「ビリーバーズ」1〜2巻 山本直樹

「ビリーバーズ」
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 アヤシゲな宗教団体のような組織「ニコニコ人生センター」に属する3人の男女。『議長』さん『オペレーター』さんと呼ばれる2人の男性、そして『副議長』さんと呼ばれる女性が、その団体が定めたプログラムに従って孤島で生活する。
 禁欲的な生活を送っていた彼らだが、食料等の物資が底をついていく中、思考能力は低下していき、食欲・性欲といった欲望のたががしだいに緩んでいく。その過程を山本直樹の洗練された筆致で、じっくりじっくり描き込んでいく。

 1巻の後半くらいまでは、性的なことは直接描かれない。しかし、そこまでの段階で性的な描写を少しずつ盛り込んでいき、じょじょにエロティックな空気を色濃くしていく手際は鮮やか。山本直樹の描く女性は、セクシーダイナマイツな肉弾系ではない。でもいやらしい。スラリと引き締まって、出るところは出ていてムダのない肉体は、しっとりすべすべした肌触りを連想させ実に艶めかしい。また、男女の接触部の表現がまたいやらしいのだ。実用に供するかはともかく、作品全体から漂う淫らさはたいへんに濃厚である。
 カルト宗教の修行をしている3人の姿は、充実しているかのような表情が顔に張り付いていて、なんともうさん臭い。それだけに、欲望が表面にのぞいた瞬間はいっそう生々しく目に映る。

 ラストは、説明が多すぎなようにも少なすぎなようにも感じる。読者が持つであろう疑問を完全に解き明かしてしまうという方向にも行けただろうし、完全に説明なしでほうり出す方向にも行けたと思う。だけど、ある程度の種明かしをしつつ、3人の島での意識朦朧とした生活の感触そのままに、幻想とリアルをないまぜにして締めくくられていくラストは非常に「らしい」。受け止め方は人それぞれだと思うが、表現・描写は文句なしに巧みだし、そこかしこのシーンで惚れ惚れしてしまう。一読の価値は間違いなくある。
 あー、面白かった。