ギャルゲーにおける少女主義…To Heartに見る少女性

登場人物

松明先生…いわずと知れた少女主義の大家。最近は興味を広く持つように心がけている。
川崎/阿部幸雄…松明先生のゼミの(あるのか?)学生。現実世界から全速力で逃走した結果、松明先生のところにたどりつく。最近は先生に示唆された80年代の2次元愛を勉強しているらしい。ホームグラウンドはギャルゲーといかにも現代的。


幸雄 先生、やってみてくれましたか?「To Heart」。

先生 うむ。わたしの愛機MU-333改・コードネーム「ペルシャ」でやりたおしてくれたわ。

幸雄 何ですかその名前は。

先生 美しきわが自作機の2号機だからに決まっていようが。

幸雄 じゃあ次は「エミ」ですか。

先生 無論だ。

幸雄 しょうがないですね…。ところでどうでしたか。ぼくの言った通り、ギャルゲーはきわめて少女性が高いと思いませんか。そりゃあ登場するキャラクタ全てが高い少女性を持っているとは言えませんが、中にはかなりレベルの高いものもいるんじゃないでしょうか。このゲームではあかりとか、来栖川先輩とか、そして、ああ、マルチとか。

先生 お前の言うことはわからんでもない。(苦笑しながら)では、少しゲームに即して論じてみようか。

幸雄 分かってくれましたか!さすがは先生。


先生 まず、ここで登場するキャラクタで特徴的なのは、みな設定された年齢に比べて非常に幼く見えるということだ。設定は皆女子高生であろう?現実世界のコギァルに比べると幼児も同然だ。きっとこれは、まずは絵で、彼女たちが「少女」であることを示そうとしているのだろうな。

幸雄 はいはい。そうです。そうです!この幼く見える、ってところが非常に重要だと思うのですよ。何で世の女子どもは年齢より老けてみえるようにするんでしょうかね?その点でもふざけた現実に対してのオルタナティブになっていると思うのですよ。

先生 それから、世間ずれしていない、というところも重要だ。現実の女の子はまさに現実に即した行動を取りがちだ。コギァルなどは現実への過剰適応の姿であろう。…まあ、それだけではなく、過剰適応の中にもファンタジイがあるのは興味深い事実だが。ところがこのゲームに登場するキャラクタにはそうした現実への志向は少ない。ここにもある種の純粋性を見ることができる。

幸雄 もう、先生ったら!どうしてそうぼくのツボを突きまくるのですか!確かにリアリティという点では弱いわけですが、汚れきった現実に比べるとこっちのほうがはるかにましですよ。

先生 そして3点目。彼女たちは結局は性の対象になるが、その描き方もきわめてファンタジックなものとなっている。性のもっとも良い、上澄みの部分だけを取り出したような描写だ。本当は性は苦行だったりもするのだがな…ともあれ、ここで描かれる性は、田中ユタカが執拗に描くような、ときめき・ドキドキ感にあふれたものとなっている。

幸雄 そここそこの手のゲームが受けるところなんです。現実では得られないときめき、それを感じられるのがいいんですよ。現実の女ではこうはいかないでしょ?

先生 ふ…(眼鏡を指で持ちあげて)満足したかな?

幸雄 ええ、ええ!僕はうれしいです、先生が分かってくれて!

先生 (ゆっくりと立ち上がり、幸雄の肩に手を置く)ふ…

幸雄 先生…


先生 だからお前はダメだっていうのだ!こうしてくれる、こうしてくれる!!

幸雄 せ、先生!いきなり何ですか!く、苦しい!

先生 答えてみよ!ここでの少女性は、何のための少女性だ!だれのために作られているのだ!

幸雄 (へたりこみ)だ…誰って…少女の…少女自身のためではないんですか?

先生 馬鹿者!!(うなる鉄拳)

幸雄 ぐぎゃげぼぶ。

先生 いいか、この手のゲームを、少女が買うか?買うのは男だ。しかも彼女もいないような美しくない男だ*。もう一つ聞こう。何のために買うのだ?

幸雄 すぴら。ぺれすあにあ。

先生 18禁ゲームの目的は一つ。性的欲求の解消だ。ゆえに、ここに出てくるキャラクタはみな、男どもの劣情をそそるように作られているのだ。全てはそこに帰着する。少女性も何もかも、劣情を強めるためのスパイスにすぎんのだ。

幸雄 のぴ、のぴ、のぴー!(ボアダムズ)

先生 お前は決定的な勘違いをしている。確かに、このゲームの中には少女主義に準拠した事象がたくさん現れている。思い込み、いじましさ、恥らい、そしてなりふり構わない行動。それらは少女の姿として提示され、その「よさ」がゲームの魅力を高めている。だがな、これらは皆「男心をくすぐる」ためにのみ存在している。崇高かつ絶対的な少女性が、美のかけらもない野郎どもの汚い欲望*に従属してしまっているのだ。

幸雄 おこせけのへま。はれはれまかしきのへも。(ボアダムズ)

先生 だからこんなものは偽物の少女主義だ。本物の少女主義にとっては害悪以外の何物でもない。おや?

幸雄 ………

先生 死んだか。まあ、少女主義を間違って理解していたものにふさわしい死に方だ。せいぜい地獄にゆくと良い。(颯爽と去る)

幸雄 ……下級生……ナチュラル……


(高雄右京版のTo Heartってのも結構悪くないんじゃないか?−宿主)


*松明先生の偏見ですので他意はありません(宿主)

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