2000年11月30日(木)
スピリッツ増刊IKKI | 小学館 | <漫画・雑誌> |
話題の雑誌ですね。後で細かく描くことにします。
いつでもいつまでも | 朔田裕美 | 一水社 | <漫画・単行本> | 562 |
最近は非ボーイズでも活躍している朔田。ですがやはりホームグラウンドのボーイズラブでは強みを見せます。登場するのはぼさぼさ髪の男の子たち。これがみんな可愛いこと。「こんなヤツぁいねえよ」なんて言ってはいけません。ここにある抽象性に着目…いやいや。ともかく可愛い男の子が、男の子同士でホレたハレたを繰り返すところがいいのです。なんかラブラブだったりするところがいいんです。
B-Street 3 | V.A. | ソニー・マガジンズ | <漫画・アンソロ> | 819 |
探偵ものという一貫したコンセプトのこのムック、早くも3冊目です。今回の執筆陣は斎藤岬、亀井高秀、木々、雨宮智子、浅田寅ヲ、スズキユカ、冬目景です。安定した実力の斎藤と亀井、別の雑誌で展開されていたシリーズを移植した木々(単行本が出ていますね)といったところも目立つのですが、やはり注目されるのは雨宮、浅田、スズキの三人。まずは雨宮ですが、いつもの「日常的なアメリカ」と謎解きを上手く組み合わせています。雪の降るアメリカ北部(オレゴンあたり?)の片田舎、という描写からしてまずはいいのですね。そしてアメリカ的な表象〜ドーナツショップ、卒業パーティー、ニューエイジ〜を積極的にオハナシに絡めていく。実は焦点は逆で、謎解きのオハナシよりもアメリカ的表象を描くことを重視しているようにも思います。そこにあるサイモンとガーファンクルが歌ったような「アメリカ」の姿が、何とも甘酸っぱくこころに訴えて来るではないですか。いい作品です。浅田は期待通りの鋭いナイフのような描線。オハナシそのものはちょっと物足りない気もしますが、それ以上に画面構成が雄弁です。そして期待の新人、スズキユカの新作。オッドアイで食い意地の張ったグルメ坊主が、食い物に釣られて少年と彼をやしなう娘さんとのわだかまりを解消するというオハナシです。線が微妙なのですね。確かに味はあるのですが、ちょっと頼りなさがあるというのでしょうか。今回の主人公がオッドアイであるために、その不安定さはいっそう強められています。ですがオハナシがそれに加わると、うまくタガがはまったような印象になるのですね。この坊主を主人公にしたシリーズを期待したいところです。
2000年11月29日(水)
11.1(November first) | 町田ひらく | 一水社 | <漫画・単行本> | 819円 |
町田ひらく久々の単行本。青年誌やエロティクスに活躍の場を広げ、ロリネタの強度や罪深さがやや弱まったように見える面もありましたが、なかなかどうして。単行本として集まってみると、その迫力が分かります。ひとつ気になるのは、全体的な構成がよりいっそう観念的になっているところです。ロリに惹かれる魂を持った大人は、多かれ少なかれ少女の持つ観念性に惹かれているのだ、と私は考えているのですが、「Happy Birth」や、女子中学生バレーボールのエースが監督にヤラれてしまう「Hello 鬼帝」などに、そうしたものを見ることができるように思います。ロリ者は、本当に少女とセックスするときにも、少女の幻影をぬぐい去ることはできないのです(一市先生やみかりん先生や鋭利先生のようなホンモノのペド者は別ですよ)。ヌケやしませんが、そうである分アタマには刺激的です。もう一つ気になるのは、描いている対象が大人にも広がっているところです。たとえば人気の女性童話作家とセックスする編集を描いた「勇者のはつ恋」。奥手の女がついつい欲情してしまうシーケンスなど、実に普通のエロ漫画としても効果的な演出です。ひらくも日和ったか、と思わせる面もありますが、おそらくこれは「観念的少女」が、肉体的少女の枠からこぼれ出てきた結果なのだと思います。ここで描かれる大人の女性たちは、やはり皆内面に少女を抱えているのですから。ともかく、町田ひらくという作家がさらなる広がりを見せ始めたことが、よく分かる単行本だと思います。
