2003年8月10日(日)
透明な鳥 |
夏蜜柑 | ワニマガジン社 |
<漫画・単行本> |
562円 |
「快楽天」でリリカルさ炸裂の作品を描いていた夏蜜柑の、非常に久しぶりの作品集です。驚かされるのは心理描写の細かさ。特に女性の視点が描かれているところに興味を引かれます。つきあっているなかで感じる、ドキっとする瞬間、セックスしたいと感じる瞬間。それが描かれているのですね。なので読んでいる男性もドギマギしてしまうというわけです。そしてもうひとつ、ドラマの軸に「欠損」が据えられているのがいいんですね。最愛の妻を失った男、視力を失った男、事故にあって以来眠り続ける姉…。そうした「欠損を抱えた愛」を巡って、お話が紡がれていきます。それは必然的に「強い」お話になるわけでありまして。全体に見られる女性ならではの繊細さが、これらの徳目をさらに強化しています。強烈な作品集じゃないですか。快楽天もこうしたいい作家を抱えているのですから、きちんと生かさなきゃダメじゃあないですか。男性のみならず女性にも強くお薦めの作品です。
美女で野獣 3 |
イダタツヒコ | 小学館 |
<漫画・単行本> |
533円 |
「女子高生がガチガチのバトルを繰り広げる」作品も3巻目。より一層確信犯的になっていきます。興味深いのは、お話が進むにつれ、人間が普段押し隠している闘争本能が目覚めてくるところですね。女子高生たちは、ガチで、血を流して、凄く痛そうに戦うのですが、非常に楽しそうに戦うのですね。負けても遺恨を残したりしませんし。そして読んでいるこちらも、「痛そうだけど楽しそうだよな」と感じてくるわけです。アドレナリンがバリバリ分泌され、痛みも苦しさも感じず、ただ戦いの高揚感だけを楽しむという…。現在の社会で見えにくくなっている「身体感覚」を呼び覚ます内容になっているといえるでしょう。その一方で、大馬鹿なアメリカ人との対決を描いたりしているところが侮れません。ヤツら馬鹿だから絶妙なグラウンドでの攻防なんかまったく分からないわけですが、作者はそれを逆手にとって、大味だからこそ盛り上がる展開にしています。底意地の悪さ炸裂しまくりじゃないですか。この調子でノリノリでやって欲しいものです。
ころころころもちゃん |
むっく | メディアワークス |
<漫画・単行本> |
680円 |
メディアへの露出が多いので、もうすっかり有名になっているむっくですが、実はこれが初の単行本。「ガオ!」に載った作品をまとめたものです。むっくといえば萌え作家と考えられがちですが、この作品を読んでみると、実はそうではないことが分かります。確かに題材はコスプレです。しかしむっくは「コスプレして可愛い女の子」を重点的に描くのではなく、「コスプレをすることによって生じるドタバタギャグ」を描いているのですね。まあ絵柄的に萌えにはならないわけですが、むっくはそれを十分に理解したうえで、萌えに走っている人をヨコから笑う、いわば「メタ萌えギャグマンガ」を描いているというわけです。「それってモエじゃん!」という台詞があるところが象徴的ですね。分かってはいましたが相当にクレバーな作家であることがはっきり分かる内容になっていると思います。ギャグとしても面白いですしね。
親愛なる大人たちへ |
みかん(R) | ワニマガジン社 |
<漫画・単行本> |
562円 |
コアマガジン系でひりひりするようなロリものを描いている作家の、二作目の単行本です。内容はもう大変。いたいけな幼女があんなことやそんなことをされて…というものになっています。
この作品で考えされられるのは、なによりタイトルですね。実際に子供と接してみると分かりますが、子供は強がっていても非力で、大人の腕力をもってすれば容易に傷つけ、壊すことができます。聡明な子供もいますが、大人の知恵にはかなわず、簡単に騙すことができます。結果として、子供を性的搾取の対象にするのは簡単です。物で釣ったり、愛しているふりをしたり、一番簡単な方法としては腕力で。もちろんだからこそ子供は保護されなければならず、そのためには制度の整備も必要になってくるでしょう(児童ポルノ規制法案など)。しかしだからこそ子供を性的に搾取することは、甘美な魅力を持つようになるわけです。そして子供を性の対象にするのは常に大人です。このタイトルには、そうした大人…作者自身も含めて…に対する、痛烈な皮肉と、自分自身もそうした傾向を持っていることへの自嘲が、鋭く含まれているのではないでしょうか。
