快楽天 2000年5月号

レヴュ担当 吉本松明
久遠永遠

阿佐ヶ谷腐れ酢学園

SABE
吉本 カラーで登場とは。カラーだろうが何だろうがいつもの調子が変わらないのは嬉しいところ。『串P』も好調なのでイイ感じ。
久遠    
本音と嘘の記録

陽気婢
吉本 …えーっと…。今回も前回同様評価が非情に難しい。彼女に飽き足らず他の女に手を出してしまう、というシチュエーションで、実に上手くまとまっているのだが、結末に向けての展開がご都合なのだ。ぎりぎりまで「これは」と思わせておいて、一ヵ所爆弾が仕掛けられている。思えば陽気婢の作品はそのパターンが非常に多い。この一点さえなければ素晴らしい傑作になる、という。無論それこそ陽気婢の魅力なのだが。
久遠    
シ塾キョウ師

TAGRO
吉本 うーむ(感心)。初の快楽天登場ということもあってか、いきなりヒネってきましたな。一見すると構造が複雑で、エロも少ないという「分かりにくい」作品なのだが、良く読むとそうでないことが分かる。きちんと読むことを「要求」しているとでもいえようか。
メタファとアレゴリーでオハナシを語ろうとする姿勢は注目されなければならない。
久遠    
透明な鳥

夏蜜柑
吉本 8.5 夏蜜柑の作品は共通して欠落を抱えている。今回は失明する男とその彼女とのオハナシ。何らかの欠落、特に身体の欠落は、ドラマトゥルギーの基本ではあるのだが、料理の仕方によってはいまでも強力な感動を生むことができる。夏蜜柑の場合は少女漫画を思わせる丁寧な描線を武器にしているために、さらに繊細さが増している。表現が目指すところと表現方法が合致している幸せな作品。次の道満と対照的な合致のしかたではあるが。
久遠    
PHANTOM PAIN

道満清明
吉本 寓意・寓話・寓エスト。最近の道満は抽象化された線を意図的・戦略的に使っている。現実的なリアルの形と距離を置いているために、ドラマの純粋性が際立つ。抽象化された線が抽象化された「オハナシの精髄」と結びついているのだ。最良の絵本がもつ感動と同じ性質の感動を、道満の作品は持っている。
久遠    
ラブちか

松本耳子
吉本 ほっと、しますな。とにかく男をとっかえひっかえしているちかちゃんのオハナシ。作者のそばにこんな人いるんだろうな。その現実に結びついたリアルの感じが興味深い。木尾士目の『五年生』と同様の方法論なので、賛否両論あるんだろうなァ…。
久遠    
俺は逃げる

朔ユキ蔵
吉本 そして朔ですか。傷つくことを恐れるあまり魂を凍結させる少年。こころを閉ざし、こころを動かさずにいれば、心が痛くなることもない。この構造は『残酷な神が支配する』と同じ。社会に、コミュニケーションに、いかに帰還するか。それを描こうとするとはなんと辛い戦いであろうか。その戦いのさまに読者は戦慄することになる。ただ、恐ろしいことに、現在の状況はセックスですらリアルを喚起させるとは限らないものになってきている。大声をあげて泣くことのできるイクミと昴治はきわめて幸せな例外者だ。戦いは苛烈で、とりあえずは終わる兆候さえ見えない。
久遠    
電気羊はアンドロイドの夢など見ない

えのあきら
吉本 ほっと、しますな。えのあきらのエロさは、「パンティを穿いているところ」にあると再確認。脱げば、モロに出せば、いいというものじゃないんです。
久遠    
くものいと

神寺千寿
吉本 そして神寺ですか。描かれるキャラクタの年齢に合わせて絵柄の頭身が上がっているのでちょっと今までとは違った感じ。非・ロリで行くのかと思ったら、二重、三重に期待を裏切られる。そして強いものに惹かれてしまう弱い心をきちんと描き出す。一筋縄じゃ読めない作品。
久遠    
ねむり姫▽

町野変丸
吉本 いつもとおんなじなんだが、ちょっと笑えます。
久遠    
流亡の虎

久本勘介
吉本 かるまの明らかな代原。エロがないじゃないですか。だが久本という作家が何を求めているかは良くわかる。
久遠    

<総評>

吉本 これだけ強烈な作家/作品をそろえられてしまうと、私は死んでしまうかもしれませんよ?? 作品の配置の巧みさにも注目。
久遠  

<ベスト>

吉本 この中からベストを選べというのか?一番痛かったのは朔。一番考えさせられたのはTAGRO。一番泣けたのは夏蜜柑。一番切なかったのは道満。
久遠  

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Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:08 JST