漫画の鬼アックス7号
冬の一日 花輪和一 |
吉本 | 8 | 最近の数作品は作者の分身であろう存在が背景に後退し、より一層抽象度の高い作品になっている。無論事実に取材しているのであろうから、その表現は説得力をもっているし、かといってありがちな刑務所実録ものとは異なったオハナシの魅力をもっている。相変わらずテンションが高い。作品の発表ペースが早いところも評価できる。 |
久遠 | |||
ジンバルロック 古泉智浩 |
吉本 | 7 | あやしい、とは思っていたがこの人もやはり新潟出身であったか。ただこの人の場合は海の感じがほとんどしない。あるのはだだっ広い田んぼの感覚だ。ゆえにかれを「日本海系」と呼ぶことはできない。いわばかれは「蒲原平野系」なのだ。同系統の人としては高野文子を挙げることができよう。オハナシは相変わらずしょうがなくて良い。 |
久遠 | |||
哀愁劇場 東陽片岡 |
吉本 | 7 | いつもの調子で安定している。欲をいうならもう少し長い尺で、今までとは毛色の変わった作品が読みたいものだが。 |
久遠 | |||
クルクルキーキー キクチヒロノリ |
吉本 | 6 | 「新世紀アダム好キーUFO解脱マン」をこっちで再開するというのはどうでしょう。 |
久遠 | |||
ワイルドマウンテンライフ 本秀康 |
吉本 | 7 | 地球全体の危機より目の前の女の子を選択する。そこに現代のメンタリティがある。一見ただのほのぼのした漫画のように思えるが、じつは高度に現在の状況を表している漫画なのだ。ここにある「ダメさ」こそ現在的なのだ。 |
久遠 | |||
洗濯日和 獄本野ばら |
吉本 | 4 | 漫画というカテゴリーで語りにくい作品。だから何?といわれるとそれっきりかも知れないが、箸休めとしては機能している。 |
久遠 | |||
案山子男 河井克夫 |
吉本 | 6 | より一層観念的になっているところを評価したい。この作品は「ブレーメン」と表裏一体をなし、「漫画におけるコンセプチュアルアート」となっている。脳を刺激する作品。漫画自体はそれほど面白くはないので点数は低いが、注目されるべき作品である。 |
久遠 | |||
東京ゾンビ 花くまゆうさく |
吉本 | 7 | 隔月連載ゆえの展開のもどかしさ。じつに高いテンションを持っているのにこれでは惜しい。 |
久遠 | |||
OMAGA-DOKI 松井たまき |
吉本 | 4 | 背後に濃厚に漂う女性的情念はとても良いのだが、いかんせん観念的にすぎて、読み取りづらいという欠点がある。ここにも昔の「ガロ」のテイストを復活させようという意図が見てとれる。もっと現代性に敏感になるべきだ。 |
久遠 | |||
MONEY(再録) つりたくにこ |
吉本 | → | 時代状況という文脈から切り離されたかたちで提示される作品は、現代という時代に対して批判性を持つ可能性があるが、一般に不幸である。そしてこの作品からは批判性を感じることは出来ない。ここにあるのは甘え、である。温故知新には現代を切り裂く刃が必要だ。漫画4 姿勢1 |
久遠 | |||
夜の蝶 三本義治 |
吉本 | 9 | 久しぶりにドイツ三本が漫画に帰ってきた。内容は実に素晴らしく、美しい。一見ぐちゃぐちゃに見える線であるが、だからこそその背後にある人間のくだらなさと、人間の「生」が生きてくる。混沌のなかにきらめくいのちの姿は実にしょうがなくも眩しい。社会の最底辺から生まれてくるエラン・ヴィタルにこころうたれる。終わり方がへっぽこなのもまた微笑ましい。注目せよ。 |
久遠 | |||
手術前 鷹羽正臣 |
吉本 | 5 | 一時期は非常に危ぶんでいたが、自らのスタイルを貫き通す覚悟が見受けられるようになってきている。この「覚悟」に共感を覚える。たしかに漫画としてはそれほど面白くなく、絵も上手くはないが、ドリフのコントのごとき印象があり好もしく思う。 |
久遠 | |||
双子のオヤジ しりあがり寿 |
吉本 | 8 | おいおい!こんな良い漫画を後ろのほうに持ってくるっていうのはどういうこったい! |
久遠 | |||
花の園ラブ 石川次郎 |
吉本 | 7 | 相変わらず狂ってる。満たされない欲望を抱えて身もだえているおっさんの姿がページの端々から漂ってくる。ただこの人はまだ吹っ切れかたが足りないようにも思える。もうこちら側なんてどうでもいいじゃないですか。彼岸でいいじゃないですか。…ま、そこが面白くはあるのだが。 |
久遠 | |||
星にねがいを 大越孝太郎 |
吉本 | 7 | アレ?今までのオハナシは?というように、まったく別の展開になったところが面白い。是非ジミヘンとかジャニスも出してほしいものですな。 |
久遠 | |||
アッタレア・プリンケプス 宮西計三 |
吉本 | 6 | 「読者からのお便り」欄で模索社を「日本一民主的な書店」といっているオッサンがいたが、ここにあるのもそうしたイデオロギーの産物。ただここで、私はイデオロギーの是非を問おうとは思わない。そうしたイデオロギーに「すがらざるをえない」ひとの心の動きに私は注目したいのだ。たとえばいまでも熱心に「主体(チュチェ)思想」を信じている日本人がいる。アウトオブデイトになってしまった考え方に、いまでもドグマチックに追従していく人がいる。そこにおける「引っ込みのつかなさ」に、ひとの心を動かすものが潜んでいる。それは永遠に対する挑戦なのだ。徒労感に立ち向かうところに人間の尊さがある。ただ「ドストエフスキーのアクチュアリティ」に無批判なところは糾弾されてしかるべきだろう。 |
久遠 | |||
黒寿司十八番 根本敬 |
吉本 | 6 | 久しぶりに根本節が拝めて良い感じ。もっと漫画で勝負して欲しいものだと切に思う。 |
久遠 |
<総評>
吉本 | 全体的に悪くはないのだが、前号同様旧ガロの「悪かった面」を復活させようという意図が感じられて、実に不快に感じるところがある。もっと自らの方針に批判的になるべきだと思うのだが。 |
久遠 |
<ベスト>
吉本 | 拍手されたし!拍手されたし!池袋のうどん屋でキーオとジョンがやっているような掛け合い漫才。夜の最下層でないと見られない光ならざる光。低俗の極みのなかに見える光明。そこにこそ逆に、人間の「跳躍」があるのかもしれない。てなわけでドイツ三本の「夜の蝶」だっっっっっ!! |
久遠 |