1985年〜88年 After "ASTRA"

1985年、アルバム『ASTRA』発売後〜活動停止時期の音源です。
セールス不信だった為にツアーは1度もしていませんのでエイジアとしての
ツアー音源はありませんが、再生を賭けて必死になって活動していた頃のラジオ
音源や、エイジアの名目でやる筈だったプロジェクト的な音源は幾つか存在します。
その中でも1986年6月4日と5日にウエットン、カール、ドン・エイリー、ロビン・
ジョージ、そしてフィル・マンザネラの5人で英国マーキークラブでやったライブ音源、
いわゆる「86年マーキー音源」は特筆されるでしょう。

余談ですが、エイジアの活動停止時期だったこの86年〜88年頃、ウエットンに
「君は最近何をしてるの?」と問い掛けると、彼は必ず「エイジア」と答えて
いたというエピソードが残っています。興味深い事に86年5月29日付けの英国
KERRANG!誌にウエットンのインタビューが載っており、そこで彼は「エイジアは
基本的にカール、ジェフ、そして自分の3人で組織されており、我々が居る限り
エイジアは続くだろう」と語っているのも見逃せません。この86年マーキーは
当初エイジア名義として公演するつもりだったものが、様々な諸問題により
" John Wetton And Friends "として公演していますが、しかし84年にマンディ・
メイヤーよりも先に目星をつけてエイジアに誘っていたロビンが居たり、ツイン
ギターでエイジアサウンドの可能性を試したり、それまでには無かったハードな
アプローチで曲を演奏してみたりと、後のエイジアの布石となる試みがこの86年
にあったのは紛れも無い事実だと思います。活動停止時期だっただけに音源も
少ないですが、でもそれだけに興味深い音源が残っている期間だと思います。


1985年〜88年 After "ASTRA" (85年〜88年)
『Rockline Interview : Dec. 8, 1985 / in support of the album ASTRA』 / (SRCD 1999-031)
Live Date (Radio On Air): ROCKLINE / 1985. Dec. 8 / Hosted by : Bob Coburn

一応、ハーフ・オフィシャル物。
ラジオインタビュー・ディスクですが、意外と珍しい一枚かもしれません。
マンディを含めた4人で『ASTRA』についてのインタビューを受けており、
英語が分かればもっと愉しめるのになぁ、と思う次第です。インタビュー内容
は裏面のクレジットを御覧戴くのが一番ですが、自分程度の英語聞き取り能力
でも何となく分かる事としてはグレッグ・レイクについての話とかエイザの話とか、
何故ウェットンがバンドに戻ったのか等を話している様です。

この時期エイジアは期待されたほど『ASTRA』のセールスが伸びず、バンドの存続に
怪しい雲が立ち込めていた筈ですが、こうしてラジオでインタビューを受けている事
からもそこからの脱却と再起・望みを賭けていたのかもしれません。そうした事が
恐らくこのインタビューから読み取れる筈なんですが、なにぶん自分は英語が分から
ないんで、具体的にどういった事を語っているのかさっぱり分かりません。残念。(T_T)

音質96点。
1CDR。

『MARQUEE 1986 FIRST NIGHT』
(※ Special Bonus CDR for limited stickered edition of " MARQUEE 1986 SECOND NIGHT 【Virtuoso-199】")
Live at : Marquee Club, London, UK. / 1986. June. 4

