コミック・キュー6号(99年4月発売)
神は天にいまし
世はすべてこともないわきゃない 田中圭一 |
吉本 | 8 | くだらないといえばあまりにくだらないネタなのだが、それをわざわざ「純・手塚タッチ」でやっているところがさらにくだらない。ここにはくだらなさに対する強いポジティビティが感じられる。ここまでやれば誰も文句は言わない。 |
久遠 | |||
魔神ガロン 寺田克也 |
吉本 | 7 | 寺田らしい観念的なオハナシ。元ネタを読んだことはないので細かいところは分からないが、上手い寺田ならではの解釈になっているのではなかろうか。 |
久遠 | |||
メトロポリス 黒田硫黄 |
吉本 | 10 | 流石は硫黄。手塚のオハナシを上手く下敷きにして、「自分」の作品を描ききっている。前回のCUEの作品も非常に感銘深かったが、今回のものもそれに負けずとも劣らない。特権的な地位を投げ捨ててまでも、自分の執着するものにこだわる姿勢は、現代性そのものに対する鋭い批判になっている。手塚はどう思うか知らないが(おそらくは嫉妬するのではないか?)、「カヴァ」が素晴らしい作品に昇華されたよい例ではなかろうか。ビルを突き崩し野球に興じるミッチイの姿は美しい。 |
久遠 | |||
ゆに子 安野モヨコ |
吉本 | 6 | ユニコが現代の物欲女子高生に遭遇したら?というシチュエーションは皮肉っぽくて面白い。現代の人々が口にする「こころ」という言葉には、もはや昔のような信頼性はない。いや「信頼」という概念そのものも怪しいものだ。それをいかにして繋ぎ止めるかという問題を、この作品は図らずも明らかにしているようだ。ちょっと拡大解釈ではあるが。 |
久遠 | |||
ブラック・ジャック 和田ラヂヲ |
吉本 | 5 | ラヂヲはラヂヲ。カヴァという点では大したことはないが、作品が持っている異化効果に笑ってしまう。 |
久遠 | |||
ふたりは空気の底に 柏木ハルコ |
吉本 | 8 | 絶望的なオハナシの中に人間の業が見え隠れする。実に手塚テイストにあふれたカヴァであるといえよう。人はひとりでは生きられないくせに、ついついその他者を拒絶してしまったりする。それは仕方のないことであるが、切ない。下手な解決を提示しないところも良心的である。 |
久遠 | |||
三つ目がとおる 吉田戦車 |
吉本 | 5 | 戦車が描くとやはりこうなってしまうのか。確かにしっかりと吉田戦車の漫画になっているが、手塚のカヴァという点ではやや弱さが感じられる。 |
久遠 | |||
火の鳥in弥次喜多 しりあがり寿 |
吉本 | 8 | しりあがり自身も述べていることだが、やや消化不良の感がある。「火の鳥」も、「弥次喜多」も、両方とも一筋縄では行かない強力な作品だ。それを節合させ、対決させることには意味があるだろうが、腰を落ち着けてやる必要がある。これで終わらないで、火の鳥との対決のリターンマッチを強く望む。 |
久遠 | |||
リボンの騎士予告編 小原慎司 |
吉本 | 8 | リボンの騎士はそのユニセックス性といい、星之スミレのアーキタイプというにふさわしい。漫画の中身もしっかり「菫画報」のテイストを持っており、じつにワクワクさせる。ただ、本編は拝めないんだろうなぁ。予告編だから面白いんだろうなぁ。 |
久遠 | |||
七色いんこ おおひなたごう |
吉本 | 6 | コミックマスター…とは言わないでおこう。ほぼ唯一の素直な手塚に対するオマージュ作品。手塚を賞揚するのではなく発展させることにこの雑誌の目的があると思うのだが、一つくらいはいいだろう。よいアクセントになっている。 |
久遠 | |||
アポロの歌 喜国雅彦 |
吉本 | 6 | 手塚はまた後味の悪い作品を多く描いた人でもある。その「毒」の部分に注目するのも読み方としては重要だ。 |
久遠 | |||
マグマ大使 島本和彦 |
吉本 | 8 | 島本和彦ほど「巨匠」に対して意識的な人はおるまい。『スカルマン』然り、『燃えよペン』特別編然り。かれは常に巨匠の作品と対決しつつ、それに負けない作品を生み出し続けてきた。だがそれは巨匠を潰そうという意図のもとに行っているのではない。巨匠を愛しているからこそ対決しているのだ。この男気!この作品においてもそれは存分に発揮されている。 |
久遠 | |||
赤の他人 甲斐谷忍 |
吉本 | 5 | よくまとまった掌編。こんなものでしょう。 |
久遠 | |||
手塚ワールドにおけるかわいいがいっぱい! 国樹由香 |
吉本 | 6 | 手塚治虫の作品はまたエロスにあふれたものであった。ここではそれを上手く抜き出している。できることなら国樹風美少年漫画のネタで手塚漫画をカヴァして欲しかったものであるが。 |
久遠 | |||
(フリーテーマ) 予言者ピッピ 地下沢中也 |
吉本 | 9 | 童話として上手く成立している。願いや祈りという概念は実は非常に重要なのかもしれない。どちらも今の社会では低い地位しか与えられていないが、それが可能にするものは多いだろうから。サイボーグ009の姉弟の祈りを、キタモリの純粋な祈りを思い出せ。それを実体的な力にするのは、残念ながら難しいのであるが。 |
久遠 | |||
PURE TRANCE2 ドリーム★タワー 水野純子 |
吉本 | 6 | バッドテイストの嵐も峠を過ぎれば催眠的になる。 |
久遠 | |||
スマイルフォーミー カネコアツシ |
吉本 | 7 | いかにもカネコらしい毒のある作品。だがこの背後にある「ひかりへの欲求」は、決して届くことのない祈りにも似て、哀しくも美しい。 |
久遠 | |||
うっかり!エッグゲッターズ 水谷さるころ |
吉本 | 7 | すべてベクトルデータの漫画というのはひょっとしたらはじめてではなかろうか?作品自体は非常に微笑ましくも可愛らしい。水野純子よりも毒がないのがよい。 |
久遠 |
<総評>
吉本 | ほかの雑誌と比べてはいけないのは分かっているのだが、それにしても強力な出来。黒田硫黄が毎回描いているというだけでも評価するに値するのに、それ以外の筆者たちも非常に強力。これでもう少し刊行ペースが速ければいいのだが。 |
久遠 |
<ベスト>
吉本 | やはり黒田硫黄を挙げるしかないだろう。描線の持つ力。ストーリーの大きさ/小ささ。そして大胆な強調と省略。同時代の優秀な漫画家は何人も挙げることができるが、硫黄は間違いなくそのなかでもトップクラスに位置している。評価だけでなく作品が物語る作家。 |
久遠 |