「LOST」 天竺浪人

「LOST」
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 三和出版からは「WILD FLOWER」に続いての単行本。「WILD FLOWER」でスカトロ方面に新境地を見出した天竺浪人だが、この作品ではそれをさらに深化させている。

 大人しくて気の弱そうな男子中学生・本山は、保健室の女校医からある一つの誘いを受けていた。女校医の響は本山の中に眠る、ある特性を見抜いていた。自分が何もし得ない社会に絶望し、誰かに所有されるモノとなることに惹かれる性質を。彼女は本山に人間便器になることを勧める。そして、本山は見ることになる。響の家で床と融合して響の脱糞を待つ奇妙な存在、人間便器を。そんなものが社会にあっていいはずがないという理性とは裏腹に、しだいしだいに糞食、そして誰かに所有されることに惹かれていく本山。本山は自分がそういった存在ではなく、ちゃんとしたSEXもできる人間であることを証明しようとして、助交際をやっているという噂のあるクラスの女の子・下田を呼び出すが、それは彼女の心を傷つけてしまう。
 社会における自分の位置を見出せず、人間であり続けるか物体となって他人に所有されるかという境界線でゆらゆらと揺れる、脆く危うい少年の心理を描き出す筆致は絶妙。ただ糞食するだけの単純なスカトロには終わらず、人間の心の闇の部分を抉ってくる。床と一体化して糞が口の中に降臨するのを、至福の表情で待ちかまえる人間便器の造形もインパクトがある。キャラクターたちそれぞれに陰があり、これからの展開も一筋縄では行きそうにない。内向的で地味ではあるけれど、しみじみうまい。
(以上第1巻感想:1999/06/15)

■単行本データ