OHPトップ > オスマントップ > 2002年4月の日記より
このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。
日記形式だと、どうしても日にちが過ぎてしまうと大量の過去ログの中に個々の作品が埋もれてしまうため、このコーナーではダイジェスト的にまとめてみました。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則としてしませんので、普段日記を読んでくださっている方にとっては読む意味がないかもしれません。手抜きといえば手抜きなんですが、まあその点はご容赦ください。
なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でもどんどん入れていきます。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、わりと省略しがちです。
【単行本】「マフィアとルアー」 TAGRO スタジオDNA A5 [bk1][Amzn]
すごい。素晴らしい。正直こういった作品群の前には言葉がおっつかなくて困る。言葉で表現できないからこそ漫画で読むんだけど、それにしても打ちのめされるなあ、こういう本には。
正直いってどの1本を取り上げても書きにくいくらい素晴らしいのだ。炊飯器を抱えて一人暮らしの男の家に上がり込んでくる女の子……という不思議ちゃん的な娘をまず登場させ、じょじょに彼女がそういうことをするのかということを解き明かしていく「トリコの娘」のミステリアスな展開にはうならされるし、一つひとつのセリフの鋭さ、こまごまとしたアイテムの醸し出すムードも絶妙。さらにデザイン会社を辞めようとする男の、心の甘えを描き出してしまう「R.P.E」のズドンとした痛みを伴う作劇にもノックアウトされる。単行本「MAXI」にも収録された、自殺願望のある女を愛してしまい、彼女と暮らしながら心に傷を負い続ける男の物語「LIVEWELL」の透き通った表現には何度読んでも泣かされそうになってしまう。そして彼女にフラれた男が傷心のまま旅に出て、釣りをしながら今までのことを振り返っていく「マフィアとルアー」の物悲しくかつ前向きでもあり、開放感のある読後感を味わうと、もう言葉を失ってしまう。
「6年1組」「イキガミ様」「トラベリングムード」といった、ノスタルジックな雰囲気のあるお話が差し挟まれて緊張感を和らげてくれる構成も絶妙。カチッとしたタッチのポップな絵柄なんだけど、その中には何かこう胸をキューッと締めつけられるような寂寥感が潜んでいる。こういう本は滅多にない。漫画好きなら絶対に買っておくべし。そう思う。
(収録作品)「トリコの娘」「6年1組」「イキガミ様」「R.P.E」「トラベリングムード」「Anothe Time Life Time」「DRUG STORE」「LIVEWELL」「マフィアとルアー」
【単行本】「宇宙賃貸サルガッ荘」1巻 TAGRO エニックス A5 [bk1][Amzn]
こちらは打って変わってポップなデザインが目を惹くキュートな作品。宇宙のどこかにある魔の空間、サルガッソーに迷い込んでしまった男・テルが、脱出極めて困難なサルガッソーの発生原因でもあるらしい魔女・メウさんに拾われる。メウさんはサルガッソーに迷い込んでしまった人に、せめて気持ち良く暮らしてもらおうとこじんまりとしたアパート「サルガッ荘」を営んでいる。そこでの日常をコミカルに描いていくという物語。この巻ではお話はまだ序ノ口といったところで、テルは状況にとまどいっぱなし。でもだんだんサルガッ荘になじんできつつもある。完全になじんでまったりとした生活が営まれるようになってきてからのほうが、より持ち味が出てきそうな作品という感じがする。それにしてもメウさんは可愛いな。あとその他の住人の女性陣もそれぞれ魅力的でええ感じ。
