マンガ・エロティクス(99年4月発売)

不幸せでもいいじゃない

南Q太

吉本 Qちゃんには珍しく直接的な描写。なんともエロエロであるところが面白い。内容の絶望度の高さもまた趣深い。只のエロマンガで終わるまい、という意図が感じられる。流石である。
久遠    
なやまない

塔山森

吉本 …ふむ、これは。日常の中に潜む異世界を上手く切り出している。そして一方で極めて描写はエロい。エロと現実が相互に乗り入れた先にある日常とは位相の異なる空間を切り出そうという試みなのか、この作品は。思わずうなってしまう出来である。
久遠    
大葬儀

駕籠真太郎

吉本 よくもまぁこんな人を連れてくるものだ。だが無論この人はエロではなく、エイティスティク/オルタネイティブな文脈で語られるべき人。正当な人選といえよう。一方作品内容はきわめて「いつも通り」でいい塩梅。気負いの感じられないのびのびとした、それでいて人を食いまくったナイス極まりない漫画。既存のドラマトゥルギーとは異なったところに成立してしまう独特の不条理世界に酔わされる。単行本発売を祝おうではないか。
久遠    
誠実な恋愛

安彦麻理絵

吉本 実は今回一番エロいのではないかと思われる作品がこれ。直接的な描写なしにエロを感じさせるのだから大したものである。あるいは逆に、直接的表現を徹底的に排除し、「したいな」というこころ・からだの動きを間接的に描いているがゆえの成功かもしれない。エロは直接的描写にのみ宿るに非ず。エロはイマジネーションに宿る。
久遠    
股正宗

町田ひらく

吉本 この作品により、ひらくが持っているもう一つの側面、すなわちエンターテイナーとしての側面が明らかになる。起承転結のはっきりした練られた小噺。それを上手くみずからのセクシュアリティと絡めて描き切っている。ひらくの構成力の高さを示した小粋な作品。ただエロが弱くなっているのが残念なところ。
久遠    
セクスパレイト

吉本 この人がきわめて思索的な人であることは周知の事実である。それゆえのここでの登用であろう。そして今回の作品はより思索的な傾向が強い。現在の状況においては、人間の自由は徹底的な束縛のもとでしか立ち現れない。それを描くためのセクスパレイト=「穴」だけの売春であり、過剰ともいえる「視覚のサディズム」である。早急に分析の俎上にあげられなければならない人であるといえよう。社会性の分析さえも漫画に先取りされようとしているのであるから。
久遠    
やどかり

柳沢きみお

吉本 …その一方でこれかい。もう完全に堕落しきっている。新しいものを作り出すことができない、新しい時代にリンクすることができない、きわめて絶望的な漫画。だが、だがだ。柳沢はおそらくこのことに気づいている。気づきつつも、淡々と確信犯的に「自分の」漫画を描き続けている。開き直った人に怖いものはない。そして読み手の方もそれに何らかの感銘を受けざるを得ない。漫画のつまらなさに反比例してその立ち位置はきわめて恐ろしい。
久遠    
日曜日

やまだないと

吉本 世俗に汚れていない存在を描こうとするのはやまだないとの悪い癖だ。イノセンスは「簡単」だ。なぜってそれはわれらの汚れをわかりやすく暴き出すものだから。ただやまだの場合は、それを滅びに向かわせるので、まだ救われているのだが。
久遠    
チェリーボーイ

古泉智浩

吉本 …つまんねえ漫画だこと。もちろん悪い意味ではなく、日常の「つまんなさ」を実に上手く描いているのだ。そしてくだらないことにいちいちつまづいてゆく展開。この視点はあたたかく、そして時に残酷だ。和菓子屋を次いでも漫画を描き続けて欲しいものだ。
久遠    
ピクニック

雁須磨子

吉本 やや「いいオハナシ」に収斂してしまっているようで。もう少し自分のエロに忠実な漫画であるといいように思う。気負ってしまったがゆえの失敗か?
久遠    
ヌルヌルしたい年頃▽

町野変丸

吉本 あまりにもいつもと同じマンガなので実に安心して読める。特に何もいう必要はないだろう。
久遠    
うろしま物語

福山庸治

吉本 これもオハナシが先行してしまって、エロの度合いが薄められてしまっている。エロを感じさせるのではなく、エロから始めることが大切なのではないだろうか。
久遠    
実録 企画モノ

卯月妙子

吉本 これぞリアル。むろんカリカチュアライズは含まれてはいるが、いかにも実際に起こったかのような強い説得力を持っている。ユメもチボーもないあけすけの漫画ではあるが、だからこそ面白い。
久遠    

<総評>

吉本 エロというよりは、オルタナ系作家のアンソロジーといった方が良い雑誌。こうした雑誌が存在するということは、実はエロの分野にこそオルタナティブなものがあるということを如実に示す。やや作家の選択がマニア臭すぎる気もするが、駕籠や砂の登用はじつに嬉しいかぎりである。是非とも2号をつくって欲しいものだ。
久遠  

<ベスト>

吉本 エロさ、という点では「誠実な恋愛」が一番だが、ここはやはり言い出しっぺの塔山森「なやまない」にしよう。女の子が常にいやがっている、というシチュエーションが実にそそる。
久遠  

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