海賊盤のページ / キングクリムゾン
〜1972年後期〜



1972年後期 (10月13日〜12月15日)

『フリー・ミュージシャンの典型的な特色は、殆どが器楽演奏中心になって、
人声の魅力を忘れ去ってしまっている事だ』
−ジェイミー・ミューア 1972年−

短期間なうえに少ない公演数なので残っている音源も決して多くはないですが、
これらの音源から分かるのはまさしく混沌から秩序を手探りで紡ぎ出している作業の様子と、
それに伴ってこぼれ出た、上記したジェイミーの興味深い発言の意味だと思います。
72年後期の公演はどれも、楽曲の基本となる骨組みが辛うじて残る程度にまで激しく
インプロヴァイズされた演奏(クリムゾンの中では「ブロー」と呼ばれていた)が目立ちますが、
全ての楽曲をそんなふうにはせず、歪んだインプロヴァイズの中に魅力的なメロディと一緒に
ウェットンの声・ヴォーカルを入れる事により、音のイメージをより印象的にするという効果を
狙っていた様に感じます。

思うにこの布陣でのクリムゾンは、純粋に抽象的なサウンドによって創られたインストゥルメンタルな曲と、
具体的な歌詞を持つヴォーカル(人声)を混在させた楽曲の総合的な融合の意味を求めていた訳で、
その為に音声的に美しく聴こえるよう音楽を造形し、
その為に言葉の意味(明らかに意図的な曲名や歌詞)を造形し、
この二つのイメージを合成するという作業に日々明け暮れていたのではないでしょうか。

という訳で、7月後半と9月初旬(記録では4日となっているが、詳細不明)にリハーサルを終えた
5人編成の新クリムゾンは、10月13日〜15日の3日間に渡り、ドイツのフランクフルトにある
有名なZoom-Clubのステージで、初めてその姿を現します。その後、17日までドイツに滞在し、
テレビ番組『Beat Club』に出演した後にイギリスへ帰国。この時のテレビ番組出演の模様は、
レーザーディスク『FRONTIERS OF PROGRESSIVE ROCK (PIONEER LDC SM048-3227)』という
タイトルにもなって後年発売されています(現在は廃盤)。そして11月10日からは約一ヶ月間の
イギリス公演をスタートさせ、12月15日のポーツマスでこの年の全公演を終了しています。


『NO PUSSYFOOTING』 / (BRNX 1479)
Live at : The Zoom Club, Frankfurt. / 1972.Oct.13

アルバムレコーディング前に披露した初日公演という事で、曲の指針がまだ固まりきっていない
不安定で試作的なものが目立ちますが、演奏内容は大変優れており、聴きどころが多い作品です。
冒頭の『Larks' - Part T』はコーダ部がない奇妙なアレンジのものですが、演奏自体は非常に
シャープで切り刻まれる様な曲想を呈しています。Disc1−(3)はこれでもかという程にインプロヴァイズ
されていますが、こうしたジャンクな音に混ざるウェットンの『人声の魅力』というものが
早くもアプローチとして取り入れられている様に思います。
陰鬱なメロトロンで始まるインプロ曲(6)は、次第に激しさを増す中間部からのアンサンブルが強烈。
ラストがフェイドアウトしてDisc−2に繋がっている非常に長い即興ですが、後半のパーカッシヴな
展開はこの5人ならではの表現法だったと思います。またDisc2−3の『Easy Money』も、まさに原石と
言えるほどの初期バージョンで、途中で『Ladies of the Road』の様なフレーズが出てくるのが
印象的です。曲に幾つもインプロを挿入する間奏パートが創られており、美しいコーダとピースフルな
曲想で演奏されている点もかなり興味深いと思います。

続くDisc2−(4)は、後の『Fallen Angel』の主軸メロディが基本構造になっているインプロ。
このメロディが既にこの時期のアイデアとして存在していた事も興味深いですが、
この混沌とした曲想を最終的にあの形に持ってゆくのだから面白いです。
もちろんまだ曲と呼べる状態ではないですが、こうした曲の原石がこの5人の演奏で激しくレイプされ、
最終的に付けられたタイトルが『Fallen Angel』というのは、どこか意図的なものを感じてしまいます。

