2000年5月18日(木)
未来の恋人たち | 犬上すくね | 大都社 | <漫画・単行本> | 840円 |
収録されている作品は次のようなものです。「アワーズ」に掲載された『三丁目の夏'99』。同人誌で発表された『未来の恋人たち』『My Little World』『夜の煙突』。エヴァのパロ。昔のファンロード掲載作品「ライフレンタルカンパニーシリーズ」。こうした本来だったら単行本にならないだろう作品を本にした、というのは英断だと思います。犬上すくねという作家を大切にしている証といえましょう。内容的には、「もだえ系」中心であった『恋愛ディストーション』とやや異なり、恋愛を媒介とした心の動きを丹念に描いた作品が多くなっています。はじめて男の子に告白された女の子の複雑な気持ち。女の子を好きになってしまった女の子の心の動き。描き方の繊細さには舌を巻くばかりです。次の「〜を読む」のネタにすることに大決定。ちょっと狂信入った内容になる予定。乞うご期待。
正義の味方も楽じゃない | 流星ひかる | 久保書店 | <漫画・単行本> | 900円 |
これも早売りなのですが、こっちは書いてもよいかと。「レモンピープル」末期や「貧乳○○」に掲載されたスーパーバニーのシリーズ、そして「キャプテン」末期に掲載された投稿作品などが載っています。ともに末期、というのが切ないですなあ。ところで内容はひどく素晴らしいです。主人公のみやこは初心者マークのスーパーバニー!今日も街を悪の手から守ります。敵として現れるのは変態一家。中心格のねこみみ少年(オカマ)、兄はロリコンのドラキュラ、姉は貧乳を誰よりも愛する怪人。そんな敵を相手に、みやこは毎回ムかれてしまい、ちいさな胸をはだけられてしまいます…と。あまりのくだらなさとあまりの可愛さにすっかり参ってしまったことですよ。とにかく何かというと画面を埋め尽くす貧乳にグウの音も出ませぬ。ギャグでも強烈な才能を発揮しまくるひかる先生、頭が下がる思いです。願わくばこのスーパーバニーのシリーズが続かんことを。
D-Ange 6月号 | ヒット出版 | <漫画・雑誌> | 333円 |
…とにかく「毎回誰か落とす」雑誌ですこと。ですがやはり粒は揃っていると思います。みなずきゆず、ミルフィーユ、駆狼沙、1ROO、橘セブン。どれもエロくていい感じです。みなすきぽぷり大先生が載っていないのがやや残念ですが、それを補ってあまりあるのがしのざき嶺先生とにしまきとおる先生。しのざき先生の方はカラーCGで新鮮な感じですし、にしまきとおる先生はもう完全に涅槃に達しておられます。クレア!愛してる!
アメリカン・カルチュラル・スタディーズ | N.キャンベル/A.キーン | 醍醐書房 | <一般書> | 2400円 |
カルスタ世界の文脈において、アメリカのカルスタは、常に眉をひそめられる存在でした。曰く、「産業化している」「骨抜きにされている」「理論化され、カルスタの持つアクチュアリティがなくなっている」などなど。アメリカという国は文化なりアカデミックな要素がすべて産業化されているために、そうでない側面を未だ持つ国々の研究者から批判されてきたわけです。ですがこの本は「産業化されきっていること」からオハナシをはじめています。そしてアメリカのポピュラー・カルチャー…映画「フィールド・オブ・ドリームス」、PE、ハリウッド映画の世界輸出…などについて語っています。アメリカ人がアメリカ文化について抱いているイメージが上手く分析され、面白い本になっていると思います。やっぱり底の浅さは否めないようにも思いますが。また抄訳なのでご注意を。
公正としての正義 | J.ロールズ | 木鐸社 | <一般書> | 2500円 |
「正義論」で有名なロールズの、正義についての論文を集めた本です。「正義論」を補完する内容といえましょうか。得てして「正義」とは、アプリオリなものとして、所与のものとして考えられる傾向が強いものですが、ロールズの場合は違います。正義とは「公正な」手続きの結果生まれるものなのです。コミュニケーションの果てに、合意として正義は出来します。確かにこれはすでに30年前から言われてきたことなのですが、「正義」について、「正しさ」「良さ」について、多くの人が確信を持てなくなっている現在、非常に示唆深い視角を提示すると思っています。おそらくは「公共性」というものも、こうした「正義」を通じて現れるのだと思っています。もう一つの方向として、作品として現れたものから、「正義」が現れるのではないかと思っていますが(だから私は漫画を読むのですが)、それを補完するものとしても、この考え方は重要だと思います。
2000年5月17日(水)
メロディ 6月号 | 白泉社 | <漫画・雑誌> | 362円 |