【単行本】「サユリ1号」1巻 村上かつら 小学館 B6 [bk1][Amzn]
主人公は大学3年生、イベント系でっちあげサークルの部長をやっている上田直哉。彼には昔っからずっと空想の中で、細かな設定も施して繰り返し使っていたズリネタの少女「サユリちゃん」がいたのだが、彼女にそっくりな女の子・大橋ユキさんがサークルの新歓コンパに、ある日突然登場する。容姿は理想。しかし実は恋愛や性体験についてははるかに上手、性格も相当悪い大橋さんに、甘ちゃんな直哉は翻弄されていく。そして直哉の幼なじみであるちこちゃんこと児玉知子がそれを心配して見つめているという構図。
と書くと一見普通の恋愛ドラマだし、まあそうといえばそうなんだけど、読んでいてこんなに居心地の悪い作品も珍しい。大橋ユキさんは完全に直哉のことをからかってるし、一見サバサバして自然体っぽく振る舞っているちこちゃんの虚飾もズバズバ見抜いてしまう。よくあるラブコメだったら、二人ともいい奴っぽいしそれなりに報われそうなのに、この作品は全然甘えを許さない。パサパサした絵柄もその傾向に拍車をかけていて、痛い所をざくざくと抉るかのよう。しかもその手つきがとても細やかだったりするからすごい。こんなに癒されない、苦みを伴う恋愛漫画は珍しい。今後どうなっていくのかすごい楽しみでもあり怖くもある。
【単行本】「シュガー」1〜2巻 新井英樹 講談社 B6 [bk1][Amzn:1巻/2巻]
面白い! 一見へらへらしてていい加減極まりなく見える少年・リン16歳が、板前修行をするといって単身北海道から東京へ飛び出していこうとする。しかし、餓鬼のころからの親分格である愛すべき乱暴者「火の玉欣二」と再会したリンは、彼の家で一緒に暮らしているニューハーフのレイラによりボクシングの才能を見出され、そこからボクサーへの道を目指す方向へ急遽転換する……といった序盤のストーリーを同時発売の1〜2巻で一気に読ます。
このお話ではとにかくリンの動きが素晴らしい。流れるような足使い。相手のパンチをかいくぐって攻撃し瞬時に離脱するさいのスピード感。リンは恐ろしいほどに動き回る。その動きの激しいこと滑らかなこと。もちろん漫画だから1コマ1コマは止まってるんだけど、これだけ「動いている」ことの快感を味わわせてくれる表現ってのもそうはない。とにかく見てて気持ちがいい。あと各登場人物もすごく魅力的。アクが強いけれども、その分インパクトは強烈。「こういうキャラはこういう風に動き、こういう風にしゃべるのだ」ということがなんかものすごく納得できる。やっぱり新井英樹の漫画は激しくてカッコイイです。
【単行本】「高校アフロ田中」1巻 のりつけ雅春 小学館 B6 [bk1][Amzn]
ある日、同じクラスに転校してきたアフロな高校生田中。というのはわりとどうでも良くて、要するに田中とか、彼が転校してきた朝に出会った岡本、それからやる気のないボクシング部の面々と、総勢5人がつるんでうだうだと頭の悪い高校生活を送るという作品。ビッグコミックスピリッツ連載作品だけど、テイストはむしろヤンマガ系。ぐだーっとした空気、レベルの低い行いの数々。高校男子的なぬるま湯うだうだムードが下らなくて楽しいのだ。暑苦しい絵柄、読みやすい構成など、この人についてはけっこう買っている。のびしろがどの程度あるかはよく分からないけど。
【単行本】「気分はもう戦争2.1」 作:矢作俊彦+画:藤原カムイ 角川書店 B5 [bk1][Amzn]