『MARQUEE 1986 2ND NIGHT (Virtuoso - 199)』のボーナスディスクで付属する2CDR。
本編の前日となる1986年6月4日、この布陣によるマーキーライヴの初日公演を完全
収録したタイトルです。こ日の音源といえばAyanamiレーベルが最初期に出していた
『GO CLUBBING ! (Ayanami-007) 』がかつて存在しましたが(※下段↓の別枠で紹介
してます)、本作はその既発盤に使用されたマスターテープをリマスタリング収録し
たものです。『GO CLUBBING !』のサウンドは全体的に靄が若干掛かった様なもので
したが、その音像がサッと晴れ渡って曲の輪郭が明瞭に浮き上がり、ヒスノイズも
かなり除去された事でサウンドが非常に視界良好になっています。また当時のAUD録音
特有の湿り気をしっかり残しながらもシャープな音像になっているのも特筆され、
モコモコと不鮮明だったフィルのギター音(特に「Keep On Loving Yourself」で顕著
でした)も、本作では端正な音色で聴けるのが嬉しいところです。更にこの初日公演は
ウエットンの喉の調子が翌日と違って正常ですので、彼の歌唱パフォーマンスが
より完璧な浮き出た音像で聴ける点も大きなトピックスだと思います。

さてこの初日の演奏は翌5日の演奏とは違っている点があり、それがまた両日の聴き
込みを面白くしてくれます。例えば本作4日演奏の「Sole Survivor」はボーカルの
ところどころでエコーが掛けられているのが確認出来ますが、5日公演ではエコーが
掛けられていません。また歌詞の切れ目で声を伸ばして歌い上げるという特徴的な
シーンも随所(※2分04秒〜07秒付近、同2分20秒付近、3分57秒付近、4分13秒付近)で
ある事もポイントでしょう。「Only Time Will Tell」では歌詞を一部入れ替えて歌っ
ており、3秒14秒付近では感極まって「♪Ohh...」と突発的な感情表現を入れていた
り、ドンのキーボードもオリジナルには無い魅力的な旋律を入れているのも特筆され
ると思います。「Keep On Loving Yourself」からは翌5日の公演同様にフィル・マン
ザネラが加わり、ここから5人編成での演奏となります。やはり後の完成形とは違う
長めの導入部やタイミングの合わせ方、全く違うギターソロ、やや間延びした後半部
などアプローチの細かな違いが随所で大変興味深い演奏です。ドンの入れる装飾音も
後の完成版には無いもので、これがドンのインスピレーションによるものなのか、そ
れともエイジア未発表曲時代の名残りなのか、興味は尽きません。「Don't Cry」は
この日、曲後半のギターソロの音数が翌5日よりずっと多めで、ロビンが熱く弾き込ん
でいるのが印象的です。更に「The Smile Has...」ではエレキピアノの活躍が目立って
おり、ストリングス系の音色を主体にした5日のスタイルよりもオリジナルに近い
表現になっているのは注目に値すると思います。

ストーンズの「Honky Tonk Woman」から繋がるドンの鍵盤ソロでは5日の演奏同様に
この日も幾つかの曲が網羅されており、映画「未知との遭遇」での特徴的な5音階、
またグレッグ・レイクの「夢見るクリスマス / I Believe In Father Christmas』の
旋律も出てきます。6月なのに何故この曲を?と疑問に感じますし、「夢見るクリス
マス」というよりはその原曲であるプロコフィエフの旋律を弾いているだけなのかも
しれませんが、しかしここはこのライブの趣旨、即ち精神障害児に対してのミュージ
ック・セラピーであった事に意図があったと思いたいシーンではないでしょうか。
つまりこの曲で歌われる、
----------------------------------------
希望に満ちたクリスマスになるといいね
躍進する1年がやってくるといいね
心の中から怒り、痛み、悲しみを取り去って
あなたの道を綺麗にしてくれる様な・・
----------------------------------------
・・という、あのピート・シンフィールドが書いた歌詞をキーボードの旋律に込めた
ドンならではのメッセージだったと、ファンとしては読み取りたいところです。
「Time Again」は素晴らしくタフな表現が際立ちますが、当時このアプローチに違和感
を感じた方も現在に至るまでのエイジアサウンドの遍歴を知っていれば、この日のこの
スタイルがどれほど大きな意味を持っていたのか、その重要度が改めて分かるんじゃ
ないでしょうか。アンコールはここでも「Back In The USSR」に始まり「Heat Of The
Moment」で締められていますが、翌5日はショウの初めからウエットンの声の調子が悪
くてアンコールの頃には喉が潰れて濁っている為、この演奏は本作4日の方がストレート
にアンサンブルの良さと歌唱の魅力が出ています。特に「Heat Of The Moment」は正常
な歌唱で聴き通せる86年唯一の演奏ですし、ブツ切る様な終曲の仕方も5日同様に独特
なので最後の一音まで聴き逃せません。更にその終演後は何と3分半以上もテープが回り
続けており、終演後に何度か入る挨拶や全てのショウエンドを告げる最後のDJアナウンス
まで完璧に記録しているのも本録音の嬉しい特徴です。