Disc2−5「Exiles」は、珍しくメロトロンがあまり登場しないバージョン。
まだ曲がテストされているといった状態ですが、ジェイミーとビルが一緒に
ドラムを叩いている様子が分かって面白いです。また、曲の終盤でメロトロンとヴァイオリンで
曲が進行してゆくという珍しい展開箇所があり、この辺りを聴いてもまだまだ曲が完全に
完成していない事がよく伝わってきます。
更に「The Talking Drum」では不気味な風のSEからスタートしており、その後の展開に
かなりぞくぞくさせられます。続く「Larks' Tongues In Aspic - Part U」は巧く引き継がれず、
演奏もまだ少しぎこちない印象がありますが、曲の終盤で何とメロトロンを使用している箇所があって
驚かされます。このため曲の喧騒と激しさは失せ、どこかピースフルな印象を残したまま
終わってゆくという大変珍しい展開がラストで待っています。

さて、ここで気付かなくてはならないのは、セットリストを見ても分かる通り、
過去の曲を全く演奏していないという点でしょう。これは凄いことだと思います。
新たなる旅立ちの演奏として過去を振り返らないという選択は、結果としてその演奏を
自信に満ち溢れた素晴らしいものにしていた様に感じます。パフォーマンスに粗々しさは残るものの、
初日の演奏としては満点と言える素晴らしい公演だと思います。

音質79点。
2CDプレス盤。
『NO PUSSYFOOTING』 / (BRNX 1479 RE)
Live at : The Zoom Club, Frankfurt. / 1972. Oct. 13

前出した『NO PUSSYFOOTING (BRNX 1479)』の再発盤。
ジャケは変更されていますが、収録されている内容と音質は全く同じものです。

音質79点。
2CDプレス盤。
『WALLI ELMLARK』 / (HIGHLAND HL070/71)
Live at :
Disc1〜Disc2−(6): The Zoom Club, Frankfurt. / 1972. Oct. 13
Disc2−(7)〜(9): New Theatre, Oxford, England, UK. / 1972. Nov. 25

Disc1及びDisc2−1〜6は、前出した『NO PUSSYFOOTING (BRNX 1479)』と
『NO PUSSYFOOTING (BRNX 1479 RE)』の同一音源。使用しているマスターも全く同じです。
ただし、本作の方がイコライジング作業のおかげなのか、ジェネレーションの低い
テープを使用している為かは分からないですが、音質が向上して聴き易くなっています。
そんな訳で、本当は本作を"音質が向上した初日音源"という事で冒頭で紹介しようかと
思ったのですが、この日の音源を最初にリリースしてファンに広めたという意義を考慮し、
『NO PUSSYFOOTING (BRNX 1479)』を初日音源の代表タイトルとして冒頭にしました。
ただし、音質は明らかに本作の方が聴き易くイコライジング処理されて向上しているので、
13日の音源をブートで愉しむなら本作がお奨めです。

音質82点。2枚組みプレスCD。
なお、Disc2−7〜9はボーナストラック扱いの11月25日音源。
詳しくは、後述するその日のブート作品の項を参照のこと。
『NUCLEAR FUSION』 / (SOUND INVADER SI-911003)

(ディスク中、(5)と(6)の2曲のみ72年音源)
Live at : Bremen, GERMANY. / 1972. Oct. 17

ブートCDの黎明期にリリースされた一枚。72年、73年、74年の音源が細切れで収録されている
コンピレーションアイテム。72年音源は2曲のみですが、このうち(5)はアナログブートで
この音源が収録されたものは確か無かった筈(カセットテープでのブートはあったと思う)なので、
このブートCDで初めてこの曲に接した人も多かったのではないでしょうか。
17分38秒付近で一部カットがありますが、一応はサウンドボードで収録されているので音質は
なかなか良好です。(6)は、歌詞は完成している(一部あやふやな処もあるにはあるが)ものの、
演奏スタイルはまだまだ発展途上といった感じ。中間部にジェイミーのものと思われる
パーカッシヴな展開が入っているのも印象的です。

現在ではDGMボックスのVol.1に収録された事で(5)が「The Rich tapestry Of Life」
と正式に名付けられましたが、まだこのブートが出た頃は記載の様な適当な
タイトルが各ブートメーカーによって付けられていたのが懐かしいですね。

