2000年8月中旬

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2000年8月20日(日)

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2000   越後妻有大地の芸術祭実行委員会 <美術・カタログ> 1500円

 なぜ新潟に行ったかといえばこれを見るため。「日曜美術館」でやっていたのが非常に気になったのですね。ランドスケープと美術を組み合わせる、というと、クリストのようにハイパー・モダンにならざるを得ず、「自然を美術で装飾する」という無様な姿になってしまいがちです。しかも新潟、田中真紀子の地盤。従来からの金権構造ががアートという形を取って現れているのでは…とひどく危惧していたわけです。ですが「日曜美術館」で見た作品はそうではないように感じられました。ボルタンスキー(趣味:女装)が農民たちと一緒になってアートしていたのですから。そこで確かめに行った訳です。レンタカーを借りて。まあこれが大変なこと。6市町村、総面積762平方キロ。総展示作品130。それが一カ所に集まっているのではなく、6市町村にほぼ均等に分布しているという…結局300キロくらい走り回ってぐったりしたのですが、内容的にはかなり満足のいくものでした。まず第一に、世界的にも有力なアーティストを集めていること。十日町市の藤幡正樹にコスース、松之山町のアブラモヴィーチ、中里村のボルタンスキー、津南町の蔡國強、川西町のタレル…。世界各国のビエンナーレ、トリエンナーレにはまあ比べるべくもないのですが、そこそこ数も質もそろえているではないですか。第二にそれぞれの作品の質がいいこと。アブラモヴィーチとタレルの作品は宿泊施設として泊まれるようにもなっているのですが、それぞれアートと生活をうまく組み合わせてありますし、蔡國強の作品は風水を思わせる神秘性にあふれています。また数多い日本人アーティストの作品も非常に思念的で、かつ実践的です。ハズしている人もいないわけではないですが、全体的にランドスケープとアートの関係を皆真剣に考えているのですね。第三に驚きにあふれている点。各市町村には作品を集中的に展示しているスペースがあるのですが、それぞれのアートは風景にとけ込み、見つけにくいのですね。それが逆にプラスに作用しているという…。今回は40あるチェックポイントのうち25しか回れませんでしたが、全体的に非常に興味深い内容だったと思います。行こうと思う方は、レンタカーは必須です。一応シャトルバスもありますが。

冬虫夏草 おかざき真里 ラポート <漫画・単行本> 古書価300円

 …で、一方でご当地のブックオフを荒らしてきたわけです。まあこれが大漁大漁。道理のわかっていない古本屋って最高です。もう一つは「田舎でマニアは無理」という切ない思いも感じましたが。この本は「ファンロード」に載ったものを集めたもので、内容的には見事に「バスルーム寓話」のアーキタイプになっていると思います。繊細な絵もさることながら、その内容が。湿度100%の中でもがく感じ、とでもいうのでしょうか、出口の見えない中での闘争が見えて心動かされるところです。これは後でレヴュしてみようかな、と思います。

はるかリフレイン 伊藤伸平 白泉社 <漫画・単行本> 古書価300円

 青春ドラマですね。基本的な青春ドラマとしての構造を持ちながら、タイムスリップというSF要素を導入したり、底意地の悪さが炸裂していたり…と、ヒネリまくられているところがいい感じです。そして最後、次の一歩を踏み出すはるか。泣けこそしませんでしたが、じーんときてしまいました。伊藤の才能のきらめきに嘆息する次第です。

黄昏幻燈館 松下紺野助 ラポート <漫画・単行本> 古書価100円

 むふ、むふふふ。この値段!確かにごちゃごちゃして読みづらい本ではありますが、絵と世界の魅力は高いです。それにしてもファンロード出身作家の最近の活躍ぶりたるや。浜松克樹という人の底力を感じる次第です。誰か調べません?第二の長井勝一のような存在だと思うのですが?

電脳炎 2(Win) 唐沢なをき 小学館 <漫画・単行本> 古書価300円
星に願いを 下 天竺浪人 ワニマガジン社 <漫画・単行本> 古書価300円

 買い損ねていたもので。「憎悪育んでる?」

春を夢見し 佐藤史生 新書館 <漫画・単行本> 古書価100円
死せる王女のための孔雀舞(パヴァーヌ) 佐藤史生 新書館 <漫画・単行本> 古書価100円

 む、むはははは。20年前の本ですが、すでにSFへの深い傾倒と愛が感じられるものとなってます。「グレープフルーツ」掲載作品ですよ!

