渋谷A子

大久保ニュー

朝日ソノラマ

 最近あちこちのシュークリーム系の雑誌に姿を見せるようになった、著者の初単行本。デビューは「シャレダ!」なんだよなあ、この人。

 オハナシの内容は、年頃の女の子の日常をそのまんま描いたいわゆる「赤裸々」もの。視点はQ太→モヨコ→まなべゆうに近いものを持っている。中心になるのは青学生の栄子のオハナシ。一浪した後田舎から出てきた(この辺妙にリアルでイイ)栄子。厚木で適当に彼氏を作り、二年間ハメまくったはいいが、彼氏が三年生になれず別れる羽目に。栄子は一人で渋谷へ引っ越して、ぽっかり空いた心の穴を塞がんと右往左往する。「アタシの幸せって…何?」と。こう書くとなんだか堅そうなオハナシのように見えるが、実際は実にしょうもなく、笑えるものが多い。一人のさみしさを埋めるため料理を習ったはいいが、料理にはまり、料理の腕ばかり上がってしまうとか。また、ファッション系の専門学校卒、良くて短大卒のハルチン(魚喃キリコ)と違って、栄子は「四大」のインテリジェンスが感じられて/感じさせようとしていて、かなり微笑ましい。

 特筆すべきは、その絵のぶっきらぼうさだろう。この人の線は一見かなり投げやりげで、未完成の描線のように見えるのだが、実は非常にスマートで完成されたものだ。デビュー作「それは、先生」(4コマ)でも、この本でも、最近作でも、線に変化が見られないことからそれは明らかである。そしてそれはすでに、他人には真似のできない大久保ニューの「味」となっている。好き嫌いはかなりあろうが、独自であるという点で評価できる。少なくとも私はこの線はいいと思う。

 そして、オハナシの作り方もまた、好もしいものである。ホットな状況にありながらも、それをメタ視(と言うほどのものでもないやもしれんが)し、その状況をクールに笑う、相対化の視点が常にここにある。男はホットな状況になるとえてして状況に呑まれ、正常な判断を下せなくなりがちであるが(私だけか?)、この作品の登場人物はそういう状況にありながらもクールさを決して失わない。空恐ろしくもあるが、面白いではないか。

 シュークリームに拾われたのもさもありなん。線もよければオハナシも良し。岡崎京子の再起が危うい今、うまいこと後を継ぎそうな案配である。みなも注目すべし。

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「Comic Gon!」二号において、編集長はこの手の漫画を「タンポン系」と呼んでいた。確かにそうなんだけど、ちょっとナマナマしすぎるのでここではこう呼ぶことにする。