OHPトップ > オスマントップ > 2002年1月の日記より
このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。
日記形式だと、どうしても日にちが過ぎてしまうと大量の過去ログの中に個々の作品が埋もれてしまうため、このコーナーではダイジェスト的にまとめてみました。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則としてしませんので、普段日記を読んでくださっている方にとっては読む意味がないかもしれません。手抜きといえば手抜きなんですが、まあその点はご容赦ください。
なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でもどんどん入れていきます。ピックアップした単行本は「少年・男性向け」「少女・女性向け」「性別不問」「エロ漫画」に分けてますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、わりと省略しがちです。
▼少年・男性向け
【単行本】「ふたつのスピカ」1巻 柳沼行 メディアファクトリー B6 [bk1]
祝・単行本化。ロケットの墜落事故で母を失った少女・アスミが、宇宙飛行士を目指してがんばるというお話。宇宙飛行士モノには「プラネテス」や「度胸星」などあるけれども、この作品はそれらとはまた趣が異なる。とても優しい絵柄からも分かるとおり、お話も優しい。といっても宇宙を夢見る楽しさばかりではなくて、厳しい現実の切なさの中でファンタジーを紡いでいくさまが好ましい。現在この作品はコミックフラッパーで連載中だが、その前段階としてアスミが訓練生となる前、子供だったころの読切で掲載されたお話も掲載されている。この読切のころのほうはより淡い、ファンタジーテイストが濃く、「ふたつのスピカ」で本格連載になってからは宇宙飛行士へのより現実的なステップを踏んでいっている。
絵的には垢抜けないけれどもそこがいい。暖かくて優しくて。何か非常に丁寧に作られているなという感じがする作品。これからもすごく楽しみ。「アスミ」シリーズの読切では今回「2015年の打ち上げ花火」と「アスミ」が掲載されたけど、「カムパネルラの森」「アスミの桜」が未収録。これと合わせて、以前エクストラビージャン2001年8/30号に掲載された「センチメンタル」あたりも収録していただけるととてもうれしい。
【単行本】「ガガガガ」1巻 山下ゆたか 講談社 A5 [bk1]
「ノイローゼ・ダンシング」の山下ゆたかの久々の単行本。装丁がえらくカッコイイ。通常のきれいなコート紙ではなく、ぺらっぺらの新聞紙状の薄っぺらい紙を使っている。手に持ったときの質感が普通の単行本とだいぶ違って、「おっ」とか思う。
で、この物語はヤバい薬とかを仕切っていてほかの地域の連中から恐れられている「キカイ島」から、盗まれた薬を追ってベニマルとレーイチのコンビが、本土に送り込まれるところからスタートする。最初はわりと気楽にその任務を引き受けたベニマルだが、薬の行方を追っかけていくうちにコトが意外と大きいものであることに気づいていく……といった筋立て。一見ただのヤンキー漫画風だが、ちゃんと読むとクオリティがとても高い、しっかりした作品であることがすぐに分かる。硬質な線で細部まで克明に描かれた一つひとつのシーンは実にリアリティがあるし、物語のほうも力が入っている。とても面白いんだけど、残念ながら連載は長期中断期間に入ってしまっている。う〜、続きが気になる。
【単行本】「ハデー・ヘンドリックス物語」 漫☆画太郎 集英社 B6 [bk1]
ギブミーチョコ! ギブミーガム! おくれよおくれよ兵隊さん!! ヘイ!!!