そしてこの作品集自体は、みかん(R)という作家が、どのようなセクシュアリティを持っているかという、告白になっていると思います。反社会的であろうと何であろうと、ひとたび持ってしまったセクシュアリティは、なかなか変更が効かないもの。「幼女とやりてー」という気持ちは、理性的に抑えることはできるでしょうが、心の底では常にふつふつとわき上がってくるものです。この作品は、そうした気持ちを紙に写し出したものであるといえましょう。その点で町田ひらくと強い共通点を持っています。女性に支持されそうな部分も含めて。
スケッチブック 1 |
小箱とたん | マッグガーデン |
<漫画・単行本> |
552円 |
この何号かの「ブレイド」に載っている作品が面白かったので。もうすでに4刷りもしているんですね。売れ行きの高さが伺えます。面白さの秘訣はまず第一に「文化部ならではの技術やしきたり」と、「文化部ならではのダルさ加減」が描かれているからでしょう。上下関係が厳しく、激しさを持つ運動部と違い、文化部はのんびりノホホンとしています。それは厳しさや鍛錬の欠如でもあるのですが、それはそれで学校生活の楽しみのひとつでもあるでしょう。もうひとつはキャラ萌えがしっかりしているところですね。主人公各の空は、いつもぬぼーとしてマイペースで不思議ちゃん。それだけでもいいんですが、「写植の台詞がない」という特徴を持っているんですね。「俺フェチ」のチエもそうですが、現在ではそれも登場人物のダウナー加減を示す、重要な萌え要素になっているわけです。結果として読者は、空の不思議加減に萌えるというわけです。他にも魅力的なキャラクターが登場し、それがこの作品の求心力を作っています。きわめて現在的な4コマであるのは間違いないでしょう。…ちょっとこの辺整理して考えてみる必要がありそうですね…。
ガウガウわー太 7 |
梅川和美 | 新潮社 |
<漫画・単行本> |
505円 |
まいはまいでまあいいんですが、私の関心はそこにはありません。イインチョですよ、イインチョ!今回も小田島淳子委員長さまはそのツンケンした態度と、実はきわめて豊かな表情で僕らを萌え殺してくださいます。やっぱりこの何年かの作品の中で、イインチョは最強の部類に入る萌えキャラなのだな、と再認識した次第です。
C!! 6 |
反島津小太郎 | 徳間書店 |
<漫画・単行本> |
657円 |
今回も下品で最低な妄想で満載です。ギャグだから誇張している部分もあるでしょうが、それにしても現実にあることのカリカチュアなのでありまして。腐女子どもがどんなくだらない妄想を抱いているか、よく分かるというものです。以前「妹選手権」をめぐる論争があり、女性たちは「私たちはこんなじゃない!」と訴えていました。確かに違いますよね、オタク知識についてどうこう言ったりするのではなく、実はもっとセクシャルでしょうもない(=あまりに短絡的で下品な)妄想を抱いているわけですから。で、この作品は、女性たちのしょうもない妄想を、誰の目にもとまる場所に提示しているわけです。女性たちはまずこの作品から糾弾すべきだと思うんですけどねぇ。「これはこれでいい」とする姿勢は非常にずるいと思いますがねぇ。
それはさておき。この作品はもう一方では、非常に冷徹なリアリズムに満ちています。ちゃんと男性とつきあったり、あるいはつきあえないことの苦悩が描かれたりしていますし。女性たちが抱いているセクシュアリティも、実は多様で、「男とつきあうなんて絶対嫌!」などとは描かれません。男性どうしのラブを妄想するのもアリ、女性でありながら、いい女とやりたくなっちゃう気持ちもアリ、もちろんいい男とやりたくなっちゃうのもアリ。その幅広さにはいつものことながら驚かされます。男性のセクシュアリティは比較的単純で(まずヤルことが先)、あまり深みと幅がないわけですから。加えて「萌え」という様式によって、自らの本当のセクシュアリティを探求することも、最近では少なくなってしまっているように思います。確かに萌えはセクシュアリティを反映したものですが、現在では形から入っちゃってますからね。眼鏡萌えとか、メイド萌えとか。その意味でこの作品は、女性たちが抱いている欲望の多様さを知るためにも、興味深い内容になっていると思います。しょうもないといえば死ぬほどしょうもないんですけどね。
快楽天 |
ワニマガジン社 |
<漫画・雑誌> |
333円 |
ちょっとリリカル方向に舵を切り直したようですね。やっぱりエロエロ路線じゃダメですって。女子が読めませんから。道満晴明とタカハシマコが描いているのがいいですねぇ。あとは鳴子ハナハルの早い段階での再登場を願いたいところです。…単行本発売記念で夏蜜柑に描かせてやれヨオ!
