プチフラワー 2000年3月号

諸葛孔明 時の地平線

諏訪緑
吉本 今までのどの三国志ものとも異なった人物の解釈。そして農民に代表される社会的弱者の視点。一方でちゃんと三国志っぽい天下を狙う男たちのぶつかり合いも描かれる。女性的繊細さと大河ドラマの交点がここにあるといえようか。注目すべき作品。単行本は50巻ですか?
久遠    
天使の時間

名知未佐子
吉本 名知節全開。柔らかい気分になるナイスフャンタジイ。ちょっと今回は展開が早いか、という気もするが。
久遠    
魔術師さわぎ

佐藤史生
吉本 魔術の使い方が現代風の派手なヴィジュアルを伴うのではなく、あくまでガンダルフ風のものであるところが良いではないか。そしてあちこちに張り巡らされた世界そのもののエニグマ、登場人物のエニグマ。非常に意欲的な作品ではないか。『心臓のない巨人』と違い、深刻にならず楽しめるのも良い。どうして隔月なのですか?この雑誌?
久遠    
ちくわぶ・でてくちぶ

小道迷子
吉本 やっぱり何が描いてあるのか良くわかりません。もうちょい整理されててもいいような。
久遠    
昼さがりの幻影

波津彬子
吉本 両親の死で心を閉ざしてしまった少女・クラリッサ。彼女を癒してくれるのは、大伯父の家にある、古い日本や中国の文物を収蔵した部屋。彼女はそこで文物たちと対話するのだ。だがあるときそこに一人の青年が入ってくる…というオハナシ。いいフャンタジイではないですか。波津の良さは日常性とフャンタジイをうまく組み合わせるところにあると思うのだが、この作品でもその徳目がフルに発揮されている。ええわ…
久遠    
光る南国の魚

西炯子
吉本 9.5 南国のリゾート地。そこの高校で、夏休み唯一許可されているアルバイトは、時給380円のホテルでのもの。主人公ヒカリは、ホテルの中でもいちばん古いところで働き、そこで女体盛りの「皿」になっているフィリピン人のマリアと出会う。少年は大人の世界に接し、そのイノセンスを変えることを迫られるが、そのことでひとつの思い出を得、そしてひとつ大人に近づいていく。この不可逆性を描き出すとはなんちゅうセンスですか。一方でオヤジ的な表象を描き、それで少年の純粋さを描く。そのテクニックも注目すべきところ。以前からこの人の短編は凄いと思っていたのだが、この作品も凄い。ぜひ多くの人に読んでほしい作品。
久遠    
思索する人

倉田江美
吉本 いつもの棋士の一家。今回はCSを導入し、お父さんの出演している番組を見ます…マイペース、という言葉は使い古されているが、この作品にはいろんな意味でこの言葉がふさわしい。決して「人食い」になってないところが良いじゃないか。のどか。
久遠    
残酷な神が支配する

萩尾望都
吉本 今までの濃密な時間の描き方から、一転してあっさりとした展開。変化を迫られるイアンの愛を描くためであろうか。まだまだ元気なグレッグおじさんに気が抜けないところではあるが、着実に大団円に向かっていることが感じられる。トータルな癒し、いや「ゆるし」であろうか、は近い。
久遠    
ギフト

中村かなこ
吉本 アイスホッケーが舞台。目の前でパートナーを失ったキャプテン・高木。新しい相方として新人が入ってくるが、彼は無愛想な男だった。どうもかみ合わない二人だが、その原因は友の死に対して気丈な態度を取る高木にあった。男同士の意地の張り合いを、上手く同性愛的要素を漂白しながら描き出す手法と、最後に流れ出す押さえきれない感情に心動かされる。いい作品。
久遠    
モラトリアン

荒木淳子
吉本 伝説のモラトリアンの一族。彼らは秘術を使い若さを維持していたが、何らかの事情ですでにいなくなったと伝えられる。主人公シルヴァは牧師のもらわれっ子だが、従兄弟の兄妹に引き取られる。そして妹のレイラに惹きつけられるシルヴァ。そうした運命を感じさせるオハナシに惹かれるではないか。すでにタイトルからオハナシが見て取れるとはいえ、それを小出しにせず説得力ある形にまとめているのが良いではないか。出会いと別れ、という一般的なドラマトゥルギーを一段階抽象化しているところが更に深みを増している。危険なオハナシだ。
久遠    
薄情が薄氷を踏む

名香智子
吉本 もうすっかりこのハイソなオハナシに慣れてしまったので心地よいことこの上なし。アンリの可愛らしいことといったら!少女漫画とは「カタ」であることを徹底的に思い知らされる。
久遠    
ジャングリズム

大竹サラ
吉本 これで最終回とはいえ、いつもと変わりないような印象。ないと寂しいかもしれない。
久遠    

<総評>

吉本 ここまで畳みかけるような雑誌が他にあったであろうか?萩尾望都、西炯子、中村かなこ、荒木淳子。このラッシュに私参りまくってます。いい漫画とは何か。それを無言で感じさせる誌面作りには心底感服する。ヤバいくらいのテンションの高さ。休刊騒動を感じさせないところも凄いではないか。
久遠  

<ベスト>

吉本 『モラトリアン』『ギフト』『光る南国の魚』と、唸りまくるような短編が続くので難しいところ。加えて連載も非常に面白い。ギャグ以外全部ベストといいたいところだがそうもいかぬ。嬉しい悲鳴といえようか。ここではその中でもいちばん唸り度が高い西炯子『光る南国の魚』にしよう。アドゥレセンス黙示録!!
久遠  

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