音質83点。
1CDプレス盤。
『THE MINCE』 / (SIRA-CD 27/28)

(ディスク中、1曲のみ72年音源)
Disc1−(6)Improvisation (The Rich Tapestry Of Life)
Live at : Bremen, GERMANY. / 1972. Oct. 17

ボーナストラック扱いで1曲のみ72年音源が収録されています。
恐らく上記の『NUCLEAR FUSION / (Sound Invader SI-911003)』から
落とされていると思われますが、本作の方が音質は劣っています。

音質79点。
2CDプレス盤。
『THE ULTIMATE LIVE RARITIES - Vol.2』 / (ZA-22)

Live at :(*6) Bremen, GERMANY. / 1972. Oct. 17
6.(Bonus Track)Improvisation* (The Rich Tapestry Of Life)
(1曲のみ10月17日の音源)

ディスク中、記載した1曲のみが10月17日の音源。
この曲を収録したブートの中では本作がズバ抜けて音質が良いです。

音質90点。
1CDプレス盤。
『IMPROVISATIONS』 / (REEL MASTERS - 002)
Live at :
(Disc−1) New Theatre, Oxford, England, UK. / 1972. Nov. 25
(Disc−2) Technical College, Hull, England, UK. / 1972. Nov. 10

クリムゾンファンを驚愕させたウルトラ級の音源。
本作はまず日付け順として、Disc−2の、11月10日テクニカル・カレッジ公演から始めます。
全編信じられないほどの高音質で収録されていて、これを聴いたら狂喜で卒倒してしまうこと
請け合いですが、演奏がそれ以上に劇的に素晴らしいです。
冒頭の「Larks' Tongues In Aspic Part I」は導入部のドラミングが凄まじく、そこに
ジェイミーの掻き鳴らす笛や鉄板を叩きまくるジャンク音が絡み合って強烈です。
また、約2週間後の演奏となるDisc−1の演奏と比べると、この日はヒバリの鳴き声から後の
コーダ部が無くなっており、代わりに「Book Of Saturday」が繋がって演奏されるという
演奏に変化している辺りは実に興味深いところです。

更に面白いのは、通常ならこの時期独特のメドレー形式を繰り広げる
「Book Of Saturday〜インプロ」の流れがこの日は無くなり、(4)のMCが入った後に
(5)がインプロ独立パートとして成立している事でしょう。これは大変珍しい形態だと思います。
しかもこのインプロが約30分(!)も続く非常にアヴァンギャルドかつ繊細な演奏で、
5人編成の醍醐味を極限まで感じさせてくれる素晴らしいものになっており、
聴き終えた後の興奮と心地良い疲労は、筆舌に尽くし難い至福の時を感じさせてくれます。(^_^)
残念ながらその後の「Exiles」は冒頭のみでフェイドアウトして本作は終わってしまいますが、
当時の様子をここまで詳細にレポートしてくれるブートは今後まず出てこないでしょう。

日付が前後して、次はDisc−1の11月25日公演。
ショウ前半パートを約45分にわたり収録されていますが、当時の生々しい空気と会場内の様子までが
開演前からリアルに伝えられており、各楽曲もスタジオ・テイクに近い進化を遂げているのがポイントです。
10月の公演と比べるとスタジオ版にかなり近くなった「Larks' Tongues In Aspic Part I」が印象的で、
ここではアルバムに忠実なコーダ部が付けられているのが特徴でしょう。「Book Of Saturday」も
かなりの変化が見られ、イントロ部分の輪郭が10月公演よりだいぶハッキリとして完成形に近付いて
いるのが分かります。ビルが変に絡まなくなっているのも興味深いですね。ここから雪崩れ込む
インプロパートがまた充実しており、特に8分23秒付近からのウェットンとミューア、ビルのリズム戦は
筆舌に尽くし難いほど凄まじいです。クロスとフリップもそこに絡んで更に盛り上がりを呈しますが、
ほぼ20分にも渡るこのインプロを良質の音で接すると、この5人が当時どれだけ凄まじい演奏をして
いたかがよく分かると思います。「Exiles」もかなり完成形に近付いており、進化の途中経過が
良く分かるドラマチックな演奏です。