まんがタイムきらら |
芳文社 |
<漫画・雑誌> |
286円 |
岬下部せすな「悪魔様へるぷ」に最近注目しています。修道院で働く悪魔の娘、ルルーを描いた作品なんですが、ルルーたんは赤ちゃんの頃から修道院で育っているために、純真無垢で素直この上ないんですね。なにせ「善」なわけですから。子どもの良さ、見た目のかわいさとギャップという強い萌え要素があるために、強度の強い作品になっています。あとはしおやてるこ「Pocket」に大注目。早く単行本が出てほしい作家ですね。
2003年8月6日(水)
トリコロ 1 |
海藍 | 芳文社 |
<漫画・単行本> |
819円 |
「まんがタイムきらら」からの初単行本で、作者の処女単行本でもあります。なんたって目につくのはその絵柄。目が異様にタテに大きくって、顔の長さの7割を占めるほど。きわめて様式化されており、まるで模様のような絵柄だといえましょう。それが連続するのですから、まるでウィリアム・モリスのテクスチャーを見ているかのようです。絵の様式性もさることながら、CGによる線とトーンワークも非常にすっきりサッパリとし、まさに現在の「萌え漫画」の王道を行くような見た目になっています。
ですが、内容的には、どこか「萌え」とは違うんですね。確かに4コマとしての構造が「あずまんが大王」に似ていたり(オチがなかったり)、キャラ重視だったりするのですが、主眼は3人の同年代の女の子の関係を描くことにあります。3人が違う境遇で育ちながらも、ひとつ屋根の下で絆を育んでいく、という。萌え漫画家にありがちな、「仲間うちで内輪受けをねらう」という痛い姿勢も見られませんし。「萌え」という手法を使いながら、「萌え」とは異なったアプローチをしている作家といえるのではないかと思います。いまググッてみたら、この人Webページを持っていないんですね。そんなことあり得るんだ!