いや〜、まったくすごい。この単行本の表題作「ハデー・ヘンドリックス物語」からは、確かに音が聞こえてくるのだ。ソウルフルなロックシンガー、ハデヘンが、ギターを盗みに入った楽器店で警察に取り囲まれ、最後のライブをぶちかまし伝説となる……というお話なのだが、大胆極まりない表現に度胆を抜かれっぱなし。声が唾がゲロが、紙を突き破ってこっちまで飛んできそうなほどの勢い。そのほかの作品としては、「ゲーハーの時代」「裸一貫」「いやしババア」「Shall we ババア」、それから描き下ろしの「いやしのストリッパー」が収録されているけれども、パワー、開放感、爽快感において「ハデー・ヘンドリックス物語」が群を抜いている。ムチャクチャすぎてカッコよくさえある。素晴らしい。なお、今回の「漫☆画太郎」の☆の中に入っている文字は「F」。
【単行本】「キャラメラ」1巻 武富智 集英社 B6 [bk1]
いや〜、ようやく出ましたなあ。武富智の初単行本。この人は「キャラメラ」以前にも読切の秀作を何本も発表していて、読むたびに、美しい作画、気の利いたドラマ作り、微妙な気持ちをしっかり描ける表現力などに惚れ惚れさせられていたのだった。
で、この作品は初めての長編連載ということになる。不良のたまり場だったゲーセン「キャラメル」でパシリをさせられてていた少年・数井が、その店で働いていたアッ子さんという女性と劇的な出会いを果たすも、少年時代は彼女から出入り禁止令を食らいそのうちキャラメルも閉店になりいったん縁が切れる。その8年後、アッ子さんへの想いを引きずったまま成長した数井は、再びキャラメルに引き寄せられていく……という感じで青春ストーリーは展開していく。改めて読んでみて、やっぱりこの人の絵柄はすごく魅力的だなあと思う。上品だけど伸びやかでキレがあって、表面の質感も美しくて。とくに第一話第二話のインパクトは鮮烈。
その後の展開はちょっともやもやしてる感じがするし、狭い世界でお話を進めすぎにも思える。それでもなおキャラクターは魅力的だし、パラパラとめくっていてもハッと目を吸い寄せられちゃうような印象的なシーンはそこかしこにある。現在のところ、お話としてはまだ弱いと思う。短編やこの作品の序盤で見せたキレは出ていない。だけどやっぱりこの人の作品がコンスタントに読めるってのはすごくうれしいし、期待もしてしまう。あとはまあいつもいっていることなんだけど、短編のほうも単行本にまとめてくれ〜と願ってやまない。
(作者Web:スナマン)
【単行本】「ORANGE」1巻 能田達規 秋田書店 新書判 [bk1]
能田達規による漫画版「サカつく」といった感じの物語。愛媛のみかんジュース会社を母体とする二部リーグ所属の弱小サッカークラブが、天才ストライカー・ムサシを得て、一部昇格を目指して戦っていく。親会社は元オーナーが死去した後、業績も良くなく、女子高生である孫娘が社長をやっている。相当な苦境であり、本当にイチからチームを作っていくような状態。能田達規の長編サッカー漫画は「GET!フジ丸」以来ということになるかな。まだ物語的には序盤も序盤だが、二部リーグから一部リーグへの昇格争いというのはかなりアツくなれるテーマなんでこれからの盛り上がりが大いに期待できそう。個人的にはもう少し、フォーメーションなどのチーム戦術の話が細かく出てきてくれるといいなーとか思っているところ。
【単行本】「金色のガッシュ!!」1〜3巻 雷句誠 小学館 新書判 [bk1]
今さらながら。週刊少年サンデーで連載中の作品。頭はやたらいいけどその能力ゆえに孤立していた少年・清麿と、不思議な力を持つガッシュがコンビを組んで、魔界の王を決める闘いを生き残っていく……というとなんかバリバリの格闘モノのあらすじみたいだけど、どちらかというとファンタジー系といったほうが良さそう。友情と成長という二本柱をお話の中でうまく使っていて、非常に少年漫画らしい健全な作品となっている。しかもギャグもうまいのは特筆モノ。3巻の「無敵のフォルゴレ&キャンチョメ」編なんか爆笑もんだし、かなりノリがいい。それでいてアクションシーンはけっこう迫力があってアツい。笑いあり熱血あり涙ありで、バランスのとれたいい作品だと思う。
