・あらすじ
89年頃、「テクノポリス」に連載された作品に加筆。
世界はひとつではなかった。無限に膨張する世界が「イデア」、つまり我々が生きる世界。逆に地球の内部にあり、無限に収縮するのが「ネオック」である。この2つはセットで無数の多次元宇宙が存在し、それを「インジュカーシス」と呼ぶ。
日本人の高校生・現見光児(うつみ・こうじ)は、バイクで走っている最中にネオック界に飛ばされ、そこで勇者として生きろと「天上の賢人」に言われる。最初は自分が異世界に飛ばされた目的すらわからなかった光児だが、ネオックで最初に出会った少女・ルフォ、自分と同じように「イデア」からやってきた勇者・ジェニー、勇者として召還されたが賞金稼ぎとして生きるジャールたちと出会い、とにかく光と闇の戦いに巻き込まれたことがわかってくるのだが……。
・感想
「ネオック界」は、基本的には現在想像しうるかぎりのおよそベタなRPG的ファンタジー世界。元がパソコンゲーム製作との同時進行企画だったというのでそれも当然かもしれない。
ドラクエII以降からか、そういう感じの設定がマンガでも急速に普及し始めていて、89年頃というと、そういうのが目新しい時代でもあった。
もっとも、単にお約束を満たしただけではなく、「インジュカーシス」という世界の構築は面白い。ファンタジー系統のマンガを最近読んでないけど、こういう考え方のものはあまりないんじゃないかな?
「インジュカーシス」の語源の裏話も面白い(実にバカバカしい理由でつくられた新造語だというのがいい)。
かなり詳細な世界設定があるが、なんとか説明だおれにならずにおさまっている。煩瑣になりそうな解説を、単行本の巻末にうまくまとめてある。また、個々のキャラクターやお話の展開は意外性があって面白い。何より、世界設定とそれに翻弄されるキャラクターとの力関係が拮抗しているのが頼もしい。
ファンタジーによくある「光」と「闇」、「秩序」と「混沌」に対する考え方も非常に面白く、紋切り型ではない。
この後、時代としては90年代半ばを過ぎたあたりから多くのマンガ、アニメ作品において「世界設定にキャラクターが押しつぶされる」ようなナイーヴな作品が増えてきた印象がある。が、本作のラストはメチャクチャでありつつも、お話の体裁がいちおう整っているところがいい。
あくまでも、作品の手綱は作者が握って「面白さ」を追及していることが感じられるのだ。
本作では、光/闇、秩序/混沌の関係性が必ずしも人間にとっては一定ではないことがテーマのひとつとなっている。この決着はかなり強引だがスッキリしたかたちでつく。しかし、90年代半ば以降にはこうしたまとめ方は少なくなり、放り投げたような作品が(他作家の作品で)多くなる。それがなぜなのかについては、私は考えている最中だったりします。
3巻の巻末に、読みきり作品「伝説戦隊ユウシャマン」(→感想)収録。
なお、本書発行以前の90年頃、「インジュカーシス」は徳間書店から「総集編」として刊行されている。
(04.1225)