そのことからも、「萌え」とは違う文脈にいる人なのではないか、と思います。
無敵のダーリン! |
東雲水生 | 竹書房 |
<漫画・単行本> |
457円 |
「プリンセスチュチュ」のコミカライズで実力を発揮した東雲水生。少女向けにも作品を描いており、この単行本が少女向けでは初のものになります。 …とはいえ「少女向けエロ」漫画なんですが。柚流は容姿も成績も平凡な女子高生。しかし彼氏のタクトくんは、成績優秀容姿端麗の生徒会長だった。タクトくんは勉強もスポーツも、そしてセックスも凄いので、柚流は振り回されっぱなし。だけど頑張る柚流の姿にタクトくんはホレ直すのでした、というオハナシです。オハナシを語る視点が柚流から微動だにしないので、きわめて高度な少女漫画になっています。加えてエロもちゃんとしてます。男性向けに描いた経験が生きているのでしょう。さまざまな要素が結構高いレベルで合わさっていますし、何より作者がノッて描いているのがいいのですね。やっぱりこの人実力のある人なんですねぇ。これからの仕事に期待です。
2003年8月4日(月)
まんがライフMOMO 9月号 |
竹書房 |
<漫画・雑誌> |
305円 |
ちょっと行きすぎの感が強い「きらら」に比べて、これまでの四コマの方法論を踏まえた作品が多くなっているので、安心して読めますね。今っぽいという点では、この上なく今っぽいですし。面白いのはしおやてるこ、いずみ、かがみふみをの3人。特に加賀美は、現代によみがえった「ルナ先生」(ルナ先生は学校の先生じゃなくて塾の先生なのだ)をやってくれるんじゃないかと期待しています。それからゲストで山名沢湖が登場。やっぱり少女漫画っすよ、先生! で、実は私がいっとう注目しているのが猫田リコ。ボーイズでも見られるすっごい自分勝手なキャラクタが、ギャグだと映えること映えること。この人はこちらでもブレイクするかな、なんて考えたことですよ。
2003年8月3日(日)
放浪息子 1 |
志村貴子 | エンターブレイン |
<漫画・単行本> |
620円 |
待ちに待ってた志村貴子の新作です。この人の欠点として、オハナシが淡々と進むものですから、雑誌では流れが読みづらいというものがあったと思います。ところが単行本で読むと流れがすっきりすること!巻頭に登場人物紹介があるのも(ついでに「敷居の住人」とのリンクがあるのも)とても親切。で、内容ですが、そもそも「女の子と見分けのつかない男の子」「男の子と見分けのつかない女の子」は、それだけで強力なインパクトを持っていますが、この作品では、そうした子どもたちが抱いている懊悩まで描かれているのですね。そして、次第、次第に子どもたちは「なりたい自分」になっていきますが、「第二次性徴」も訪れていく…。非常に緊張感のある展開になっていると思います。志村貴子という作家が持っている、性の境界を越えていこうという傾向も興味深いですね。そもそも「ビーム」でのデビュー作「ぼくは、おんなのこ」からしてそうでしたから。そして志村作品に共通する、登場人物をいじって楽しむという構造も健在です。「ド変態!」と蹴飛ばされてうるうるしちゃってるシュウ君のエロさたるや!これからも全く目が離せない作品といえましょう。可愛い男の子は世界の宝です。
夏草の譜 |
すずはら篠 | 三和出版 |
<漫画・単行本> |
619円 |
舞台は東北。主人公の詩郎は津軽三味線の弾き手で、美しい容姿を持っているが、親が抱えた借金のせいで女郎屋に売られ、男妾になっている。そんなかれのもとに現れる、まっすぐな視線を持った勇伍。肉欲と執着でがんじがらめになった状況を打開しようと、三味線に賭ける詩郎。詩郎を手放すまいとする人々の策略にはまり、傷つけられていく勇伍…。すずはら篠の新作はなんと長編。絵柄の艶っぽさはさすがです。そしてなにより、津軽三味線というモチーフを通奏低音にして、ひとつの愛の姿をすっきりと描き出しているところが素晴らしいのです。単行本1冊を使って語られるBL作品はキリなくありますが、ここまでドラマ性を強く持った作品はあまり例を見ません。とにかく「ひとつのオハナシ」としてまとまっているのですから。ストーリーテラーとしての実力は、現在のBL界で五本の、いや三本の指に入るのではないでしょうか。こりゃあ本当に面白いですって。
