山田芳裕
巻 | 初版 | ISBN | 価格 | 購入 |
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1 | 2002/09/20 | 4-06-328842-0 | 514円+税 | [bk1][Amzn] |
2 | 2002/12/20 | 4-06-328857-9 | 514円+税 | [bk1][Amzn] |
3 | 2003/03/20 | 4-06-328874-9 | 514円+税 | [bk1][Amzn] |
4 | 2003/07/23 | 4-06-328895-1 | 514円+税 | [bk1][Amzn] |
5 | 2003/11/20 | 4-06-328913-3 | 514円+税 | [bk1][Amzn] |
6 | 2004/03/23 | 4-06-328943-5 | 514円+税 | [bk1][Amzn] |
■出版社:講談社
■シリーズ:モーニングKC780
■巻数:全1巻
■判型:B6
■ISBN:ISBN4-06-328780-7 C9979
■価格:524円(税別)
■初版発行:2001/11/22
「度胸星」連載終了後、久しぶりに講談社、しかも古巣のモーニングでシリーズ連載された久しぶりの江戸時代モノ。
腐りかけぎりぎりの「うまずい」という境地をこよなく愛する女浪人、「おみつ」の快刀乱麻の活躍を描く作品。旅の途中で訪れた爛熟していい具合にこなれた宿場町・梅ヶ原町を気に入り、おみつはしばらく腰を落ち着けることにする。しかし、その隣の大竹町を仕切る左門字一家は勤勉を最大の美徳としており、だらけた空気の漂っている梅ヶ原を何かと目の敵にしていた。おみつは左門字一家の討ち入りの切った張ったの修羅場に巻き込まれていくが……。といった感じのお話。
刀でバッサリ敵を斬る様子は「考える侍」に通じるところがある。それからおみっちゃんの粋な立ち居振る舞いも見ていて気持ちいい。まあ正直、切れ味については「考える侍」のころのほうが鮮烈だったような気はするんだけど、これはこれでまた違った熟した味わいがある。まさに「うまずい」の境地といったところか。この「うまずい」というのは「うまい+まずい」なんだろうけれども、この概念を突き詰めた漫画にしちゃっても面白かったかも。
■出版社:小学館
■シリーズ:ヤングサンデーコミックス
■巻数:全4巻
■判型:B6
「デカスロン」に続くヤングサンデー連載作品。
物語は、米国NASAの有人探査船のクルーが、人類史上初めて火星に降り立つところから始まる。しかし、その直後、彼らと地球の通信は完全にとぎれる。実は彼らは、火星において、まるで十字架のような幾何学的な形状をした物体と遭遇し、その物体に宇宙船や通信設備を破壊され、クルーも一人を残して死亡していたのだ。もちろん、地球側にそんな状況はまったく伝わっていない。
事態を憂慮した米国政府は、火星探査クルーの救助計画を発動。そのための乗組員を、全世界から公募することになった。その乗組員のセレクションは日本でも行われ、トラック野郎の息子である、三河度胸もそれに参加した。度胸は、自分の弱さをはっきり認め、逃げるにせよ逃げないにせよ、即座に決めることのできる決断力の持ち主である。彼はそのいっぷう変わった性格と、筋の通った行動でセレクションのいくつもの試練を乗り越えていく。
といったところから物語は始まる。宇宙飛行士になるまでの試練なども、こと細かに描写されていて、なかなか力の入った本格的な宇宙モノの作品となりそうだ。地力のある人だけに、面白い作品になりそう。期待大。
……とか書いていたんだが、4巻収録分まで行ったところで連載が突如終了。打ち切りとの説も流れ、ネット上でも話題になった。このまま続けていれば名作になっていたかもしれないが、名作になる前に終わってしまった。終了前の時点でも面白かったことは面白かったが、やはり最後まで読みたかった。残念。
単行本データ | ||||
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巻数 | ISBN | 初版発行年月日 | 価格 | 購入 |
