オス単:2004年11月の日記より


 このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則として行っていません

 なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でも入ってくることがあります。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、取り上げないことが多いです。


▼強くオススメ

【単行本】「大漁!まちこ船」 三宅乱丈 講談社 A5 [bk1][Amzn]

 ようやく出ました。連載時からすげー面白いと思っていたけどやっぱりいい。この作品の主人公のまちこは、職業が「まぐろの餌」。まぐろ船に乗り込み、鼻毛ボウボウの筋肉船長・中村さんが振るう竿の釣り糸をくわえて海にダイブ。まぐろが彼女を呑み込んだら、中村さんが気合い一発、それを釣り上げるといった具合。そんな彼女たちの生活と、まちこと脱サラ漁師・小川さんの恋の行方を描いていくのが本作のストーリー。

 まずは少女がまぐろの餌を職業としてやってるという状況がシュールで異常。説明は何もなく「それはそういうものだから」という感じで展開していくお話は、ダイナミックに下らなくて爆笑してしまう。そして中村さんの非常に豪快な振る舞いがユーモラスで面白い。躍動する筋肉、豪快そのものな雄叫び、そしてはみ出まくった鼻毛。中村さんは何もかもが素晴らしい。自分的にはこの作品の面白さの半分以上くらいは中村さんのキャラに集約されている。身体を鍛えるために、手足に強力バネをつけた状態で味噌汁食ってる姿とかやけにチャーミングで面白い。たいへん豪快で愉快なバカ漫画です。オススメ。

【単行本】「白のふわふわ」 山名沢湖 エンターブレイン B6 [bk1][Amzn]

【単行本】「スミレステッチ」 山名沢湖 エンターブレイン B6 [bk1][Amzn]

【単行本】「委員長お手をどうぞ」1巻 山名沢湖 双葉社 B6 [bk1][Amzn]

 ちょっと書くのが遅れましたが、11月のヤマナ祭3連発。単行本が3冊一挙に発行されて、ヤマナファン大喜び。もちろん私も大喜び。

 まさにふわふわという感じの、うつし身の重量を感じさせないような軽やかな作風の持ち主で、オトメチックでいながらベタベタせず、メルヘンチックでふわりと精神を解放してくれるような作品を描く。読んでいてたいへん気持ちが良いのですな。コメディっぽいお話のほうでも、ふとした瞬間に気持ち良くファンタジーを感じさせてくれるし、たいへん良いです。

 単行本3冊のうち「白のふわふわ」はアワーズライトとamieに掲載された短編を集めた作品集。「スミレステッチ」は少年エース掲載の「星菫女学院」を舞台にしたシリーズや、ゼロサム掲載作品を集めたわりかし近作多めの本。そして「委員長お手をどうぞ」は学級委員長や体育委員長、保健委員長、図書委員長といった学校の委員長女子を主人公としたオムニバスシリーズ。こうやって3冊たどっていくと、山名沢湖自身の絵の上達ぶりが分かるし、その中に共通して流れているメルヘン心、オトメ魂が感じられて面白い。いずれの作品も独特の茶目っ気が利いてて面白いし、キャラクターの作画もより男女ともに受けそうな感じになってきている。いやあ濃密でいいっすね。


▼一般

【単行本】「螺子とランタン」 桂明日香 角川書店 B6 [bk1][Amzn]

 華麗な絵柄でほのぼの良いお話。舞台は英国。幼くして侯爵家の家督を継ぐことになってしまった少女・ココと、その家庭教師を仰せつかったスラム出身の青年・ニデルの日々を、楽しく暖かく描いた物語。装飾が派手な作画はパッと目を惹くが、英国的な上品に抑えたトーンも再現できてて、しっかり調和がとれている。そしてお話のほうもなんとも微笑ましい。最初は爵位目当てでココに近づこうとしていたニデルだが、自分に一心になついてくるニデルの姿にだんだんやられてしまい、クールな物腰のなかにだんだん優しさが見えてくるあたりがなんとも楽しい。天真爛漫な女の子が、クールでできる男をどんどんオトしてっちゃうところがたまらない。あと後から登場するニデルの幼なじみで、お屋敷にメイドとしてやってきた女性・ノラの奔放な振る舞いは見てて楽しいし、彼女に対してヤキモチを焼くココの様子もカワイイ。丁寧に作られたええお話です。

【単行本】「はこにわ虫」 近藤聡乃 青林工藝舎 A5 [bk1][Amzn]

 眉毛の描かれない、キュートなような淋しいような、なんとも不思議な表情をした女性の作画が印象的な近藤聡乃の初単行本。なんともつかみどころのない、個性的でファンタジーを感じさせる作品を描いている面白い才能。あらすじとかは文章にしづらいけれど、日常とファンタジーの間の境目があまりなく、ひょいとそれを行き来するようなお話作りをする。不思議な感触に惹かれる。近藤聡乃はアニメーションでも才能を発揮しており、第6回文化庁メディア芸術祭ではアニメーション部門で奨励賞を受賞(受賞作「電車かもしれない)はNHKのデジタル・スタジアムのページで見ることができる)。作者ホームページはhttp://kiteretsu.robot.co.jp/akinobox/

