モーニングマグナム増刊10号(99年8月発売)

ネオデビルマン

神崎将臣
吉本 美樹の存在こそが明を人間世界と結びつけていた、とか。ふーん。そうですか。「ネオビルマン」の趣旨をご存じですか?
久遠    
雪の峠

岩明均
吉本 さっぱりし過ぎた線のため、テンションが低いと取られてしまいそうだが、実はそんなことはない。智略の限りを尽くして戦う男たちの姿がここにある。ぎりぎりの精神戦のさまは読んでいて感心する。
久遠    
Forget-Me-Not

鶴田謙二
吉本 1回休んだせいもあってか線が洗練されていて美しい。そして水の都・ヴェネツィアの描写が印象的にオハナシにオーバーラップするところもセンスを感じるところ。次回増ページ?ホントか?
久遠    
ちひろ

安田弘之
吉本 ひととのつながりを持たず、関係の「さま」だけを集めようとするちひろ。この作品の注目すべき点は、ちひろがそれでも虚無に陥らないところである。…ちひろのさまを綾波レイ的に空虚である、と感じる人もいるかもしれないが。既存の関係性が崩壊したところに、別の形のコミュニケーションが現れる。
久遠    
オスならなんでも!

倉田真由美
吉本 だめ連をはじめとする3つのネタ(各2P)のルポルタージュ漫画。ひとつのネタで2ページとは随分贅沢な。ネタがかなり「ワルいサブカル」に偏っているのは微笑ましい。現代のニンゲンは随分寂しいのですなぁ。
久遠    
フローラ

夢野一子
吉本 追いつめられた男を癒す熱帯の名も無き植物。植物の見せてくれた幻で「世界」に帰還する男…というオハナシ。あらまほしきカタルシスが植物によってもたらされる、という構造は確かに読み心地はよいのだが、はっきりいって喰い足りないことこの上ない。「ネオデビルマン」で見せてくれたような「理性に還元できないような気持ち」を読ませて欲しかったものだが。
久遠    
派犬社員ケンイチ

タイム涼介
吉本 くだらないです。心に引っかかるものはとくにありません。
久遠    
バカとゴッホ

加藤伸吉
吉本 タッチが変わったのでは。堺(=バカ)のモノローグで終わるかと思わせておいて、そのモノローグの結果の手紙を破かせるなんて、なんてイキなんだ。次の一歩を踏み出そうという男に言い訳は不要だ(夢野の作品と対比してみよ)。ベタベタな展開も確信の上に成り立っているのでかっこわるくならない。…ハハ、バカっていいよなあ!
久遠    
夢でもし逢えたら
戦後史のこころみ 宮沢喜一編

志野靖史
吉本 …なんでこんな場違いな絵を?と思ったが、描線そのものがひとつのギャグになっているのだね。そしてオハナシもサラリーマンが喜ぶようなものかと思ったら、インテリがくすりと笑うようなタイプのもの。教養、または日本史(現代史)の知識が必要という欠点はある(敷居が高い)が、脳に訴えるタイプのギャグ漫画。インテリヤクザだねぇ!面白い!
久遠    
話田家

小田扉
吉本 うむ。「直接物事を語らないことがかえって雄弁に物事を語る」という手法は、今回も健在だ。そして本当のよろこびもかなしみも、実は何も語らないところに存在する。現代のドラマトゥルギーを如実に示す作品。危うく涙をこぼしそうになってしまった。
久遠    
文車館来訪記

冬目景
吉本 今回はやや色塗りが雑なような。ややオハナシの展開もぎこちないように感じる。だがフルカラーで8ページなのだから文句をいうことはあるまい。
久遠    
200パーセントベイベー

八代富士夫
吉本 なんとも暑苦しい絵柄に展開。自由を求める女に束縛しようとする男。そうした心の動きにやや感情移入したりするものの、やはり絵柄がいまひとつ「合わない」。もうチョイ線を洗練させると良いと思うのだが。
久遠    
たごにご

ながいさわこ
吉本 どうにも分裂症的なのが気になる。アルタード・ステーツに片足突っ込んでいる、という印象。漫画として見るとたいして面白くはないが、作者の「ようす」は気になるところ。
久遠    
雨太

正木秀尚
吉本 敵となる組織が単なる血族集団では、迫力もドラマ性も弱い。敵の不気味さ・強大さに欠けるのだ。雨太というキャラクタや雰囲気作りはいいのだから、別の展開にすることを急ぐべきではなかろうか。
久遠    
そのワケは。

サラ・イイネス
吉本 ペットというものは「そのように育てよう」と思った通りにほぼ育つものです。
久遠    
王国物語Sphinks

荒巻圭子
吉本 謎というものは謎のまま取っておいたほうがいいのかもしれない。近代以降謎はその数を減らす一方(増えているという話もあるが…)だ。少なくとも人間の内側に潜む謎は、白日のもとにさらさないほうがいいのかもしれない。だからこそ謎は妖しい魅力を持つ。この作品はそうした「謎の魅力」を前面に押し出していた。上手くまとまった良作といえよう。
久遠    
社宅の人

山本深雪
吉本 オテガルな「まんがくらぶ」的漫画。ま、こういうものがあってもいいでしょう。だが雑誌の雰囲気を下世話にしてしまうのはどうかと思う。下品、はいいのだよ。そこに趣味があれば。だがこの作品には趣味がなく、植田まさし的文化度の低さが強く感じられる。
久遠    
お母さんといっそ

松田洋子
吉本 思い込みが強くて行動力のある人は便利だが厄介だ。これがまた実在したりするからなおのこと。この漫画はそういう人に会ったときの個人的な「イヤーな気持ち」を呼びさましたりするので実にこころ動かされる。
久遠    
夕暮れ

オクムラ・ムクヲ
吉本 一条裕子の線をちょっと太く、力強くしたような感じ。婆さんもの以外の作品も見てみたいところ。
久遠    
代謝都市

木内亨
吉本 観念のみで成立しているような漫画、ちゅうかベデ。日本漫画でここまでベデに忠実な漫画は珍しいので、この路線を維持して欲しいものだと思う。
久遠    
テクリン

立沢直也
吉本 「テック」に倫理のたがをはめようとするこころもちが何だか微笑ましい。テクノロジーを使いもしないでうさんくさがるオヤジ的視点がここにある。立沢、まだ若いはずなのに。あるいはそうしたオヤジ的視点そのものに対するパロディなのかもしれない。
久遠    

<総評>

吉本 全体的に前衛性が下がり、凡庸な感じになってしまっている。「ネオデビルマン」からして今回は全然ダメ。そしてちばてつや賞の作品も、単体としてみると悪くはないのだが、印象を凡庸なものにする大きな原因となっている。メジャーのなかに潜む前衛性(それはもちろん排他的なものではないはずだ)を明かにするという姿勢が失われつつあるように思えてしまうのだ。もちろん雑誌も商業的商品なので、安定化志向を責めることはできないのだが、これまでが良かったので残念に思う。さては編集が出ていったか?
久遠  

<ベスト>

吉本 そんななかでも通常の漫画の構造をしたたかに脱構築(この言葉もカッコわるいなあ)してゆく作品がある。小田扉「話田家」だ。この作品の先進性は高く評価されなければならない。
久遠  

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