アルコールラムプの銀河鉄道

しろみかずひさ

三和出版


 著者の処女作品集。非常に絵に癖があるので、敬遠する向きもあるかもしれない。また、描かれているセクシュアリティ(ボディピアッシングとボンデージ)もかなり人を選ぶので、好き嫌いははっきりと分かれるだろう。しかし、ここで描かれていることは実に深く、濃い。

 全編を通じて流れているのは、現代の社会ではなかなか、いや、決してと言っていいだろう、得ることのできない、強烈な体験への渇望である。この作品集の登場人物たちは、例外なくその境地に達しようとあがく。無数のピアッシングや、拘束によって。そしてそれはすべてを焼き尽くす太陽であったり、痛みの果てにある生と死のぎりぎりの境界線であったりする。ニーチェが限りなく恋焦がれた、あの「力」である。エロスとタナトスが融合した神秘的な領域である。

 その「力」は、一個の人間にとってはあまりにも強すぎ、近づきすぎると灼かれてしまう。イカルスが落下したように。ゆえにその試みは、常に喪失の悲しみを伴わざるを得ない。 しかし、その悲しみは、同じ手順を踏むことによって、きらめく、炎のような結晶にすることができる。愛するものを失った悲しみを、強烈な力によって、思い出の中に刻みつけることができるのだ。相手の存在そのものを「力」に近づくことによって「食らい」、自分のなかに相手を純化した形で生かし続けることができるのだ。そこで生じる「愛」は、まさに至高の愛と呼んでもよいものだろう。両者のつながりはきわめて深くなる。そうである分、またそうであるからこそ、切なすぎる愛ではあるのだが。

 エロのカテゴリとして売られているからといって、侮ってはいけない。この作品集で描かれていることは、エロであるがゆえに、ほかのマンガでは読むことのできないものとなっている。そしてそれは、「現代」という今の時代に横溢する「喪失の悲しみ」に対する、一つの解決策を示してもいる(万人に通用するかどうかは別として)。今の時代の精神の切ない部分をうまく表現した、紛れもない隠れた大傑作。すでに入手が困難になりつつあるが、ぜひ手にとって見て欲しい一冊である。

 

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