なんだか藤原カムイがこの作品を描いてるというのは不思議な感じがする。「気分はもう戦争」といえば、いわずとしれた大友克洋の代表作の一つ。藤原カムイといえば、漫画史的には大友克洋ショックの後、「ニューウェーブ」と呼ばれて台頭してきた世代の人になるわけだよね、当時のことはよく知らないけど。その人が「気分はもう戦争」を描くとは、似つかわしいといえばこれほど似つかわしい人もいないのかもしれないけれども、なんだか時代が一回転したような感覚はある。お話としては2001年の世界が舞台で、アメリカなどとの戦争体制に突入していく日本の様子がじょじょに描かれていくという感じ。物語内の状況がまだ混沌としているし、主人公的な人物が誰かも見えてきてないので分かりにくいといえば分かりにくい。でもやっぱり注目していきたい作品であることは確か。
(参考リンク)大友克洋版「気分はもう戦争」[bk1][Amzn]
【単行本】「それいけ!ぼくらの団長ちゃん」1巻 小野寺浩二 少年画報社 B6 [bk1][Amzn]
応援団長をやってる兄貴が入院したことで、その妹さんが代役団長をやることに。ちんまりとした和み系の容姿の女の子が、身体をいっぱいに使って応援に血道をあげる一生懸命な様子は、何はともあれ応援してくなろうってもの。ぶかぶかのガクラン、そしてサラシ。ルックス的には萌え系ではあろうかと思うけど、萌えだけで語るにはカラッと明るすぎる。非常に健康的なドタバタ漫画であります。
【単行本】「カネヒラデスカ?」 金平守人 エンターブレイン B6 [bk1][Amzn]
コミックビームのラスト8ページのお楽しみ。毎回毎回、画風を変え、ネタを変え、すごくいろいろやってる。一歩間違うと器用貧乏になっちゃうタイプだし、もしかしたらすでになっているのかもしれないけれど、ハマったときのキレ味はけっこうなもの。絵もうまいし。ギャグにどこか照れくさそうなところがあるので、そこらへんで一皮むけてくれるといいんだけど。
【単行本】「カリクラ」上巻 華倫変 太田出版 A5 [bk1][Amzn]
ゐゑーゐ、復刻! 上巻下巻と出るようだが、この上巻には「究極タイガーボンバーナイツ」が、近日発売予定の下巻には「フルカワとウサギ」が初収録される。講談社版については、兄・本田健が植民地内の華倫変ページ内で詳しく書いているが、非常に面白い本だ。とくに女子高生と偽ってデートクラブで働く23歳・女性と、客で彼女にヘンなクスリを試そうとする医学生のつながりを描く「ピンクの液体」は、今読み返しても鮮やかな描写に感心する。華倫変の描くキャラは、だいたい社会的には変わり者で偏屈なんだけれども、でも鬱ってわけでもなく非常にナチュラルに人生を諦めている感じがする。ちょっと顔を赤らめ人と目を合わさず、斜め下に視線を逸らす、そんな人ばっかりだ。申し訳なさそうな様子を常態にして存在している。いずれの話も、現実とウソとの境界がひどく曖昧でゆらゆらしているのがいい。とても不確定な感じだ。別にここに出てくるような人たちがいなくったって、世界は何にも変わらずあり続けるだろう。無用なんだけど、無用なところに馬鹿馬鹿しかったり可笑しかったり気持ち良かったりするドラマを描いていく呼吸は独特。やっぱいいわー。
【単行本】「焼きたて!!ジャぱん」1巻 橋口たかし 小学館 新書判 [bk1][Amzn]
たいへん少年漫画らしい勢いに満ちたパン漫画。日本人にとってのごはんをしのぐような、国名が冠されるようなパンを作りたいと志す少年が、自らの考案した「ジャぱん」によって有名なパン屋さんでメキメキと力を発揮していくみいたいな感じのお話。どの回も演出が過剰なくらいで突っ走ってるのが魅力。馬にパンを食わせたら「馬味ー(ウマー)」といなないてみたり。ただし、バカなことやっても橋口たかしの絵柄がスタイリッシュなもんだから、単なるバカ漫画にならずエンターテインメントの枠内にちゃんと収まってる。素直に楽しい漫画です。それにしてもパンとはなあ。グルメ漫画の中では意外と珍しいジャンルかも。
【単行本】「魔女レーナ マジョりーな」1巻 石田敦子 角川書店 A5 [bk1][Amzn]