かえで | 道満晴明 | ヒット出版社 | <漫画・単行本> | 874円 |
これもまたなんだか久しぶりの単行本です。極端に整理された、星新一のショート・ショートのような描線は健在。絵柄そのものに快楽があると、私は感じています。そしてオハナシの二面性も健在です。一方はトコトン馬鹿みたいな、人を食ったオハナシ。今回は「王様とワタシ」が秀逸きわまりないですね。王様に散髪を頼まれるカリスマ美容師が出てくるのですが、美容師は全然興が乗らない。そこで助手にエロいことをさせる、という展開なのですが、エロシーンがスゴロク仕立てになってます。呆れ果てるようなナイス展開ではないですか!もう一方は「泣かせる」タイプのオハナシです。前の単行本の「はらいそ」ほどではないにしても、「Carol」などはなかなかに読ませる力を持っています。奥深いですなあ…。今回は「日なたの窓に憧れて」が3本しか収録されていないのが残念ですが、いい単行本なのは間違いありません。
としうえの魔女たち1 | むつきつとむ | シュベール出版 | <漫画・単行本> | 952円 |
最近の「零式」最大の目玉。しばたさんも小田中さんも描いていますが、やはり小鳥さんという「一見ロリなんだけど実は凄く年を取っていて味わいのあるセックスが可能」というキャラを発明したところがポイントだと思います。これはまさに画期的な発明といえましょう。奴隷戦士マヤやカリーナ王女に匹敵するかも知れません。今はまだタイトル通りの展開になっているとは言い難い部分があるのですが、きっと今後「魅せて」くれるのだと思います。
快楽天 1月号 | ワニマガジン社 | <漫画・雑誌> | 314円 |
ピロンタン、道満、TAGROの三連発がかなりキクところです。ピロンタンはまあげっぷがでそうなほどお馬鹿なオハナシ。ナースが出てきた瞬間に展開が読める快楽。いいですなあ。道満は快楽天で続けているシュールな作品。今回はなぜかカウボーイ。ほとんど模様のような画面が美しいです。そしてTAGROは「変態生理学」シリーズ。今回はコムギくん(ド変態)と、まだまだ変態度合いが低い松隆とのなれそめのシーケンス。やっぱりギャグが冴えてますなあ。…まあ、このテンションを維持するのは大変なのだと思うのですが。そしてその後に綾瀬さとみと朔を持ってくる…。この編集の妙!
ホットミルク 1月号 | コアマガジン | <漫画・雑誌> | 838円 |
漫画ではみかん(R)とタカハシマコが目立つところです。特にタカハシマコ。こういう絵柄で痛いロリをやる、という芸風がさらに際だっています。ジャンキーズのインタビューは高雄右京。いろんな意見はあるでしょうが、ともかく高雄なりたかしたなり道満なりTAGROなりの存在によって、漫画(特にエロ漫画)は新しいステージに突入したことは間違いないでしょう。あの人が嫌いな人も多いでしょうが、この点は評価されるべきなのだと思います。関係ないですがちんちんのついた五式戦萌え。
激漫 1月号 | ワニマガジン社 | <漫画・雑誌> |
ARCADIA 1月号 | エンターブレイン | <ゲーム・雑誌> |
特集は「アーケードゲーム30年史」。もっとボリュームを増して、資料的価値を高めて欲しかったところですが、まあこんなものでしょうか。今度はムックの形で、72年からのアーケードゲームをすべて網羅した本を出してほしいものだと思います。ところで久々にゲームセンターに行ったのですが、シューティングゲームのある種の「無神経さ」にちょっとがっかりしてしまったところです。未だに240*320のレゾリューションで「よし」としているゲームがあるんですね!おそらく石は68000か68020。20インチのモニターで走査線がはっきり見えているのに、それで良しとしている。もちろんそれがゲーム性に影響するわけではないのですが、徹底的にみすぼらしく見えてしまうのは否めないでしょう。「サイヴァリア」がちゃんとポリゴンを使い、高解像度を達成しているのですから…。