1 | ISBN4-09-152451-6 C9979 | 2000/06/05 | 505円+税 | [bk1][Amzn] |
2 | ISBN4-09-152452-4 C9979 | 2000/09/05 | 505円+税 | [bk1][Amzn] |
3 | ISBN4-09-152453-2 C9979 | 2000/12/05 | 505円+税 | [bk1][Amzn] |
4 | ISBN4-09-152454-0 C9979 | 2001/02/05 | 505円+税 | [bk1][Amzn] |
■出版社:小学館
■シリーズ:ヤングサンデーコミックス
■巻数:全23巻
■判型:B6
「デカスロン」とは陸上の十種競技のこと。100m走、幅跳び、方眼、走り高跳び、400m走、110mハードル、円盤投げ、槍投げ、棒高跳び、1500m走の10種目を戦い、それぞれ成績に合わせて点数をつけ、合計得点で順位を決めるスポーツだ。この作品の主人公は、風見牛乳店という牛乳屋の一人息子、風見万吉。高校までは野球をやっていて中央ではまったく無名だった万吉が、突如デカスロン界にデビューする。競技の知識もあまりなく、行動は調子っぱずれな万吉だが、その強烈な運動能力と、底抜けの馬鹿特有のバイタリティと楽観性で見る見る日本のトップアスリートの座に登り詰める。
「デカスロン」連載開始当初は、山田芳裕のスポーツものということでびっくりした。が、デフォルメの利いた迫力ある画風、個性的なキャラクターメイキングなどは健在で非常に面白く、安心した。結局、国内大会から始まり、風見万吉が世界選手権に出場し奮闘するまでを描き、全23巻におよぶ長大な力作となった。途中展開が遅く、また休載がちだったこともあって、ダレた期間がなきにしもあらずだったが、ラストの盛り上がりは素晴らしかった。とくに最後の1500m走のゴールの瞬間。見開きのパワフルさで痛快に見せてくれた。スポーツが題材でも、やっぱり山田芳裕はタダモノではなかった。
巻数 | 初版発行 | ISNBコード | 本体価格 | 購入 |
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1 | 93/03/05 | ISBN4-09-151451-0 C0379 | 485 | [Amzn] |
2 | 93/08/05 | ISBN4-09-151452-9 C0379 | 485 | [Amzn] |
3 | 94/01/05 | ISBN4-09-151453-7 C0379 | 485 | [Amzn] |
4 | 94/05/05 | ISBN4-09-151454-5 C9979 | 485 | [Amzn] |
5 | 94/11/05 | ISBN4-09-151455-3 C9979 | 485 | [Amzn] |
6 | 94/04/05 | ISBN4-09-151456-1 C9979 | 485 | [Amzn] |
7 | 95/09/05 | ISBN4-09-151457-X C9979 | 485 | [Amzn] |
8 | 96/01/05 | ISBN4-09-151458-8 C9979 | 485 | [Amzn] |
9 | 96/05/05 | ISBN4-09-151459-6 C9979 | 485 | [Amzn] |
10 | 96/07/05 | ISBN4-09-151460-X C9979 | 485 | [Amzn] |
11 | 96/10/05 | ISBN4-09-152041-3 C9979 | 485 | [Amzn] |
12 | 97/01/05 | ISBN4-09-152042-1 C9979 | 485 | [Amzn] |
13 | 97/04/05 | ISBN4-09-152043-X C9979 | 485 | [Amzn] |
14 | 97/07/05 | ISBN4-09-152044-8 C9979 | 486 | [Amzn] |
