フラミンゴ 2000年5月号
レヴュ担当 | 吉本松明 |
久遠永遠 |
奴隷立國 海明寺裕 |
吉本 | 9 | 東洋の島国奴国。そこには人と、自ら人であることを放棄した家畜奴隷が住んでいた。20年前の「敗戦」以来…という出だしにガツン。国家形態そのものを語りだすようになり、K9世界はさらにリアリティあるものとしてわれわれの前に提示されることになる。敗戦による国家意識の骨抜き化、という事柄は、沼正三も丸尾末広も触れていることであるが、こっちのベースは「いぬおんなペロ」なので、ちょっとヒネた形で(=より素晴らしい形で)立ち現れることになる。パスポートを所持していないだけで人権が剥奪され、家畜奴隷に堕とされるシーケンスにはホントーに唸らされる。 |
久遠 | |||
母娘 海野やよい |
吉本 | 6 | すっかり「先生」の調教にのめりこんでしまう主人公。母親(調教済)は、「先生」に近寄らないように警告するが…。やよい先生の良さは理性ではどうにもならない魅力に強く惹かれてしまうところにある。理性をぶっ飛ばし壊れてしまった女性のさま。それを求めてしまう人間の業の深さ。 |
久遠 | |||
或る社会的問題者 古賀燕 |
吉本 | 6 | 「恥ずかしい写真」をネタに地味なOLをゆすりつづけ、肉体関係を迫る男。その写真ってのがトイレの盗撮写真だというのが興味深いじゃないですか。加えてOLは男を最後まで拒みつづける。ご都合の展開になりがちなエロ漫画において、容赦ない状況を描こうとする姿勢は良い。平口広美を連想させる和風のエロ。 |
久遠 | |||
喫茶室プレッセン 霜方降造 |
吉本 | 5 | 赤ん坊だからまだわかんないからセックスしましょう、その方が母乳の出もいいし。というシチュエーションそのものがどこかぶっ壊れている。最初見たときは「何これ」と思ったものだが、無意識のほとばしりが見られるのですな。そこまで見ていたのか、編集は? |
久遠 | |||
バージェスの乙女たち 蜈蚣Melibe |
吉本 | 7 | アノマロカリスとマユミの超能力合戦。「今の私なら何のためらいもなくマユミを殺せます」とバージェスに告げるアノマロカリス…流石、押さえるべきところを分かっていらっしゃる。 |
久遠 | |||
プライド 町野変丸 |
吉本 | 4 | いつもと違ってカラーなので短いのが残念。 |
久遠 | |||
Bullets しのざき嶺 |
吉本 | 6 | 主人公はしがない運転手。妻とは離婚し、娘も取り上げられてしまう。そんなかれを、雇用主の金持ちは秘密クラブに連れていく。精液中毒に調教された女のいる…。まだまだ辛いのでしょうな、精神的に。運転手の切ない状況は嶺先生の置かれる状況の現れか。だがそんな中でも作品を描きつづけるのだから感服する。プロの魂ここに見たりという感じ。頑張れ!先生の作品を楽しみにしているぞ! |
久遠 | |||
マネしちゃダメよ 第25歩兵師団 |
吉本 | 3 | この人は絵がイイのですな。特に「布で隠している」部分が。だがオハナシは物凄い。ちょっと、ちゃんと考えてます?? |
久遠 | |||
おとなちゃれんじすてっぷん るもいじゅん |
吉本 | 8 | 前回で終わりか、と思わせておいてあっさり復活。死んだはずの縞次郎も平気で復活。新キャラさえも登場。このデタラメなノリがヒッジョーに面白いじゃないすか。こども番組のパターンを無理やり大人の秘め事に適用するメチャクチャさがいい。今回の実験台がどこにでもいそうな24歳OLって感じなのがまたそそる。 |
久遠 | |||
野々香性の目覚め 鋭利菊 |
吉本 | 7 | あれ?今回はちょっと展開が?と思わせておいて、実はおんなじ。やっぱりいいですなあ。この「引出しが少なそうな」ところが面白いんじゃないか。 |
久遠 | |||
おさるさんと私 童門冬児 |
吉本 | 3 | 箸休めですか。 |
久遠 | |||
東京暮色 駕籠真太郎 |
吉本 | 9 | うっひゃあ。駕籠の徳目は「日本映画へのオマージュ」を非常に上手く行うところにあると思っていたが、この作品も実に上手。最初は小津をそのまんま引き写しているかと思いきや、例の愛子の処刑がカットバックし、そして最後に両者が合一する。モノゴトを知ってれば知ってるほど笑える作品。小津の作品の背後に隠れた狂気のようなものさえ感じさせる(それは現在では狂気と見える、ということなのであるが)。漫画製作とは頭脳労働であるということが良く分かる。 |
久遠 | |||
とんにゃん 白井薫範 |
吉本 | 8 | 屠殺主のありさに捨てられるとんにゃん。「一生交尾してくれるって言ったからこんな体になったのに」という悲痛なとんにゃんの叫び!深い魂のSMである。やよい先生の作品にも感じることであるが、ひとは奴隷を一生奴隷として飼い続けることができるのか、という問いに見事にこたえている。そういやかのO嬢も最後には捨てられるんだった。だがひとは、そうした結末がうっすらと見えているにもかかわらず、奴隷になることを選んだり、圧倒的な快楽におぼれたりする。その「さま」こそ美しく、人の心をうつのだ。ひとつの答えを編み出した薫範先生、次はどこへ行くのか。 |
久遠 |
<総評>
吉本 | 休刊が決まり、意気消沈するかと思ったら、作品のレベルは高い。終わりが見えることによって、皆スパートをかけたということなのか。 |
久遠 |
<ベスト>
吉本 | 休刊が決まったからこそ出来たであろう『奴隷立國』にしよう。 |
久遠 |
Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:03 JST