景を描いていくことに専心していってるけど、個人的にはこの作品くらいのゆるやかな物語はあったほうが読みやすくて好きです。例えば歌い手の美声を楽しむにしても、脈絡のない発声だけというよりは、多少のメロディラインくらいはあったほうがいいってな感じですかね。

【単行本】「針とオレンジ」 きづきあきら ぺんぎん書房 A5 [bk1][Amzn]

 同人誌で描いた作品を集めた短編集。このころから同人誌では追っかけてて、うまい人だなあと思っていたけど、今改めて読んでみてもやっぱりいい。強い甘さと苦さが同居するどこか官能的な物語は、切れ味鋭く、読む者の心に確かな爪痕を残す。巻頭の「YELLOW」は、その巧みさが際立つ作品。同じ部屋で暮らす弟のことを深く愛しつつも、その恋心をぐっと押さえつけながら日々を過ごす少女の物語。わざと弟の前で着替えをしてみたり、好きな食べものを作ってあげたりといったことをしてみるが、彼の心が自分に向かないことは分かっている。分かっているけれども恋せずにはいられない。そんな心理を非常に細やかに描写している。またラストシーンも、すごく小さな出来事なんだけど、少女の心のうちを美しく表現できててしみじみ良い。また、お互いに言葉の通じない日本人と中国人の女の子の恋物語である「針とオレンジ」も、人恋しさがしみ渡る佳作。「春にして君を想う」の、官能的でちょっとサディスティックな女性心理の描写もグッとくるものがあった。やっぱり好きですなあ。

【収録作品】「YELLOW」「Childfood's End」「まほうのめがね」「春にして君を想う」「バライロ ノ アシタ」「針とオレンジ」「死の聲」「たのしいなつやすみ」


▼一般

【単行本】「Canvas2 〜Extra Season〜」 作:F&C・FC01+画:児玉樹 角川書店 B6 [bk1][Amzn]

 元々は美少女ゲームの「Canvas2」が原作で、ゲームのほうは全然やったことがないんだけど、エース桃組を中心に掲載された漫画版がなかなか良かったので購入してみました。お話のほうは、とある学園の美術教師をしている主人公・上倉浩樹と、彼を慕う同居人であり従姉妹であり学園の生徒でもある鳳仙エリスという少女を中心としたラブコメディ。そのほかの女の子もいっぱい出てくるけど、漫画版では上倉とエリスはおおむねガチ。微笑ましいオーソドックスなラブコメとしてけっこうよくできてる。絵柄がかわいいし、エリスの元気で甘えん坊でまっすぐなキャラも見てて楽しい。また、かつては誰にも負けない絵への情熱を持っていたが、現在は挫折して筆をとれなくなっている主人公が、エリスのおかげもあって、少しずつ自分を取り戻していく過程をしっかり描いているのも良い。ただ甘甘一辺倒にならず、物語面でもけっこう読ませるものに仕上がっている。

【単行本】「押切蓮介劇場 マサシ!!うしろだ!!」 押切蓮介 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 押切蓮介2冊同時発売(もう1冊は「でろでろ」4巻)。とくに短編集のほうは待望の1冊。描き下ろしの「マサシ!!うしろだ!!2005」のほか、「悪霊ドリル」「カースダイアリー」「トイレまで4メートル」「卒業シャーク」「マサシ!!うしろだ!!」が収録されている。

 とくに嬉しかったのが「悪霊ドリル」と「カースダイアリー」の、別冊ヤングマガジンで連載されていた2作。「悪霊ドリル」は悪霊と取引してだまされ、彼女やそれまでの優等生的地位を奪われた男子が、復讐するため心霊道場に通い始めるというお話。その心霊道場での指導がいかにもインチキで、どんどんヘンな方向に話が進んでいくのが面白い。「カースダイアリー」のほうは、悪霊に祟られたおかげで代々早死にしてきた家系の子孫が、死ぬ前に子供を作らなくてはと奔走するドタバタ劇。こちらも独特のおどろおどろしいのに軽妙な絵の味が生きていて、楽しく読める作品となっている。

【単行本】「お兄ちゃんと一緒」1〜3巻 時計野はり 白泉社 新書判 [bk1][Amzn:1/2/3

 育ててくれた唯一の家族であったおばあちゃんが亡くなって、一人ぼっちになったと思っていた14歳の中学生女子・宮下桜のもとに、突然腹違いの兄が4人あらわれて同居することになって……というシスプリならぬアニプリ漫画。この作品の魅力は、なんといっても妹ちゃんであるところの桜がとてもかわいらしいこと。ちまちましててよく動いて、表情がくるくる変わって、見ててとても楽しい。お話のほうもほほえましいホームドラマになってて後味が良い。少女漫画誌連載だけど、男子でも普通に読みやすい作品だと思います。


▼エロ漫画

【単行本】「いもうとぱんつ」 犬星 メディアックス A5 [Amzn]

 つるぺたな感じのかわいいロリ娘を多く描く人。おにいさんと小さな娘さんという内容が多いけど、わりとガチでラブラブなことが多いので、雰囲気は甘やか。女の子たちのイタズラっ気のある表情がかわいいです。あとこの単行本にはデビュー作の「いもうとぱんつ」も収録。今よりも若干線が固めだけど、これはこれで少女の初々しさが出てて良いです。

【単行本】「パイズリ姫」 天崎かんな 司書房 A5 [Amzn]

 天崎かんなは爆乳系なエロ漫画をよく描く人だけど、出てくる女の子がみんなちょっと抜けてて、人が良さそうな表情をしているのが良いです。やってること自体はけっこうエロくて実用的なんだけど、なんだか和む味わい。表題作の「パイズリ姫」は、王族のたしなみとして教育係からお姫様がパイズリ教育を受けるというお話。なんかぽわわわーんとした顔つきのお姫様が微笑ましい雰囲気。あと収録作品の中では「ポチャっとLOVE。」がいいですな。おいしいものが大好きで、ぽちゃぽちゃしてしまった女の子のお話。幸せそうに鍋をつついているときの笑顔が良いです。


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