OURs LITE 2000年9月号(創刊号)
レヴュ担当 | 吉本松明 |
久遠永遠 |
恋愛ディストーション 犬上すくね |
吉本 | 9 | いつものとおり骨を抜きまくってくれます。「手袋をはめないで」という見た目のキャッチーさもさることながら、二つの点で読者をひきつけているのが面白い。第一にほんの些細なことから、二人の関係を再認識させるハートウォーミングな展開に持ってくるところ。もう一つは、大前田と棗のスタンスの違い。大前田は大マジなのに、棗のほうはただの好奇心であるという…。この温度差!ともあれ、単線的ではなく、複雑な要素を含みこんでいるところにこの作品の徳目があるのだといえよう。関係ないが乙女回路ばんざい! |
久遠 | 8 | ダメじゃ、ダメじゃ!乙女回路って言うのは、ダメな男の間違った少女観の凝縮されたものでなきゃダメなんだぁ! | |
あの娘の居場所 森見明日 |
吉本 | 6 | 主人公は巫女。きわめて憑依されやすい体質のお父さんと一緒に除霊に励みます…というオハナシ。他の作品に比べると「まあこんなものか」という印象を受けなくもないが、雑誌の中では実に有効に機能している。読者の「萌え心」をつかむ役割をきちんと果たしているのだから。心休まる展開はいい感じ。 |
久遠 | 5 | 何気に目次に載っていませんね。ってゆうか、間違った神主、巫女感に乾杯! | |
いばら姫のおやつ 石田敦子 |
吉本 | 8 | …そして石田さまですか。一見ぬくもりを求めて男に抱かれつづけるわがままなお姫さま、という直線的な物語であるように見受けられるが、同時にさびしさに耐えて生きてきた姉のこと、そして主人公の男の子の思いも描かれる。物語を一点に収斂させるのではなく、様々な要素を平行して語るという方法は実に好ましい。絵柄も非常に魅力的だし。ある意味危険な領域に入っている絵柄といえるかもしれない。 |
久遠 | 8 | えーっと、来年度の[虹色定期便]は、これにしませんか? | |
放課後ぷらす 鬼魔あづさ |
吉本 | 6 | 雰囲気はいつものものだが、ネタ的にキャッチーになっているのが面白い。ぱんつ、可愛い少年、学ランの女の子。…何を文句が言えましょうか。 |
久遠 | 5 | 応援団はじゃんけんに負けたものどもが集うところでした。 | |
うたかたの彼女 やまむらはじめ |
吉本 | 7 | 事故にあい記憶を失った彼女。その彼女は記憶を失う前と異なり、実に「普通の女の子」になってしまう…というオハナシ。ちらっと読んだだけでは「痛さが足りない」と思う作品だが、読みがいは非常に多くある。主人公は彼女に何を求めるのか?という問いや、彼女はどう彼に接していたのか?という問いが生じてくるのだ。その読みにこそドラマが生まれる。ちょっと敷居が高すぎて深読みにまで至りづらい(「肩幅の未来」などと比べ)という欠点はあるが、方法論は変わっておらず、徹底的に前衛でありつづけようとしている。そこに喝采を送ろうではないか。 |
久遠 | 7 | あーなんか懐かしいですね、このような酸っぱいの。ちょっとご都合だけど。剣とかは出ないんですか? | |
スーパーウール100% おがきちか |
吉本 | 5 | おがき特有の伸びのある描線はとてもよろしい。だが少々線が整理されておらず、オハナシの展開もわかりづらい。何回か様子を見たいという印象。 |
久遠 | 5 | ちいっと分かりづらいでやンすね。ってゆうか読み返すまで存在を忘れてました。 | |
KAZAN 宮尾岳 |
吉本 | 6 | 新雑誌のテコ入れという位置付けかと思われるが、やや雑誌全体からは浮いているように思える。ただちょうど盛り上がっている展開なので、続けて読んでいる人には面白い。やっぱり少年漫画ですよ。 |
久遠 | 6 | カザンのオヤジは途中人買いから二人の少女を助けたりしながら先に進んで、麦を盗んだところでくるくるぱーになってしまったんですか? | |
ひねもすヨメ日記 ひぐちきみこ |
吉本 | 6 | アタクシもこうしたDINKSになりたいと思うところ。あ、子どもは欲しいけれど。 |
久遠 | 6 | む、私もアキバの漫画喫茶に行かなくては。だって、あまいぞ!男吾が揃っているって言うんですもの! | |
トラベリング ムード TAGRO |
吉本 | 8.5 | 意外、とも思えるボーイ・ミーツ・ガールもの。「トリコの娘」のような痛い展開かと思わせておいてこれだから、やはり侮れない。おそらくそこに流れるのは、抗おうという意志なのではなかろうか。痛いことも、辛いこともいくつも見てきた。だからそこで生じる切なさを描いたり、切なさに浸ったりすることは簡単にできる。だがそうであるからこそ、それに甘んじることなくオハナシを描いていこう…という意志なのではなかろうか。切なさに裏打ちされているために、ここで触れ合う魂のさまは、説得力こそ弱いかもしれないが(この辺は純粋にちょっとした演出の問題)われわれに感動を与えることになる。あたかもキリンジをはじめとする現在の良質のポップミュージックが、われわれの心をつよく動かすように。ここに現れる共通項こそ、ひょっとしたら現在の文化を読み解くカギになるかもしれない。 |
