快楽天 2000年9月号

レヴュ担当 吉本松明
久遠永遠

エヴァーグリーン

米倉けんご
吉本 幼い頃から双子同然に育ってきたユタカと尚雪。ユタカはスポーツ万能でひどくモテる。そんなユタカに対して尚雪は誇りを感じながらも、一方で優越感を抱いていた。ユタカは女を抱いたことがない、という点で。だがそれが破れたとき…。もうこのプロットだけで先の広がりが十分予想される。上手く生かすことができれば、ではあるが、もう半ば勝ったも同然といえよう。痛いところをついてくる方法論を選択するところが好ましい。そして絵のポップさ、エロのツボをきちんと押さえた展開など、プロットを彩る要素も非常にしっかりとしている。ノーブラのタンクトップに、下から手を差し込むシーンに大興奮。「エロを描くのは人生無駄にしている」と諭されたというが、絶対にそんなことはない。エロだから描けるものはあるはず。この調子でバリバリ痛く描いてほしいもの。応援していますぜ。
久遠    
人妻姫

かるま龍狼
吉本 海底に団地があって、そこには団地妻がいて…く、くだらなすぎる!
久遠    
阿佐ヶ谷腐れ酢学園

SABE
吉本 ブルマちゃんの意外にピュアな一面が面白い。そしてふろ小僧の果たされぬ欲望!後者のほうに明確に焦点が置かれているところに感慨を覚えるところ。
久遠    
個体のヴァリエーション

櫻見弘樹
吉本 男に混じって猥談に花を咲かせる人物。その人は生物学的には女なのだが、男に混じってもまったく違和感がないほど男性のジェンダーを身に付けている。そして外見も、「美しい」や「可愛い」と形容するより「かっこいい」。主人公の男は「彼女」にホレており、その思いを告白するのだが、「彼女」はとてつもなくイヤーな顔をする…。「彼女」のジェンダーが、終始男性として描かれているところが非常に興味深い。「彼女」は男性として、彼に抱かれ、彼を抱くのだ。「彼女」が自分の女性という肉体的な性に苛立ちを覚える、という描写を差し引けば、その内面はボーイズラブのセックスとまったく等価なのだ。外見こそ男女のセックスではあるのだが。「美少女漫画」に本格的にボーイズラブの要素を導入したという点で非常に画期的な作品。この作品が快楽天という雑誌に載った、ということも注目する必要がある。ジェンダーの越境はもはや不可逆的に進んでいる。
久遠    
酩酊文学少女

朔ユキ蔵
吉本 8.5 本好きの少女(処女)。彼女は本好きが嵩じるあまり、他人が読む本のロゴスが見えるようになる。憧れの彼はどのようなロゴスを立ちのぼらせているのか、と気になり、見に行く彼女だが、彼の家から立ちのぼるのはフランス書院のロゴス…。まずは着想が素晴らしい。そしてロゴスは読者のイマジネーションを喚起するために、書かれている以上の「ちから」を持っているわけだが、それをうまくエロ描写に絡めているところがよい。意欲的だ!
久遠    
ポテンシャル0

道満清明
吉本 男に顔射してもらうことがあたりまえの世界(……)。お父さんの朝の一発はお姉ちゃんに取られてしまい、犬のベスの一発ももう抜かれてしまったあと。仕方なく寝たきりのおじいちゃんにお願いする…。問答無用で異世界に引き込まれる例の感覚は健在。こういう形式の作品をもっと読んでみたいのだが。
久遠    
リベンジ

てくてく
吉本 カードゲームの罰ゲームで男湯に入ることを強要される女の子。そこに憧れの先輩(超目が悪い)が入ってくる。無防備なのをいいことに先輩を観察する女の子…。オハナシのご都合は線の繊細さに免じて許しましょう。なんかネタ的にMtGが入ってきたりと閉じ気味なので、あまりソッチに行かずに小さな女の子を描きつづけてほしいもの。
久遠    
LAD:UNA

伊藤真美
吉本 次第に明らかになるディーラとその「妹」たちの謎。エロシーンとはすでに離れたところで大きなオハナシが動き始めているのがよい。
久遠    
生意気な小天使

月野定規
吉本 お?今回はCGではない?ところでオハナシは限りなくくだらなくってよろしい。天使の羽根を集めた先に訪れるのがドリフ的世界なのだから。月野先生!今度「みるく☆きゃらめる」に描いてはくれませぬか??
久遠    
I don't drink milk any more.

神寺千寿
吉本 手首足首なしのロリ系の絵だけでなく、大人の女性も描くようになってきているところが興味深い。そしてオハナシは相変わらず人間の内面に鋭く切り込んでくるようなもの。母親に依存することでアイデンティティを保つ女の子、彼女を好いているものの、片手が義手の男、男をとっかえひっかえしている母親…。誰もが皆少しづつ狂気を抱えており、その狂気が最終的にすべてを破綻させる。この人が得意なパターンではあるが、そうであるからこそ非常に痛いものとして読者に訴えることになる。切ない。
久遠    
クローゼット▽

町野変丸
吉本 そして次にはこれですか。深刻になりすぎたオハナシの後なので、非常に「生きて」みえる。
久遠    
So Heavy

華沢れな
吉本 相変わらずこの人はコンプレックスを描くのが上手い。それを救う存在もやはり同じようなコンプレックスを抱えている。傷をなめあう道化芝居ではあるのだが、それに一味加えてさらに痛い展開を作り出している。「パラノイド」のような連載も良かったが、こうした短編も良いものだと実感。
久遠    

<総評>

吉本 すっげー!どうなってるんですかこの痛さ。エロ漫画誌としては少々痛すぎるような気がしないでもないが、エロという文脈を離れてみると非常に優れた漫画ばかりである。エロ漫画という文化が行き着いた一つの美しき結晶(終末?)といえようか。
久遠  

<ベスト>

吉本 いい意味で非常に難しい。7点以上はすべてベスト候補なのだから。強いてあげるなら、一番脳に快楽を与え、現在の私の興味関心にフィットする、という点で「個体のヴァリエーション」であろうか。「エヴァーグリーン」も捨てがたいところだが。
久遠  

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Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:08 JST