マンガ・エロティクス2号(99年7月発売)
キャンペーンガール 砂 |
吉本 | 9 | いやあ、相変わらず「視覚のサディズム」は冴えきっている。「ファックマイケツ!ショットザーメンディープインマイケツ!」爆笑モノである。素晴らしい。その一方でかれは哲学を語る。人間の自由とは何か、ジェンダー差において真の自由はあり得るのか、と。そこでの二重性は一方できわめてしゃらくさく、一方できわめて興味深い地平を読者に提示する。それは自由を語れば語るほど、かれが持つ逃れ得ないフェティシズムが明らかになるということである。自由は同時に不自由を鮮明にする。このパラドクスをかれは楽しんでいるのだろうか? |
久遠 | |||
Iron Maiden 榎本ナリコ |
吉本 | 8 | 魂の傷からの解放を求めつつも、それを簡単には許さないプライド。このあがきは残忍な形を取って現れる。すべてわかってやっていること。そして周囲の人が傷ついていることも承知の上のこと。だがそうした行為を止めることはできない。榎本がずっと取り組んでいるテーマはここでも鮮明だ。そしてこの構図は、「都合のいい性」を常に求める女性たちの心の動きをも明らかにする。アイドル、やおい、テレクラ…そして隠される「本当の自分」。注意すべきは抑圧された「自分」が解放されないからこそ、ドラマが成立するという点。その容赦ない視点は流石といえようか。 |
久遠 | |||
夜の果ての旅 村崎百郎+森園みるく |
吉本 | 6 | これは比較的ありきたりのエロ漫画。ゴミ漁りが「趣味」の女が、ゴミを通じてしか知らない大学生に欲情する…といったもの。目先は変わっているものの森園風に即物的に処理され過ぎているような気がする。ただ「実用性」はこの雑誌では一番。 |
久遠 | |||
大蒐集 駕籠真太郎 |
吉本 | 8 | ヴィジュアルで攻めるのではなく、あくまで概念で攻めるという方法なので、いつものような(「輝け!大東亜共栄圏」的な)面白さはない。コマ割も意図的に単調にしてあるし。しかしネタが次第にエスカレートした先のどんでん返し的オチは脳をしきりに刺激して、実に面白い。最後1ページの畳みかけるような展開もよし。派手ではないがキク。 |
久遠 | |||
夢のまた夢 安彦麻理絵 |
吉本 | 6 | 「オンナの何気ないエロ」を描かせるとこの人はピカイチだ。ただそのエロが失われてゆく様子が描かれているのが辛い。それは作者本人の状況とシンクロしているのか?だったらなお辛い話である。 |
久遠 | |||
こどもちんこ 古泉智浩 |
吉本 | 6 | 相変わらず絵やオハナシの展開がぎこちない。しかしこのぎこちなさこそかれの徳目だ。エロ漫画的エロは感じられないが、子供のエロ…エロを感じつつもそれを発散させる方法を知らない…のヒリヒリしたような感覚は良くでているように思う。まだセックスの意味を知らない小学四年生。この限界感覚! |
久遠 | |||
ベロニカ▽ショー!! ヒガギヒガコ |
吉本 | 4 | 常に全裸でオナニーしているベロニカとデイビスのボーイ・ミーツ・ガールもの。オハナシも人を食っていれば、いがらしゆみこを5割ほど崩した絵柄も人を食っている。確かにつまらない話ではない。しかしこういう「日常の中に潜む他者」ものは精密な絵にしたほうが説得力が増すのでは無かろうか。他の手慣れきった作者に比べてイムパクトが弱いのもまた欠点として挙げられよう。先が思いやられる。 |
久遠 | |||
うろしま物語2 福山庸治 |
吉本 | 4 | 確かにエロネタを多く扱う作者であるが、どことなく作者のリビドーと乖離してしまっている印象があり、今ひとつのめり込めない。もっと自らのフェティッシュに忠実にやるべきではなかろうか。 |
久遠 | |||
永遠の愛 玉置勉強 |
吉本 | 7 | いつも通りの白さにまずは一安心。 精神科のオハナシ。もと患者の女の子は、先生を独り占めしようと思うあまり、再び精神のバランスを崩してゆく。…なんだか懐かしい話ですなぁ。そして実は静かに病んでいるのは、自分こそ正常だと思っている人々。ヒネリのあるお話はさすがに手慣れたもの。絵の白さが、背後に常に流れる薄ら寒さを強調していて相乗効果を上げている。いい作品だ。 |
久遠 | |||
メイドゆみこちゃん▽ 町野変丸 |
吉本 | 5 | 人体改造も切断も多乳も巨大チンポも今回は出てこないので、物足りなすぎると同時に新鮮でもある。…いかに今までの変丸漫画が強烈であったかが逆に分かってしまう不思議。 |
久遠 | |||
Mouse Trouble Blues 町田ひらく |
吉本 | 10 | 流石ひらく、みんながご存じのあの猫と鼠を題材にするとは。アメリカン・スラップスティックの形式をうまく日本漫画風に翻訳し、そしてスラップスティックの謎…永遠性…に見事に答えを提示している。「なかよくケンカしな」というのは日本版OPの歌詞であるが、そうであるからこそ永遠が訪れるのだ。互いの信頼感こそスラップスティックの基礎なのだ。ひらくはさらにそれを一つ深化させ、「永遠性の終わり」をも提示する。互いの信頼が崩れたとき…永遠性は終わりを告げ、限りない喪失と悔恨の情が支配することになる。後に続くのは絶望的にフラットな世界。おそらくは思いつき程度のネタであろうが、ここまで深化させるのは流石。 |
久遠 | |||
実録 企画モノ 卯月妙子 |
吉本 | 5 | いやあ、「実録」の名の通り、リアリティがあっていいですな。別世界を覗くのはそれだけで楽しいものだ。 |
久遠 | |||
Hair Cut やまだないと |
吉本 | 5 | 義父にもらわれるために性のテクニックを磨く女の子。そのためにまず髪を切る。このシーケンスを精神的去勢であると読むのはうがちすぎ? |
久遠 |
<総評>
吉本 | 前回よりも明らかに密度とテンションが下がっている。あちこちに挿入される太田出版の広告のせいか?それともかなり普通な「編集部推薦図書」のせいか?それは多分純粋なレベルのエロが少ないからであろう。エロを離れると味のでない作家もいるだろうから、少しく考えてみるべき問題ではなかろうか。一つ一つの作品を取り出してみると結構いいのだから。 |
久遠 |
<ベスト>
吉本 | ジェリーがあまりにもキュートなので舌を巻いたひらく作品「Mouse Trouble Blues」にしよう。 |
久遠 |