中学2年生の男の子・時計坂空太は、ずっと前に見た夢の中に出てきた女の子にそっくりな同級生・二ツ木魔子のことが気になって仕方がない。ところが彼はある日知ってしまう。魔子が本当は魔女だということを……。魔子の中には幸福な結末を志向する白魔女と、その反対である黒魔女が共存しているのだが、あえて黒のほうを選ぼうとする魔子のことを空太は心配し続ける。
最初は普通に魔女っ子もののラブコメディになるのかと思ったがやはり石田敦子らしく、白と黒の間で揺れる少女の心と、彼女に白のほうを選んでほしいと思う反面「彼女のすべてを見ないで都合のいいところばかり見ようとしている」と指摘されて悩む空太の姿をしっかり描き出している。魔女の力で問題解決〜みたいな単純なパターンの繰り返しに終わらず、自分探しの道程を掘り下げていく作風はとても真摯。甘い絵柄とは対照的に読み心地はハード。今後のさらなる掘り下げにも期待してます。
【単行本】「どんまい!」1巻 作:矢島正雄+画:若狭たけし 集英社 B6 [bk1][Amzn]
新米ホームヘルパーの里見優が、いろいろと失敗しつつも、持ち前の明るさ、一生懸命さでもって自分なりの介護の道を見つけていくという物語。人の生き様がストレートに出る分野だけに、その物語は読みごたえがある。時にホロッと泣かされるようないいお話もあり、なかなかの出来。若狭たけしの作画もいい。本格派のドラマに耐え得るだけの芯の強さを持っていて、正統派の魅力を感じさせてくれる。原作者、作画者ともにいい仕事してるな〜と思える作品。
【単行本】「學ビノ國」1巻 秋重学 小学館 B6 [bk1][Amzn]
かつて天才的バスケットボール選手だったが、ケガをしたことで目標を失い、ぶらぶらと過ごしていた主人公・水樹が一念発起、トレーナーの資格を得るべく大検に挑む……という青春物語。秋重学らしく、非常に青臭くかつ爽やかなお話。秋重学は、長編の場合は原作付きのほうがいい仕事をするタイプの人だと思うが、果たして今回はどうなるか。まあ原作なしでも見せ場のカットとかには目覚ましいものがあるし、面白く読めはするんだけれども。何はともあれ単行本が出てくれて安心した。「ニナライカ」がなかなか単行本化されなかったこともあり、小学館で秋重学の場合はいちおう用心してキリヌキ保存するようにしていたので。
【単行本】「STONe」1巻 ヒロモト森一 講談社 B6 [bk1][Amzn]
巨大な海獣が人類やその他もろもろを喰らい尽し、砂の海が地表を覆うようになった荒れ果てた地球を舞台に、砂の海を見通すことのできる不思議な能力を持った少女・ジジが暴れまくる。舞台的には大掛かりだが、パワフルな描写に身を任せていればするする読める。ダイナミックでスリリング。ときには砂海に単身乗り出し、巨大な海獣に銛を突き立てるジジは、しなやかで強くてたいへんカッコイイ。でも女の子っぽい柔らかな体のラインとかはけっこうキュートだったりして魅力的。エンターテインメントとして素直に面白いと思う。
【単行本】「キャラメラ」2〜3巻 武富智 集英社 B6 [bk1][Amzn:1/2/3巻]
全3巻で完結。少年時代を過ごしたゲーセンとそこで働いていた店員・アッ子さんへの想いを一途に抱えたままの青年・数井くんの青春物語。武富智の初週刊連載ということですごく期待して読んでいたのだが、残念、いまいち盛り上がりきらないままパタパタと終わってしまった印象あり。でも単行本で読み返してみるとテンポはいいし、けっこう気持ち良く読めた。惜しいな〜と思ったのは、「キャラメラというゲーセンが特別であった理由」がいまいち不明瞭に感じられる点。根っこにある部分のはずなんだけど、ここの描き込みに重みが不足していた感はある。まあ初連載はこのような形で終わったけど、これまで発表してきた読切はいずれも傑作揃いだったし絵は文句なくうまいし、実力はある人なんで、初の週刊連載経験が次のステップへいい形でつながってってくれればいいなあと思う。