音質87点。
1CDR・ボーナスディスク。

『MARQUEE 1986 SECOND NIGHT』 / (Virtuoso - 199)
Live at : Marquee Club, London, UK. / 1986. June. 5

エイジアが活動停止していた1986年、6月5日にマーキークラブで行われた伝説の公演を
バランスの良い音質で収録した旧タイトルのリマスター盤。この音源は
過去に『GO CLUBBING ! 2 (Ayanami-021) 』や『WET DREAMZ (Ayanami-177)』という
タイトルで音盤化されていたものですが、本作はメーカーが2014年最新機材を使用して
マスターテープを頭から終わりまでつぶさに精査し直したアッパー版です。上記既発盤
で散見された音揺れやヒスノイズがほぼパーフェクトに無くなり、ブレの無い安定した
音像が質感豊かなサウンドで蘇っているのが特徴でしょう。

熱心なファンの方は御承知と思いますが、この公演は長いエイジアの歴史上でも特別な
もののひとつです。元々は" NORDOFF-ROBBINS MUSIC THERAPY CENTER LTD. "という施設
の為に行われたもので、ミュージック・セラピー(音楽によって精神障害児を治療する試み)
の為のAIDコンサートでした。メンバーはジョン・ウエットン、カール・パーマー、ロビン・
ジョージ、ドン・エイリーに加え、特別ゲストとしてフィル・マンザネラが参加しての5人
編成となっており、厳密にはエイジアでなく" John Wetton And Friends "という名義で
行われたものです。しかし本来はエイジア名義でやるつもりだったライブで、その為に
プロデュースもウエットン自身がやって動いていたほどでした。でも当時のダウンズが
GTRのプロデュースで多忙だった為に参加が不可能となり、マンディ・メイヤーも『ASTRA』
にまつわるツアーが無くなったこと(※セールスが好調なら86年の春からワールドツアーが
予定されていた)で既にエイジアとは別のスケジュールで動いていた為に都合が合わず、
メンバーの見直しとバンド名義の再考を余儀なくされます。そこでイの一番にスポットを
当てたのがロビンでした。何故彼だったかと言えば、彼は『ASTRA』で正式メンバーになっ
たマンディよりも前に、ハウの後任ギタリストとしてエイジア加入を打診されていたプレ
イヤーだったからでしょう。当時のロビンはソロアルバム製作に忙しかったのでオファー
を断ったそうですが、この時はそれも終わりスケジュールが開いていた為に参加が決まっ
た様です。マンザネラはウエットンがロキシー・ミュージック時代に競演歴があった事と、
ちょうどこの時期(※86年3月〜8月)、翌87年にリリースとなる『WETTON / MANZANERA』の
レコーディング中だった事でウエットン自身から参加要請があった様です。ドンに関して
はどういった理由で呼ばれたのか不明ですが、当時ウエットンは日本のバンドVOWWOWの
プロデュースに関わりを持ち始めた頃なので、そのHR/HM系の人脈繋がりで紹介されたの
かもしれません。こうして動き出したこの布陣は名義こそエイジアではないものの、でも
エイジアの中心メンバー2人がエイジア活動停止中に唯一やった別プロジェクトとしての
エイジアとも言える訳ですから重要なライブであったことは言うまでもありません。

