1979年から82年にかけて描かれた作品集。あびゅうきょは昔から特異だった、ということに、イヤでも気づかされる内容となっている。 その絵は−−線のみで面を構成せんという、一次元から二次元への飛躍は−−ある種パラノイアックな様相を見せながらも、問答無用で人をうつ。加えてオハナシのピュアなことといったら。病気の姉を養うために、深夜山手線のあちこちで働く青年の話は、作り話ではあるのだろうが、あびゅうきょのもつ「心の清らかさ」を強く見せつけるし、そのほかのオハナシも、いわば「男の子的」に、イノセントで、ピュアである。最近の作品に顕著であるミリタリー系の描写も、この頃は「単に好きで描いている」といった程度のもので、切実な思想性を持ったものではない。かれはきわめて実直に、正面から、社会に向き合おうとしているのである。
しかし…。この姿勢を見るにつれ、現在のあびゅうきょが、世の中を呪い、自衛隊によるクーデタを切望するという状況まで追い込まれてしまったことが、切なく見える。かれのようなあまりにピュアな魂は、今の社会の矛盾や不条理に耐えられないのだ。ああ、何とつらい社会!−−そして社会に適合せんと、汚れてしまった私の心。
あびゅうきょの昔と今を比べること、それは人間の魂の遍歴を見ることであり、それを通じて今の社会の歪みを、「きつさ」を、知ることである。