【単行本】「まひるの海」 比古地朔弥 小学館 A5 [Amzn]
コミックIKKIで連載された作品で、比古地朔弥ひさびさの単行本。お話は、高校2年生の歩が夏休みを利用して海辺のマリンショップで住み込みのバイトを始めるところから幕を開ける。彼はそのマリンショップでバイトを続けるうちに、その近所に住んでいる一人の娘、まひるに惹かれていく。彼女は非常に美しいが奔放でなんともとらえづらい性格の持ち主で、近隣の男たちに誰彼かまわず股を開く女であるとの風評もあった。しかしそんなことを耳にしつつも抑えきれない恋心、そして結局は自由に生きる彼女の心を捕まえきれなかった苦みなどを描いていく。
この性に奔放な少女という題材は、比古地朔弥が同人誌「けだもののように」で描いてきたヨリ子に酷似している。同人誌のほうはすでに物語時間もロングスパンな長寿作品になっているが、こちらは季節を夏のワンシーズンに絞ってその間の気持ちの揺れを描き上げていくことで、適度な長さできれいにまとまったお話を構成している。あとこの作品でいい味を出しているのは、欲求不満で歩にもあの手この手で迫ってくるデブ女の五十嵐さん。美人だけど貞操にはまったく執着がなくふらふらと男と身体を重ねていくまひる、ブスではあるけれどやりたくてやりたくてたまらなくてあけすけに男に迫るけれども拒絶される五十嵐さん。このコントラストがあるからこそ、まひるの妖しい美しさが光る。あ、でも五十嵐さんも強烈なキャラしててけっこう好きなんだけど。
ともあれしなやかなまひるの美しさ、夏の官能的な想い出と後悔などなどが、鮮やかに描かれていて非常に優れた作品である。オススメ。
【単行本】「まんがアベノ橋魔法☆商店街 〜アベノの街に祈りを込めて〜」 鶴田謙二 講談社 B5 [bk1][Amzn]
出口竜正版もアレはアレでおめでたくって面白かったけど、こちらもまたいいねえ。鶴田謙二の絵が素晴らしいのはもう何をかいわんやという感じで、さらにちゃんとB5の大判サイズで出してくれたのがうれしい。巻末の山賀+あかほり+鶴田対談でも触れられている金科玉条、「メカとオッパイ」についてはとりあえずこの巻で「オッパイ」をある程度達成。鶴田謙二の描くおっぱいはホント美しいわー。もちろんお尻もなんだけどさー。気品も色気も十分あって、ええもん見せてもらいました眼福眼福、という感じ。あと、あるみが恥ずかしがって顔を赤らめる表情とかもすごくいい。ストーリーについては1話完結形式ではないので雑誌掲載時はちょいと分かりにくかったけど、こうやってまとまってみると全体が見えてきて楽しめる。まだまだ続きもあるので、このままサクサク描き続けていってくださいませ。
【単行本】「ガンダルヴァ」1巻 正木秀尚 講談社 B6 [bk1][Amzn]
いや〜面白い。お見事。主人公は、匂いに非常に敏感な鼻と、匂いを心ゆくまで楽しむメンタリティの持ち主である男・香田尋。匂いというのは漫画では描きにくいものだけど、この作品ではその難物を実にうまいこと料理している。描かれる香りは普通に「いい匂い」とかではなく、体臭とかだったりするんだけど、それをとても官能的に描き出している。ラム酒と入り混じった女を惹きつける甘い匂い、普通に嗅ぐと臭いけれどもほかの匂いと入り混じると人間を思わず発情させてしまうような濃密な香りなどなど。空間の中でたなびく匂いの帯が、香水などとはまた違った、どちらかというとアルコールに近いかな、頭をくらくらさせるような空間を演出している。匂いを題材に、イカした大人の男女のドラマになっているところがどうにも気が利いている。大したもんです。
【単行本】「てんでフリーズ!」1巻 ISUTOSHI 講談社 B6 [bk1][Amzn]