まず冒頭で司会によるバンドのコールがありますが、これがエイジアではなく"John Wetton,
Robin George, Carl Palmer,Don Airey"となっているのは先のバンドの成り立ちについて
の理由からです。またこのバンドコールは既発盤には未収録だった部分でもあり、これが
初収録となっています。「Sole Survivor」ではのっけから前日4日の公演と違い、この日
何故か声を潰してダミ声気味になっているウエットンの歌唱が印象的です。「Only Time
Will Tell」では重たい音の筆致で導入部が飾られ、終曲部ではドンらしい解釈でオリジ
ナルのフレーズを散りばめて弾いている様子も聴きどころでしょう。「Go Down Fighting」
はロビンのソロ曲ですが、ベースの運動性が既発盤よりも強く鮮やかに再生されているのが
分かると思います。そしてここまでが4人での演奏で、終曲後に特別ゲストとしてフィル・
マンザネラが加わって5人編成となり「Keep On Loving Yourself」がスタートします。

この「Keep On Loving Yourself」ですが、この曲は元々エイジアの未発表曲で83年の
アルバム『ALPHA』から漏れた曲(※原題は「Keep The Love Alive」)でした。このライ
ブの翌年1987年には『WETTON / MANZANERA』に収録されてアルバムのリードトラックと
なり、1stシングル(US盤プロモオンリー)にもなりますが、興味深い事にここでは曲が
完成形になる一歩手前の状態のものが披露されています。これは言い換えると『ALPHA』
の収録から漏れたこの曲の手直し中のものが聴けるとも言える訳で、資料的にも非常に
貴重な演奏と言えるんじゃないでしょうか。メロディラインは後の完成版と同じですが
導入部の尺と中盤の展開部(4分10秒付近〜45秒付近)に於けるギターのアプローチの違い、
更に終盤5分39秒付近〜終曲までの整理されていない不安定な展開など、後のアルバムに
収められた完成形とは違いが散見されるのが興味深いところです。またドラムのアプロ
ーチも完成版とは随分違っていますが、これはドラムを叩いているのが完成版のアラン・
ホワイトではなくカールだからで、これも非常に重要なトピックスだと思います。何故
ならここでのカールは『ALPHA』製作時のデモトラックで何度かこの曲を聴いたかプレイ
した経験がある筈だからで、そのエイジア未発表曲時期のリズム・アプローチを思い出し
て叩いていると思われる為です。つまり深読みすると、ここで聴ける演奏のリズム面・
ドラミングに関しては82年末〜83年初頭のエイジア未発表曲時期の面影を或る程度残して
いると推察される訳です。

「Don't Cry」はウエットンが相変わらず滅茶苦茶な歌詞をワメいていますが(^_^;)、
導入部以外の演奏とフックの効いたグルーヴ感はエイジア史上でも屈指の力強さを
誇っており、ここでのへヴィで華のあるアプローチは後のエイジアで花開くハードな
サウンドの起点とも言えると思います。コーダも一風変わっており、楽曲をブツ切る
様にしてグルーヴを一斉に止めるスタイルは89年の再結成時にも踏襲されていました
から、その雛形がこの86年の演奏で現れているのは興味深いところです。ロビンの曲
「Heartline」は彼の魅力が浮き出た好演奏で、当時からマルチプレイヤーとして高く
評価されていた彼の持ち味が存分に出ているシーンだと思います。随所で印象的に
出てくるドンのきらびやかな装飾音も彩りを与えていますし、リマスタリング効果でより
迫力を増したドラムの熱っぽい打音も聴きどころでしょう。「The Smile Has...」は
ドン特有の表現とウエットンの歌唱が不思議な融合を果たしているシーンです。ここ
で注目したいのは「シンセの音色を主軸にした伴奏+歌唱」というデュオ・スタイル
という事でしょう(※"ピアノ"の音色+歌唱ではない点がキモです)。エレキピアノの
出音が無い訳ではありませんが、ドンはこれを最小限に抑えてストリングス系のサウ
ンドをメインに勝負しており、これも長いエイジアの歴史で他に例が無いパフォーマ
ンスとなっています。

