2000年2月20日(日)
アガルタ 4 | 松本嵩春 | 集英社 | <漫画・単行本> | 590円 |
「ウルジャン」掲載作品の中でも異彩を放っている作品だと考えています。向かっている方向はやまむらはじめなどと同じく、「大きなオハナシ」と「小さなオハナシ」をくっつけるところにあると思います。タマリンドの樹、真人格などの幻想的要素が魅力を持つ一方、ジュジュの個人的なオハナシが語られる。絵の魅力に関してはいうまでもないでしょう。新たな潮流といえましょうか。
2000年2月16日(水)
コミックメガストア 3月号 | コアマガジン | <漫画・雑誌> | 648円 |
「メガストア」の名の通り、エロゲーのコミカライゼーションが売りの雑誌です。私はエロゲーには徹底的に弱いので(トゥーハートは2時間くらいやりはしましたが)、何だかちんぷんかんぷんという感じです。全体的に消しが薄いので実用的だとは思いますが。で、なぜ買ったかというと、みなすきぽぷりの新作が載っているからなのですね。木々とお話しすることのできる少女を見守る青年。青年はやっぱりそういうのが大好きで、少女の下着を盗んでオナニー。だが少女は木々にそれを聞き、青年をなじる。開き直った青年は…という素ン晴らしいオハナシになってます。確信犯的なロリ絵に加えて、しっかりした作劇能力があるところがいい感じです。あとは影崎由那、Ash横島、ひぢりれいあたりが気になるところでしょうか。
零式 3月号 | リイド社 | <漫画・雑誌> | 362円 |
月刊化第1号。天竺浪人、りえちゃん14歳、きお誠児といった力ある作家を揃え、読みどころ&抜きどころにあふれた内容になっています。下品にならないように、センス良くまとめている一方で、実用性の高い展開を持った作品と作家を揃えているところに好感が持てます。ただ残念なのは目黒三吉『巨乳の町π』がたったの2ページしか載ってないところ。単行本の作業なのでしょうが…。ベストはやっぱり『死神風紀受験生エスパーBHプラ版縦ロールヘリコプターボーリングトビウオとその妹番長鼻行類チョコももえサイズ』でしょうか。
メロディ 3月号 | 白泉社 | <漫画・雑誌> | 362円 |
『陰陽師』も盛り上がっているのですが、やっぱり素晴らしいのは雁須磨子『どいつもこいつも』。風邪をひいたひかないで意地を張る物語の作り方はフツーのドラマとおんなじなのですが、陸上自衛隊を舞台にしているという「くふう」があるのが面白いです。一気に骨抜き度(=くだらなさ)がアップするのですね。知らない世界をのぞき見る楽しみも相俟って楽しめる作品になっていると思います。
Bagles | しのざき嶺 | 三和出版 | <漫画・単行本> | 876円 |
「フラミンゴ」掲載作をまとめたものです。今回はトランジスタグラマー、とでもいうのでしょうか、背が低くぽっちゃりとした女性が登場する作品ばかりになっています。そういう人が好きな方にはタマランものがあると思いますし、そうでない人にもねちっこいエロはかなりグッと来るものがあります。流石はしのざき先生、長いキャリアは伊達じゃないと思います。フラミンゴの読者なら分かることですし、作者もあとがきで書いていますが、随分と辛い精神状況の中で描かれた作品だそうです。それなのにエロはきちんとキメる。作品内容にも一見しただけではそのつらさは現れない。そのプロとしての姿勢は心底尊敬します。
いとこ | 山田タヒチ | ティーアイネット | <漫画・単行本> | 924円 |
「Mujin」で活躍する作家の2冊目です。1冊目の単行本が痛い内容だったので購入。1冊目が続き物だったのに対し、この作品集は短編集になっています。いやあ、エロい。エロいです。とにかくセックスシーンの迫力が凄いのですね。ペニスを挿入するときの描写、エクスタシーに達するときの描写が実に迫力ある描き方で描かれるのですね。見開きを使い、擬音や叫び声を画面内に大胆に取り入れる。この描き方は砂の「下品帳」に近いものがあります…と思ったら、脚本や演出で協力しているそうですね。どういうご関係なのでしょうか?この人の良さはそれだけではありません。セックスに至るオハナシが実に良いのですね。どろどろのセックスに至る過程が実に丁寧に描かれ、破綻なく登場人物が乱れていくのです。頭の中にあるであろうエロも刺激するのですね。絵柄の良さと作劇能力の高さ、どれも全くもって侮れぬ力があります。エロ漫画好きは必読といえるでしょう。