一見チビでスケベなマヌケな少年、でも実は超能力者と接するとその力を増幅してしまうという特殊な能力の持ち主である主人公・梅八。それから他人の未来が覗けちゃう能力の持ち主の、非常に色っぽいおねーさん・九曜小雪が出会うところからお話がスタートして、梅八の能力を試したりしつつ日常が過ぎていく。キッカリした線による作画は非常に達者だし、安定感のある読み口。とはいえ、事件らしい事件は1巻終わった段階でもほとんど起こっておらず、なんだかすごくまったり展開中であるというのも否めないところ。本誌連載のほうではテコ入れで新キャラの女の子を出してきたが、今後、物語において何が目的になっていくんだろう。まああんまり考えなくても楽しく読めはするけれども。
▼女性系
【単行本】「ハッピーエンド」 ジョージ朝倉 講談社 A5 [bk1][Amzn]
ああ、これは面白い。どこで連載されてたのかなと思ったら、300ページ近い描き下ろし単行本だった。一見シャンとしたカッコイイ感じだけれど、実はけっこう友達に依存する体質の持ち主ショーコの生き様を、10年ちょいのスパンにわたって描き出すという物語。これが読んでるとすごく気持ちいい。別に派手にブレイクするとか、逆に零落するとかではなく、ある一定の煮え切らないレベルをずっと行ったり来たりしてるんだけど、後ろ向きじゃなくて若干前向き。それもガツガツした前向きさではなく、自然体であるのがいいと思う。ショーコと、彼女の学生時代からのトモダチである女性・アキラとの関係が、一組のユニットとしてすごく完成度が高い。でもベタベタしすぎないのはとてもいい。世間的に見るとものすごく特別ってわけではなく、個人レベルで見ると特別だけれどもドラマチックじゃない。恋愛でもなくライバルでもない普通に親密な人間関係、たぶん腐れ縁ともいうのだろうけれども、そういうものを爽快に描けている作品。ボリュームも十分で読後の満足感は高いし、いい本だと思います。
【単行本】「ひみつの階段」1巻 紺野キタ ポプラ社 A5 [bk1][Amzn]
以前は偕成社から出ていたけど、今度はポプラ社から。「ひみつの階段」シリーズ7本が収録されているが、うち2本は初収録。こりゃあもう買うしかないでしょ。舞台はお嬢さま学校。そして寄宿舎! その一室で繰り広げられる楽しいお茶会、旧校舎の幽霊、受け継がれていく言い伝え。少女たちが過ごした季節を、澄みきったガラスの瓶に封じ込めたような作風は、何かファンタジー空間のものであるかのごとく清らかで美しい。現実にはこんな夢見るような空間はないのかもしれないけれど、でもやっぱ夢は見たいです。
【単行本】「山下和美短編集」 山下和美 講談社 B6 [bk1][Amzn]
近年の山下和美の短編はいずれも素晴らしい。上品でキレが良くて、実に鮮やかだ。そのような短編を集めたこの単行本が面白くないわけがない。どの作品もいいんだけど、とくに素晴らしいのが「ROCKS」。リストラされたバーコードオヤジが、年を食った今も活動を続けているかつてのバンド仲間のライブに乱入し、ベースを握って咆哮するという物語。と聞くとしみったれたお父さんにもけっこうカッコイイところがあった……という月並みなお話のようだし、まあ実際そうといえないこともないんだけど、そんなことどうでもよくなってしまうくらいこの作品はカッコイイ。カタルシスがある。クライマックスのシーンは何度読んでも鳥肌が立つし、作品として非常に美しい。あと憧れの名女優が引退して、人を避けて暮らしている屋敷の庭園に忍び込んだ青年が、その娘と出会い恋に落ちる「プライベート・ガーデン」もすごく幻想的で美しくていい。技巧うんぬんいうよりも、もう身に染みついた芸という感じさえする。面白いなあ。
(収録作品)「ガラクタ成人宙を駈ける」「ROCKS」「ブルー・スパイス」「プライベート・ガーデン」「昨日の君は別の君 明日の私は別の私」
