「CROSS」表紙 天竺浪人

「CROSS」

 コミック激漫(ワニマガジン社)に掲載された作品を中心とした作品集である。
 エロ漫画といえば、どの雑誌もだいたい16ページが基本的なページ数となっている。これはちょっとシチュエーションを説明してエロをやって……というのにはまあおおむねちょうどいいのだが、天竺浪人くらいのお話を作れる人の作品だと「もっと読みたい。もの足りない」と思ってしまいがちなページ数でもある。ところが最近の激漫では、天竺浪人の場合、一挙50ページくらい掲載というのが標準となっている。前述のようなもの足りなさを感じていた読者にとってはかなりうれしい状況である。この本収録の作品は、そういうけっこうまとまったボリュームのある作品が主だ。その合間合間にエッセイコミックである「笹暮草」が挿入されるという構成。

 天竺浪人の作品は、人間の心の中のドロドロした暗闇に踏み込むような深みのある作風が持ち味。今回の本でもそれは同様だが、ページ数がまとまっている分、読みごたえはさらにアップしている。
 優秀な兄にコンプレックスを抱いていた弟が貪欲な兄嫁を犯すが結局は敗北感から逃れられない「SLEEPLESS NIGHTS」。心理カウンセラーと若夫婦のちょっとコミカルでドタバタっぽさもあるヤリ系な「DELIVERANCE」。遊びを知らないカタブツな男が街でいきなり「フェラチオさせて下さい」と声をかけてきた不思議な少女によって癒されていく「CROSSクロス」。そして上司の妻と昔の彼女の間でいったり来たりな男のお話「+αクロスアルファ」。
 どの作品でもときにエロチックに、ときにぐずぐずと思い悩み、ときにコミカルに、お話は進む。今回の収録作品は、ただエロであるとかコミカルであるとかではなく、いろいろな要素は一作品の中に詰め込んだ風情のものが多い。妖しくエロティックな雰囲気に乗せて、読者をさまざまな方向へと導いていく。もともと巧みな作品を描く人だったが、それにこれだけのページ数が加わればまさに鬼に金棒。みっちり充実していててとても美味で満腹感がある。納得の一冊。

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