ガロ 2000年7月号
レヴュ担当 | 吉本松明 |
久遠永遠 |
少年日記 日野日出志 |
吉本 | 7 | 日野日出志といえば、それだけで嫌悪してしまう人もいるだろうが、この作品はその必要はない。少年の頃外で飛び回った記憶と、そして圧倒的ともいえる自然の力を実感したこと、そうしたノスタルジーに依拠した作品になっている。日野の「毒のない部分」がこうも安らぎに満ちたものであったとは。そうした驚きも含めて、実に興味深い作品になっているように思う。連載とは有難い。 |
久遠 | |||
幼稚なOTONA Q.B.B |
吉本 | 9 | 何が面白いかって、作画の卓也が常にツッコミを入れているところ。それは昌之の原作に対するものでも、自分自身に対するものでもある。そしてオハナシは限りなく幼稚な方向へ、無意識過剰な方向へと進んでいく。欄外が面白い! |
久遠 | |||
大阪ダンジョン 川崎ゆきお |
吉本 | 9 | 最近の猟奇王は、よりいっそう「つらい日常」世界に依拠するようになってきている。それは「走れない猟奇王」を結果として生み出してきたのだが、今回はそれとは異なるアプローチを取っている。現在現実世界ではアミューズメント施設になっている場所に、草ぼうぼうの荒地と、猟奇王のアジトを観想するとは…。よりいっそう現実を脱構築しようとしているがゆえに、寒気さえ感じるところ。 |
久遠 | |||
テレビ生活者たちの絶望 菅野修 |
吉本 | 3 | オハナシの運び方や線の引き方などは、調子を取り戻してきたせいかだいぶ滑らかになったように思う。だがそれは同時に「調子に乗っている」こともうかがわせる。身の丈にあわせた作品を描いてほしいものだと思うのだが。社会問題を声高に叫ぶのじゃあなくて。 |
久遠 | |||
招く猫 やまだ紫 |
吉本 | 4 | 5月号ですでに同様のネタをやっているが、もう一度とは。いかにペットロスが深刻であったかが伺える。しかし今回はそれにしてもネタが抽象化されておらず、他人の家庭を覗かされているようなざらついた感覚を受ける。ちょっと工夫してほしかったところ。 |
久遠 | |||
ミラースクライングU 津野裕子 |
吉本 | 7 | 「T」はガロの98年5月号に掲載。長戸ガロ末期の連載を思わせる魔術の世界を垣間見せてくれる。以前のような性的メタファは背景に退いているものの、その分魔術という理性の届かない要素がクローズアップされてくる。直接的でない分わかりにくいきらいはあるが、上手くやれば上品に人間の無意識に迫ることができるために、ぜひこちらのほうの追求も続けてほしいもの。 |
久遠 | |||
偉大なるドイツの母 辛酸なめ子 |
吉本 | 5 | ドイツを舞台にした嫁いびりもの。ドイツ語ってやっぱり強そうな言語なのですね。 |
久遠 | |||
ゴーゴーエロス 浅井麻里 |
吉本 | 5 | 幸せそうなセックスのさまは心が温まる。ただそれ以外の要素はあまり必要ないのでは、と思う。 |
久遠 | |||
黄色いライカ 中山蛙 |
吉本 | 5 | 展開早すぎ!2ページでは仕方ないのかもしれないが。ゆったりのんびりとライカに関する薀蓄ものにするといいと思うのだが。作家の実力もそれなら生きると思うのだが。 |
久遠 | |||
じゅたいこくちっ子 胸田恋司 |
吉本 | 4 | 藤子キャラを思わせる神様(今でいうならブッチュくん)が、可愛い娘さんを手篭めにして孕ませて…という展開。良くも悪くもガロ的要素にあふれている。できることなら一般性のある方向に転がっていってほしいところ。 |
久遠 | |||
ちゃらいぜ!吉田くん スージー甘金 |
吉本 | 6 | もう少しこのへっぽこ感覚を味わいたいと思いもするが、2ページだからこの良さが出ているのも事実。悩ましいところ。 |
久遠 | |||
俺たちホームレス 蛭子能収 |