多くの場合人気の下がった作品が追いやられるところである雑誌の後半が盛り上がってます。ハイテンションがやっぱり心地いい『Go!ヒロミGo!』、余韻を持たせた終わり方がじんと来る『男の華園』。もちろん『陰陽師』も面白いです。ですが…やっぱり…最高なのは『どいつもこいつも』。江口二士の昔の彼氏?乙犬二曹の車に対する昔のトラウマ?と思わせておいて、考え得る限り最低の結末を持ってくる。部屋で大きくずっこけたことですよ。で、もちろん、それがいいんです。
フィールヤング 6月号 | 祥伝社 | <漫画・雑誌> | 352円 |
キューティーコミックをチェックしとけばいいや、と思っていたので今まで買わなかったのですが、久しぶりに買ったら随分厚く、そして内容もハイテンションになってますね。いい意味でキューティーコミックと差別化していると思います。次回は雁須磨子先生ですか!狙ってきますね。期待したいと思っています。
オタク・ジャポニカ | エティエンヌ・バラール | 河出書房新社 | <一般書> | 2200円 |
おたく研究で知られるフランス人のジャーナリスト、エティエンヌ・バラールの本を訳したものです。もちろんフランス人特有のエスノセントリズム/オリエンタリスムは感じられるところですが、まあよく調べていること。日本に在住してフィールドワークをしているのですから当然といえますが、かなり良くおたく的感性を描写しているといえましょう。世界に冠たるおたく文化を、冷静になって見直してみるのにも有用な本だといえましょう。
変態さん! | 下川耿史 | 筑摩書房 | <ちくま文庫> | 640円 |
女斗美マニヤ(ヤ、ってのが)の夢は、孤島に「女斗美ランド」を作ること。切腹マニヤ。集めた春歌は7000曲。手作りフンドシ800本。関係した美少年は500人…というふうに、とにかく極端な性に関係するマニヤについて描いた本です。ネタが20年前のため、ビニ本などさすがに古さが隠せないネタもありますが、それでもここに登場する各種のマニヤたちは、徹底的に極端で、徹底的に「濃い」です。性的な抑圧が強かったからこその極端さでしょうか。それとももっと普遍的なものでしょうか。それは調べてみないとわからないことですが、とにかくここからは強い「崇高さ」を感じます。犬でないとダメ、という男は、あたかも菩薩のようではないでしょうか?
唐沢俊一のネタ本(多分、ですが)であろうこの本、「永遠」に挑戦し続ける人間の様が描かれ、実に美しい本になっています。是非ご一読を。
2000年5月13日(土)
沸点千度 | 中田ゆみ | ワニマガジン社 | <漫画・単行本> | 505円 |
初期の南Q太や、まなべゆうなどと同じ文脈の新人作家の初単行本です。そういや女性の視点で、女性らしいやらしさを持ち、独特の絵柄で攻める、この手の文脈の人は最近いませんでした。そんなわけで随分と待望されていた単行本です。「エロトピア」に掲載されていた短編が中心の短編集なのですが、見るところが多いのですよ。独特のでっかい目。柔らかい描線。エロを感じさせるめくれあがった唇…絵柄の魅力が強いのですね。加えてエロは女性からの視点で一貫しており、男性の知らない心の動きを垣間見せてくれます。面白いじゃあないですか!次は「アニマル」などに載った非・エロの作品の単行本を期待したいと思います。
ネガポジ 1 | 入江紀子 | 講談社 | <漫画・単行本> | 390円 |
…本当にいろんなところから出ますね、この人の単行本。ですがそれはこの人の描く漫画が面白いことの証明。「kissカーニバル」に掲載された作品とのことです。顔はそっくりだが、性格が対照的なリコとリタ。そのふたりがひとりのサラリーマンをめぐって…というオハナシです。アタクシにゃこういう形式のサラリーマン経験はないので、なんだか微笑ましくなってしまうことです。1巻なので、まだまだこれから、という感じでしょうか。
耳そぎ饅頭 | 町田康 | マガジンハウス | <一般書> | 1500円 |
「鳩よ!」に連載されたエッセイをまとめたものです。この人の偉いところは、文章の方の印税はかなりのものになるであろうにもかかわらず、ずっと自らの本分を「パンク歌手」におき、CDの印税の悲惨さの方を嘆く、という姿勢を崩さないところにあると思います。延々と繰り返される悲惨なオハナシにはドキドキするところですよ。社会的に認められることに由来する精神の堕落を自ら慎重に避けている。頭いいことですね。安心できるところです。
毒草を食べてみた | 上松黎 | 文芸春秋・文春新書 | <新書> | 690円 |