2000年11月26日(日)
女(わたし)には向かない職業2 なんとかなるわよ | いしいひさいち | 東京創元社 | <漫画・単行本> | 600円 |
全国の菱沼さんファンが待望していた(?)藤原ひとみ先生についてのオハナシをまとめた2冊目の単行本です。今回の目玉は藤原先生の高校生時代が描かれていることですね。アルゼンチンのど田舎から帰ってきた帰国子女で、ソフトボール部所属だったとは!まずはそのすっとぼけた経歴にうなっちゃう次第です。このへんのバランス感覚がいいですなあ。ちなみにパンツを穿き忘れてきて、その状態でフェンスを乗り越えようとするひとみさんに限りなく萌えたことを書き添えておきましょう。「菜々子さんでした」。あとはおなじみ、小学校の先生としてのひとみ先生と、ミステリ作家としてのひとみ先生が描かれています。小学校の先生としてのひとみ先生のデタラメさ加減ときたら、さらに拍車がかかっています。昨今教育をめぐってさまざまな論議がなされていますが、その多くが「教育とはかくあるべき」といった根拠のない精神論ばかり。奉仕活動の強制など、あきれ果ててしまうようなものばかりです。そんななかでひとみ先生のいい加減さは光ってくるのですね。教育もしょせんは教師と生徒のエゴのぶつかり合い。そこから出発しようとするひとみ先生は、時代の閉塞感に風穴をあける強いきっかけになると思います。いや半ば以上マジで。ともかく「読まれなければならない」、重度の面白い本なのは間違いありません。
ムーミン・コミックス5 ムーミン谷のクリスマス | トーベ&ラルフ・ヤンソン | 筑摩書房 | <漫画・単行本> | 1200円 |
ますます快調、ムーミン・コミックスの新刊です。今回はちびのミイがムーミン谷にくるきっかけになったオハナシが描かれています。18人兄弟とはなんと多産系な…。ともかく、この作品のいいところは、近代化した先進国が忘れてしまったような懐かしさをもっていること=文明批判になっているところと、人間が介入することが難しい自然のケイオティックな力が描かれているところにあると思います。
外道ハンターX | G.B小野寺 | 雄出版 | <漫画・単行本> | 800円 |
大人気の小野寺、早くも四冊目の単行本です。今回は性犯罪者に正義の鉄槌を食らわす、外道ハンターXがメイン。外道ハンターXは普段はエロ漫画家。ネコみみプレイとか体操着プレイとか制服とかフェチものとか本当は大好きなのだが、他の人間が実際にそれをやってしまうとエロ漫画は規制され、おまんまの食い上げになってしまう。それを未然に防ぐため、外道ハンターは泣く泣く性犯罪者を狩り立てるのだ…というものです。まあなんと分かってらっしゃること。今回は外道ハンターが重大なジレンマに陥っているところが面白いですね。ヤマモトといい、ロリータ番長といい、自らの欲望の赴くままに行動していれば良かったわけですが、ここでの場合は表面的には外道を狩らねばならない。主人公の悩ましさが描かれるのが面白いじゃないですか。…まあ、やってることはいつものアレなのですが。後半は「ファンタジェンヌ」に掲載された、4コマ版の「藤堂源三郎」が載ってます。キミの右脇腹に浪漫はあるか??
マガジンZ 1月号 | 講談社 | <漫画・雑誌> | 457円 |
村枝賢一「仮面ライダーSprits」。熱い、熱すぎです。ここにも一人アツい漢がいたか…という思いです。まあ今までの作品から見れば当たり前ではあるのですが。あとはやっぱり「ヴァルナス」「クロノアイズ」がいい感じです。
コミックガム 1月号 | ワニブックス | <漫画・雑誌> | 590円 |
