吉田戦車

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「鋼の人」
「鋼の人」

全1巻 白泉社

 初期短篇集。このころはまだキャラクターの目がかなりつりあがっていた。この単行本に収録されている作品は、地味だけど染み出してくるような面白さがあって、「このころの作品が一番好き」という人も少なくない。一編一編は短いが味わい深い。オススメは「学校の与一」「猫戦車の最後」。学校に住みついた与一という猫と、女学生の山本さんの数奇な運命を描いた作品。トボけた雰囲気を残しつつも、最後はしめやかに泣かせるあたり、このころから実にうまい。

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「くすぐり様」
「くすぐり様」

全1巻 白泉社

「鋼の人」と並ぶ、吉田戦車初期の短編集。便所に住みついたネズミのような形をした奇妙な神様を描いた「便所の神様」、少女たちがバケモノ牛を雪に描いたぐるぐる円に誘い込んで倒す「ぐるぐる円」など名作も多い。しっとりとしていながら、静かにくすぐってくれるというか、独特の味わい。このころからすでに、架空の風習・風俗モノはオハコである。「ひょうの道」は「ひょう」と呼ばれるホヤの進化した生物に脅かされる田舎町の学生たちを描いた作品。「おめいには聞かせねい」などといった、ひねこびた方言が気に入っている。

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「酢屋の銀次」
「酢屋の銀次」

全1巻 白泉社

「鋼の人」「くすぐり様」を1冊にまとめて文庫化したもの。すでに両方持っている人は、内容に変動はないみたいなので、とくに買う必要はないだろう。判型も小さいし。この本でわかぎえふという女優が、「吉田戦車は絵がヘタだ」みたいな後書きを書いているのだが、俺にいわせれば「わかってねえなあ」って感じである。吉田戦車くらい、じじいや男子中学生の「笑っているんだかなんだか分からないあいまいな表情」といった、微妙な事物を描くのがうまい漫画家もそうはいないのに。そういう展開上必要なものを過不足なく描けるっていうのは、漫画を描くうえで本当に必要な描画能力だと俺は思う。そういう観点から見れば、吉田戦車はまぎれもなく絵がうまい。

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