15 | 97/10/05 | ISBN4-09-152045-6 C9979 | 486 | [Amzn] |
16 | 98/01/05 | ISBN4-09-152046-4 C9979 | 486 | [Amzn] |
17 | 98/04/05 | ISBN4-09-152047-2 C9979 | 486 | [Amzn] |
18 | 98/08/05 | ISBN4-09-152048-0 C9979 | 486 | [Amzn] |
19 | 98/12/05 | ISBN4-09-152049-9 C9979 | 505 | [Amzn] |
20 | 99/03/05 | ISBN4-09-152050-2 C9979 | 505 | [Amzn] |
21 | 99/07/05 | ISBN4-09-152351-X C9979 | 505 | [Amzn] |
22 | 99/10/05 | ISBN4-09-152352-8 C9979 | 505 | [Amzn] |
23 | 99/11/05 | ISBN4-09-152353-6 C9979 | 505 | [Amzn] |
■B・S・P版 出版社:B.S.P 判型:A5 ISBN:4-568-73009-0 C0079 価格:1300円+税 初版発行:2000/01/18 [bk1][Amzn] ■講談社版 出版社:講談社 判型:B6 ISBN:4-06-315034-8 C0379 価格:408円 初版発行:1991/06/22 [Amzn] |
■原作:末田今日也/末田雄一郎(旧版では末田京也、新装版では末田雄一郎と記載)
<旧版>
■出版社:双葉社
■シリーズ:ACTION COMICS
■巻数:全1巻
■判型:A5
■ISBN:ISBN4-575-93267-1 C0079
■価格:780円(本体757円)
■初版発行:1991/08/26
<新装版>
■出版社:双葉社
■シリーズ:ACTION COMICS
■巻数:全1巻
■判型:A5
■ISBN:ISBN4-575-93624-3 C9979
■価格:1000円(本体952円)
■初版発行:1999/06/27
山田芳裕には珍しい原作モノ。
主人公の渥美中郎は大学生だが、父の死をきっかけに収入がなくなる。働く気もない彼は「ザ・プライザー」として生きていくことを決意する。ザ・プライザーはようするに賞金稼ぎのことだ。といっても賞金首を殺すとかそんな物騒なものではない。雑誌の懸賞や、美術展の一等、仮装大会などの賞金を狙って金を得るのだ。
職業として懸賞を当てる以上、偶然や幸運は一切排除。確実に取れる賞を見つけ、それに対する戦略を立て、最大限の演出をして確実に獲りにいく。それがザ・プライザーだ。例えば雑誌の懸賞では、名前のフリガナを書くようになっていないことからコンピュータ抽選でないことを見抜き、選ぶ人に最大限のインパクトを与えるべくスルメに切手を貼って応募するといった手段を用いる。そのほかの賞でも、賞のこれまでの傾向、開催される背景、スポンサーの都合、審査員のプロフィールなどを調べ確実な戦略を練っていく。「これならば絶対に穫れる」というものにしか手を出さず、獲物を決めたらそれに向かって全力を尽す。
懸賞以外に定職を持たぬ身ながら、渥美は日本で暮らす英国人女性ビッキー(渥美は「光子」と呼ぶ)と同棲さえする。懸賞の稼ぎで彼女まで養おうというのだ。ときには金がなくなることもある。何日もまともな食事を摂れない日々さえある。でも、懸賞のみで食うという基本スタンスはけっして崩さない。武士は食わねど高楊枝を、剣ではなく懸賞にかけてまんま地で行くこだわりは実に粋であり、原作モノでありながら山田芳裕らしくもある。ちょっと性格はキツイが、それでも渥美を信じようとする光子も健気で魅力的なキャラだ。
この単行本は、1991年に双葉社から発売され、1999年になって装丁を変えた新装版が発行された。新装版には最初の版に収録されていた「ザ・プライザー」1〜9話のほかに、読切の「ザ・プライザー」が収録されている。読切のほうは、渥美がイギリスを旅行中に光子と出会ったという設定になっているなど、連載とは少々違った構成になっている。