ストーンズの「Honky Tonk Woman」ではこの布陣ならではの演奏力が聴きモノで、原曲
の良さを押し上げたブルージーな表現が魅力です。またこの曲で突然シンセドラムの様
なリズム音が聴こえますが、これはカールがギター型のショルダー・シンセドラム(?)
を首から下げて叩いている為です(※この楽器については、ひとつ↓の欄『MARQUEE 1986
2ND NIGHT: REHEARSALS』の項で記述しています)。終曲部からはそのギター型ショルダー
シンセドラムでカールが疾走感満点のビートで場を煽り、ドンがそれに応える形でスリリ
ングな鍵盤ソロが展開してゆく異例の競演が楽しめます。「Dangerous Music」では再び
ロビンにスポットが当たり、彼らしいワイルドなロックンロールが彫りの深い表現で全開
になります。中間部にはやや強引にカールのドラムソロ(※こちらは本物のドラムを使用)
をインクルードしていますが、興味深いことにここで披露しているソロは再結成を果たし
たエイジアが1990年の夏に東ベルリンで行った" EAST MEETS WEST FESTIVAL "で披露した
「The Heat Goes On」曲中にインクルードした短縮ソロに酷似している事です。これは
90年にやっていたドラムソロの構成が既にこの時点で完成していた事が分かるレアシーン
と言えるでしょう。ビートルズの「Back In TheUSSR」からはアンコールとなっていますが、
調子の悪い喉を酷使したせいで大変な事になっているウエットンの歌唱(^_^;)も、より生々
しく近い音で迫ってくるのが面白いです。「Heat Of The Moment」もその濁った声と歌唱が
他では聴けない印象深さを呈していますが、歪んだギターから入る独特の導入部も含め、
エイジアには無い5人編成特有の旋律の膨らみが魅力的です。

音質89点。
1CDプレス盤。
限定ナンバリング入りステッカー+ピクチャーディスク仕様。
発売日 : 2014年10月28日

『REHEARSALS & LIVE AT MARQUEE』
(※ Special Bonus DVDR for limited stickered edition of " MARQUEE 1986 SECOND NIGHT 【Virtuoso-199】")
Rehearsals at : Marquee Club, London, UK. / 1986. June. 4 + 5

ひとつ↑の欄で紹介している『MARQUEE 1986 2ND NIGHT (Virtuoso - 199)』に付いて
くるもうひとつのボーナス盤DVDR。この1986年6月4日と5日の時のリハーサル映像が収録
されたディスクです。これはYoutube上に断片的に存在するものですが、メーカーアナウ
ンスではそれを可能な限り解像度を上げて丁寧にトリートメントしたものになっている様
です。この時のリハ映像が残っていた事にも驚かされますが、しかもこれをYoutube上に
アップロードしたのがロビン・ジョージ本人なのですから2度ビックリですね。(^_^;)

