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若尻傑作選(上) 「君にやりたいほうだい」 全1巻 久保書店 [Amzn]

「キミにやりたいほうだい」表紙 シリーズ:ワールドコミックススペシャル
初版発行:1996/06/25
ISBN:ISBN4-7659-0471-7 C0979
価格:860円(1996年6月現在)
判型:A5
印刷:モノクロのみ

 ここらへんからがSABEの本領発揮、というか俺が読みたかったあたり。この「キミにやりたいほうだい」と「友達のいもうと」は、「若尻傑作選」というタイトルから分かるかもしれないが、ヤングヒップに掲載された作品を集めた短編集だ。どの作品もSABEならではの独特の視点から見たひねくれた作品群。登場人物(とくに主役)の目がイっちゃってて、実にいい。
 イカれまくった作品ばかりで、すんげえ面白いのだ。

 で、上巻の「キミにやりたいほうだい」で、俺が一番好きなのはなんといっても「裏切りの七子」。人を裏切ることに至上の快楽を見いだす女、七子がその欲望を充たすため、いったん親友を作っておいてさんざん友情を深めた後、一気に裏切るというストーリー。効果的に人を裏切るためならどんなこともいとわないという、そのねじくれた負のエネルギー、そして七子の血走った眼。すごく面白い。
 「養子になりたい」も病んでいてステキな作品だ。ほかほか弁当屋のおばさんに、なぜか惹かれていく大学生。ちゃんとした同年齢の彼女がいるにもかかわらず。その愛が次第次第に募っていき、おばさんに愛の告白をする。「おかーさんになってくれませんか」と……。
 「すばらしき土建の男」も笑える。肉体労働者として土建業に従事する彼とその彼女が、死ぬほどセックスしまくるという話。夕方から朝まで10回も20回もぶっ通しでやるというパワフルなお話。

 「若尻傑作選」に収められた短編は、どれも短いながら、その中に異常で過剰な世界がみっちりと詰め込まれている。たった16ページ程度で読者を圧倒し去る、鮮やかな筋立て、描写、演出にはなみなみならぬものを感じる。

▼収録 ……( )内初出
「ときめきのレズビアンスター」(ヤングヒップ92年1月号)
「君にやりたいほうだい」(ヤングヒップ92年12月号)
「ビデオを撮って売りに行こう」(ヤングヒップ94年3月号)
「新・九州紀行」(ヤングヒップ93年2月号)
「すばらしき土建の男」(ヤングヒップ92年5月号)
「大家の娘ですが……」(ヤングヒップ93年9月号)
「裏切りの七子」(ヤングヒップ94年1月号)
「養子になりたい」(ヤングヒップ93年10月号)
「永遠の命」(ヤングヒップ93年5月号)
「楽しい金持ち一家」(ヤングヒップ91年1月号)

若尻傑作選(下) 「友達のいもうと」 全1巻 久保書店 [Amzn]

「友達のいもうと」表紙 シリーズ:ワールドコミックススペシャル
初版発行:1996/07/25
ISBN:ISBN4-7659-0475-X C0979
価格:860円(1996年6月現在)
判型:A5

 「友達のいもうと」で俺が一番気に入ってるのは、表題作の「友達のいもうと」。「友達の妹」という存在がすごく好きな男の物語。ここでいう「友達の妹」というのは、具体的な人間を指すのではなく、「友達」というポジションにある人間の「妹」というキャラクターを指す。要するに「友達の妹」で(なおかつかわいく)ありさえすれば、なんでもいいのだ。「姉」だとダメなのである。
 このどうしようもないこだわりのため、わざわざ友人を作り、その妹にいい印象を持たれるようイメージ作りもする。「君にやりたいほうだい」収録の「裏切りの七子」もそうだが、ちょっと常軌を逸した目標のために周到に準備を行う、並々ならぬ努力がねじくれてていいのだ。

 また、「どチャリマー」も面白い。財産を一切持たず、チャリに乗ってさまよい、女をコマしてねぐらおよび食料、金などを得る、プロの自転車コマシ屋チャリダーの物語。主人公のチャリダーからして、いい女を見かけると「いいケツだあッ。スパンキングしたのちにアリの門渡りをいじりたおしてやりたいぜえ!!」と叫ぶ、そのアナーキーな展開がたまらない。

 そのほかの作品も皆秀作揃い。すごく面白いので「若尻傑作選」は買いだ。SABEの既刊単行本の中では一番のオススメ。

▼収録 ……( )内初出
「アベックと老人と海」(ヤングヒップ92年9月号)
「春なんです」(ヤングヒップ93年4月号)
「宇宙から降りてきた男」(ヤングヒップ93年11月号)
「あしたのドラゴン」(ヤングヒップ93年12月号)
「友達のいもうと」(ヤングヒップ93年1月号)
「どチャリマー」(ヤングヒップ93年7月号)
「幽霊とわたし」(ヤングヒップ93年8月号)
「アタッチメントでGO!!」(ヤングヒップ92年7月号)
「ぼくらの老後はハッピー」(ヤングヒップ93年6月号)