【単行本】「金色のガッシュ!!」4巻 雷句誠 小学館 新書判 [bk1]
好調に推移。「努力・友情・勝利」をしっかりと形にできているいい漫画。泣かせるべきところでしっかり泣かせ、笑わせるべきところでもちゃんと笑わせられる。メリハリが利いているのが気持ちいい。
【単行本】「ぴよこにおまかせっ!」1巻 ひな。 メディアワークス B6 [bk1]
誘拐して身代金をもらおうとでじこをつけ狙う、ブラックゲマゲマ団の首領・ピョコラ=アナローグIII世、通称ぴよこが主役の「デ・ジ・キャラット劇場」。作画はコゲどんぼじゃないけど、全然違和感ないな〜。でじこやぴよこやその他もろもろたちが平和にジャレ合ってる様子は、コメディとしてとても楽しい。まったり居心地がいい。
ところで、でじこといえば「萌え」といわれがちだが、これを楽しんでいる気持ちが果たして萌えなんだかどうかはいまいちよくわからん。別に萌えちゃいないような気はするものの面白いとは思うし、でももしかしたらこの気持ちを人は萌えというのかもしれないし。東浩紀は「物語とはまったく無関係に生じた萌え」みたいな感じで語るけれども、個人的に最初はわりとどうでもいいやと思っていて、その後週刊少年チャンピオンのほうで読んでて面白いと感じてこの単行本を購入するに至ったんだから、いちおう小さな物語くらいは摂取していることは確かなんだろう。ちゃんと一つの作品として面白いっす。
【単行本】「SING OUT!」 どざむら 少年画報社 B6 [bk1]
OURs LITEおよびヤングキングアワーズに収録された作品を集めた単行本。収録作品は、迷いながらもラブラブな恋人同士、円谷くんと君原さんシリーズ5話「DIG OUT!」「LOVE TRAP」「WAKE UP!」「MOVE ON!!」「SING OUT!」と、エロチックだったりドタバタだったりする読切5本「放課後のモチーフ」「還る」「薄明かりの尺蛾」「鍵穴の世界」「だらだら星人来たる」。
こうやって見ると、この人はけっこういろいろなもんを描ける人だなという気がする。「放課後のモチーフ」ではヒロインの挑発的な仕種がとてもエロチック。かと思えば、「だらだら星人来たる」は地球を宇宙人の侵略から守ろうと、母娘が頑張って勤勉に働くという明るいドタバタコメディになってる。円谷くんと君原さんシリーズは妙齢のお二人による非常に後味のよろしい青春ラブストーリーだし。そんでもって傾向が違っても、きっちりキャラはできてて読めるお話になってる。女の子が、普通にしててもなんか妙に色っぽいというのは大きな武器。なぜかパッと目をひかれちゃうモノを持った作家さんだと思う。
【単行本】「楽園夢幻綺譚 ガディスランギ」 深谷陽 リイド社 A5 [bk1]
昨年休刊になったリイドコミック爆で連載されていた作品。無事単行本化されてホッとした。リイド社えらい。日本からの旅行者・タローが訪れた「聖なる土地」と呼ばれる「ガディスランギ」の地で繰り広げられる、エキゾチックでミステリアスな伝奇ロマン。深谷陽お得意の東南アジアもの。今回は「神獣」と呼ばれる奇怪な獣たち、そして謎めいた黒ずくめの集団、それから記憶喪失の女性らが登場し、お話はかなりスペクタクルに展開する。本格的な作りをしたしっかりしたアクションものとなっている。終わりのほうは、結局は旅人であるタローと現地の女性の交わりをきれいにしめくくっていて、紀行モノ的な味わいも出ている。
【単行本】「安住の地」1巻 山本直樹 小学館 A5 [bk1]
山本直樹ページのほうに追加。以下はそっちからのコピペ。
延々と砂漠が続く大地を行く、女子高生の制服姿をした少女。彼女が、とある崖にこびりつくように家が立ち並ぶ「西の崖」にたどり着き、そこで「ヒガシ」「ニシ」と名乗る二人の男に拾われるところからお話が始まる。その後、とくに大きな事件が起こるわけではない。少女やヒガシ、ニシたちは、ほかの住民たちと話をし酒を飲みセックスをする日常を送る。その様子を淡々と描いていく。
