吉田戦車

「油断ちゃん」
「油断ちゃん」

全1巻 講談社

 地元商店街に、生まれたときからスパイとなるべく親からしつけられた最強の幼稚園児がいた。彼女の名前は韮崎油断。世界征服の手始めとして地元商店街を狙う悪の大手スーパー「赤サソリ」から人々を守るため、彼女は日夜諜報活動に励む。役に立っていないようで立っているらしい変装や、一部の大人を煙に巻く巧みな話術、ままごと風味あふれるスパイ道具によって彼女は縦横無尽の活躍をし、熾烈な情報戦を制していく。

 そんなわけで、この「油断ちゃん」の世界で繰り広げられるのは、世にも大掛かりで馬鹿馬鹿しくもほのぼのとしたスパイごっこである。といっても登場人物は当然マジメにやっているのだが、マジメにやればやるほどおかしいのが世の常。赤サソリの活動の地味さや、油断ちゃんの対抗策の身もフタもなさ、そしてそれが功を奏してしまういい加減さがなんとものどかで楽しかったりするのである。吉田戦車らしい言葉遣いの巧みさが現れた油断ちゃんの話術も軽妙。それから「男子体育大生は生肉が好き」などといった、大ざっぱな図式をさも当たり前のごとく描いてしまうあたりも楽しい。
 搦手から、巧みに読者の笑いのツボをこそりとついてくる小品。地味だけどかなり笑える。なお、これが吉田戦車としては初の講談社からの単行本。
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