「黒日夢」 天竺浪人

「黒日夢」

 フラミンゴ掲載の作品を集めた作品集。

 このなかではまず、全4話収録の「ひる」が注目。申し分のない相手に結婚を申し込まれたが、記憶の底に救う得体の知れない暗い想いに囚われてその申し出を拒む女性。彼女のイメージには、何やらコウガイビル(ナメクジ状のぬったりとした虫)が暗い影を落としているらしい。そんな彼女を、ストーカー的な男・会社の元同僚の沼田が捕え凌辱する。延々と続く恥辱の波の中、彼女は自分の中に潜む暗い想念の正体にだんだん気づいていく。
 ページ数をきっちり使って、少しずつ少しずつ、トラウマの形を浮き彫りにしていく手際は実に巧みである。コウガイビルの不吉で気味の悪いイメージも、作品世界に深みを与えている。

「黒日夢」は、途中ユーモラスかつ不条理な展開もするが、最後はミステリアスに締める。「正直なからだ」はわりと明るい気楽なノリ。首とその下を切り離した女性が、頭は授業に出席、身体は男とSEX……というユーモラスな状態になる。「SEASON IN THE ABYSS」はせりふなしで、一人の女性が凌辱され破壊されていくまでを描く。あと最後の「壁」は、乾燥したペンタッチでほかの作品とちょっと違ったイメージ。街とその外を区切る壁に埋め込まれ、上半身と下半身を別々に凌辱される女性の、奇妙な恋を描く。

 どの作品も、それぞれに仕掛けが施されていて、ときにはヒネリの利いた小粋なオチだったり、やりきれない絶望だったり、艶めかしい余韻だったり、一筋縄ではいかない読後感を残す。まあここらへんに収録された作品あたりだと、天竺浪人としては手慣れた雰囲気のものが多く、インパクトはさほど強烈ではない。しかし、長編も短編も自家薬篭中のモノって感じで、あの手この手を繰り出してくる巧みさはやはり見事であると思うのだ。

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