大きな動きはないと書いたけど、日常生活の合間合間に、かつていろいろなところで男達の慰み者にされてきた少女の来歴が語られたり、お笑い芸人二人組が迷い込んできたり、ニシはいわくありげだったりといった出来事もある。でもそれで何か大勢に影響があるかといえばそうでもない。現実離れしたようなこともごく当たり前のように生活の中に溶け込んでいて、何が本当なんだかウソなんだかよく分からない。その真偽を詮索しようという気もあまり起きない。ストーリー展開はあくまで気怠くのったり。
すごくシンプルかつスタイリッシュな作画はぼんやり眺めているだけで快感だし、官能描写もしっとりいやらしくて蠱惑的。読んでいると何か、すべてはオッケーってな感じのリラックスした気持ちになってくる。まるで上等の酒をゆるゆると飲んでいるかのごとく気持ちがいい。この文章を書いてる時点ではまだ1巻の段階なんで、これからの展開がどうなるかは読めないけれども、読んでいる間中気持ちいいことは間違いない。ゆらーりゆらり。現実と幻が入り混じった不思議な物語。
▼少女・女性向け
【単行本】「死神の惑星」全3巻 明智抄 集英社 B6 [bk1]
スズキトモユさんのレビューを読んで、こりゃ読まなきゃあかんと思って購入した本。それなのに今の今まで読んでいなかったのは、落ち着いてじっくり取りかかれる状況を作ってから読みたかったから。で、読んでみたけど、なるほどこれは面白かった。無法者たちが流れ着く辺境の惑星グラーシスに関わる、貴賤、大小さまざまな人たちの生き様を描いていく。
グラーシスの町の実力者ウォーリィ→生き倒れているところを拾ったヒトリ→彼らの通いつけの食堂で働いている少女リン→食堂のオヤジをしているが実は接触型テレパスで、バイオチップを作るための被検体であったという過去を持つロイ→ロイと同じ境遇で育った非接触型テレパスのアリス……という具合で、各話ごとに主体を変えつつお話は進行。それが巡りめぐってラストで円環を描き、各人の背負っている背景、ドラマが一つところに収斂していく構成にはうならされる。それからSF的なギミックの使い方がすごくうまい。接触型テレパスと非接触型テレパスの間で、読み取れる情報の種類に差をつけることで、特異で切実なドラマを創り出していくあたりなんかは実に見事。そのほかの事象やそれに対するアプローチも、本当に漫画界全体を見渡してもなかなかないってくらい純粋にSFチック。
高度なシミュレートをしてるだけに、集中して読まないとけっこう話が分からなくなったりもする。でも腰を据えて取りかかってみるに値する作品であることは確か。そして集中して読んだだけの見返りが十二分にあることも間違いない。
【単行本】「てるてる×少年」1巻 高尾滋 白泉社 新書判 [bk1]
町の中学校に通う信州の旧家のおぜうさま・御城紫信。親許を離れて遠縁のにーちゃんの許で暮らしていた彼女のもとへ、おつきの少年忍者・奥才蔵がやってくる。この才蔵、いかにも弱っちげなメガネ君なのだが、紫信のことを深く慕っていて彼女のためなら自分の身をも捨てる覚悟。というわけでこの二人を中心に、微笑ましいドラマが展開されていくのでありました……ってな感じのお話。
この作品でまず目につくのは、メガネ君・才蔵が著しくかわいいこと。線が細くて色が白くて内気で。でも眼鏡を外すとけっこう色気もあり。なんか作者は、今回かなり意識的に萌えキャラとして作ってるっぽい。しょっちゅう上半身脱がすし、ケガもさせるし。あとおぜうさまの紫信も、高飛車だけども秘かに優しいところもあるし、けっこう健気。高尾滋の描く少年少女はすごくかわいいんだけれども、今回はその魅力をストレートに出しまくりな感じ。
▼性別不問
【単行本】「ドロヘドロ」1巻 林田球 小学館 B6 [bk1]