タイトル | ターゲット |
---|---|
第1話「血」 | 葉書懸賞 |
第2話「ザ・プライザー」 | 競馬 |
第3話「トップ・オブ・サンライズ(前編)」 | ビル登り |
第4話「トップ・オブ・サンライズ(後編)」 | ビル登り |
第5話「京友賞市民美術展」 | 美術展 |
第6話「犬探し」 | 犬探し |
第7話「カラオケ大会」 | カラオケ |
第8話「ブックメーカー」 | 選挙戦 |
第9話「銀ちゃんの仮装大賞」 | 仮装コンテスト |
「ザ・プライザー」 | 漫画新人賞 |
「泣く男」 [Amzn]
■出版社:双葉社
■シリーズ:ACTION COMICS
■巻数:全1巻
■判型:A5
■ISBN:ISBN4-575-93625-1 C9979
■価格:1000円(本体952円)
■初版発行:1999/06/27
今まで山田芳裕の単行本には収録されていなかった短編を集めた作品集。収録されている作品の発表時期は、主に講談社から小学館へ活躍のフィールドを移した端境期近辺である。このころの作品は一般受けという面では弱いところは確かにある。しかし、作品の持つポテンシャルは圧倒的だ。才能の輝きを鮮烈に感じさせる、見事に粋な作品が揃っている。強烈なデフォルメのパワーもいかんなく発揮されており、今読み返してみても新しくさえ感じてしまう。とくにヤングサンデーの新人賞を(なぜか)受賞してしまい、「デカスロン」への布石となった「木田」は傑作。そのほか「佐々霧兵吾 円錐剣」「河童の恋」も秀作。この調子で「しわあせ」の未収録分なども、いつか何かの単行本に収録されるとすごくうれしいのだが。
「木田」
ギタリスト・木田が主人公。木田はとにかくギターを愛する男で、実際テクニックはものすごいものがある。しかし、ひとたび演奏に入ると彼は自分とギターと音だけの世界に没入してしまい、そのほかのものがまったく目に入らなくなる。そのため、バンドの一員としては完全に不適格であり、演奏時の狂態は人々から敬遠された。自ら奏でるギターの音を「音があんまりかわいいもんで」と表現する彼は、それでも弾くことをやめない。ラスト、完全に外界を遮断しギターとファックしつつステージからダイブし、最後までギターとピックを話さず泣き笑いながら墜落する木田の姿は鬼気迫る。過剰なデフォルメの利いた演奏時の迫力も素晴らしい。傑作。
「変身男(前後編)」「変身男2」
貧弱な身体ゆえ中学校時代はイジメられっ子だった少年が、通信販売で買った体力増強グッズによりマッチョな肉体へと変身。その肉体のおかげでしだいに自信をつけ今までの殻を破っていくという物語。通信販売で作られた身体は、気弱な顔と比べると非常にアンバランスでなんだかおかしい。「変身男2」でマッチョな肉体をフルに生かして、パワフルにハーモニカを吹く彼の姿が見どころ。
「佐々霧兵吾 円錐剣(前後編)」(原作:なかいま強)
「考える侍」にも通じる雰囲気を持った作品。かつて何百人もの人間を斬り、現在では浪人に身を落としている佐々霧兵吾が、人を斬ることの魅力に取りつかれてしまった辻斬りを成敗する。「考える侍」でも見せた、人間断面図的な刀の切り口の描写が痛快至極。
「ウルトラ伴」
ボディビルにいそしむストイックな男。実は彼は宇宙人であるらしいのだが。ムキムキなボディに、オカマっぽいマザコン宇宙人の精神が宿る。悪の宇宙人を殴り飛ばすシーンは迫力があるが、さほど面白いというほどの出来でもない。
「泣く男」
感動的な映画を観ても何があってもなかなか泣けない男の物語。そんな彼は、同棲している女性が自分の留守中に事故死し、彼女の葬式に参列したときもやはり泣けなかった。彼女がいなくなって妙にガランとしてしまった部屋で、彼女の下着の匂いを嗅ぎながら彼は肩を震わせる。それでも涙は描かれない。ふるふると震える後ろ姿の向こう側で、彼は泣くことができたのだろうか。
「河童の恋」
芥川龍之介っぽい作家と、ある女性の美しき別れを描いた粋な物語。文学的な別れの会話と、そして別れた後の涙まで、何もかもかっこよい。ラストシーン、静寂な中にかこ〜んと響くししおどしの音。隅から隅まで粋に洒落のめしている。短いけれども佳作。