収録は3曲のみのAUDショットですが収録者は手馴れている様で手ブレれも殆ど無く、画質
も音質も当時のものとしては充分でしょう。撮影位置はステージ向かってやや右側、列に
して5列目程度からのもので、ステージとメンバーが程好く収まっているので観易いのも
嬉しいところです。「Go Down Fighting」は画面右でロビンが本番さながらに熱唱して
おり、ルーズで熱っぽいギター捌きをしながら楽曲を率いている様子が印象的です。横で
サポートするウエットンも一音ずつ確実に音を出していて、あの特徴的なベース音を伴い
ながらバックコーラスで演奏を支えている様子が見て取れます。しかし一番興味深いのは
意外にもカールが熱を込めて叩いている点で、リズム面から曲の輪郭を際立たせているの
がよく分かる映像になっている事でしょう。終曲部もメインのロビンが仕切るのではなく、
ロビンが挙手して合図を送るとそれを受けたカールがリズム面から締めに入ってゆくという
構図がこの映像からも観て取れ、この曲に於けるカールの重要度が高かった事を伺わせて
います。またもうひとつ面白い点は、本番ではステージに居ないフィルが映っている事です。
映像序盤で画面左側にギターのネックがチラッと映る程度で音は出していない様ですが、
本番ではこの曲の後から参加するので、そこにスタンバイしているのでしょう。この事から
このリハはショウの流れの確認と、フィル登場のタイミングを図るものだった事が分かると
思います。
rehearsals-marquee1986.jpg(110912 byte)
「Honky Tonk Woman」の映像では、なんとカールがフロントでギターを弾いているのが確認
出来ます。しかしよく観るとそのギターを手と指で叩いているので「おや?」と思われるんじゃ
ないでしょうか。実はこれ、ギター型のショルダー・シンセドラム(?)なのです。ギター型ですが、
よ〜〜く観ると弦が張られていません。実は自分の知り合いに、この時のライブを最前列の
右寄りから実際に御覧になった方(※日本人です)が居て、その方によるとこれは「左のネック
の先にちょっとしたコントロールのファンクションがあり、右手でボディを叩くとリズムがスタート
するというもの」だった様です。今で言うシンセギターの亜種とも言えますが当時としては大変
珍しい楽器ですし、あの頃は他に似た様な楽器も無かったと思うので、これはひょっとすると
カールが80年代に専属契約していた楽器メーカー" REMO "の試作機だったのかもしれません。
そんな訳でこの曲ではカールがこの楽器を首から下げてフロントで電子的なリズムを叩き出し、
次のドンのキーボード・ソロではこの楽器でドンと速いリズムの即興演奏バトルをしていた訳で、
これはそのリハの一コマが垣間見られる貴重なシーンとなっています。ちなみにこのショルダー・
シンセドラムのパフォーマンスは、前述の実際にこの公演を観た方の話では会場のオーディエ
ンスに大変な好評を博していたそうです。

「Don't Cry」では映像冒頭で、カールが愛娘のクリス(※Chrissie? Christy?)ちゃんをドラム
キットの中で抱いている映像からスタート。彼女はASIA IN ASIAがあった1983年生まれなので
この時3歳か4歳の姿でしょう(※ちなみに彼女は現在、この当時のカールがそうなって欲しいと
願っていた法律家に本当になられている様です。産まれた頃のクリスちゃんの様子は、83年12月
6日(日本時間7日)にASIA IN ASIA武道館の様子を全米生放送した"THE ROAD TO BUDOKAN"
という番組内(※ブートビデオ『ASIA IN ASIA (co)』)で鑑賞出来ます。

Christy-pic.jpg(71171 byte)
(ASIA IN ASIAの全米中継番組"THE ROAD TO BUDOKAN"より。『ASIA IN ASIA (co)』の映像から)

まぁそれはさておき、ここでは嬉しい事にメンバー5人が揃った映像でリハの様子が追えるの
ですが、それだけに全体音とツインギターによる旋律の膨らみ方を目と耳で確認出来る絶好の
ポイントとなっています。曲中で或る程度せわしくコードを刻むロビンと、時折カッティング
やブロークンコードを交えながら旋律に彩りを与えるフィルの姿がありますが、これはギター
という楽器を本質的に硬いものとして捕らえているロビンと、本能的にギターを柔らかいもの
として捕らえているフィルという両プレイヤーの個性が出ている訳で、それが映像からちゃん
と伝わってくるのですね。曲の前奏部分ではそのツインギターのサウンドの組み立てを中央の
ウエットンがじっと見て(特にフィルを)確認してから歌い始めているのも興味深いところです。
しかしそのウエットンはどうかというと、そうして周囲のサウンドを厳しく統括しながらも
自身では歌詞を覚え直そうともせず、相変わらずメチャクチャな歌詞を本番以上の惚れ惚れ
する声で歌い上げているのですから、まったく微笑ましいではありませんか。(^_^;)
ちなみに終曲手前に入るギターソロの最後で「♪(Don't) Cr〜〜〜〜〜y, Don't Cr〜〜〜y...」
と、非常に長く伸ばして歌っているのはこのリハのみの大きな聴きどころです。同シーンの
4日本番は何も歌わず、5日本番は「♪Ahh...」としか歌っていませんので、テキトーな歌詞
以外は本番以上の極上な歌唱が楽しめます。

