コミックエデン 1号

絶望廃墟要塞'99

あびゅうきょ

吉本 さすがはあびゅうきょ先生、病んでます。あなたが「大和民族絶滅計画」という想念にかられたのはいつのことでしょう?画面に美しく描き出される圧倒的な絶望感には感服するほかない。ここにあるのは徹底的なダメ人間の姿なのだが、だがそれは強烈な迫力を持って読者に訴えかけることになる。絵の美しさもさることながら、圧倒的な「怨念」となって現れるからだ。ここまで強い力を持った作家はそうはおるまい。この作品が気に入ったあなた、同人誌「くまちゃん国家社会主義」も読むべきですよ!
久遠    
Babyいびつ

山口綾子

吉本 80ページに至る大作。確かに大作なのだが、冗長にすぎるきらいが。あえて焦点を作らない作劇方法なので仕方ないのだが、だんだん飽きてくるのも事実。自分が普通だと思いこんでいた女子高生が巻き込まれる不条理劇というオハナシもその冗長さにプラスに働いている。他の作品が軒並み良いなか、ちょっと気合いが入りすぎたか、という感じ。
久遠    
ルンルンアワー

山本ルンルン
吉本 随分久しぶりに読むような印象。オハナシの内容も快調で良い。ガーリィな可愛らしさとネタの「黒さ」がうまい具合に同居していて良い。線が洗練されているところも評価できるところ。どこかで連載を持っていてもおかしくない力量だと思うのだが!?
久遠    
ひとさらいをめぐる追想

うらたじゅん
吉本 「新ガロ」テイストでまとめている中、珍しく「旧ガロ」の文脈を踏襲している作品。小鳥=子捕(ことり)におびえる少女時代というオハナシは全く「新ガロ」的な繊細さなのだが、線のもったりした感じなどは旧ガロの作風。ひょっとしたらこの人こそ新ガロと旧ガロを結ぶミッシング・リンクなのかもしれない。
久遠    
オノマトペ

細川貂々
吉本 プチ鳩山郁子といった感じ。時折耳が聞こえなくなる青猫くんの憂鬱をはらそうと、博物館に誘う春海くん…という絶対少年的なオハナシがまずは良い。そして水晶柱が青猫くんの憂鬱を消し払ってくれるというラスト。絶対少年の継承者がここにもいたか。鳩山先生ほど線が神経質ではないが、逆に親しみがもてるという特徴もある。ぶーけDXも読まねばならないか。
久遠    
つかれゼリー

新谷明弘
吉本 「新ガロ」に続いて登場の新谷。なんたって「つかれゼリー」っていう語感がたまらんじゃないですか。期待をいちいち「つまずかされる」感じ。トーンを使わずカケアミで構成された画面も人を食っていて良い。ビームでまた描いてくれそうなので良いのだが、もっと作品を読んでみたい作家なので登場は嬉しいところ。
久遠    
フカンゼン少年

福満茂之
吉本 おお、おお!覆面少年と覆面犬の再登場ですか!覆面は社会と折り合いがつかないことの隠喩。「負け犬的オタク(カラフル萬福星のコラムを参照せよ)」のごたる、「社会からの逃走」がここにある。何事もうまくいかず、社会に対して違和感を感じる人は確実に存在し、そしてそれは万人に訴えかけうるポエジイを生じる。社会において弱い存在に着目し続ける姿勢に果てしなく共感を覚える。切ない!ヤンマガ別冊あたりで連載をもったようだが、この人の場合は「新ガロ」で発表したような神経症的漫画の方が良いように思う。
久遠    
星になっちゃった

有川祐
吉本 これまた「新ガロ」から続いての登場。「反町くん」の背景にあった「漫画的お遊び」を抜き出し、蒸留したような作品。その分有川がもっている「漫画のキモ」が見えてくるように思う。有川はポエジイの作家なのだ、と読みとれる。
久遠    
エリクシル[練金薬]

津野裕子
吉本 10 ああ、私がどれだけ津野裕子の作品を待ち望んでいたことか!「新ガロ」の休刊で何が一番痛かったかと言えば、津野裕子の繊細な作品が読めなくなることであった。この作品は長い「待ち」の期間をじゅうぶん補うような非常にナイスな作品。なんといっても眼と視線の描き方がタマランではないですか。そして確信犯的に不安定に移動する視点。モノローグを基調とした展開に緊張感を与えている。繊細きわまりない描線にはなにをかいわんや、という感じ。なぜにこの才能にどの雑誌も注目しないのか?次の作品が載ることを切に望む次第。
久遠    


松本充代
吉本 まだそれほど老いてはいないのにボケてゆく父を見つめる「わたし」と母の物語。母の見解と「わたし」の見解は常にずれてゆき、そこにドラマトゥルギーが生じている。松本一流の「痛い」オハナシがここでも綴られている。あんまり連続して読みたいというタイプのオハナシではないが、読んでおきたいタイプの作品である。
久遠    
Sorobandama BOBKO Chang

甘友ういこ
吉本 デザインのように様式化され、抽象化された絵柄とオハナシ。漫画の領域が広がっていっている現在、こうした傾向は必然であろう。ちと分かりづらい作品であるが変化の様は面白い。
久遠    
闇の草原

城戸宏起
吉本 ありがちな耽美系の絵柄で、一見ひとりよがりな展開を見せるが、それは全てラストの美しさを強調するため。誤解されやすい面も持つが、一点豪華主義の展開は悪くない。
久遠    
犬は吠えるがタラランは進む

松本安心堂
吉本 実は今回の発見はこの4コマ。「P課」に配属されたサラリーマンは、着ぐるみを着ることを強要され、かわいいキャラクタになり果てるというオハナシ。何とも人を食ったオハナシと統一された世界観はよし。他ではどんな作品を描いているのだろう?
久遠    
Noomes

青木京太郎
吉本 評価せず 漫画というよりイラストレーションですな。4Pだし。
久遠    
一齣小僧

大橋ツヨシ
吉本 一コマ漫画でもこの人の才能は光っている。こうした基礎的な部分でナンセンスを紡ぎ出すことができるために、この人の漫画(4コマなど)は生きてくるのだろう。普通のコマ漫画も読んでみたいところである。
久遠    

<総評>

吉本 「新ガロ」が持っていた最大の特色、「繊細さ」を見事に移植している。編集者が同じだから当然なのだが。ある意味強力なオルタナティブの表現であった新ガロのテイストが、ここに復活しているのはきわめて嬉しいところ。今でもそのアクチュアリティはなくなっていない。2号が出ることを切に切に希望。
久遠  

<ベスト>

吉本 津野裕子は最初から「永世ベスト」なので別の注目作品を挙げよう。まずは福満しげゆきの「フカンゼン少年」。じゃがたら「都市生活者の夜」を想起させる切なさは非常に強く私のこころを打つ。次はあびゅうきょ「絶望廃墟要塞'99」。「新ガロ」でも怨念の籠もりまくったナイス作品を連発していたが、今回はフルカラーなのでさらに迫力が増している。ビッグサイトに大書された「死」「絶望」「病」の文字に戦慄。最後は松本安心堂の「犬は吠えるがタラランは進む」。抽象化・様式化された絵柄の中に潜む「人食い」は脳をくすぐられる。読むところが多い本。
久遠  

Back