首
下村富美
小学館 プチフラワーコミックス
時は中世。山に暮らし、山の神の託宣を告げる少女・みづは。彼女を保護する山の精霊・ヤチ。みづはは里に焦がれ、よく降りてくるのだが、村の子どもらにいつも石もて追い払われてしまう。だが、その姿をいつも見守る男の姿があった。男の名は真人。かれと触れ合うことによって、人を知らなかったみづははしだいに「さびしさ」「いとしさ」を知っていくようになる。一方、みづはを育てたヤチは嫉妬に身を焦がす。…結局、みづははヤチも真人も失うのだが、それをみづはは舞にする。天地(あめつち)の霊たちと、人々の魂たちとともに。
「プチフラワー」で活躍中の作者の第一作品集。表題作の「首」の他、上に挙げた「花狂ひ」など、5編の短編から構成されている。
何はともあれその線の素晴らしさに嘆息する。基本的に空白を多用した白い絵なのだが、しっかりとした、かつ硬質な描線は強い魅力を持っている。東城和美のような独特のディフォルメもなされておらず、素直な絵なのだが、特徴づけるべきところはきちんと「伸ばして」描いている。風にうねる髪の毛。胸元からのぞくみづはの幼い乳房。どきり、とするような強い印象を与えるのだ。
そして加えて、オハナシの魅力も素晴らしいものがある。作者は彼岸と此岸、生と死、現実と非現実の垣根を越えてゆくような構成を意図的に取っている。この感覚は「舞い」、あるいは「能」だ。きわめて強い緊張感の先に別な世界が見える。世界の感覚が崩れる*。絵の魅力も相まって、作者は積極的にこの難しいテーマに取り組み、きわめて力強く異界との接点を描き切っている。
また、表題作の「首」にも見えるように、ブラックユーモアといおうか、ギャグ的なオハナシも作れることに注目しなくてはいけない。
現在プチフラワーで連載中の「仏師」も、きわめて積極的に生死の狭間に広がる空間を描こうとしている。また、絵柄の魅力もさらに洗練されている。ただ、だからといってこの作品集に力がないというわけではない。いや、むしろきわめて力強い作品集だと言えよう。
*テレビアニメ「ガサラキ」参照。この作品では空気がりんと張り詰めた先に「鬼」が現れる。