えーっと、面白いです。まずは切ない展開の「まほろまてぃっく」。ノホホンとしたオハナシながら、常に背後には哀しさが存在していたわけですが、今回それが全面に出ています。次は「月詠」。いきなり「こんなん出ましたけど」とサービスシーンをかましてくれるのがいい感じです。メタまんがですなあ。カップのないブラに超萌え!!それからともち「Call Me…」。ともちの登場に驚くところですが、展開がこれまた超甘口。「ガム創刊以来の激甘ハッピーエンド!」のあおりも説得力を持つラブ加減。やっぱりこの人、こうした甘いオハナシを描かせると天下一品ですな。ああ!虫歯が痛む!…虫歯なぞ一本もないのですがね。そして下乳がまぶしい「一騎当千」。ここまで来ると完全に涅槃です。いや、涅槃を通り越して、「すごいところ」(かわかみじゅんこ)まで来ているといえましょう。極端なまんがばんざい!そしてその後を、「エンブリヲンロード」や「プースー」できちんとしめる。良くできてるじゃあないですか。
2000年11月25日(土)
クレープを二度食えば | とり・みき | 筑摩書房 | <漫画・単行本> |
自薦短編集その2です。とりといえばマッキーでの作画が知られていますが、その一方でそうしたサインペンを使わずに描いてきた一連の作品がありました。顕著な例が「山の音」でしょうか。この短編集はそうしたサインペンを使わない短編を集めたものです。いきなり最初が「銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ」であるところにひっくり返るところです。その頃からのコアなファンであった私はそれだけでもうダメです。サインペンで作画した作品が明確にギャグなのに対し、ペンでの作画作品はリリカルなものと使い分けているのですね。それが1冊にまとまったというのですから…強い破壊力が生じるというわけです。圧巻は表題作「クレープを二度食えば」です。フリギの曲にのせて語られる甘ずっぱい一夏のラブストーリー。「熱狂の季節」だった80年代への尽きせぬノスタルジー。強く薫り立つ、しかし決してイヤミではないSFテイスト。ハインラインの「夏への扉」を思わせます。SFが目的ではなく、SFを手段としているところに共通点があるのですね。もちろんこの作品は一般性というより、時代性に強くからめ取られているわけですが(とりの作品はそこに徳目があるわけですが)、それに真摯に向き合っているところにうたれるところです。永遠の名作とはいえないところを、逆に評価したいと思います。
アフタヌーン 1月号 | 講談社 | <漫画・雑誌> |
なんにも書くことがないです。
キューティーコミック 1月号 | 宝島社 | <漫画・雑誌> |
羽海野、オーツカ、大久保、橋本。確かにフィーヤンの方がコマは揃っているとは思うのですが、こちらはこちらで独特の若々しいグルーヴがあって楽しめると思います。フィーヤン作家が年齢を重ね、かつてのようなパワーと切れ味を失ってきたこともあると思うのですが。春菊、エリカはいうに及びませんが、Q太の凋落ぶりが最近目に余りますから。今回はやはり羽海野チカがダントツの出来。お馬鹿さとリリシズムをうまく同居させる手腕は見事。オーツカと大久保のデタラメさ加減がさらに強化されているのも見逃せません。
プチフラワー 1月号 | 小学館 | <漫画・雑誌> |
「シャルトル公爵シリーズ」が終わってしまい、どうなることかと思っていたのですが、新しく始まった作品はメンタリティ的に同じ位置に属するもの。耽美はいいですなあ…。今回は読み切りが今ひとつの巻があったのでちょっとパワーダウンしたように見えましたが、明石路代が相変わらず見逃せないところは変わりありません。次はどういう展開を見せてくれるのでしょうか?
2000年11月24日(金)
ホビージャパン 1月号 | ホビージャパン | <立体・雑誌> | 780円 |
なんですか、あのMGの日本アニメ風にリファインされたターンA。あなた、ミード御大に申し訳ないと思わないのですか?なにゆえあえてミードのデザインを取り入れたか分かってないのですか?「君は!」とかふざけたことを言っているトミノを擁護するつもりはあまりありませんが、アニメの閉鎖性を超越するために作られたあのターンAのデザインを、アニメの視点で矮小化してしまうのは(アニメの視点でしか解釈できないのは)恐ろしく文化度の低い、情けないことではないのですか?ああ、深刻な想像力の欠如。ミード様に死んでお詫びせい!ていうか切腹!