無防備都市 V.A. ふゅーじょんぷろだくと <漫画・アンソロ> 古書価100円

 コミックボックス別冊。1986年刊。当時の「SFと美少女」を扱った同人誌から、目立った作家を連れてきて一冊の本にしたものです。執筆者は…白井薫範(かおのり)、後藤寿庵、時坂夢戯、後藤啓介&加藤洋之、小林治(!)、末弥純(!!)など。それぞれアマチュアか、ちょうどプロになりかけの頃でしょうか。末弥純がマンガを描いているのですよ!あんまり内容が凄いので(80年代的で)ひっくり返っている次第です。

ショタキング Vol.1 V.A. コアマガジン <漫画・アンソロ> 古書価300円

 コアが出した男性向けショタアンソロです。97年刊。すえひろ、佐野タカシ、あらなが、久我山、高雄、ナヲコなどが執筆しています。97年という早い段階でショタを出していたという先見性には注目したいところです。ああ、ショタはもう終わってしまった。

おまえが世界をこわしたいなら 1,2 藤原薫 ソニー・マガジンズ <漫画・単行本> 古書価各300円

 「きみとぼく」では一番注目していた作品でしたが、揃って売っているところを見たことがなく、手を出しかねていたのですね。これで3巻が買える!

1 2 3 朔田浩美 芳文社 <漫画・単行本> 古書価100円

 朔田浩美はボーイズラブの人だったのですね…。最初はダークな展開ですが、だんだんと互いのことを理解していき、愛が育まれていく(男同士ですが)。そうした前向きな展開になっているところがいい感じです。

南京ぐれ子 芳文社 <漫画・単行本> 古書価100円

 またも「花音」。もう買うしかない、という感じでしょうか。ぐれ子先生初の単行本です。展開的に、掲載誌的にボーイズラブになっていますが、これを見ると随分少女にも愛を感じている模様。芸風の広い人です。今度はホントーのセクシュアリティに基づいた作品を期待したいと思います。

キビしいのである。 山田靫 マガジン・マガジン <漫画・単行本> 古書価100円

 えー!知らなかった。ユギ先生は全部集めたと思っていたのに!見たところ初の単行本のようです。面白いのは「チューズ・ミー」「タッチ・ミー」のシリーズ。基本的に漫画家の黄嶋とちからのカップルを軸にしたオハナシなのですが、ちからの双子のきょうだい(女・同じ顔)が登場したり、ちからを誘惑するゲイの編集などが登場したりと、非常に変化ある展開になっています。まあエロも十分、展開もハートフル、絵も魅力的。高口里純のチーフアシだけのことはありまして、とても初の単行本とは思えない出来です。ええわ…。後はあとがき。ユギ先生の人となりが知れるナイスあとがきになっていると思います。人脈広いのですね。

画面の告白 まんだ林檎 桜桃書房 <漫画・単行本> 古書価300円

 えー!まんだ林檎って男だったんだ!林家志弦ってレズだったんだ!

コンプレックス1 Under18 まんだ林檎 ビブロス <漫画・単行本>  古書価100円

 …とまあそんなわけはないのであって。最近3巻が出た作品ですね。これも揃いで売っているところを見たことがないので、渡りに船という感じでしょうか。注目すべきは最初のほーんとオコサマだった頃の作品。キドマー=サド侯爵が登場しギャグタッチになっているのが素晴らしいです。機動少年ショタルダー!ほかにも「小学6年生の女の子」イズムがひしひしと伝わってくるのがいいのですね。可愛い少年少女は国家の宝です。

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2000年8月16日(水)

ムーミン・コミックス1 黄金のしっぽ トーベ・ヤンソン&ラルフ・ヤンソン 筑摩書房 <漫画・単行本> 1200円

 昔々、従姉妹のお姉さんの家に遊びに行ったときに、とても楽しみだったのがムーミンの漫画。東京オリンピックの頃出版されたもののようで、普段テレビで見ているムーミンとはあまりに違うバタ臭い絵と、どう見ても不自然に貼り込まれているセリフから、子供心にも外国漫画の翻訳だな、ということはわかったものです。なにに惹かれたかというと…その内容があまりに突飛だったこと!スパイごっこのつもりが、いつの間にか本物のスパイと接触し、敵に連れ去られるムーミンとスナフキン。そして原子力潜水艦を使って脱出する…ムーミンに原潜ですよ!そのほか「今君の土地を売れば駅ができて(!)もうかっちゃうじょう」とささやくキャラクタが出てきたりと、とても想像上のムーミンとは異なっていたのです。
 後に大人になって、このムーミンのシリーズがイギリスの新聞に連載されたものであったことを知りました。そして長らく日の目を見ることがなかったのですが、今回めでたく出版されることになったというわけです。全14巻で各1200円。随分高いように見受けられますが、これがまあ面白いこと面白いこと。今回は「黄金のしっぽ」と「ムーミンパパの灯台守」が収録されています。しっぽがハゲてしまったムーミン。医者に見せてもダメ、専門家に見せてもダメ。そこでムーミンママはおばあちゃんが使っていた魔法の薬を調合する。ムーミンのしっぽは見事に復活し、しかも黄金のしっぽになる。とたんに有名になるムーミン。舞い込むファンレターの山、新聞に取り上げられ有頂天になるムーミン、現れる怪しげな「マネージャー」、マネージャーの手によってすっかり名士にふさわしいものに変えられる生活、黄金のしっぽを使って金儲けをたくらむ周りの人々とスニフ…。ある意味驚愕すべき内容ですが、実に面白く現代性を風刺する内容になっているのですね。我々の全く知らなかった、それでいて実に生き生きとしたムーミンたちの姿が描かれている。そこにぐっと心動かされるところです。めちゃくちゃ面白いので皆買え。ちゅうことで。