久遠 | 7 | 福島って、北国か?北国は、阿賀北じゃあなきゃ認めません!(それはみちのく) | |
素敵なラブリーボーイ 伊藤伸平 |
吉本 | 7.5 | この作品の凄いところは、一方でベテランらしいテクニックをふんだんに取り入れながらも、ネタそのものが非常にみずみずしいところにある。女の子ばかりの演劇部に入る(可愛い)男の子、憧れの先輩(眼鏡)…。ある意味実に「キャプテン」を引きずっているわけだが、それを感じさせずに上手く現代風にアレンジしているところが面白い。そしてその一方で、昔懐かしい学園ものの要素を混入させていく。非常にいい仕事、といえるのではないか。次も強く期待。 |
久遠 | 7 | ギャルゲーと言うには、親友なり先輩なりと言った助言役がいませんな。 | |
夏の思ひ出 樹るう |
吉本 | 5 | 息抜きの4コマ。もう少し爆発力が欲しいか、と思わなくもないが、役割はじゅうぶんに果たしていると思う。 |
久遠 | 3 | クーラーないくらいで威張るなや。 | |
DIG OUT! どざむら |
吉本 | 6 | ほう、これはメタファの典型的な例。「結婚とは船出に似ている」という結婚式のスピーチを思い出す。だが構造は一ひねりしてあって、最初に二人はケンカしているところが面白い。もうほんのちょっと、という印象は否めないものの、オハナシ作りが伸びてきているのが実に良い感じ。 |
久遠 | 6 | ディグダグも良いですが、Mrドリラーもいいですな。 | |
妄想戦士ヤマモト 小野寺浩二 |
吉本 | 8 | …変わんないですなあ、この人は。もちろんオハナシは爆発的に面白い。雨の日助けた子猫が人間になって恩返しに来ることを本当に信じている、というところが。美少女漫画やエロゲーの安易な展開に対する強烈なアンチテーゼになっているのも面白い文明批評漫画。ロリータ番長でもいいんじゃないの?と思わなくもないが、この作品の場合ツッコミ役松下(ヤスに当たる存在)が、ヤマモトと同じメンタリティや文化的背景をもち、視点がやや現実的であるだけ、という点が面白い。ヤマモトのこっけいな行動に笑うだけではなく、傷をなめあう道化芝居であるところも笑えるところなのだ。痛いけれど面白いじゃあないですか。 |
久遠 | 10 | ・・・次回は押しかけ魔法少女メイド(プリンセス)を希望。 | |
おっとっとっ! 磯本つよし |
吉本 | 5 | 富吉(女性)とマイクは結婚したいと考えている間柄。しかし富吉は父親(マッド)の実験によって、子どもの体にされてしまった。何とか戻してもらおうとするが、父親の毒牙がマイクに伸びる…。絵は綺麗、ネタもワンダーにあふれており、編集部の期待が感じられる。ただ、今回は展開がやや錯綜しており、ロボにされてしまったマイクという設定があまり生きてきていない。オハナシを整理すればかなり面白くなるはず。絵のセンスがいいのだから。今後に期待。 |
久遠 | 7 | 幼く見えて実は二十歳過ぎと言うのは、あの条約を回避するための方便ですか? | |
ネコとメイド 小田すま |
吉本 | 4 | これはちょっと。前回「2001」に載った作品は良かったのだが、ネタがあまりにもドメスティックなものだから… |
久遠 | 1 | ふーん、それで? | |
STAIR 西村竜 |
吉本 | 7.5 | ふーむ。やや展開が空回り気味だった前回の作品に比べ、随分と歯車が噛み合っている感じ。というよりいつもの同人誌の感覚に戻ってきた、ということなのかもしれないが。オハナシは、エレベータに閉じ込められたさえないサラリーマンと自殺志願の女子高生のネゴシエーション。良くあるタイプのオハナシなれど、西村らしいちょっと引いた視線からの語りが強い説得力をもって訴えてくる。タイトルはSTAIRなのに、階段などいっこも出てこないのもよろしい。この調子で次の作品も読みたい。 |
久遠 | 7 | そーいやー、俺様ちゃんも2分くらいエレベーターに閉じ込められたことあるけど、あれは怖いもんですね。まあ一人っきりだったので良かったですが。 |
<総評>
吉本 | はなっから「理想的な雑誌」になることは分かっていたものの、ここまで私好みに仕上がってくるとは。多分それは私だけに感動をもたらすものではなく、かなり多くの人に訴えるものになっているのではないだろうか。現在、文芸的要素をもった漫画作品が、いかに表現上の可能性を持っているかが良くわかる内容となっている。編集後記で編集長の福原さんが書いている「我々自身の言葉で綴る漫画」という言葉が強く響いてくる。やや気負いすぎか、と思わなくもないものの、そこから始めることで、漫画はさらに面白いものとなっていくだろう。私は強くこの姿勢を支持し、負けないように応援していきたいと思う。 |
久遠 |
<ベスト>
吉本 | 好きな作家ばかりなので実に選びづらいところ。そこで今回は「感心した」度合いで選びたいと思う。この視点だと一位は伊藤伸平、二位はTAGRO。伊藤はそのワザの巧みさに、TAGROはその描きつづけようという姿勢に。 |
久遠 |
Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:10 JST