「テレビばかり見てると馬鹿になる」 山本直樹

「テレビばかり見てると馬鹿になる」
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 実に山本直樹らしい短編集である。以下の収録作品リストを見れば分かるとおり、今回はいくつかの雑誌に掲載された短編を集めた単行本となっている。いずれの作品も、現実と非現実の境目をあいまいにしていくような幻惑的な物語、最小限の線で艶めかしいエロを感じさせる作画など、山本直樹がすでに自家薬籠中のモノにしているような道具立てとなっている。まあ「手慣れたもの」といってしまうこともできるんだが、しかしこれに類するような作品を、これだけのクオリティで描ける人が山本直樹以外にいるかといえばいないわけで、やはりワンアンドオンリーの作家である。

 そんなわけでどれ一つとっても山本直樹テイストは十分出ているが、あえて例を挙げてみる。冒頭作「なやまない」。この作品は、手が「ぱんっ」と音を立てて女の子が目を覚ますところから始まる。そこは二人がけの椅子が並ぶ電車(地方線?)の中で、彼女は同級生の男子数名に囲まれている。男子たちは彼女に催眠術をかけたといった主旨の会話をしており、暗示によっていうことを聞くようになったらしい彼女にクサい靴の匂いを嗅がせたり、いやらしいことをしかける。ところが次にまた手が「ぱんっ」と打ち鳴らされるコマが挿入されると舞台はヘンな男の部屋となり彼女は股間にアヒルだかなんだかの首のついたパンツを履かされている。さらに次に手が鳴らされると今度は学校……という具合。催眠術というすべてをあいまいにするアイテムを見え隠れさせながら、どの時点が本当の現実なのか、それとも全部が本当の現実なのか、いや物語は時系列順にきちんとつながっているのか、いかようにも読みようのあるお話を作り出している。立脚点はどこでもオッケーともいえるし、どこにもないともいえる。しかもそういう仕掛けをうるさく呈示するわけでなく、この人はすでに当たり前のこととしてサラリとやってのけちゃっている。そこらへんは今さらいうまでもないことだがスゴイ。

収録作品タイトル初出
なやまないマンガ・エロティクス Vol.1 (塔山森名義)
ひどいやつらは皆殺しマンガ・エロティクス Vol.2 (塔山森名義)
ひどいやつらは皆殺し2マンガ・エロティクス Vol.3 (塔山森名義)
きさくなあのこMANGA F 2000年8月号
「味方」MANGA F 2000年9月号
便利なドライブスーパージャンプ 2000年No.15
泳ぐ週刊漫画アクション 1998年11/3号
テレビばかり見てると馬鹿になる週刊漫画アクション 2000年5/9・16号