魔術っ子!海堂くん!!
すがわらくにゆき
アスペクト
「コミックビーム」を中心に掲載されていた作品を集めたもの。本のタイトルにもなっている「海堂くん」を中心に、いくつかの読み切りが載っている。
すがわらくにゆきの作品は、二重の面白さを持っている。第一には漫画的な面白さ。一見白い、間延びしたような画面であるかのように見えるが、これがひどく面白い。人を喰いまくっているのだ。吉田戦車をきっかけに、ギャグ漫画においては空間を上手く使うことで面白味を出してきたが*、すがわらの取り組みはより先鋭的で、より印象深い。実力がないから白いのではないのだ。わざとやっているのだ。
第二の面白さはやはり漫画やアニメや同人誌などのオタクカルチャーへの愛から生じている。自分自身そうしたカルチャーにどっぷりと漬かりながらも、それをギャグにしてゆく。自分の身を削るような行為であるが、そこをすがわらは絶妙なバランス感覚で切りぬけて行く。ここが面白いのだ。「アニメー!!」とか「エロ同人ー!!」とか叫びながらも、きちんとメタ視する視点を忘れない。その一歩引いた感覚と、それでいてオタクカルチャーへの過剰なほどへの愛とのバランスが素晴らしいのだ。結果、オタクカルチャーを良く知る人にも、それから一線を画している人にも、強く訴える作品が成立する。
他にも面白い要素はたくさんある。主人公の過剰な造形。他の漫画のくだらない(誉め言葉)引用。独特の伸びやかな絵。読みこなすのに教養(特にオタクカルチャー系の)が必要なのは否めないが、コンテキスト依存のギャグ漫画としては凄く面白いものになっている。
「海堂くん」は連載が続いているので、ぜひとも2巻を出して欲しい。この本には巻数表示がないようだが。なんてったって今あげたように面白いんだもの!特に最近の「アニメ宗教」のオハナシは爆笑ものであった。私は必ず買うのでぜひぜひ出して欲しい。お願いしますよ!奥村編集長!
*吉田戦車が始めてではない。赤塚不二夫は「バカボン」ですでに真っ白な漫画を描いている。また、この空白の使い方は漫画に限ったものではない。お笑いなどでも、通常の会話の「正しいと思われている」「間」をあえて伸ばすことによって、笑いを取るという手法があると聞く。かつての「象さんのポット」がそうであったとか。