IKKI連載作品。まずは表紙がかっこいいな。ウロコ模様に合わせてでこぼこがついてて、手触りからして「おっ」と思わせる。で、内容も個性的。なんで表紙がウロコ模様かというと、主人公・カイマンの顔がトカゲのそれだから。物語の舞台はときどき魔法使いたちが、彼らの「魔法」を練習するため(ていうか住民を実験台にするため)にやってくる街「ホール」。魔法といっても剣と魔法ではなくて、古びたコンクリが周りを取り囲む、頽廃的な雰囲気のある近未来世界といった感じ。んでもってカイマンがトカゲ頭をしているのは、何者かに魔法をかけられたためであるらしく、その副作用からか魔法がまったくきかない身体となっていたのだった。そのカイマンと、相棒の女性ニカイドウが、街にやってくる魔法使いを狩って回るというのが大まかなストーリー。
この作品でまず目につくのが、林田球のシャープだけれども不思議に暖かみのある絵。それから殺伐としたことをやっているのに、妙にのどかな全体の雰囲気。毎回、ハードにバトルしつつも、終わってみればもりもりとギョーザを中心とした食事をするシーンが差し挟まれてほっとする。軽妙なノリも面白いし、絵柄といい話といい非常に個性的。IKKI掲載時はほかにも注目作品が目白押しなんで、多少目立たない感じもするんだけど、まとめて読むと改めてとても面白いな、と思う。
【単行本】「新家族計画」2巻 卯月妙子 太田出版 A5 [bk1:1巻/2巻]
すごく読みごたえがある。卯月妙子は何気にどんどん漫画うまくなっているような気がする。ホテトル嬢のトキコ、その息子のタクジ。本当の夫はどっか行っちゃってほぼ母子家庭な状態のこの二人に、面倒見のいいAV監督であるオヤジが父親的に関わってくる。その3人を中心に展開するホームドラマなのだけれど、キャラクターの追い込みぶりがすごく身に迫ってくる。
父親の愛に餓えていてなおかつ母親トキコの振る舞いに辟易させられているタクジ、そしてその反応がトキコに跳ね返ってきてよけい息子のことを面倒くさい存在に思って扱いがずさんになり……という具合に、悪循環が続く。中心となる3人のバランスがとれて平和な話もあるだけに、そのバランスが崩れたときのエピソードが身にこたえる。そういうヤバい状態の中で、家族愛(というと陳腐かも知れないけれども)みたいなものもより浮き彫りになってくる。途中の展開は非常にキッツいんだけど、引きずり込まれるようにして一気に読んでしまう。すごく面白い。
【単行本】「双子のオヤジ」 しりあがり寿 青林工藝舎 B6縦長 [bk1]
誰もいない世界のどこかで、たった二人で暮らすはげちゃびんで全裸な双子のオヤジたちの物語。この二人は本当にヒマなもんだから、日がな一日お互いが思いついた下らないことをして暮らしている。例えば「自分」というものがどこにあるのかを二人で検証し合ってみたり、四角い枠をじっと見つめそれをテレビに見立てて仮想の番組を楽しんでみたり。ほかに誰もいない場所なので、当然のことながら誰に迷惑をかけることもないし、何か大きなことを起こせるわけでもない。でも二人のやっていることは、ときにすごくシュールだったり哲学的だったり。ほかに何もないという状況であるだけに、夾雑物を排したピュアな環境での検証になってる。でも別に深刻ぶることは全然なくて、あくまで肩の力が抜けているのがいい。
オヤジ二人も愛敬があって、読んでいるうちにいとおしくなってくる。巻末のしりあがり寿の言葉もいい。「多数決すらできないので(二人だもんな)、いつまでたっても何も決められることがなく、全てがあいまいに漂っています」。さりげなくって不思議で、なおかつけっこう深かったりする作品。
【単行本】「ねこぢるyうどん」3巻 ねこぢるy 青林堂 A5 [bk1:1〜2巻/3巻]
これにて完結。最終話の後半は単行本での描き下ろしとなっている。登場するキャラを描く描線はくっきりとしつつ、全体にはずーっと夢の中のようにぼんやり。オールカラーCGで描かれた怪しい世界を舞台に、コロぺた号の殺戮をめぐるエピソードはスペクタクルに展開する。今回の作品の場合は、夢みたいな風景を描くというのもあると思うけど、基本的にはけっこうストレートにエンターテインメントしてたんじゃないかと思う。コロぺた号が、なんの意味もなく人間をばっさばさ無慈悲に殺していく様子は、大根を包丁ですぱすぱ切っていくのを見ているかのような気持ち良さがあった。とてもきれいに収まったなあという印象。