時代が動くとき | 山岡義典 | ぎょうせい | <一般書> | 1600円 |
最近気になって調べているNPOについての本です。新たな市民社会を創造するために、市民が主体となって活動しなければならない、というのは分かりますし、一生懸命それにエネルギーを注ぐ人がいることも分かります。実際そういう人に会ってみると、自分も何かパワーアップしたような気分になったりもします。ですが…ですが。行為に共感はできるのですが、そうした試みも、実は崩壊していく国民国家の枠組みを何とか秩序だった形で軟着陸させようという行為に見えてしまうのですね。「無限のリヴァイアス」などが端的に示しているように、社会的規範の裏付け(それは国民国家というシステムによって保証されていたわけですが)がなくなった今、社会はどんどんアナーキーな方向へと向かっていっていると思います。それに対抗する方法は二つあると思います。ひとつは力で押さえつける方向。もう一つは、アナーキーの中から新たな規範を生みだしていく方向。どうも最近の市民活動やNPOは、前者の役割を担う傾向が強いように思うのですね。日本ガーディアン・エンジェルスもNPO法人ですし。
もちろんNPOがすべてそうした傾向を持っているわけではなく、中には積極的にアナーキーを受け入れようとしている団体もあります。そこに新たな規範、それも押しつけられた規範ではなく、皆が痛みを味わったがゆえに成立するような規範が生まれるのだと思います。NPOに可能性がないわけではありません。ですが、極楽蜻蛉的に、NPOにオプティミスティックになるのもまた危険なのではなかろうかと思います。ただ単に意欲を持った人が集まるだけでは駄目です。痛みを知っている人の主体的な、かつ自由な参加でないと、市民活動は容易に衆愚政治に堕すると思います。
実践カルチュラル・スタディーズ | 暮沢剛巳訳 | 大修館書店 | <一般書> | 2300円 |
Paul Du Gay編の"Doing Cultural Studies"の和訳です。私はこの本を原文で読んだのですが、イマイチよく分からないところがあったので購入しました。ソニーのウォークマンが文化に浸透していくさまをリサーチしたもので、文化的商品がどのような力学で社会に組み込まれていくか、またその背後にどのようなイデオロギー性が潜んでいるかを、広告の図像をイコノロジー的に読解することで明らかにしています。これはイギリスで行われた研究であることに注意する必要があります。かつて後進国だった日本の品物が、圧倒的な力を持ってイギリス社会に組み込まれていったことに、彼らはつよい反応を示しているのですね。ある意味日本は馬鹿にされているのであり、また逆にこのことから日本における相似形を見いだすことができるように思います。
戦争と映画 知覚の兵站学 | ポール・ヴィリリオ | 平凡社ライブラリー | <一般書> | 1300円 |
映画がいかにイデオロギー装置として有効か、ということを書いた本かと思いきや、近代から現代にかけての限りない視力の拡張の結果としての戦争の映像化をとりあげた本だったので、少々吃驚。「見ること」を旨とする近代思想の究極の形態として、湾岸戦争のような「テレビゲームウォーズ」があるのであり、そこで軍事的優位性を示すためには「見えなくなる」必要がある、という主張にははっとさせられます。現在の軍事技術はステルス全盛。なるほどそういうことだったのか、と膝をたたくところです。このことは同時に、巨大な存在感(半ば視覚を伴う)でもって均衡を保っていた核抑止力が、今までのようには機能しなくなることを示しています。「見えなくなる」ことが、本当に軍事的に凄いことなのですから。当然これにはネットワーク上での戦争も含まれるでしょう。敵コンピュータにトロイの木馬を仕掛けたり、などなど。現在における視覚のあり方そのものを考えさせる、実に刺激的な本だと思います。ま、本の内容は、戦争における視覚のあり方の変遷を丁寧にたどったものなのですが。
