モーニングマグナム増刊15号(2000年6月発売)
ちひろ 安田弘之 |
吉本 | 7 | ひと時の休息を楽しみ、かつて接した人々に再会するちひろ。そこで描かれる「普通の人」の反応。組織というものは、人間を一方で安心させるが、もう一方で人間にとって大切な「何か」を失わせてしまう。安田の筆はきちんとそうした「罠」を描き出している。ナマの人間の姿を追求する姿勢こそこの漫画の徳目だ。 |
久遠 | |||
サトラレ 佐藤マコト |
吉本 | 7 | 今回は棋士を目指す女の子のサトラレのオハナシ。自分の手を悟られることは棋士にとっては致命的のはずだが…と思いきや、そっち側ではオハナシを進めないのが好ましい。対戦相手の手が「入ってきてしまう」というゆがんだ状況のほうに目を向けるのだから。きわめて上手な方法といえよう。ただやはりハッピーエンド志向なのは気になるところ。サトラレはほとんどの場合隠棲せざるを得ないのであろうから、その「苛烈さ」も読んでみたいように思う。なぜならそれこそが、現代という時代を反映するであろうから。 |
久遠 | |||
MAKOTO 郷田マモラ |
吉本 | 3 | ミステリ的な面白さはあるのかもしれないが、やはり納得がいかないところ。全体的によくまとまっているのは確かなのだが、何か、根本的な、「先鋭性」が足りないのだ。もちろん罪は作家にはなく、編集方針にあるのだが。もっと上の年齢層にアピールするべき作品なので、この雑誌に載せるのはいかがか、と思うのだが。 |
久遠 | |||
しゃぼてん 野中英次 |
吉本 | 6 | くだらないギャグもまたいいものです。 |
久遠 | |||
防弾賛歌 山本勝巳 |
吉本 | 5 | ネタとしては昔からあるもの。チクリと世相を風刺しているのも微笑ましい。だが血圧高そう…。 |
久遠 | |||
日本全国ギャンブルあんぎゃ〜 花岡/阿木 |
吉本 | 5 | 地方競馬という「終末の浜辺」に積極的に足を踏み入れようという姿勢が面白いじゃないですか。私も「せつなさ」を求めて地方競馬に足を運ぶ身。「楽しみ方が違う!」と怒られそうだが、いいじゃあないですか。「オスならなんでも!」的エッセイ漫画のいやらしさがあるが、ネタのよさがそれを幾分中和しているのがよい。 |
久遠 | |||
蚤の王 安彦良和 |
吉本 | 6 | て、手堅い! |
久遠 | |||
保険Gメン・ウキタカ 土屋瑞姫 |
吉本 | 6 | 一つ一つグレーゾーンをつぶしていくという刑事ものの王道。そしてこころに訴えるようなどんでん返し。視点は確かに優れているのだ。ただ「ちひろ」「サトラレ」「MAKOTO」と同じ系統の作品がいくらでもあるので、辛いところといえようか。 |
久遠 | |||
バカとゴッホ 加藤伸吉 |
吉本 | 6 | …まあ、あらまほしき終わり方といえようか。バカはバカなりに玉砕するし。ただ、その後はちょっと。この作品は終わらせるべきではなくて、もっと長く続けるべきであったと思う。バカたちのバカさ加減をもっともっと描くべきであったと思う。問題は編集方針にあり。これだけ能力をもった作家を、なぜこうも粗末に扱うのか? |
久遠 | |||
そのワケは。 サラ・イイネス |
吉本 | 4 | 評しづらい作品だが、独自の雰囲気は評価できるところ。 |
久遠 | |||
塾講師 丈六司郎太 長澤啓介 |
吉本 | 7 | これまた血圧の高そうな。実際塾にはこうした血圧の高そうな先生がいくらでもいる。もちろんそれを嫌う生徒や親もいる。だが多くの場合はこうした先生、熱心な先生は、絶大な支持を得るものである。「わかんないところにとことん付き合う」。これは、ある意味、教育の原点ではなかろうか。考えさせられる作品である。(公立学校の教員に残業の概念がないのが問題だと思うのだが?)直接本筋とは関係してこないものの、娘を登場させることによってオハナシに「まるみ」が出ているのもよい。 |
久遠 | |||
魔呆症ハチスケ タイム涼介 |
吉本 | 4 | やっぱりこの独特なノリにはついていけないところ。私も年を取ったのかな… |
久遠 | |||
GOD'S MARBLE 木場/佐藤 |
吉本 | 5 | 伸びやかな線と躍動感は好ましいところ。ただ展開がかなり突飛で、ついていけない部分があるのも確か。も少しロジカルにやってほしい感じ。 |
久遠 | |||
女優ミドリ 八代富士男 |
吉本 | 4 | ありゃ。これも終わりですか。確かにベタベタすぎて感情移入できないところがあったのも確かだが、人間の深い部分のエロに訴える展開が面白いと思っていたのだが。 |
久遠 | |||
トンネル 東海林秀明 |
吉本 | 7.5 | 「テルヒク・モルヒ」の人。きわめて正統派の作品。トンネルに憑かれた一人の男。「山とやってるんだよ」と。岩盤に突き当たり頓挫する工事。それを打開するために、不眠不休で発破のための計算を行う…。もちろんこれには自然を征服しよう、という近代的概念も入っている。しかし問題はそこにはなく、障害にぶつかったときの人間の行動が主な争点となっている。作者はそこから目を逸らすことなく、徹底的にトンネルに向かいあっていく。ぐいぐいと引き込まれる魅力を持った作品。 |
久遠 | |||
社宅の人 山本深雪 |
吉本 | 1 | ドメスティックなネタは注意深くやらないと、限りなく下品に堕する危険性を持っている。この作品はそれに対してあまりにも無意識。4コマ誌ではこれでいいのではあるが… |
久遠 |
<総評>
吉本 | 手堅い雑誌は他にいくらでもある。なのになぜ手堅くしようとするのか?確かに商売を考えなければならないという理由は理解できる。しかし以前はそうではなかったではないか。前衛的な作品を載せることが売上げにつながることを、自ら身をもって示していたではないか。最後の砦「バカとゴッホ」の終了は実に象徴的。新たな方向へチャレンジしようとしない雑誌は実に魅力が薄い。…という訳で、今回でこの雑誌のレヴュは終了。ただでさえ生産力が限界なので、魅力のない雑誌に割く時間はない。 |
久遠 |
<ベスト>
吉本 | やっぱり血圧が高そうなのだが、真っ当なドラマトゥルギーで最後まで押し、押し切る「トンネル」にしよう。 |
久遠 |
Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:11 JST