一気に下まで行きたい
「矢野健太郎」もくじに戻る

・「もいちどワンスモア」(1994、大都社)
・「恋愛不全症候群」(「ビッグバン」連載、1992、単行本「もいちどワンスモア」収録)




・「もいちどワンスモア」 矢野健太郎(1994、大都社) [amazon]

もいちどワンスモア

・あらすじ
「YJ30」に93年2月より連載。全4話。雑誌の休刊により打ちきりになってしまったらしい。

あまりデキのよくないサラリーマンの菅生仁悟郎(すごう・じんごろう)は、鈴鹿まなみにフラれ、やけ酒を飲んで眠って気が付いたらベッドの中に見知らぬ女の子が。
それが彼の部屋に転がり込むことになる、音彫澄夏だった。
時代は、AIDSはホモでなくても感染すると世間一般に浸透し始めた頃。なかなか風邪が治らない仁悟郎は、自分がAIDSではないかと疑念を抱きはじめ、せっかくうまくいきそうになった恋愛でも自らフイにしてしまう……。

・感想
単行本の解説によると、編集者にAIDSネタを入れろと言われ、その後『やめた方がいい』と言われ、AIDSネタを入れてスタートさせた連載を3回費やして軌道修正、やっとラブコメとしてスタートできると思ったら雑誌自体が休刊してしまったそうだ。
作品自体は尻切れトンボで終わってしまっているが、ムリな注文に精一杯応えたと考えて読むと「よく取り入れられたなァ」と感心してしまうことしきりである。

・単行本同時収録作品:「恋愛不全症候群」(「ビッグバン」連載、1992、単行本「もいちどワンスモア」収録)感想

(05.0204)



・「恋愛不全症候群」(「ビッグバン」連載、1992、単行本「もいちどワンスモア」収録)

恋愛不全症候群

「ビッグバン」に92年から連載。雑誌休刊により終了してしまったようだ。
1話完結のオムニバス形式で、一見当時流行のトレンディドラマ風恋愛を描いているように見せて、実は「恋愛ブーム」に踊らされた恋人たちの悲喜劇を描くといった趣向。
これらは、どれも完成度が高い。

基本フォーマットとしては、恋愛の次の一手をRPGのようにしか選択できない青年を描いた「カルテ1 物語過剰摂取」で完成されているといえる。
「結婚」を目標としか考えられない男が出てくる「カルテ2 条件付け依存症」、女性に依存されることを極度にいやがる男の「カルテ4 成熟度強要症」も面白いが、私が傑作だと思ったのは「カルテ3 判断基準喪失症」。バイト先の女の子に魅力を感じていた主人公が、周囲のバイト仲間のウワサや評価によってその子に対する評価を決定して結局フッてしまうという話だが、描きようによってはホラーにもなる恐い話だ。

「もいちどワンスモア」(→感想)もそうだったが、これらには基本的に「他人の評判、評価」を過剰に気にする現代人のサガみたいなものが如実に現れている。また、「恋愛は個人的体験」というのが作者の一貫したテーマなのではないかとも思った。

それと、このシリーズで重要なのは、比較的実験的なプロットであるにも関わらず、それが徹底してポップだということである。「長編の少年モノも青年モノも描ける人のオムニバス」という点では、何となく島本和彦の「ワンダービット」を思い出したりもします。まあ、あそこまで毎回極端に手法を変えているわけではないけど。
(05.0204)

ここがいちばん下です

「矢野健太郎」もくじに戻る
トップに戻る