キューティーコミック2000年9月号

レヴュ担当 吉本松明
山田千里

そどむ

小野塚カホリ
吉本 …などと思っていたら、「覚悟」を決めた里香子の様子にぐっと心打たれる展開に。ばらばらになった人々の気持ちがひとつに収斂していく様子は、見ていて癒される気持ちになる。もう終わりかと思わせるが、まだ柿崎が残ってる。楽しみ楽しみ。
山田 葉ニくんのおかーさんの顔がすごくよく描けていると思う。えげつなくて心うたれる顔。里香子の「育ちが良いが故の強さ」も説得力あり。えげつない人間模様のさなかの普通の優しさを、「どーだ!癒されるだろ!」と強調しない節度に感服。それにしても、ピアノ教本!女子の多くが自分の幼年期から思春期を想起してしまうであろう殺しアイテム!ずりィよ小野塚センセイ!
ユカとまーくん

大倉かおり
吉本 工事現場のムチャクチャさ加減、ユカのおっきなおっぱいは結構いいと思うのだが、ユカだけ、まーくんだけのオハナシではちょっと弱いかな、と思う。だが二人を別々にしないと展開に広がりが出ない。悩ましいところなのであろう。
山田 個人的にはガテンな男はよろしいけども、ユカの巨乳があまり活躍してないのがちょっと残念。
ひめきみ

いわみえいこ
吉本 いや、ひと月ごとに短編とひめきみが交代で載るものだから、なんとも評しづらいことですよ??
山田 なんかもうよくわかんないです。
ガーリーハイパーズ

藤末さくら
吉本 ラブストーリーとしてまとまっているのは分かるのだが、その方法論がいたってオーソドックスであるために、女性向け漫画のニューウェーブ(ちと恥ずかしい)ともいえるこの雑誌の中では、生きてこないように思える。抽象性の高い画面構成は面白いとは思うのだが…
山田 迷う姉妹の恋愛模様。お姉さんの「あの時、もし…」という迷いはひっじょうにリアルではあるのですが、どっちかっていうとそれは「YOUNG  YOU」ではないでしょうか。妹の方は前号から引っ張ってますが、彼女のぐるぐる具合に比べて男の側の呑気っぷりがリアルっちゃリアル(笑)。この温度差が次号どう展開するか。
薔薇色のみっちゃん

大久保ニュー
吉本 確信犯的にオトメの思い込みと思い過ごしを描いているために、破壊力が増している。しかもニューお得意のスピードも十分。この調子でお馬鹿な作品を連発してほしいもの。応援してますぜ。
山田 みっちゃんとばすとばす。夏はビーチですか。もうすっかりお助けガールと化してます。でもホント、こういう人に救われる部分ってでかいよね、人生。
雪白姫

三原ミツカズ
吉本 やはりミツカズはこうした痛い系の短編で本領を発揮すると再確認した次第。現実には存在しない要素を作品の中に取り入れることは、えてして現実感覚からの遊離を引き起こしてしまい、絵空事のお話になってしまうものであるが、ミツカズの場合はそのあたりの操作が実に巧妙。現実感覚を強化するために、非・現実の存在を使っているのであるから。流石は現代の寓話の語り手。喪失の悲しみが痛く読者を打つ。
山田 いつもの三原節なのですがやっぱ好きですね。血みどろの絵面でなくても血が出るような痛みが伝わってきます。SFとかファンタジーってどうして喪失感や孤独を描くのに適しているのかな。三原氏は短編でSF/ファンタジー的設定をフルに活かし切るのがうまい。
アノミー・カンガルー

海埜ゆうこ
吉本 なんだかデス系の方向にオハナシが向かってしまって当惑するところしきり。痛い展開にするには悪くない手だと思うのだが、ちょっとトビすぎのような。ただ不倫関係のもつれの描写などは出口が見えなくていい感じ。次はスプラッタか?
山田 これまた違う意味で痛い。でもねえ…ちょっと中途半端では?事件の展開や人物の動きがありがちな気も。本質的にエグくない人だと思うんです、この方は。絵づらのプレーンさもとまどいの一因か。
リトルバード・リトルバード

アラタハルコ
吉本 中心に主旋律を置いて物語を紡いでいくのではなく、太陽、リコ、ユキの三人の思惑をそれぞれ提示し、結果として起こってくるオハナシを描き出しているのが面白い。まさにフーガ的=ポリフォニック的作品といえよう。惜しむらくはポリフォニックになりすぎてオハナシの全体像が見えづらくなっていたり、線がまだぶれていたりしているが、「周縁から語る」とでもいうべき手法は評価されてしかるべき。次の作品も注目したい。それにしてもかわかみじゅんこがいかに革命的であったかがよくわかるではないか。
山田 こういうの好きです。っちゅうかこういうツラの男子を主人公に持ってくるのがいいですね。いまふーな軽みを演出するこまごましたアイテムがちょっとウルサく感じられる瞬間もある。つい、それにしてもかわかみは上手いなあ、と思ってしまう。形式については、あまり必然性/効果を感じなかった。名付けないで、という一言で持って行く繊細さは買い。
地獄のサラミちゃん

朝倉世界一
吉本 …なんだかよくわかりません。
山田 けっきょく人情、なの?
バイトでGo!!

オーツカヒロキ
吉本 …。
いや構造としてはニュー先生とおんなじなのだが、お馬鹿さ加減のベクトルも似ているのだが、テンション高いところも似ているのだが、ネタもかぶりまくっているのだが、それぞれ強烈に面白いのでオッケー。それにしてもこの男性作家二人の存在は大きい。なんか問題があるような気もしないでもないが。
山田 おんな男の次はおとこ女か?シャイなそばかす娘のなるみはあまり印象に残らず、ティアドロップがかっちょよすぎの妖怪あすかに惚れる。男前すぎ。やっぱ得意なのね、こういうのが。「もうダメ…破水しそ…」流行らせよっと。
最近どうよ?