とまあHJに関係ないオハナシはおいといて。
今回の見物は「アンチMAX塗り」をやってるところですね。前回のあさのまさひこの登場に引き続き、閉鎖的にならないようにしているところは評価できるところです。あとはなんと「ふわふわカタログ」がカラーで載ってるところでしょうか。単行本、カラーで採録してくれますよね?もしそうでない場合は放火しに行きますからそのつもりで。
2000年11月23日(木)
アンモナイトのささやきを聞いた | サイモン・フィッシャー・ターナー | UPLINK | <CD> | 750円 |
サエキけんぞう主演の、いかにもアップリンクらしいイメージ先行の映画「アンモナイトのささやきを聞いた」(山田勇男監督)。確か観た記憶があるのですが、紫のフィルタが常にかかっている映画、という印象しかありません。地方のテレビで放映したのを(しかも悪ーい画質で)観たせいもあるのでしょうが。ですが音楽は妙に印象に残っていたのですね。ザ・ザのギタリストであるところのこの人が作曲した、というせいもありまして。馬鹿みたいな値段でブックオフに並んでいたのでゲットしたのですが、これがまあいいんですね。アンビエントというか、アヴァンギャルドというか、アングラ小劇場的というか。あまりにもそれっぽすぎて笑ってしまうところもありますが、それはそれでまたよいものです。地の底でうごめくような重たい音の流れに惹かれます。
2000年11月22日(水)
パラノイアストリート 1 | 駕籠真太郎 | メディアファクトリー | <漫画・単行本> | 900円 |
待望の単行本。今年は一気にブレイクした駕籠。それはブームという面もあるでしょうが、きちんと実力を伴っているために、何よりきちんと仕事をしているために、ここまで来ることができたのだと思います。オハナシの骨格になっているのが「世界観」なのがポイントですね。どこか飛び抜けた設定の町を作り、それにあわせてストーリーを作り出します。そして世界の設定は絶対的なルールとして登場人物に提示される…。バカバカしいこときわまりないのですが、なんとも知的なあそびではないですか。もの凄くルールがひねくれたテーブルトークRPGのごとくです。特筆すべきは時間の流れはすべて時計が支配するという太夢町。時計の針を逆に回せば、時間は「本当に」戻るのですね。投げたボールとかはどうなるって?それ専門の「黒子」がいるのです。どこからともなく現れてムリヤリ時を逆回りさせる。しかも一般的な物理法則は依然と適用されるので、死んだ者はムリヤリ生き返らせてしまう。悪意に満ちてますなあ。引き出しが少なければすぐにネタ切れになってしまうのですが、さすがは駕籠、蓄積があります。戦後の「大衆文化」(特に映画)、軍国主義時代のファナティックになってしまった「大和魂」などなど。物事を知っていればいるほど楽しめる構造になっているのも見逃せません。さすがに「フラッパー」連載のせいかヤバいネタは少な目になっていますが、読者の知性を刺激するオハナシづくりは際だっています。現代に蘇る極端なドリフターズの「もしもコーナー」。
あかピンク 1 | 入江紀子 | 秋田書店 | <漫画・単行本> | 400円 |
フェミニズム的文脈からすれば、ジェンダー差がもっとも端的に現れる場である赤やピンクという色。ですからこのタイトルは、フェミニストたちに対して実に挑発的であるといえます。しかし入江はそうした議論ぬきで、「私はこの色が好き」と宣言します。その点でちょっと無神経に見える部分もありはするのですが、この作品にはそれを補ってあまりある力強さがあります。ここで描かれる女性たちは、ジェンダーに強く規定された生き方をしています。OLとして、主婦として、彼女たちは与えられた「女」の役割を果たし続けます。恋の対象として描かれる男性もまたジェンダーに規定された存在。その描き方は反動的でさえあります。ですが彼女たちは自分の恋に対して、きわめて主体的に取り組みます。またセックスに対しても自分の快楽を否定したり合理化したりはしません。その背後にあるのは、ジェンダーという枠組みのなかで割り振られた「女」という役割に対する強い肯定、「女」という役割を積極的に果たしていこうという意志なのだと思います。開き直りともとれる積極性。そしてそれは、現在の女性がおかれているリアルな状況を現しています。フェミニストたちのラディカルな言葉も刺激的ですが、こうしたリアルに基づいた「女でいいじゃない」という語りも力強いものだと思います。
メープルハイツ#202 | 木村千歌 | 講談社 | <漫画・単行本> | 古書価350円 |