【単行本】「ちえのわ」 小だまたけし ぺんぎん書房 A5 [bk1][Amzn]

 COMIC SEED!の連載作品が単行本化。それまで消極的で地味〜に暮らしてきた女子高生・千曲千恵が、学園のお姉様的存在である御坊桐子嬢と知り合いになり、彼女に憧れて積極的な女の子に変身しようと誓う。ところが桐子も久々に会ったら、今までのお嬢さま然とした物腰はどこへやら、鎧を着込んで化物を退治したり、学校でもなんかさばけた姐御調に振る舞うように変化しており、千恵は大混乱〜ってな感じでお話は展開。

 この作品では何より小だまたけしのこなれた滑らかな絵柄がいいです。千恵や桐子ら女の子が華やかでかわいい。それからこの二人の間にほのかに甘く流れる百合っぽい空気が、心をくすぐってきてたまらんものが。千恵と桐子が仲良くしているのを見て、あまり表には出ないけどひそかに嫉妬気味なお友達の由華も気になる存在。お話のほうは戦闘シーンもあるけどまあ基本的にはあっけらんとして明るい。ちと説明不足気味に思えるところもあって、ちょっともどかしいかな〜という気がする場面はあるものの、基本的には女の子がわいわい仲良くやってて、ひっついたりするところにトキめいたりするのが肝な作品だと思うので細かい点はまあいいかとか思う。賑やかで読んでいて悦楽を感じる作品なので、もう少し長いこと楽しみたかったような気がいたします。

【単行本】「地球防衛OLいちご」 新居さとし メディファクトリー B6 [bk1][Amzn]

 コミックフラッパーでずっと連載してて、「全然単行本にならねえな〜」と思ってたs買う品がついに単行本化。といっても副題が「よりぬきいちごさん」なんで、全然収録しきれちゃおりませんが。なんといっても3年半連載やってて収録したのは7本のみ。さらに描き下ろしも30ページ収録してたりするので、網羅率はさらに低下。でも一話完結型のほのぼのまったりドタバタお気楽ギャグなんで、全体としての印象はそう変わらないかもしれませんが。

 で、内容のほうはいちご、美弥子、朋子の地球防衛隊3人娘の日常漫画。いちおう怪獣退治とかも多少はするんだけど、基本的に、つーか任務に関してはまるっきしテキトー。怪獣、怪人の側もやる気あるんだかないんだか。お話のほうもしょっちゅうまったく関係ないほうに脱線して、怪人側の話になったり、テレビのレポーターさんの話になったり、本筋とは無関係の「みすていくめいどデイジー」というお坊ちゃんとメイドさんの漫画になったり。その適当さ加減と、明るくカラッと勢いのあるノリが持ち味。下らないけど楽しい作品ではありました。

【単行本】「しろいくも」 岩岡ヒサエ 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 IKKI編集部はずいぶん気合いを入れて岩岡ヒサエをプッシュしている模様。まだIKKIにはそんなにたくさん作品が載っていないのにずいぶん単行本化早いな〜と思ったら、掲載作品14本のうち10本が同人誌作品で、ちょっと驚いた。

 で、岩岡ヒサエの特徴はなんといってもその絵柄とそれが醸し出す独特の雰囲気。寿or音子という名前(サークル名は音々堂本舗)で出している同人誌はコミティアに行くたびに買っていたけど、「面白い絵を描く人がいるもんだなあ」といつも感心していた。くりくりした丸っこい輪郭に、控えめな目と口がポツンと配置されたキャラクターのつつましやかな造形は、なんとも可愛らしい。そしてキュートでありながらなんとなくぽつねんとした寂しさみたいなものがあり、丁寧なペンタッチが暖かさも醸し出しだしている。

 お話のほうも、絵柄にぴったりマッチしたファンタジーを感じさせるものが多い。掲載作品の中では、やはり雑誌掲載を目指して描かれ、実際にIKKIに掲載された「しろいくも」が完成度的に抜けているかなと思った。長年連れ添った妻を亡くした老人が、彼女に対する想いを噛み締めながら、老いた愛犬とともに暮らす様子を描いた物語は、暖かくて優しくて、ほろっとさせられるものがあった。仲のいい夫婦が久しぶりに田舎に帰り、しみじみとこれまでたどってきた道のりを振り返る「おウチに帰ろう」なんかもいい。そのほかの短編も、それぞれちょっと不思議な味わいがあって良い。ちと読みにくくかったり話がつかみづらかったりする点もあるにはあるけれども、独自の作風をすでに確立しているし、今後の活躍にも期待したいところ。

【単行本】「SALVA ME」 紺野キタ 大洋図書 B6 [bk1][Amzn]