榎本俊一
吉本 流石は榎本、女性向けであろうが何だろうが味は変わらず。ただ欲をいうならもう少し下品でも良かったのではと思うのだが。また休載ですか?
山田 おならか。なんだかほのぼのしてるね。ちょっと年寄りくさくない?
肉じゃがやめろ!

黒田硫黄
吉本 なんとも好ましい肩の力の抜けた連載。気負いもなければネームを練った形跡もなく、実に楽しそう/嬉しそうにやっている。いや!まさか本当に連載だったとは。
山田 あーもー素敵すぎ!料理の手際がいい男ってほんとイイ!ちゅうか絵では旨そうには見えないけどイイ!なんだこの素敵かげんは!?フェロモン(とみその香り)全開です。
ナイトメア校長先生

山本ルンルン
吉本 ポップなんだけれどもダークなオハナシはやっぱりいい感じ。次から連載とは嬉しいところ。連載という形ははじめてなのでは?ずっと注目してきた分感慨もしきり。
山田 水野純子系?という(安直な)第一印象をいい感じに裏切ってくれてます。唐突ですが「お風呂もいっしょ 寝るのもいっしょ いつもいっしょのムニュムニュ」って玩具がありましたでしょ?あれを思い出すんですよね。
LOVE HOUSE

橋本ライカ
吉本 何故ライカが面白いかといえば、ニューやピロンタンに通じるスピード感(勘違い含む)があるから。どこか空間の多い絵柄も、その独特のドライブ感覚を強化するのに役立っている。なんだか作者ご本人の様子さえ感じられてにこやかな気分になることですよ。いい人なんだろうなあ…。
山田 若い人のかわいらしさがよく出てるのがいいですね。同居生活のてんやわんやからちょっぴし話がズレたのが残念だけど、またなんかあるでしょ。
01-ゼロワン

小林ユミヲ
吉本 中三の男と二十歳の女子大生のカップル。歳の差はやっぱり意識されるところで、関係を続けていくことに複雑な気持ちを抱く女…。キリコ的に描けば途方もなく暗くできるネタなのだが、ユミヲは安易に暗く描くことをせず、実に明るく描いている。「それでいいの?」と思わなくもないのだが、ラブがあればいいんです。ダークなオハナシに真剣に取り組んでほしい、という気もするが、こういうのもまた良し、ということで。
山田 どーなんかねえ。中学生男子ってこんな大人かあ?まあいいけど。(20歳女子はこの程度にはコドモですな。)年の差カップルネタはありがちなので難しいですね。
ハチミツとクローバー

羽海野チカ
吉本 10 まさに「働く男」という形容が似合うローマイヤ先輩。「甲斐性」とは何か、ということを真剣に考えさせられて暗くなってしまったりもするのだが、それとこれとは話は別。生産力の高いローマイヤ先輩に私も胸キュンですよ!はぐちゃんを軸にラブストーリーを組み立てていくかと思いきや、癖のある登場人物を次々に登場させて、ギャグで攻めてくれるので非常に嬉しい感じ。はぐちゃん1コマはやや残念であるものの、この路線を維持してどんどん面白いオハナシを期待したいところ。こいつは面白い!
山田 10 肉の香りのアロマテラピー!!!あーもう、やめてー!とうめいてしまうくらい今回もツボにはまりまくり。森田さんが(比較的)薄味なのが残念だけど、ローマイヤ先輩のジュースィーっぷりでお腹いっぱいです!そしていつもながらギャグにおける節度あるサジ加減…美しい!
今夜も眠れない▽

かわごえさちこ
吉本 カリカチュアライズにも節度が必要、と思うのだが。
山田 基本的にギャグベースのペットものマンガでしんみりするのって、時にはひとりよがりになってしまうと思います。キツすぎるかも知れませんが。こういうものが求められる雑誌は他にあるのでは。

<総評>

吉本 次第に「フィールヤング」との差別化が進んできているという印象。なによりギャグの充実が好ましい。笑いや息抜きの部分をエッセイ漫画で片付けている(それはそれでいいとは思うのだが)フィーヤンと違い、一遍の完結した作品で勝負しているのだから。あとはやっぱり羽海野チカの存在が大きい。この実力ある作家を載せ続けている、というだけでも重要な雑誌といえるかもしれない。この調子この調子。
山田 作家の顔ぶれもちょっとずつ変わってきましたね。若い力(笑)をふんだんに投入しながら一定のクオリティを保っているという点が、他誌にない魅力。三原ミツカズが短編をコンスタントに発表してくれないかなあ。この人の後に続く若手があんまりいない気がするんですよね。いても、もっとSFプロパーだったりするし。

<ベスト>

吉本 羽海野チカは「永世ベスト」就任が大決定。ミツカズの作品が面白く、痛いのもある意味当然。そこでベストはそれ以外から、となるとやっぱりライカでしょうか。人柄の伝わってくる展開と絵柄、よくわかっていらっしゃるお馬鹿さ、勢いの良さ…どれも実に好ましい感じ。
山田 かわかみが載っていないせいもあって、ハム先輩の一人勝ちと言ってしまいたいけど、「そどむ」のじれったいくらいの丁寧さはこれまで短編にギュウッと濃縮されていた小野塚的なるものを噛みしめるよい機会でもあるし…「そどむ」ですかね。

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Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:00 JST