一見、魂を持った人形ヴァンデミエールの自由への解放、といったことが描かれているようだが、その実は、ヴァンデミエールに関わった少年、男たちの魂の成長譚。後者に重点が置かれている。
ヴァンデミエールは狂言回しであり、少年を導く母であり、若者の代わりに命を投げ出す少女でもある。作り物の羽根をもち、風のように通り過ぎてゆく存在でもあれば、いくつも作り出されるヴァリアントによって、普遍的な存在でもある。少年の背後で、その旅立ちを見守る女性と言った存在なのだ。
彼女たちは共通して翼を持っている。その翼で大空にはばたくことはできない。それは装飾として、あるいは憐憫を誘うためのもの。だからと言って彼女たちの翼は無意味なものではない。それは、見守る男たちをはばたかせ、空へと、自由へと、あるいはその男が望むところへと、向かわせるものである。
少年が大人になり、成長していく。そこに介在する少女。そうしたノスタルジーの甘酸っぱさと、ヴァンデミエール自身のさまざまなヴァリアントによる成長、変化。この二重構造が、この漫画を重層的に面白いものにしている。絵柄にだまされてはいけない。これはなかなかの才能だ。