▼エロ系
【単行本】「町田ホテル」 町田ひらく 太田出版 A5 [Amzn]
2000年末に発行された「11.1」以来、ひっさびさの単行本。今回はエクストラビージャン、漫画アクション、エロティクス&F、クイックジャパンと、いろいろなところに掲載された短編を収録した作品集となっている。それにしても今回の表紙はまたキュートでPOPだなあ。
どの短編も町田ひらくらしく、どの作品にも皮肉でクールな仕掛けが施してあり、少女嗜好という甘いファンタジーに対して苦い現実をつきつけてくる。その甘さと苦さの対比、落差でもって、少女という果実をより印象的に浮かび上がらせている。今回の収録作品の中では、珍しく熟女のお話である「めすいぬのむすめ」に引かれる。長年自作の挿絵を担当してくれていた挿絵作家と肉体関係を持ってしまい、しかもそれが実は処女喪失であった女性童話作家が主人公。二人とも、昔読んだ童話で今も泣けるという共通点があり、年は成人ではあるものの精神的には少年少女なままである人間の物語にしているのが興味深い。こういうのをサラリと強調しすぎるでなく描けるってのはやっぱりかっこいいことだなあと思う。それぞれのキャラクターをつっぱなして、ある程度距離を置いて見つめている感じが独特。
【単行本】「K.A.A.R. [夏の巻]」 すえひろがり コアマガジン B5 [Amzn]
同級生の女子・小野寺さんと親しくなり、彼女に恥ずかしいカッコをさせられたりしながら、Hなことを探求していく小学生男子・鷹野くん。この二人の物語を中心としながら、裸になったりHなことをしたりするのに興味津々な小学生たちのドキドキにあふれた日々を描いていく。もともとは同人誌作品だが、「春の巻」(→Amzn)に続いて単行本化される運びとなった。で、まとめて読んでみたけどやっぱりすごくうまい。この人は「他人の視線」というアイテムを意識させるのがすごくうまくて、ものすごい激しい描写ではないにも関わらず、扇情的なエロシーンを描くことに長けている。しかも子供的な初々しさもきちんと残しながら、ドキドキ、熱に浮かされたような季節を描き出していく。すっきりスタイリッシュな絵柄もすごく好きだ。とてもHなことをしつつも、ちゃんと恋心も描いていくし。終盤の主人公少年が女の子4人に囲まれて、それぞれ20秒ずつちんちんを愛撫していくというロシアンルーレットゲームなんかたまらないもんがある。ハッキリいってうらやましい。
【単行本】「菜々子さん的な日常」2巻 瓦敬助 コアマガジン A5 [Amzn]
これにて完結。最後まで面白かった。どこにでもありそうな田舎の高校の平凡な男子高校生・瓦くんと、その同級生で天真爛漫な元気者・菜々子さんを中心に、学園生活のさまざまなシーンを描いていくという物語。無防備ではからずもHな姿を見せてしまう、でも本人は気にしているふうもない菜々子さんのキュートでイキイキした姿はこの作品の華。これは惚れます。でもそれだけでなく、今はもう過ぎ去ってしまった楽しい高校生活を楽しく、ちょっとノスタルジックに描いていく呼吸も素晴らしい。実際に過ごしている間は退屈にしか思えないけど、後から考えるとキラキラまばゆい学園生活ってものを、なんとも魅力的な作品に仕立て上げている。連載期間も入学から卒業までの3年間できちんとシンクロしているのも美しくて良い。いつまでも続けられなくもない作品だとは思うけど、ここであえて終わらせたことで非常に綺麗にまとまった。いやーいい作品でした。満足満足。
【単行本】「♭37℃」 月野定規 コアマガジン A5 [Amzn]
