炎の言霊 島本和彦名言集
朝日ソノラマ
本体1100円
男、島本の素晴らしさ満点の語録。
まずは島本の名言が漫画から抜き出された形で「ばっちり」提示される。それにソッチ系ではチト名の知れたライター、霜月たかなかが紹介文を書き、島本本人がコメントをつけている。島本の「アツさ」が、単行本を揃えることなく手軽に会得できるお得な本であるといえよう。コアな島本ファンには薦められないが、島本の男気をちょっと知っていて、手っ取り早く「島本エキス」を得ようとしている人には悪くない選択ではある。楽しめるのは間違いがない。また、島本で何を読むべきか、を簡単に知ることができる「島本入門書」の役割も果たしている。
しかし、薦められない部分もある。先ず、島本の本を集めている人にとっては「何をか今更」というものであること。島本の言い切りの面白さを上手く文脈の中から読み取ることができる人に対しても同様である。島本本人のコメントはこういう人に対しても有効ではあるが、霜月の文章はこういう人に対しては邪魔ですらある。
もう一つは、霜月の文章がかなり腑抜けていることだ。もちろん、島本も「何じゃコリャ」「詐欺だ」的な逃げや誤魔化しをすることが(これがまた良く)ある。例えばワンダービットとか。しかし、確信犯的に、意図的に言い切っている場面を集めたこういう本の中で逃げを打つとはいかなることか。霜月は愚かにも照れてしまったのである。ここでのコンテキストは「わかってはいるがわかるわけにはいかん!」…ではなく、「恥ずかしいようなことでもとにかく堂々と言い切る」ことであるはずだ。なのに「本気にしないように」とか「(笑)」を使うとは。結局霜月は、島本の意図を汲みきることができず、「島本原理主義者」になりきれなかったのである。少なくともこの本の中ではそれに徹しきらなくてはならないはずなのではあるが(さすがに島本本人から本の中でたしなめられているのがまた微笑ましい)。
まあ、どっちにせよ島本本人のコメントはかなりいかしている。この部分だけでも買って読む価値は十分にあろう。