今後、これだけ極上の音質でこの時期の音源が登場する事はまず無いと思いますが、
それだけにこの音源は短かった72年後期の様子を色褪せることなく伝えてくれる
決定版と言えるでしょう。よくまぁ、こんな音源が残っていたものです。
本作は300枚のみの限定プレスだそうなので、ファンなら何を差し置いても入手される事を
強くお奨めしますが、発売後直ぐに完売してしまいました。
ただ、あまりにも優れた内容なので再発売を望む声が絶えなかったらしく、
約一年後の2006年春頃に再プレスされました。
音源の少ない72年後期の貴重な資料としても一級品であるばかりでなく、
至高の音を堪能出来る驚愕の発掘音源と言える一枚でしょう。

(※ ウラ話 : その1)
余談なんですが、自分は本CDの内ジャケにも写真が使われている、マスター音源である
オープンリールテープの実物を見る機会に恵まれた事があります(於 : 旧 Dust an Dreams店内にて)。
それで気付いた事なんですが、このオープンリールのカバーケースの背表紙(※ つまり、
CD内側のジャケ画像には写っていない箇所)には、『KING CRIMSON / LIVE 1』と
マジックでタイトルが書かれていました。
恐らくこのマスターを録音した人が書いたと思われますが、
もし『LIVE 2』『LIVE 3』のリールがあるなら発掘が期待されるところですね。

(※ ウラ話 : その2)
また、このオープンリールを1972年12月に現地で録音し、そのまま所持していた方は、
当時とある日本のレコード会社に勤めていた日本人の方だそうです。
これらを録音した両日も、当時のクリムゾンのライブを日本で独自に発売が出来ないかと
企画を立てていて、その企画の為にライブを録音したサンプル音源を日本に持ち帰る必要があり、
こうしてわざわざイギリスに録音をしに行ったそうです。
本作はその時の音源なのだそうですが、企画段階で終わってしまったとはいえ、
日本のレコード会社でそうしたライブ盤の企画が実際に持ち上がっていたという事実も
非常に興味深いエピソードだと思います。

当然、ライブを録音するにあたってはフリップの許可も取っているでしょうから、それでこれだけ
コンディションが良い、極上の録音状態で音が残っていたそうです。

以上、僕が直接見聞きして知っているこの音源についての裏話でした。

音質95点。
2CDプレス盤。
『THE ULTIMATE LIVE RARITIES - Vol.2』 / (ZA-22)
Live at :
(1〜5) New Theatre, Oxford, England, UK. / 1972. Nov. 25
(*6) The Beat Club, Bremen, GERMANY. / 1972. Oct. 17

前出『IMPROVISATIONS / REEL MASTERS-002』のDisc−1と同内容。
ただし音質は本作の方が圧倒的に悪いうえ、(4)のインプロの13分06秒辺りに一部カットの様な
音飛びがあります。『IMPROVISATIONS / REEL MASTERS-002』がリリースされるまでは本作が
11月25日公演の記録となる貴重な資料でしたが、今はもうその役を終えて、
ハードコレクター向けのアイテムと言えるでしょう。(^_^;)

でも、『IMPROVISATIONS / REEL MASTERS-002』は300枚の限定プレスだった上に
既に完売となっているので、当日の内容を聴くなら2006年5月現在は本作しか手段が無い事から、
需要はあるのでしょう。本作も現在は廃盤となっていますが、中古盤では割とよく見掛ける一枚です。

なお10月17日音源の項で前出した通り、ボーナストラックの(6)は
この曲を収録したブートの中ではズバ抜けて音質が良いです。

音質76点(※サウンドボードの(6)のみ90点)。
1CDプレス盤。
『MAD KING CRIMSON』 / (KC-008 A)
Live at :
Disc−1 / Greens Playhouse, Glasgow, England, UK. / 1972. Dec. 1
Disc−2 / Guildhall, Portsmouth, England, UK. / 1972. Dec. 15