「考える侍」 [Amzn]
■出版社:講談社
■シリーズ:アフタヌーンKC
■巻数:全1巻
■判型:B6
■ISBN:ISBN4-06-321016-2 C0379
■価格:450円
■初版発行:1990/07/23
この「考える侍」は、彼が講談社で活躍していたころの作品。講談社→小学館へ移籍した人の単行本の常として、この「考える侍」も今では入手が難しいかもしれない。でも、すっごくかっこいい作品なので絶対にオススメしておきたい。
(この文章は1997年に書いたものだが、その後2000年2月に、「考える侍・やぁ!」の小学館文庫版が出たので入手は容易になった)
作品の舞台は江戸時代。主人公は浪人の富嶽十蔵。西洋の学問に通暁し、とにかく粋であることを信条とする十蔵がむちゃくちゃかっこいいのだ。富士山のかっこよさに魅了され三年間富士山を見つめ続けたり、物理学を応用して山賊を10人くらい一気にぶった斬ったりと。
ファッションにもこだわり、斜めのもみあげを先進的に取り入れたり。人を斬るシーンの描写もダイナミックでいい。身体の前半分と後ろ半分をぱかっと二つに切り離し、背骨などの骨格がきれいに見えるとか。
人から競争心を除く事はできん
それならば俺はこの世間と競う
俺に勝つような世間であれば俺は侍を捨てる
だが俺は世間より数段粋でいる
貴様には空にしか見えんらしいがな
このセリフに十蔵のポリシーが凝縮されている。豪快で痛快。十蔵がブツブツと呟く学問・哲学的考察。どこをとっても「粋」という文字が浮かび上がってくる。思えば、山田芳裕の講談社時代は、「粋」がその重要なテーマだった。「しわあせ」しかり、「大正野郎」しかり。そして、それが最も如実に顕れているのがこの「考える侍」なのだ。
「武士は食わねど高楊枝」、そんな空威張りにも似た、しかし「粋」であることへのこだわり。隅から隅まで粋に洒落のめしている。あまり古本屋でも見かける機会がないかもしれないが、見つけたら速攻でゲットするべし。すごくかっこいいぞ。
■出版社:講談社
■シリーズ:ミスターマガジンKCデラックス
■巻数:全1巻
■判型:A5
■ISBN:4-06-313288-9 C0379
■価格:583円
■初版発行:1992/04/09
山田芳裕、講談社時代最後の単行本。 この作品と「ザ・プライザー」ではコマの枠線は定規で弾かれているが、縦線が細く、横線だけ太いというなんか不思議な感じのものになっている。
平安商事の新入社員、加藤は侍であり会社狂だった。会社に行く前には4時に起き、日本刀で居合い抜きをする。6時には出社し先輩の机を掃除。さらには同僚が遅刻した責任を取って、指を詰めようとする強烈ぶり。肩ひじ張りまくった加藤が完全に突っ走ろうとするところを、絶妙の間合いで外していくスチャラカ社員が同じく新入社員の源だった。源をライバル視する加藤だが、源はどこ吹く風のマイペースぶり。
この話ではそのほかに世の中のすべてが退屈でしょうがなくつまらない日々を送っているOL、小鳩も重要キャラクターとして出てくる。しかし、なんといっても烈火のごとき武士サラリーマン・加藤の気合いの入りっぷり、源の抜けっぷりのコントラストが絶妙。「大正野郎」「考える侍」「しわあせ」ほどではないけど、面白く読める。
2000年に文庫版が出ている。
■出版社:小学館
■シリーズ:小学館文庫
■巻数:全1巻
■判型:文庫判
■ISBN:4-09-193322-X C0179
■価格:629円+税
■初版発行:2000/03/10
「考える侍」「やぁ!」が一冊にまとまって文庫化。この2作品に、ヤングサンデー増刊号平成7年(1995年)No.3に掲載された読切「グレイト2」がプラスされている。「グレイト2」は、バイクの全日本125ccクラスで一度は挫折した男が、モンスターのようにチューンナップされた自らの愛機を駆って再び復活するという物語。再びバイクにまたがり涙する男の姿が見せ場。
■出版社:講談社
■シリーズ:モーニングKC
■巻数:全2巻
■判型:B6