便所バエ対猟奇王 川崎ゆきお 幻堂出版 <漫画・単行本> 1500円

 進んで猟奇王の本を出し続ける奇特きわまりない出版社、幻堂の新作です。内容はタイトルの通り、便所バエが中心になっている作品4本が掲載されています。最後の「銀星倶楽部(読めます?)」に収録された作品を除き、皆「猟奇王大全」に載っていたものですが、B5サイズで読めるのが嬉しいところです。加えて限定968部、手作りの便所バエまでついています。ななななんともはや。ちなみに8月の末にはこの会社は「何の雑誌」という雑誌を新創刊するとのこと。川崎ゆきお、森元暢之、うらたじゅん、福満しげゆき、保山宗明玉…というメンツ。「ガロ増刊KANSAI」と名乗っても良いのでは?まあいずれにせよ奇特きわまりない行為であることには変わりありません。早速通販の申し込みをしたいと思います。

天国の門 まんだ林檎 芳文社 <漫画・単行本> 562円

 探していた最初の単行本。ボーイズラブというよりホモエロの要素が強い内容になってます。バー「天国の門」に集いくる男たちの恋を描く連作が中心になってます。やっぱり面白いのはギャグを絡めた短編なのだな…と思います。

DOLL 1 三原ミツカズ 祥伝社 <漫画・単行本> 924円

 ある意味「裏・観用少女」ともいえるシリーズの1巻です。心を持たない(とされる)高級可動人形・ドール。それは命令のままに主人に仕え、老いたりはしない。そうした「機械」を描くことによって、ミツカズは逆に人間の有様を描き出します。ミツカズはそうした描写を以前から得意としていたわけですが、硬質な印象を持つドール、という素材を得て、実にその特性が生かされていると思います。

ネムキ 9月号   朝日ソノラマ <漫画・雑誌> 543円

 かまたきみこ「深海蒐集」が載ってます。水没した世界。ミミはほかの誰よりも深く、長く潜ることができるダイバー。そんな彼女は、特権階級の後継者の正統性を証明する書類を手に入れることを依頼される…というスジです。ミステリとしても良くできているのですが、なんと言っても水と共生するミミの描き方が美しいのが素晴らしいです。これも連載してほしいものです。後はやはり「チキタ★GuGu」。ラー・ラム・デラルと百年生きることを選択したチキタ。それに至るシチュエーションが泣かせるのですね。いい漫画です。

コミックバーズ 9月号 ソニーマガジンズ <漫画・雑誌> 467円

 新連載は村上真紀「キミのうなじに乾杯!」。読み切りで南京ぐれ子先生が登場。こうしたボーイズラブ、というか少女の領域の作家を使うのは興味深くもありますが、雑誌全体としてはやや統一感が欠けるかな、という印象でもあります。うまくやれば実に興味深い状況になると思うので、期待して見ていきたいと思っていますが。それにしても何らかの陰謀が進行中なのがここでも明らかになっています。「ビーム」ではうえけんが、須藤真澄が。ほかでは「アクション」で江口寿史が、「マンガエフ」で山本直樹が、「ファミ通」で鈴木みそが、そしてここでは吉田戦車が同じキャラクタを描いています。おそらくは竹熊健太郎あたりの発案かと思いますが…誰か真相を知るものは?いないのですか?

メロディ 9月号   白泉社 <漫画・雑誌> 362円

 「天上の愛 地上の恋」「銀のトゲ」「ひとゆり峠」「さんさんさん」と、ずいぶんと読める内容。特に山口美由紀の「ひとゆり峠」は実にしっかりとした人物描写がなされていて、読み応えがあります。イヤボーンの法則といって笑ってはいけません。そして「どいつもこいつも」ですから…今回はブローニングの12.7ミリ重機関銃が出てきますよ。

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Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:49 JST