狂ひえもせず |
まんだ林檎 | 竹書房 |
<漫画・単行本> |
562円 |
で、もう一人のストーリーテラーとして挙げられるのがこの人だと思います。この本は「麗人」に掲載された短編を集めたもの。まんだ林檎といえば「鹿鳴敬介」などのギャグ作品が印象的ですが、この作品集に載っているのはきわめて文芸的な作品。例えば男女の双子と画家の関係を描いた表題作。画家は女をモデルに絵を制作するが、病弱だった女は絵の完成後死んでしまう。男は女との絆から、画家に対して抱いてくれるよう懇願する。しかし女が死んだのは、画家の男に対する想いに気づいたからだった。男が愛していたのは女だったのか、画家だったのか。女が愛していたのは男だったのか、画家だったのか。画家が愛していたのは男だったのか、女だったのか。すべてが分からなくなって作品は終わる。ただひとつ分かっているのは、男と画家が激しく体を重ねていること…。たった34ページの短編ながら、密度は非常に濃くなっています。元々この人の作品は、巧みな構成が大きなウリになっていましたが(だからギャグが冴えたのですが)、それが文芸的な方向へ向かうと、もはや敵なしといった案配です。加えて「女を描くことによって男どうしの関係を強調する」方法も健在。凡百のボーイズとは明らかに一線を画しています。こうした文芸的な作品ばかりでは肩がこってしまうでしょうが、これはこれで素晴らしいものです。ギャグ作品を続ける一方で、こちらも続けて欲しいものだと思います。…二人目のお子さんの出産後になるんでしょうが。
ゆびさきミルクティー |
宮野ともちか | 白泉社 |
<漫画・単行本> |
505円 |
「アニマル」で期待できる新人はほとんどいませんでしたが、この人は全く別。絵柄のエロさといいかわいさといい、「キター!」という感じです。加えてネタの特殊なこと!表題作は女装にはまってる男の子のお話ですし、デビュー作は濡れたブラウスにハァハァ、デビュー2作目は生ふとももにハァハァというお話ですから。「萌え」というか、女の子の「よさ」を描く作品は、ある程度飽和してきた感があります。特に漫画では(エロゲー・ギャルゲーのたぐいでは、突飛で珍妙な萌え要素の組み合わせがまだまだ存在するので、まだ飽和しきってはいないと思います)。ところがこの人はフェティッシュな要素を組み込むことによって、ヒロインの魅力や、登場するオトコノコに新たな要素を付け加えているのですね。あり得た方法ではありましたが、盲点に近かったものだと思います。もっと自覚的にフェチを貫いていくと、とんでもないことになりそうな予感。期待大の新人です。
あかてん☆ヒーロー 1 |
南京ぐれ子 | 幻冬社 |
<漫画・単行本> |
540円 |
南京ぐれ子という人は、ガッチャガチャしたギャグ作品で本領を発揮すると思っていたのですが、まさにこの作品がそんな感じ。純真無垢で世間知らず、でもボディはちゃーんと成長している、悪の女幹部まゆらタンに激・萌え〜! この萌えのツボは、おそらくぐれ子先生が元々持つ「波長」によるものでしょうから、すごく直接的に、かつ強力に、読者に伝わってくるのです。連載開始後早々に高い人気を博したというのも、よく分かる話です。このままテンションを保ち、ガッチャガチャした感じを維持し続けて欲しいものです。
ブラザーズ 1 |
山本小鉄子 | 幻冬社 |
<漫画・単行本> |
590円 |
期待の新鋭、2作目の単行本です。主人公くりすはちっちゃくて可愛い男子校の先生。父子家庭だったが、父親が再婚することになる。その相手は純粋なイギリス人。そして義弟になるのが、金髪・碧眼・長身・美形のワタル。4人家族がうまくいきそうになった矢先、父母が事故で死んでしまう。二人きりになるくりすとワタル。しょげるくりすを励ますワタル、くりすのことが気になる先輩、くりすに思いを寄せる生徒たち、そして…。とにかくまあメガネでちっちゃいくりすちん(劇中こう呼ばれる)のショタっぷりがすさまじいんですな。24歳にしてかわいさ爆発。そして本人は自分のかわいさに全く気づいていないというところがさらにモエモエ。そんなもんだからワタルも生徒たちもみーんなくりすちんにマイッテしまう、というオハナシになっています。 いやあ、可愛い少年(年齢的には少年じゃないですが)は、ほんとうにいいものですね…。そしてこの人の場合、絵に華があるのが「強度」を強めています。ワタルが美しいからこそ、隣にいるくりすちんが可愛くなるんです。確かに「歳を食ったショタキャラ」というのは、突飛な萌え少女と近い構造を持っていますが、まあ「歳を食った萌えキャラ」よりはありそうな存在ではないですか。