 CRAFT掲載の短編、中編を集めた作品集。掲載誌がCRAFTだけに当然ボーイズラブ系のお話が多いんだけど、紺野キタの場合、実際にする、キスなどに至るというよりも、そこに至るまでの過程、心の動きを丁寧に丁寧に描き出すほうが中心。そしてこれがまた、紺野キタの品の良い美しい絵柄のおかげもあって、ステキビームを発散しまくり。今回はちとコメディチックなお話も多いけれど、例えば表題作の「SALVA ME」は、かつて教会で歌をうたっていた少年に心を奪われた男の気持ちを繊細に描き出してて、なんとも胸をキュキュッとさせてくれる。清らかで甘やかででも切なく淋しげでもあり、一本一本の完成度が高くて楽しめます。男女どちらにも読みやすいと思う。

【単行本】「デ・ジ・キャラット ラ・ビ・アン! 〜うさだの恋の物語〜」 花屋敷ぼたん ジャイブ B6 [bk1][Amzn]

 「デ・ジ・キャラット」シリーズでおなじみ、うさだひかる、またの名をラ・ビ・アン・ローズと、彼女が片想いする同級生の男の子・面茶きよし君の恋愛模様を描いていくラブコメ。世界観はアニメ「デ・ジ・キャラットにょ」に準拠しており、まねきねこ商店街が舞台。恋に思い悩むうさだはいつもより何割増しかでオトメチック。花屋敷ぼたんの作画は華やかで、なかなかかわいらしく描けてていいです。ラブコメとしても上出来。あと「デ・ジ・キャラットにょ」世界のほのぼの感もしっかり出ていて読んでるとけっこう和む。これは良いうさだだと思う。

【単行本】「バイオメガ」1巻 弐瓶勉 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 ヤングマガジン本誌で連載中のSFバトルアクション。「BLAME!」シリーズでもおなじの東亜重工が作った合成人間の庚造一が、火星からもたらされたウイルスに汚染された街で、ウイルスの適合者を探していく……という内容。「BLAME!」シリーズ同様、巨大建造物、クールで不気味なクリーチャーたちがわさわさ出てきて独自のカッコイイ世界観を築き上げている。セリフがいつもより多めになっており、ちゃんと動くキャラも多いのでお話的には「BLAME!」後期よりも分かりやすくはあるかも。ただ「BLAME!」は基本的に面クリア型のシューティングゲームみたいな構造になっていて、お話自体はごくシンプルでルールも少なかったので、その点は「バイオメガ」のほうが理解しなきゃならない点は多いかもしれないなあという気もした。

【単行本】「まほおつかいミミッチ」1巻 松田洋子 小学館 A5 [bk1][Amzn]

 すごく貧乏でしみったれた考え方のしみついた魔法使い少女のミミッチとその母の、地味〜な暮らしをぶちぶち描いていくという内容のお話。松田洋子らしい重箱の隅をつつき回すようなノリは健在だけど、今回は主人公が子供ってことでわりとカワイイ系でまとまっている感じ。その分毒が少ないので、まとめて読んでるとちと飽きてきたりもするんだけど。あとミミッチのほかに「お母さんといっそ」2本も併録。


▼エロ漫画

【単行本】「××in乳」 奴隷ジャッキー エンジェル出版 A5 [Amzn]

 相変わらず非常に個性的な作風。汁っ気たっぷりで、むっちり吸いつくような質感のある女体描写は普通ならすごくエロくて実用的なのだが、話がいちいちぶっ飛んでいるので意外と実用には結びつかない。でもむちゃくちゃハイテンションで個性的で、すごく好き。この単行本に収録された作品は単発モノがメインで、奴隷ジャッキー作品としては比較的スタンダードにエロをやっているほうだと思う。爆発的なヘンなセリフが出てくる作品もそう多くないし。でも異様なノリで登り詰めていく作風はやはりパワーがある。あと「A wish たった一つの…を込めて」[Amzn]の後日談も掲載(「A wish〜」の感想は2003年12月18日の日記参照のこと)。森崎くん霧島さんカップルは、相変わらず頭から血をだらだら流すほどの勢いで密着してさかりまくってて、やたら激しいです。

【単行本】「いっしょがいいな」 たちばなとしひろ 大都社 B6 [bk1][Amzn]

 2003年6月に若くして急性心不全で亡くなったたちばなとしひろの遺稿作品集。この人については、初めて見たころは「絵が華やかでうまいけどスタンダードな美少女漫画絵という感じでインパクトはさほどないかな……」といった印象だったんだけど、その後「ハッピー★トラップ」[Amzn]あたりからラブコメパワーが急速に高まり、メキメキ面白くなってきた。その後も、ピチピチ瑞々しく、甘〜いけれども爽やかで後味の良いラブラブエッチ系の作品を描いてて、これもまた面白かった。エッチシーンは使えるかといえば微妙かなという感じはしたけど密度は上がってたし、コミカルに崩したデフォルメ絵もかわいかった。「そろそろブレイク間近か?」という匂いがしてきたころだっただけに、急逝が非常に惜しまれた。まあそんなことをしみじみ思い起こしつつ、甘く楽しいラブコメエッチを楽しませていただきました。


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