一気に下まで行きたい
「矢野健太郎」もくじに戻る

・「FROM-C Cから始まる物語」全2巻 原作:棟据仁、矢野健太郎(1986、1995、集英社)
・「スランプを逃れて」 原作:棟据仁、矢野健太郎(1992年、ヤングジャンプサーティー10/20、集英社)




・「FROM-C Cから始まる物語」全2巻 原作:棟据仁、矢野健太郎(1986、1995、集英社) [amazon]

FROM-C

・あらすじ
たぶんヤングジャンプに、86年頃連載。2巻にはホラー短編「スランプを逃れて」を収録。

霜根田学園1年生の淡雪遥は、ソープランド「淡雪」の一人娘。性に悩む学園の生徒たちに、「Cのキューピッド」と呼ばれセックスの橋渡し屋をやっている。
そのシゴトはCのときのささいなトラブル解決から、初体験相手の斡旋までに至るが、「Cを目的としてはならない、恋愛において大切なのはCからだ」というポリシーが遥にはある。すなわち「FROM-C」なのであった。

・感想
作者公式ページの単行本リストのコメントによると、「原作者と趣味や思想が合わなかった」とあり、原作のストーリーを変えてしまったり話は同じでもテーマを変えてしまったりしていたという。
どの辺がどうなのかは推測するしかないわけだが、たぶん青少年向けのセックス指南みたいなことが基本コンセプトだったのではないかと思う。連載第一回目で「Cを目的として見ずに、そこから先を考えるべきだからCを知ってそこから始めるべき」というセリフも出てくるから。
で、遥のやってる「Cのキューピッド」というのはマニュアル的な側面が強いから、そこら辺に作画者が抵抗を感じていたのではないかと思う。

考えてみればセックスのマニュアル化・マテリアル化というのはたぶん80年代に急速に進んでいったわけで、同時に「恋愛」そのものもマテリアル化していくんである。
そういう意味では、「Cのキューピッド」の基本コンセプトは時代の流れとしては間違ってはいない。
しかし、むろん「それだけじゃないんじゃないか」という動きも当然あるわけで、そこら辺の時代の混乱が本作に現れているというのは、うがった見方かな。

お話はあっちこっちに飛んでいく。当初は遥の「Cのキューピッド」としてのシゴトが描かれる。異常に潔癖性の風紀委員長・清井正との対立は、古い価値観と新しい価値観が学園内で対立するという、それ以前のマンガや映画などのパターンを引き継いでいる。
後半登場するカタブツ女教師・好色一代(よしいろ・かずよ)先生も同タイプのキャラクターだろう(この先生に関しては、お話が学園から離れてしまったので今ひとつ活躍の場がなかった)。
途中から、ソープランド「淡雪」の店長である遥の父が入院してしまい、遥が店長代理で奮闘するという展開になる。ここら辺は、最近ではソープが舞台の話というと男の雇われ店長奮闘記か、もっと具体的なマニュアルマンガが多い中で、非常に設定としては珍しい。当時の青年誌の役割にも思いをはせてみたりする。

さらにそんな中、空腹で行き倒れになってしまった姫路兵庫という青年が登場。会社がつぶれてしまい無一文ということで「淡雪」で男衆として働くことになる。後半の展開は、ほとんどが遙と兵庫の恋愛を描いている。
連載当初から考えられていたかどうかはわからないが、遙は「Cのキューピッド」をやっているわりには処女という設定が最初からあり、それが遙自身の考える「FROM-C」という考え方と矛盾するということが作中で指摘される。

「遙は処女」という設定に当初どういう意味が込められていたのかは、ちょっと考えただけではよくわからない。86年当時の女子高生という設定ではごく普通のような気もするし……。
ただ、作品の後半では「セックスをマニュアル化してモノのように扱い、それから自由になる」という「FROM-C」のポリシーと、遙自身が兵庫を寝取られたと誤解して嫉妬心に襲われるという気持ちの中の矛盾がひとつのテーマになっているとは言える。
もっとも、後半では遙の実家がソープランドであるという設定にあまり意味がなくなってしまい(せいぜい兵庫を奪おうとするソープ嬢が出てくる程度)、ソープ嬢たちのキャラもあまり立っていない。

そう考えると「セックスに抵抗感のある読者、あるいは抵抗感のある人に抑圧されている読者」を精神的に解放してあげようというテーマは、作者のあまり重んずるところではないのかもしれない、とは思う。

まあ、何だかんだ言っても、本作は面白い。トータルとしてちょっとガチャガチャした印象ではあるけれど、ひとつの作品としても、80年代の青年誌に掲載された作品としてもかなり面白いので興味のある人は古書店などで探してください(絶版らしい)。
(05.0108)



・「スランプを逃れて」 原作:棟据仁、矢野健太郎(1992年、ヤングジャンプサーティー10/20、集英社)

掲載誌、年度不明。ヤング・ジャンプコミックス セレクションの「FROM-C」第2巻に収録。
スランプ中の女流作家が、執筆に専念するため編集者に用意してもらった人里離れた別荘で怪異に出会う。

本作も「FROM-C」同様、原作に作画者がひねりを加えてしまったのだと言う。
どのレベルでひねったのかはわからないが、2回サプライズがあるが1回目は絶対必要だっただろう。でないと普通の怪談になってしまう。

もし1999年以前の作品なら、海外の某有名ホラー映画のアイディアより先んじていることになる。
(05.0108)

ここがいちばん下です

「矢野健太郎」もくじに戻る
トップに戻る