尚、英国KERRANG!誌に当時載った5日のライブ写真を見るとこの映像で観られる衣装とは違っ
ており、更にこの映像ではウエットンの声も潰れて濁っていませんので、このリハは恐らく
初日・4日のものと思われます。また前記の実際に4日の公演を観た方の話では、4日はKERRANG!
の写真撮影の為にバリッと決めた5日の衣装とは全然違う、非常にラフな衣装だったそうです。

画質79点。
音質85点。
1DVDR・ボーナスディスク。
『GO CLUBBING !』 / (Ayanami−007)
Live Date : Marquee Club, London, UK. / 1986. June. 4

2014年10月28日に2つ↑の欄で紹介している『MARQUEE 1986 2ND NIGHT (Virtuoso - 199)』と
その付属としてのボーナスディスクが出るまで、この86年マーキー公演の定番だったタイトル。
そのレーベル番号からも分る通り、Ayanamiレーベル最初期のタイトルでした。

この音源についてのアレコレは↑の別枠各欄で書いたので割愛しますが、それらの欄には書かな
かった疑問点をひとつ書いておきます。

この公演はドン・エイリー、ロビン・ジョージ、ジョン・ウェットン、カール・パーマーによる
エイド・ライブで、1986年6月4日と5日に英国ロンドンはマーキークラブ行われたと書きましたが、
当時のエイジア・ファンクラブの会報誌によるとこれ以外にも6月2日にバーミンガムでやったという
記録が残っています。2日の音源は聴いたことないし、当時のテーパーのトレードリストでも見た事
が無いし、そもそも6月2日に本当にやったのかどうか定かではないのですが、ライブをやったという
記述が当時の会報誌にあるのは事実です。

また余談ですが、当時この4日と5日の両日を実際に観た知人の話によるとフィルは特別ゲスト的な
扱いを受けていて、この両日の音源からも分かる様にセットの途中からメンバーに加わる形式を取
っており、メインで演奏したのは「Keep On Loving Yourserf」のみで、その後もステージに立ち
続けたものの、コードの合わせ弾き程度に留まっていたそうです。これもこの音源から何となく
そんな様子が伺えますね。(^_^)

1987年にリリースされたアルバム『WETTON / MANZANERA』の日本盤LPの帯にはリード文字として
「大英帝国夢うつつ」という名キャッチが躍り、ライナーノーツには1988年にエイジアとしての
新作がリリースされる旨が書かれていたのを御記憶の方も居るんじゃないでしょうか。結果的に
それは各メンバーのスケジュールや諸事情で成就しませんでしたが、しかしここで聴ける演奏や
カバー曲を含む選曲の多彩さにはエイジアとしての重圧や緊張感から解放されたウエットンの
横顔がよく出ていますし、名称こそ" John Wetton And Friends "ではあれど、全員イギリス人の
名だたるミュージャンで固めたそのサウンドはまさに「大英帝国夢うつつ」だったと思うのです。

音質84点。
1CDR。
発売日 : 2000年 5月?日
ちなみに裏ジャケ記載のライブデータでは「June 5, 1986」となっていますがこれは誤記。
収録されている演奏は間違いなく6月"4"日のものです。
『GO CLUBBING ! 2』 / (Ayanami−021)
Live Date : Marquee Club, London, UK. / 1986. June. 5