前の巻ではアパートの薄い壁越しにしか会話していなかった茜と小井土。この巻ではめでたく顔を合わせ、声だけのふれあいからフィジカルなふれあいへと変化していきます。…まあ、これがなんとももどかしいこと。茜も小井土も友達が多く、二人の部屋は両方ともたまり場になっているため、なかなか二人は二人きりになれないのですね。まずはその阿漕ともいえる展開に萌えるではないですか。そしてもうひとつ決定的に萌えるのは、茜が徹底的にオクテであること。小井土は手を変え品を変え茜に迫るのですが、茜はゴリゴリのバージンなもので、そういう色事にとまどってしまうのですね。そして「ドキドキするから」という理由で小井土を一度は拒絶してしまうという…。いや、いいじゃないですか。実にホノボノしていて。何か心が洗われるようです。
しまった。 | とり・みき | 白泉社 | <漫画・単行本> | 古書価100円 |
白泉から出た最初の単行本だったかと。懐かしいですなあ…。ギャグ漫画家としてのとりの出発点がどこにあるかがよく分かる内容になっています。確かに昔懐かしい少年誌的内容なのですが、「限られたスペースに徹底的に状況に依存しないギャグを詰め込む」という方法論は変わってないのですね。あ、そういえば「石神伝説」買ってないや。
The Nightfly | Donald Fagen | WEA | <CD> | 950円 |
「AORなんて死んでも聴くもんか」と思っていたのは高校生の頃でしたかねえ…。ジョー・ジャクソンとかに当たり散らしてましたっけねえ…。「おとなはからだじゅうにてんいしてもうなすすべもないの」(古屋兎丸)「そのうちなんにも見えなくなる。」(松本大洋)。でも考えてみれば、私の人格形成に決定的な影響力を及ぼしているもののひとつであるYMOは、AORの要素が色濃く出ていましたからねえ。「Wild Ambisious」とか。素直になろうっと。
Music from the Twenties | SceneDG | <CD> | 950円 |
20世紀初頭のアウアンガルド音楽を集めたものです。目玉はやっぱりシュヴィッタースの「原ソナタ」。フーゴー・バルが始めた「音声詩」をより長く、まとまった音楽の形にしたものなのですが…これがなかなかサイケデリック。ミニマルを思わせる短いフレーズの繰り返し、ドイツ語の語感とかけ離れた響き、プレイヤーの「芸」が強く反映される内容。しかも20分近いボリューム。かなりキテいるものがあります。
2000年11月21日(火)
ひみつのドミトリー 乙女は祈る | 紺野キタ | ポプラ社 | <漫画・単行本> | 580円 |
…いやあ、本当に奇跡的な単行本です。偕成社刊「ひみつの階段(全2巻)」の続きです。「コミックFantasy」の目玉連載だったのですが、雑誌休刊後は単行本未収録の作品がいくつも積み残した状態になっていました。それがこうして日の目を見るとは。実際の本では消えていますが、発売予定では「1巻」とありましたので、今後の展開にも期待ができます。
オハナシは伝統ある名門、祥華女子学園の寄宿舎(ドミトリー)が舞台。寄宿舎で生活する少女は、そのときしかないきらめくような「少女の一瞬」を生きている。だがそんな少女たちも、人間関係にぶつかったり、将来に悩んだりと、様々な障害にぶつかる。そのとき、そっと寄宿舎は救いの手を伸ばし、ちょっとした奇跡を少女たちに見せる…というものです。美点は二つあります。第一に、寄宿舎が見せる「魔法」が、なんだか説得力のあるものであること。歴史ある寄宿舎は、多くの少女たちの(ここがポイント)笑いや涙や希望、つまりは「想い」をずっしりと蓄えています。その積み重ねが、少女たちを導くために力を発揮するのですね。器物も百年経てば…といいますが、ここでは重みの源泉が「想い」なのがいいのですね。しかも少女の。確かに思いこみなのかもしれませんが、純化された思いが奇跡を起こすというのは、いかにもありそうな話ではないですか。第二には、ここには「少女」がまだ生きていることです。隔離された寄宿舎という空間は、純粋培養のためのシャーレでもあり、また世俗化を阻む結界でもあります。そうした「聖化」された空間の中で、少女は理念的な少女になっていきます。タルホを、バタイユを愛する少女、午後のお茶会…。それは今はもういなくなってしまったような少女の姿かもしれません。ですがだからこそ二重に心動かされるではないですか。ひとつはノスタルジアとして、もう一つは未だ残されている少女の純粋さの例として。処女性やしとやかさがいいというのではありません。周りが見えないからこそ成立するまっすぐな視線がいいのです。こうした純粋さは現代においては胡散くさく見えてしまう面もありますが、まだまだ無効ではないでしょう。心洗われるような作品集といえましょう。
カスミ伝△ | 唐沢なをき | 講談社 | <漫画・単行本> | 533円 |