2000年2月15日(火)
ガロ 3月号 | 青林堂 | <漫画・雑誌> | 780円 |
今回は結構漫画が充実していたところが良かったです。『猟奇王』の新作が読めますし、いみり、三本、みぎわパンもいい調子です。徹底してサブカル要素を前面に押し出そうという意図には変わりがありませんが、漫画が良ければ別に文句はありません。詳しくはクロスレヴュをご覧下さい。
かつて前衛だったものがエスタブリッシュメントになることは、いわば歴史の必然といってもいいことです。ロックなどがもっともよい例として挙げられるでしょう。かつてサブカルだった文化表象が、メインストリームに現れるようになった今、ガロもまたひとつのエスタブリッシュメントになりつつあるといえましょう。青山ブックセンターで平積みになっていましたからね、スタジオ・ボイスの横で。それを良しと見るか悪しと見るかは様々な意見があるでしょうが、私は文化的衝撃力を重視したいと思います。今のガロは長戸ガロの衝撃力には敵わないと思いますが、今月号のような調子でいけば可能性はあるかな、と思います。特集やコラムを全部畳んで漫画のページにすれば、より可能性は高まると思うのですが。
今、そこにいる僕 1 | <アニメ> | − |
大地丙太郎監督作品。一見(「コナン」+「ラピュタ」+「ダンバイン」+α)÷3といった感じの作品なのですが、展開に救いがないところが良いです。そして「十兵衛ちゃん」でも頻出していた地方都市というアイコン。ノスタルジアと異世界をきちんと結びつけ、辛い展開を説得力あるものにしています。「リヴァイアス」なんかもそうですが、最近はこうした「痛い」作品に、現代的なリアリティがあるのではないか、と思っています。まだ1巻を見ただけですが、これは素晴らしい内容です。もう購入大決定。DVDですか??
2000年2月14日(月)
コミティアで購入した同人誌は非常に大量になりますが、それについてはまた後ほど。
To Heartコミックアンソロジー | V.A. | スタジオDNA | <漫画・アンソロジー> | 古書価300円 |
ちゃーんと版権を取ったアンソロもの。エロはありませんが、かかしあさひろ、御形屋はるか、奥谷かひろなどのソッチ系の人脈で固めてあります。お目当ては当然TAGRO。ブルマー座談会…く、くだらなすぎる!
煌羅万象 1 | 克・亜樹 | 講談社 | <漫画・単行本> | 古書価350円 |
「マガジンZ」掲載作品。一見、優柔不断な主人公をめぐる二人の少女のそれとない三角関係を描いたラブコメです。今時胸を触っちゃってドキドキ、なんて展開をやっちゃうところが実にいいじゃないですか。一方で背後にオーラの力、という超常的な要素を配置して、オハナシに深みを付け加えている。さすがに手慣れたものです。ミンメイvs美沙って感じデスカ??
少年甲斐(わずかにとしがい) | 森見明日 | 少年画報社 | <漫画・単行本> | 古書価300円 |
「アワーズ」に掲載された作品を集めたものです。全体的にご都合主義的なオハナシが多いように思いますが、幼なじみの二人を描いた『ほたるのかわ』は非常に秀逸な短編。単なる幼なじみが意識しあうようになるシーケンスがたまんないのですね。他の作品も、細部に「ときめき」や「あこがれ」といった少年の持つ徳目を上手に配していていい感じです。
クロノアイズ 1 | 長谷川裕一 | 講談社 | <漫画・単行本> | 古書価350円 |
私のSFへの目覚めは二つあります。第一はジュブナイルもので読んだウィンダムの「トリフィド」。…ワイヤール星人ともども、今でも植物に対するトラウマになっています。もう一つは藤子不二雄(藤本)の『モジャ公』。普通の少年がSFに巻き込まれ、宇宙に旅立つというモチーフに、以来すっかり魅せられてしまっているのです。子どもの頃のベストアニメ映画は『銀河鉄道999』でした(今でもベスト5には入ります)。『バイファム』も大好きでした。そんな私は当然のように長谷川先生の『マップス』に魅せられまくったのですね。カリヨンの音とともに宇宙に旅出つ少年!限りなく大きくなるオハナシ!