【単行本】「心の悲しみ」 西岡兄妹 青林工藝舎 A5 [bk1]
すごく特徴のある珍しい絵だけど、ちゃんと読み込むとかなり面白い。生きているようで死んでいるようなキャラたちが織り成す物語を読んでいると、埋めがたい欠落、孤独感が身にしみてしんしんと寂しい気持ちになってくる。銅版画的な独特の画風は、誰に媚びるでもなくぽつんと紙の上に存在している。それぞれが一枚絵として完成してて、これが漫画になっているのがなんとなく不思議な感じもする。
収録作品は「心が壊れた」「ぼくの子供たちに」「心の悲しみ」「結婚式」「空を飛ぶ」「蛇女」「死神」「わたしの幽霊」「目のある生き物」「釣り師の悩み」「悲しい恋の話し」「人生いろいろ」。この中では、身体中に目の紋様のある不思議な生き物と男の暮らしを描いた「目のある生き物」がとくに好き。最後のページをめくった瞬間の喪失感はたまらないものがある。パッと見た瞬間、なんかアートっぽくてとっつきにくい感じを受ける人は多いんじゃないかという気はするけれども、そこで踏み留まってあえて読んでみるだけの価値はある一冊だと思う。
▼エロ漫画
【単行本】「雛迷宮」 摩訶不思議 ヒット出版社 A5 [eS]
最近の摩訶不思議はエロい! 今回のお話は、小学生の妹・ひな子に欲情してしまってどうしようもない状態になっている高校生のお兄ちゃんが主役。夜な夜な妹の部屋に忍び込んでは、眠っている妹の口や手にちんちんを押しつけたりして悶々とした日々を送っていたお兄ちゃんだが、ある日、実は起きていたひな子に「してもいいよ」といわれ、おしりで関係を持つことに。しかしそんな彼の前に、同じ「ひなこ」という名前を持つ同級生女子が告白してきて……という具合。この娘とはその後、普通に前のほうを使って貪り合う仲になるわけだが、お兄ちゃんは自分の想いが「妹のひなだったからではなく、ただやりたいだけだったのでは」という疑念に悩む。
まあそんなわけでなかなか背徳的だったりするわけだけど、繰り返しいうけどエロい。基本的に女の子はサブキャラ一人を覗いて胸ちっちゃめ。だけど柔らかそうな身体のラインとか、貪欲に快感を求めている様子がググッとくる。あとちんちんのフォルムがこれまた。全6話、みっちりエロエロに展開。あ、ちなみに小学生、高校生の両ひなことも髪の毛はショートカットであります。
【単行本】「SASEMAN」 渡辺ヒデユキ 東京三世社 A5 [Amzn]
初版は1997年2月28日で現在は絶版。いちおうAmazon.co.jpへのリンクは張っておいたけど、新刊で入手するのは難しいと思われる(参考リンク:eS!BOOKSの著作一覧)。
「SASEMAN」は今もコットンコミックでまったり連載中のシリーズ。女子高生の佐世満美々が、宇宙からやってきた「スーパー男(すーぱーおとこ)」(パーマンのバードマンをヘンなふうにした感じ)によって、SEXすることで相手の邪念を取り払う美少女戦士・サセマンに任命される。美々ちゃんはいやがってるんだけど、なんとなく敵が出てきては、なんとなく事件は解決されていく。絵柄的には新しくもなんともない。別に抜けるってわけでもない。でもこれがいい。ノリがとにかくナンセンス。C調という言葉が似つかわしい。やっていることも十年一日のごとく、ナンセンスなギャグがほんわかと続いている。この激しくなさ、角の丸さ、無益さが素晴らしい。読んでいるとなぜだかすごく癒されてしまう。これは渡辺ヒデユキ作品全般にいえることなんだけど。激しく人が入れ替わり続けるエロ漫画業界の中で、こういういつまでも芸風の変わらない人を見るとなんだかすごくホッとする。すでにかなりの数にのぼっている未収録分が単行本されることは、たぶんないんだろうなあ。おかげでコットンコミックが処分しにくくて困る。