もうベットベトォ……。というくらい激しく男汁ぶっかかりまくり。最近のこの人の作品はエロ度がすごく高いなあ。最初はむしろエロは軽めでお話で読ませるタイプの人かと思っていたのだが、お話は面白いままエロの密度もぐんぐん上がってきて非常にいい塩梅。とはいえ、今回の単行本はエロ一本槍という感じではあるけれども。内容的には気の強そうな委員長タイプの女の子・鍵堂さんが、同級生の変態BOYの手によってM奴隷として開発されちゃって、どんどんその変態SEXへの依存度を高めていくというお話だYO! まあ内容的にはベタっちゃベタなんだけど、絵柄の明るさのおかげもあってポップさは失われていない。んでもって鍵堂さんと変態BOYの間に恋愛関係・主従関係にニアリー、でもちょっと違うかも〜なほの甘苦しいホットラインも形成されててその様子を見るのもラブコメ好きにとってはけっこううれしいところ。この二人の間にデカちんの子供の小学生、そしてその姉にして鍵堂さんの友達でもある日菜子も加わりS&M×2という状況になって、非常に賑やかなエロの饗宴が繰り広げられるといった具合。エロく楽しく賑やかに、というわけでヌケるうえに楽しく読めもする作品でありました。かなりあけすけでエロエロに仕上がっているので、月野定規の上品バージョンな作風を期待して読むとキビシーかもしれませんな。
【単行本】「Body Language」 けろりん 大都社 A5 [bk1][Amzn]
現在はアワーズライトで袋とじカラー4PのHな漫画を描いているけろりんの初単行本。この人の非常に華やかで甘やかで、濃密な桃色空気とでもいうようなものが充満している漫画はいつ見てもいいなあと思う。この単行本については、できればオールカラーでやってほしかったが、新人の初単行本だけにそこまではさすがに難しいかな。図柄とか色使いとか似てるなあと思ったけど、やっぱり柴田昌弘のアシスタントとかやってた人なんですな(参考ページ)。
【単行本】「いいコにしてる?」 みなすきぽぷり ジェーシー出版 A5 [Amzn]
ロリ系期待のホープの一人。線が細やかで非常にしっかりした画力の持ち主。少女さんとのラブラブムードなお話もいいし、ちょい鬼畜入ったお話もこれまた。小さい女の子と同時に男ちんこもや汁も生々しく描いていて、けっこうヌケるタイプ。女の子たちの、打ちひしがれた顔、イタズラっぽい笑み、恥じらいなどなど、表情がいちいち可憐なのも良い。
【単行本】「ブッ契りラヴァーズ」 かかし朝浩 ワニマガジン B6 [bk1][Amzn]
面白いなあ。それまでやりまくりだったカップルが、父と母の再婚によって思いもよらず家族になってしまい、なかなかSEXできなくて悶々とする……というところから始まるドタバタラブコメディ。カップル二人ともやりたい盛りでたまりまくり。それがハジけたときの勢いはなんかスカッとするほど。ハプニング続出なストーリーはすごくテンポがいいし、カラッと明るくて読みやすい。結局のところラブラブなお話なので甘味も十分あり、かつ後味は爽やか。なんかもう素直に楽しめる良作。
【単行本】「盆暮れ進行!!ドルフィンマン」 Dr.モロー&スタジオ寿 司書房 A5 [Amzn]
いや〜、まさか本当にこの作品が単行本になるとは。「ドルフィンマン」という作品は、司書房が出しているエロ漫画雑誌のコミックドルフィンに年2回だけ載る作品。年2回というのは夏冬のコミケ前で、それがすでに10年間続いている。んでもって内容はドルフィンマンという、コミケカタログでおなじみの「共信マン」や「戯画マン」とそっくりな怪人が、ドルフィン編集部から漫画原稿を強奪してはコミケで同人誌にして売る〜というもの。まあDr.モローのあの絵で、たいへんすっとぼけた味のあるのほほんとした楽しい漫画なのだが、内輪ネタといえばこれほど内輪ネタな作品もなかなかない。これが単行本になるんだったらそのうち「共信マン」も単行本になるかもなあとか思った。そういえば最近ヒメクリに司書房系の作家が増えたと思ったら、なるほど司書房編集者サイトー氏が手伝っていたわけですか。