「マガジンZ」連載作品です。「Z」では永野のりこなどと一緒に浮きまくっているわけですが、単行本になってみると、その実験性が際だってきます。さすがに全体的な実験のテンションは「カスミ伝」「カスミ伝S」に比べれば低くなっていますが、紙メディアとしての漫画の可能性を追求していることには変わりありません。今回もラディカルな試みが連発。ページを切り裂いて読むことが指示してあったりと(ですが実際切り裂いてしまうと面白くなくなってしまう)、やりたい放題。なをき先生は漫画において、マルセル・デュシャンと同じ役割を担っていることは間違いないでしょう。
蟲師 1 | 漆原友紀 | 講談社 | <漫画・単行本> | 533円 |
「モーニングマグナム増刊」に掲載された作品&四季賞受賞作をまとめたものです。まずは線の魅力にぐっと惹かれるところです。宮崎駿を思わせる有機的で柔らかな線。描いているのは自然のなかにある生命のざわめきなのですが、柔らかな線の集合によってそれが実に雄弁に語られています。線で構成されたモノクロのはずの画面が、それぞれ適切な色を持ち、動き出すように見えるのですね。描かれているオハナシもまた魅力的なものです。いうまでもなく自然は混沌に満ちあふれているもの。それは人間に対して対抗的にさえ働きます。なぜなら人間は自然のサイクルを自ら飛び出したのですから。ここでは表面的には、人間と自然…そのもっとも基本的なレベルでうごめく「蟲」との戦いを描いています。「蟲師」ギンコは蟲と人間のコンフリクトを取り除く医者のような存在で、蟲が人間にもたらす様々な悪い症状を「治して」いきます。ですがそうした戦いを通じて分かることは、人間と自然の関係性です。人間もメタレベルから見れば自然の構成要素なのである、ということです。絵柄とオハナシがここでは幸福に結びついているといえます。力強い単行本です。
なるたる 6 | 鬼頭莫宏 | 講談社 | <漫画・単行本> | 533円 |
ペド者大喜び。「ミルククローゼット」などと同様の構造があるのがいい感じです。一見SF的なガジェットをちりばめ、実はいたいけな○学生が弱ったり困ったりいたぶられたりするのを喜ぶという…。今回はネタがいじめなのでよりいっそうその構造は強められるというわけです。えげつないですなあ!なお、今巻で第1部終了となるとのこと。確かに一区切りついたという印象です。ですがまだまだオハナシは続くので、今後にも期待したいと思います。
不過視なものの世界 | 東浩紀 | 朝日新聞社 | <一般・対談集> | 1800円 |
「不可視」ではないのでご注意。「Overvisualized」にこの字を宛てているのですね。見た目はもの凄くオタッキー。パタPi(アキハバラ電脳組)を思わせる外見から、きわめてオタク向けの本であると見えてしまうでしょう。節ごとには富沢ひとしのカットも入りますしね。ところが内容はきわめて硬派。対談相手は斎藤環、山形浩生、村上隆、法月綸太郎、山根信二、阿部和重(収録順)。直接オタク文化に関係してくるのはせいぜい斎藤環と村上隆。彼らにしても話題は固いです。ラカン派の精神分析と現代美術ですから。他の対談者もそれぞれの専門に沿って対話が進んでいます。山形浩生だけはちょっとかみ合わなかったりもしますが。共通しているのは現在の「過剰に視覚化された」世界、シンボルとイメージの対応関係が以前とは異なってしまった現在において、人間の認識や自我がどこへ向かっているのか、という問題意識です。哲学ですねえ。そして東は変化のひとつの例としてオタク文化、特にアニメを取り上げます。最初からイメージとシンボルの関係が任意のものとして設定できるわけですから。そしてオタク文化の現在の文化全体における布置と、そのロジック、評価基準を設定しようとします。示唆深い試みではないですか。いままでオタク文化はきちんと評価されることさえなかったのですから。そこで砂先生が言っていたこととつながりが出てくるわけですね。
私はカルチュラル・スタディーズ側に身をおいているので、少々意見の合わないところもあります。とくにメディアの認識については。メディアの特性に応じてオタク文化もその性質を変え、オタク文化に対抗する勢力もそれぞれ違った形で出てくるはずです。そしてオタク文化対それに対抗する勢力のコンフリクト、ヘゲモニー闘争の結果として、文化の社会的位置づけが決まってくると考えています。その点で見解を異にしているわけですが、オタク文化に見ることができる社会大の変化が起こっており、それを定位しなくてはならないという点に関してはまったく同意見です。オタク文化を語ろうとする人は必読の本でしょう。難しいけど。負けていられませんなあ!!
Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:50 JST