ビッグマイナーとリトルメジャー

〜カルトな作家たち

 かつて、いしかわじゅんは、高信太郎にこう言われたという。「君がリトルメジャーだとすれば、吾妻ひでおはビッグマイナーだ」と。いしかわじゅんはその呼称を密かに羨んでいたというが、結局吾妻ひでおの至った境地には進まなかった。そして吾妻ひでおは10年もの間描けなくなり、いしかわじゅんはその間も仕事を続ける事ができた。吾妻ひでおは、いしかわじゅん言うところの、「暗く狭い場所…そこは恐らく寒く辛く、その上居心地が良く、そして、充足感と破滅感の両方を得られる場所」にはまり込んだのである。「当初からそこに一直線に」。(「夜の魚」吾妻ひでお・太田出版、あとがきより)

 現実を考えれば、いしかわじゅんのような選択をすることが正解だろう。我々は普通、仕事をして、収入を得て、生きてゆかねばならないのであるから。しかし、「濃い」人たちは、自分に極めて正直であるがゆえに、どうしても吾妻ひでおの生き方に惹かれてしまう。それがオタクの閉塞につながると知ってはいても。ゆえに吾妻ひでおは熱狂的支持を受けるカルト漫画家になった。

 カルト漫画家はどこか普通の漫画家と異なっている。極度の遅筆であるか、特異な性格を持っているか、独自の描線を持っているか、メディアに決して顔を見せないか、徹底したマイナー志向であるか…などなど。こうした「バロック感」が「濃さ」を彼らに付与しているのだ。

 

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