Hold Me Tight 2 |
篠原烏童 | 朝日ソノラマ |
<漫画・単行本> |
762円 |
砂の惑星エルグを舞台にしたファンタジー作品も2巻目。喋れる髪竜・フィーフィーの存在意義と、エルグ全体をおそう大きな変化が現れ始める、という展開になっています。1巻目にしてそのいじましさ、いじらしさ、かわいさ、母性の強さを振りまきまくったフィーフィーですが、今回もその良さは炸裂しています。フィーフィーはケダモノといえばケダモノなんですが、「母」としての徳目を多く持っているのですね。そしてもうひとつ、すごく「女」なんですね。それが人間じゃない形を取って現れるところが興味深いわけですが、人間じゃないからこそ、そうしたものを描けるのかな、なんとも思ってしまいます。あとは深刻なお話をすすめないで、リー・ジンとフィーフィーのたわいもない話をもっと読みたいよな、なんても思ってしまいますが、緊張感の高い作品になっているのは間違いないでしょう。
スキマスキ |
宇仁田ゆみ | 小学館 |
<漫画・単行本> |
562円 |
スキマから始まる恋物語。一言でいってしまえばそうなんですが、よくもまあこんな特殊げなオハナシを掲載し、単行本にまでしたものです。正直トータルバランスやオハナシの広がり、という点では全作「マニマニ」には及ばない点があります。ですが、こうした「自分で暖めていたネタ」をきちんと1冊の単行本にすることによって、実力は上がっていくのだと思います。次回作に強く期待します。長編ヤッテくださいよ、長編。
空談師 3 |
篠房六郎 | 講談社 |
<漫画・単行本> |
514円 |
ネットゲームを題材にした作品もこれで完結。正直まだネットゲームを題材に、「ストーリーを描く」ことは早かったのかもしれません。確かにアニメでは「.hack」のシリーズが、「ネット空間で人々が交流・交感することが当然の世界」で起こってくるオハナシを描くことに成功しています。ただやはり情報量が限定されてしまう漫画では、描ききれないことの方が多くなってしまいます。必然的に説明不足になってしまうのですね。士郎正宗の作品がまさにそうだったように。まあやる気の薄れてしまった作品を長々と続けるよりは…アフタヌーンでは死ぬほど多く例を見ることができますが…賢明だったとは思います。篠房先生!これにめげずくっだらない作品を描いてください!「家政婦が黙殺」みたいなやつを!
Wolf's Rain 1 |
いーだ俊嗣 | 講談社 |
<漫画・単行本> |
514円 |
アニメの方は先日完結しましたが(26回中5回の総集編を含んでね)、漫画版は始まったばかりです。驚くべきはそのBL性…というか、狼たちの描写の美しさです。この作品のキモはまさに「少年たちの美しさ」にあるのですが、それを正確に理解しているのですね。加えて漫画版では、アニメ版にほとんど全く欠けていた美少女を登場させ、萌え方向にダメになった読者たちにも対応できるようになっています。こりゃあ期待できるちゅうもんじゃあないですか。
結婚の条件 |
高橋悠 | 芳文社 |
<漫画・単行本> |
562円 |
ざっくりとした線と、独特の自信にあふれた表情が目を引く作家さんです。今回は入籍(養子縁組)を目前としながら、波乱に巻き込まれてしまう男同士のカップルの物語になっています。絵に独自性があるのはもちろんですが、強調の使い方が上手なんですね。ちょっとネタが荒唐無稽な所こそありますが、漫画的にはかなりしっかりしています。サイン会の整理券を貰っておけば良かったかな、と、読んでみてちょっと後悔した次第です。
Hのある風景 |
V.A. | 光彩書房 |
<漫画・アンソロジー> |
876円 |