タイトルがいいじゃあないですか。ですがちょっと看板に偽りがあるのでご注意を。私は本当に毒草を食べてみて、こんな症状が出るからご注意を、という本だと思ったのですが、実際は身近な毒草に関するエッセイ。こんな毒性があって、こういうふうに人が死んだ、といった。この人がここに書いてある毒草を全部食べた訳じゃないのが残念なところです。一部食べたのもありますが。ただ、ちょっとした「毒草に関する教養」を得るには面白い本だと思います。
2000年5月12日(金)
恋愛ディストーション 1 | 犬上すくね | 少年画報社 | <漫画・単行本> | 495円 |
まさしく待望の一冊。夜間高校の教師まほ先生ともと教え子の江戸川、高校時代の同級生の棗と大前田という二組のカップルを軸にした連作をまとめたものです(加えて読みきりの「WORKING ZOMBIE」と「Silent Kitchen」を収録)。ここで描かれるさまざまなラブは、日常に由来するくだらなさやしょうがなさを含みこんでいるがゆえに、こっ恥ずかしいものになっています。イヌとして棗に仕える大前田の健気さ!実はヌケてるまほ先生にメロメロの江戸川!その微笑ましさは強烈なものがあります。そしてそのラブは、日常性と強い関係を持っているために、実に強く我々に訴えてきます。「人を好きになるとはどういうことか」が、さりげなく、または素直な形で、表現されているのですね。ですから一方でその微笑ましさに大笑いしながらも、背後にある強いラブにこころ動かされ、身悶えさせられることになります。ものすごい単行本です。電車で読むのは危険ですよ!加えて「1巻である」というのが素晴らしいではないですか。まだまだこのシリーズは続くのです。参りました!
コミティア後の飲み会にすくね先生はいらしていたとのこと。お会いしたかったですなあ…。
みずいろ 1 | 石まさる | 少年画報社 | <漫画・単行本> | 495円 |
これまた待望の一冊。大石まさるの本格連載の最初の単行本です。舞台は田舎、山。そこにやってくる一人の転校生、川上清美。学校ではいつもつまらなそうにしている彼女だが、川で、町で、子どもたちの前で、学校では見せないような表情を見せる清美。彼女の意外な面に驚く同じクラスの加藤。自然の中に身を置くことで、非常に魅力的な輝きを見せる清美…。
自然と人間とのつながりからオハナシを紡ぎ出していく、というのが大石まさるの基本的作劇姿勢だったわけですが、この連載によってその姿勢は確固たるものになっているように思います。季節は夏。1冊全部夏です。谷をわたる夏の風、ほんものの海、魚のはねる沢。そうした自然と人間の幸せな共存を、清美という魅力的なキャラクタを使って描き出す。胸の大きな、色気たっぷりで、天真爛漫で、自然にしっかりと足を下ろし、そして悲しい背景をもつ清美というキャラを使って。加えてその自然の描き方は決して嫌味ではありません。環境保護を声高に、正面から訴えないところが素晴らしいところです(自然と人間の共生を描くことが間接的に環境保護の観点を提示していますが)。
オハナシの広がり、キャラクタの魅力、それぞれのエピソードの完成度の高さ、静謐な絵と、どれも高ーいレベルにあります。このダブルパンチに、私参りまくっております。
貧乳法典 | V.A. | あまとりあ社 | <漫画・アンソロ> | 900円 |
毎回楽しみにしているロリものアンソロジーです。漫画を描いているのは成田山無頼庵、流星ひかる、栗東てしお、フェニキア雅子、てるき熊などなど。もちろんお目当ては流星ひかる先生です。今回はスーパーバニー誕生編。スーパーバニーにアブないところを救われたみやこ。スーパーバニーになろうとして、せっせと衣装を作ります。そして再び現れる変質者の前に立ちふさがるみやこ。スクール水着にうさぎの耳をつけて…。わ、わかっていらっしゃる。可愛くってお馬鹿で最高です。
おこさま時間割り | 黒崎まいり | オークラ出版 | <漫画・単行本> | 952円 |
筆者の処女単行本。ロリですね。この人のいいところは、まず第一に丸まっちい女の子の描き方にあると思います。もちろん第二次性徴前の少女をメインにしているのですが、ちょっと胸の出てきた女の子なども積極的に取り入れており、それを上手く描いているところが興味深いところです。それは第二のいいところ、オハナシの微妙さにもリンクしてきます。小学生(今は○学生と書くべきでしょうか)の少年少女が抱くような、大人から見るとあいまいな「好き」という気持ちの動きを、上手く描きだしているのですね。確かに初期作品の絵はややぎこちないところが見られますが、良くできてると思います。最近の作品は要チェックですよ?
Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:48 JST