残念ながら最近の長谷川先生は、大風呂敷を広げることが少なく、ちょっと小さくまとまりすぎているようなきらいがありました(『イサミ』は除きますよ)。しかし、この作品は、実に堂々と、風呂敷を広げまくっているのですね。そして導入部分は私の大好きな「巻き込まれパターン」。ちょっとした矛盾は「漫画大明神のオフダ」でねじ伏せる。これを待っていたのですよ!
ところで先日の「TVチャンピオン」で優勝なさっていたのは長谷川先生、ご本人ですか??
あずまんが大王 1 | あずまきよひこ | メディアワークス | <漫画・単行本> | 680円 |
とても面白いです。多くの方が誉めておられるので私は簡単に。毒のないアニメ絵と、きちんとしたキャラクタの正確付けが面白さの秘訣だと思います。なんてったって榊さん。もう私は萌えまくっていますよ?
ヤングアニマル 4号 | 白泉社 | <漫画・雑誌> | 248円 |
読める作品が多くなっているのは実に好ましいところです。田中ユタカ『愛人』は、あいとイクルの「小さな」オハナシに戻り、きわめて強く読者の心を動かす作品になっています。「我が人生一片の悔い無し」と言ったのは誰でしたっけか。その他「ベルセルク」「セスタス」「エアマスター」「キルケーの豚」など、盛り上がってます。
ネムキ 3月号 | 講談社 | <漫画・雑誌> | 543円 |
今月は篠原烏童と今市子が長尺の作品を発表しています。TONOや本山理咲がフャンタジックな作品を出してくる一方、伊藤潤二が『富江』でホラーをやり、ギャグも結構洗練されている。変化に富んでいていいのです。そして作品にセンス・オブ・ワンダーがあるのに加えて、一本一本のボリュームがかなりあるところがまたいいのですね。クロスレヴュ化を真剣に考えています。どなたか書いてくれませんかね。
2000年2月11日(金)
アフタヌーン シーズン増刊2号 | 講談社 | <漫画・雑誌> | 286円 |
本誌の連載陣のリハビリ&四季賞受賞の新人の掲載という編集方針が明らかな雑誌。今回の目玉は竹易てあし『涙のランチョン日記』と、弐瓶勉『NOiSE』でしょうか。特に後者は『BLAME!』と世界観を共有しており、引き込まれるところ大です。こちらで『BLAME!』の種明かしをしようというのでしょうか。四季賞受賞者の作品は『あいのよる』『セブンティーン』『かいじゅう、どすン』の三本(ギャグ除く)。こちらはちょっと(だいぶ?)薄味。やや残念かな、と思います。詳しくはクロスレヴュを参照してください。
エースネクスト3月号 | 角川書店 | <漫画・雑誌> | 619円 |
大地丙太郎/SUEZENの『風まかせ月影蘭』が始まってます。漂泊の美貌の女剣士と、猫鉄拳の使い手のミャオの道中記、って感じの作品。導入部はなかなかいい感じで、大地風の殺陣も見られます。今後に期待できそうな感じ。阿部吉俊『NIEA_7』は、新キャラがじゃんじゃん登場。アニメ化への布石を感じます。ですがこんなドメスティックなオハナシをアニメに?逆に楽しみって感じです。あとは石田敦子さま『あかりミックス』。「こんな形而上学的オコサマなんていねーよ」と思ったあなた。それはそれでいいんです。「そこに目を向ける」ところがいいんです!雑誌としては似た傾向の作品ばかり、という感じは否めませんが、要所要所に異なった「におい」(=作風)の作品を載せることによって、変化を出しています。慎重で注意深い編集には感心するところが多いです。これもクロスレヴュにしても良いかな、と思ってます。誰か書いてくれませんか?
スタジオボイス 特集Addicted to Noise | インファス | <一般・雑誌> | 648円 |
全然読む時間がないです。山塚EYEのところとか読みましたが。ボアのアルバムはこの一年ほど買ってないのですが、ディスコグラフィを見るとたいてい揃えてしまっていることを確認。よかった、よかった。その一方で大友良英やメルツバウ(シュヴィッタース!!)、何より灰野敬二のCDが欲しくなりすぎてます。灰野敬二は甘いものが大好きだという情報をどこからか手に入れたのですが、実にいい話だと思いませんか??