「激しくて変」「知的色情」の後継アンソロジーです。執筆陣は明治カナ子、町田ひらく、早見純、ほりほねさいぞう、砂などなど。「知的色情」が観念的になっていたのを反省し、かなりエロ寄りになっていますね…とはいえ町田ひらくなんかはいつもの通りなんですが。嬉しかったのは砂の新作が載っていたこと。例の涼子シリーズで、いよいよ改造の進んだ涼子は、チンボ(ポじゃないのが下品でエロい)もついてますし、乳房もセックス可能になっています。穴が空いているんですよ! そして男たちにパイオツで射精させると。「ショットマイパイオツ!」いやあ、下品ですなぁ。こういうタイプ(文芸的な?)のアンソロジーは、他に例がないものですから、細々とでもいいから続いてほしいんですが。いや「エロティクス」とか読みたくないもので。
ユリイカ 8月号 |
青土社 |
<雑誌> |
1238円 |
黒田硫黄特集号です。映画公開に合わせて、ということなんでしょうが、それにしてもあの黒田硫黄がユリイカの特集になるとは…。時代もここまで来たか、という感じがします。次は羽海野チカでしょうかねぇ。で、黒田に関するまとまった文章が読めるのは、なかなかの快楽です。漫画家たち(小田ひで次、小田扉、小原慎司、植芝理一)が黒田に関する作品を1〜2ページ描いている、ということもありますし。正直私は「セクシーボイス」以降、黒田という作家には愛憎半ばする思いを抱いています。「おんなのこ」を、宮崎駿的に過剰に価値付けしている「セクシーボイス」は、正直「うえー」となってしまうのですね。黒田の博識さに対する嫉妬もありますし(この点も宮崎駿と共通していますね)。一方で「鋼鉄クラーケン」とか「象の股旅」とか「自転車フランケン」とか、ものすごく好きだったりします。黒田が描く、理性なり常識なり社会の仕組みなりでははかれない、「まつろわぬ者」が好きなんですね。だからこそ社会の中に自らを位置づけようとする「セクシーボイス」が嫌いになるというわけです。映画化ですっかり権威の後ろ盾を得た黒田ですが、これからどうなることやら。ところで内容ですが、興味深いのが連続する砂と伊藤剛の文章です。いずれも実証的に黒田漫画の構造を描き出そうとしているのですが、その文体に際だった差があるのですね。砂は「東大文体」とでも云うのですか、主語を「私たちは」とし、「ではなかったか」「のはずだ」で閉じる形式をとっています。一方伊藤は、意図的に論文調を導入していますが、「○○ページではこう、○○ページではこう」と、基本的には平易に説明する形式をとっています。ここに強いコントラストがあるのですね。砂の文章は正直きわめてわかりにくくなっており、漫画を、しかもポピュラーに知られた(知られる可能性のある)作品を語る際には、ペダンティックでレトリカルな文章は限界があるということを如実に示しているように思います。一方伊藤の文章は単行本とつきあわせてみないと、何を言っているのかよく分からないという欠点を持っていますが、全体的には読みやすく、伝えたいことも理解しやすくなっています。これからの文化を語るうえで、どのような文体が適しているかを、図らずも如実に表しているように思います。…まったく砂さんって人は、簡単なことを難しく語りたがるんですから。
茄子 アンダルシアの夏 |
高坂希太郎監督 |
<映画> |
1000円 |
で。見てきましたよ。渋谷まで行って。47分と短いので1000円とのこと。ネタバレになるので感想は控えますが、1000円なら文句はないデキでしょう。他のチームの選手たちと、チームごとの駆け引きを丹念に描くことで、90分にすることもできたとは思います。…たらればは意味がないですけどね。
地獄甲子園 |
山口雄大監督 |
<映画> |
1800円 |
ハシゴしてこれも見てきました。これもネタバレになるので最小限にしときますが、ちょっとだけ。まず「エビス禁止!」と叫びたいですね。ダメですよ蛭子を出しちゃあ。千葉真一と同じく、他のキャラを全員喰ってしまうんですから。それから画太郎の雰囲気がうまく出ているか、と心配している人もいるかと思いますが、それは問題ないと言っておきましょう。ていうか大混雑なので、見ておかないと後悔しますよ。
Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:52 JST