吉本 | 6 | いやあ、いつものやる気のなさも、ここまで突き抜けて無意味に連結するようだと実にすがすがしい。何の意味もなく山にこもり、何の意味もなく全滅する。素晴らしいじゃないですか。 |
久遠 | |||
テロル 三本美治 |
吉本 | 5 | 花輪和一を意識した?獄中ものだが、やはり獄中ものに必然的に関連してくるイデオロギー性が出てきてしまい、三本自身の味わいをスポイルしてしまっている。ここは思想犯を気取る収監者を徹底的に揶揄してほしかったところ。おかしな思想などに惑わされず、エラン・ヴィタルを貫徹してほしいと切に思う。 |
久遠 | |||
日曜大學校 みぎわパン |
吉本 | 6 | とりたてて筋があるわけではないオハナシなのだが、そうであるがゆえに全体の幻覚性が高まっている。理性がぐにゃぐにゃになる感じといえようか。 |
久遠 | |||
産院ミドリゴ キクチヒロノリ |
吉本 | 8 | 「こけしみてえ」という表現に花輪への愛を見た。それにしてもこのこけし病のあかねちゃんのまがまがしいこと!それを考えついた時点ですでに勝利しきっているといえよう。そして展開されるこけしたちの物語…何を言うことがありましょうや。 |
久遠 | |||
漂流教師 パルコキノシタ |
吉本 | 0 | 17歳の少年たちにシンパシーを感じるのは、ある意味当然のことであるし、それはそれでかまわないことだと思う。だがパルコの場合、そこに切実な必然性が感じられないのだ。とりあえずメディアで取り上げられているから注目するが、すぐに忘れてしまいそうで、次の回には絶対に出てこないであろうことが伺えるのだ。思えばパルコはいつもそう。その意味でタイトルどおり漂流しているのだが、漂流しているだけなんだものなあ。 |
久遠 | |||
サルベージ 大越孝太郎 |
吉本 | 5 | 読んだことのある代原だったので残念。そういや初出の雑誌にはいみりも兎丸も載ってましたっけなあ。 |
久遠 | |||
恐怖博士の花嫁 逆柱いみり |
吉本 | 10 |
…!! 欄外に踊る様々な注釈が、別文明に属す存在としてのカッパを彩り、リアリティを与えていく。そのリアリティは文明による搾取を際立たせるためのものなのが、震えるほどに嬉しいところ。純朴で疑いを知らないカッパたちだからこそ、先月描かれたような典型的な(19世紀的な/「女工哀史」的な)搾取が生きてくるわけだ。その搾取の立役者はやはりおなじみの一つ目ウサギ。たまりませぬな!もう一つ面白いのは、二匹のカッパの、自動車を求める旅が一つの小オデッセイになっているところ。山くらげと戦ったりするなんてシーンはもう最高。そして我々はカッパたちと一緒に異世界を旅することになる。二つの要素のバランスも絶妙。なんと奇跡的な作品であることか。いみり作品の真骨頂やここにあり。 |
久遠 | |||
いぬちゃんの20世紀 加藤賢崇 |
吉本 | 6 | 今回は夏目漱石。どうぶつ、という可愛いタームがいい感じ。賢崇先生37歳なんですね。このキュートさとタイニーさは何処から来ることやら。 |
久遠 | |||
クシー君の発明 鴨沢祐仁 |
吉本 | 8 | おお!鴨沢の新作が!内容としては鴨沢一流のファンタジイになっており、健在をアピールしている。まだまだ透明通信をキャッチできているじゃないですか!そしてそれを発信できているじゃないですか!ぜひともこれを機に酒を抜いて作品を量産してほしいところ。 |
久遠 |
<総評>
吉本 | いくつか例外はあるが、それぞれの漫画が際立って面白いのがいい。内容もバラエティに富んでいる。この調子を維持してほしいもの。 |
久遠 |
<ベスト>
吉本 | 「少年日記」も捨てがたいのだが、ここは無意識のドライブが非常に読者を突き動かす「幼稚なOTONA」にしよう。まったくもう幼稚すぎ! |
久遠 |
Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:06 JST