山田芳裕のデビュー作。大正時代に憧れ、ライフスタイルをすべて大正色に染め上げているデモクラしい男、平徹が主人公。下宿も飯を作ってくれる木造のところを選び、文学は芥川龍之介、アナクロな自転車、切手集めと、大正的な渋さにこだわり続ける。髪型を芥川龍之介と同じようにして、「成った!」と喜んだりと、言動から何からその生活は徹底している。生活の細部にまでわたる細々としたこだわりが、ちょっと間が抜けていてホッとする味になっている。
このころの山田芳裕の作品は「考える侍」などにも共通していることだが、枠線をすべて筆で、しかもフリーハンドで描いている。その独特の画面作りがすごく粋でかっこいいのだ。
ストーリーも抜群。非常にストイックな平、下宿の一人娘・由貴ちゃんの心暖まる笑顔などキャラクターたちも実にいい。風呂上がりのフルーツ牛乳や懐中時計など、ノスタルジックなアイテムも詰め込んで端から端まで雰囲気作りが徹底している。最後に平が由貴ちゃんに告白するまでのもどかしい展開も最高。大正野郎ならではの男気と純情、はにかみと不器用さが非常に心地いい。
一銭にもならないし、ときには間が抜けて見えることもあるけれども、自分の愛することへのこだわりは一本筋が通っていてすがすがしくさえある。現代人が失ってしまった何かを、粋に、かつ渋く、かっこよく、サラリと人情味たっぷりに描き出している。まぎれもなく傑作である。
2000年に文庫版が出ており、そちらは比較的入手しやすい。
巻数 | 初版発行 | ISBNコード | 本体価格 |
---|---|---|---|
1 | 88/11/22 | ISBN4-06-300047-8 C0379 | 417 |
2 | 90/06/23 | ISBN4-06-300077-X C0379 | 417 |
■出版社:小学館
■シリーズ:小学館文庫
■巻数:全1巻
■ISBNコード:4-09-193321-1 C0179
■初版:2000/02/10
長らく絶版になっていた「大正野郎」が漫画文庫で復活。判型が小さくなったため、いくぶん読みづらくなっているので、入手可能なら講談社版をオススメしたい。でも、こうやってこの傑作がまたしても容易に入手できるようになったというのは喜ばしい。小学館に感謝! 講談社版では全2巻だったが、漫画文庫では1冊にまとめられている。
■作家名でオンライン書店を検索: bk1 / Amazon.co.jp
▼更新情報
2004/04/25……「ジャイアント」5〜6巻データ
最近では「デカスロン」「度胸星」で有名な山田芳裕だが、デビューしてからしばらくの間は講談社で主に活躍していた。上に挙げた単行本のうち、「大正野郎」「考える侍」「しわあせ」「やあ!」の4作品は講談社から発行されたものだ。その後(順番としては「やあ!」のほうが後)、「ザ・プライザー」を双葉社で出した後、小学館に活躍の場を移した。
小学館移籍のときにヤングサンデーの新人賞をなぜか獲得し、それから「デカスロン」の連載に至ったというわけだ。ヤングサンデーの新人賞受賞作は「木田」というタイトルで、ギターを愛しまくっている主人公がステージでギターを弾き狂っているにオーガズムに達してしまうという漫画だった。異常な勢いがあってよかったのだが、これは単行本に収録されていない。単行本に未収録といえば、なんといっても「しわあせ」の後半部分だ。詳しくは「しわあせ」のページを参照。あと、少年サンデーで何度か掲載された、気弱な高校生が通信販売の健康機器でムキムキになって騒動を巻き起こす、という話もあったのだがこれも未収録だ(「変身男」のこと。後に「泣く男」に収録)。
俺としては「デカスロン」も好きな作品なのだが、山田芳裕といえばなんといっても講談社時代の旧作品だ。「大正野郎」から始まる、一連の「粋」を追求した作品群は一種独特のかっこよさに満ちている。ちょっと間抜けで痛快で、実に気持ちよく読める。俺がとくにオススメなのは「考える侍」「大正野郎」「しわあせ」の3作品。これらは短いながら傑作である。
現在では「いよっおみっちゃん」を契機に、また講談社雑誌にも復活している。でも、できればそのうちまた、初期作品のような粋でカッコイイ短編・中編も描いてほしいと思う。