この布陣でプレイした最終日。
2014年10月28日に3つ↑の欄で紹介している『MARQUEE 1986 2ND NIGHT (Virtuoso - 199)』
が出るまで、この日の定番タイトルでした。ちなみにこれのアッパー版として出た
『WET DREAMZ (Ayanami-177 : 2002年10月11日発売)』もなかなか良いサウンドで収録
されていました(※自分はコピーされたCDRしか持ってないので、ここで現物は紹介
出来ないのですが)。今となっては過去の名盤ですが、しかしその役目は充分に果たし
終えたタイトルだと思います。

音質77点。
1CDR。
"Ayanami"レーベルステッカー貼り付け仕様ディスク。
OTHER ITEM


『ASIA AFTER UK』 / (HIGHLAND, HL088#VA1)
『DUNCAN MACKAY : SCORE』 / (OGY-001)

コンピレーション物。
ここで聴けるエイジアの未発表曲とクレジットされている2つの曲(実際には3曲)は
エイジアの未発表曲ではありません。これはコックニー・レーベル、10CC、キャメル等で
活躍したダンカン・マッケイ(DUNCAN MACKAY)というキーボーディストのアルバム
『SCORE』(1977年発表)に収録されている「Pillow Schmillow」と「No Return」という曲です。
これはウエットンが初プロデュースしたアルバムで、ウエットンもボーカルでこの2曲に参加
しています。そしてトラック(4)の出だしの部分は、フィル・マンザネラのアルバム『K-Scope』に
収録されている「Numbers」という曲です。
・・という訳で、このトラック(4)と(5)は、

「Numbers」
  ↓
「Pillow Schmillow」
  ↓
「No Return」

・・・という順に収録されています。
以前この音源を某業者に聴かせて貰った時、「これは未発表曲だよ」と言われたのを
鵜呑みにしてしまい、当時GOLD WAX誌で記事を書いた時も「これは未発表曲です」と
そのまま書いてしまいました。当時あの記事を読まれた方、ごめんなさい。m(__)m

※ 2012年12月・追記。
先日このダンカン・マッケイのCDを入手したので、ジャケの表と裏の画像を
←に追加しておきます。これは正規LP盤『SCORE』を丸ごと直落とししてあるもの。
西新宿の某ブート店で入手したんですが、まぁブートというよりは違法コピーですなコレは。(^_^;)
でもレコードは入手困難だし正規盤CDは出そうもないので、ひとまず音だけでもこうして聴けるのは
有難いですね。表ジャケの下部に修正が加えられ真っ白になっているのがチープで良い感じです。

しかし音質は針パチ音も無く、なかなか馬鹿に出来ない音で収録されている点は特筆されると
思います。ウエットンも2曲歌っていますし、メル・コリンズやアンドリュー・マカロック
といった歴代のキングクリムゾン・メンバーも参加している隠れた名盤です。レコードは現在
入手困難(僕も持ってない)なので、それを手軽に愉しめる嬉しい一枚でした。当時は日本盤LPも
出ていたらしく、お持ちの方からデータを教えて戴いたので参考の為に下記しておきます。


DUNCAN MACKAY / 『SCORE』(日本盤LP 1977年発売 : EMI EMS-80848)

【Side:A】
1. 魔女たちの挽歌 / Witches (Mackay) 5:31
2. 3枚綴りの絵画 / Triptych (Mackay) 4:02
3. 愛は幻 / Spaghetti Smooch (Mackay/Harley) 2:47
4. 虚ろな炎 / Time Is No Healer (Mackay/Harley) 3:52
5. 逃亡者 / Fugitive (Mackay) 2:27

【Side:B】
1. スコアー / Score (Mackay) 7:18
2. 夢の中 / Pillow Schmillow (Mackay/Harley) 5:01
3. ジガロダ / Jigaloda (Mackay) 6:07
4. 輝く虹 / No Return (Mackay/Harley) 4:54