12月公演が2つ収録されているブートCDの古典タイトルで、
Disc−1にここで扱う12月1日のグラスゴー公演が収録されています。

演奏にやや余裕が出てきたのか、「Larks' Tongues In Aspic - Part T」は
ぼんやりしていた曲の輪郭がかなりはっきりと浮き出てきた事が分かります。
(3)のインプロは、前出の11月25日公演『IMPROVISATIONS / REEL MASTERS-002』
や『THE ULTIMATE LIVE RARITIES - Vol.2 / ZA-22』で聴けるものと導入部が同じで、
ある程度基本的な骨組みが存在したインプロ曲であった事が分かります。

「Exiles」は、この日は導入部が長めにインプロヴァイズされていてまだ曲想を固めきれて
いない印象がありますが、続く「Easy Money」になると飛躍的にスタジオテイクに近い演奏を
しています。(5)のインプロは東洋的なメロディが印象的で、全体的に"綺麗な小品"といった曲想の
ものですが、曲の終盤でそれをぶち壊すかの様なミューアのパーカッション・パートがあって、
途端に暴力的なイメージへと変化しているのがとても面白いです。

続くDisc−2の12月15日は、ツアー最終日の音源。後述する15日音源
『COSMIC MUIR (Highland-HL138#KC7)』や『THE ULTIMATE LIVE RARITIES - Vol.1 (ZA-21)』と
同一音源なので、これについてはそちらを参照のこと。

尚、Disc−1の12月1日の音源は『GLASGOW 1972』というタイトルの同一音源ブートが
存在するらしいのですが、残念ながら僕は持っていないので音質の比較が出来ません。

音質82点。
紙ジャケ(E式ダブル)仕様2CD・プレス盤。
『THE WIDE RECEIVER - LIVE 1972』 / (SOILY 008-009)
Live at : Rainbow Theater, London, England, UK. / 1972. Dec. 13

「Larks' Tongues In Aspic - Part T」は導入部の静かな箇所も丁寧に再現した演奏。
中間部の後半は音楽が拡散→ヴァイオリンソロという72年後期独特の展開で繋いでおり、
このヴァイオリンソロも後半部分でゆっくりと音を溜めながら弾いていて印象的。
終曲部もギターのアルペジオ+ヴァイオリンという独特の締め方を暫く続けていて
とても面白いです。
「Book Of Saturday」はまだまだプロトタイプ的なイメージが色濃い陰鬱なもの。
ボーカルの音程も若干不安定な箇所があるうえ、「ルルルール・・・♪」のアプローチが
違っているのもこの時期ならでは。またギターのメロディが非常に美しく奏でられており、
その辺りも聴き処だと思います。そして当然、終曲部はそのままインプロへ。

そんな「Book Of Saturday」終曲部から繋がるこの日一曲目のインプロは
序盤からウエットンの図太いベースラインを主軸に展開するスリリングなスタート。
ヒステリックなヴァイオリンとジャジーなギターがなかなか良いテイストで絡んでいますが、
恐らくミューアと思われる奇妙な音(・・・何だろうこれ?鉄板か何かをスティックで
こすってる音?)も途中で入ってきてアヴァンギャルドな様相を強めています。
やがてギターが前面に出てきて暫くミドルテンポでノイジーなジャムが続きますが
5分03秒付近からスローテンポになり曲想が変化。時折強いアタックで入ってくる
ベースがアクセントになり、そのベースのアタック音を軸にして曲のイメージが更に
歪められてゆく様子は強烈。8分06秒付近からはウエットンらしい攻撃的な
リズムアプローチがより前面に出てきて大変緊張感のある曲想を作っています。
インプロは終盤で音をグチャグチャに、そして何度も音を叩き付ける様にして終わりますが、
それと同時に重苦しく出てくるのが「Exiles」のメロディー。
この「Exiles」が犯罪的なまでに甘美で素晴らしく、ヘヴィ+リリカルで
物凄く聴き応えのあるパフォーマンスとなっています。これはファン必聴テイクでしょう。
3分41秒付近から突然入ってくるベースのチョッパーも凄まじくカッコイイです。

この日の「Easy Money」はややアップテンポ気味(ピッチが狂っているせい?)。
ギターのアプローチがかなりユニークで、序盤から一定間隔で刻まれる和音や単音の
絡みがねちっこく、他日で聴ける演奏とはかなりイメージが違っています。
またこの日も終曲部直前の歌詞「♪Just Making, Easy Money...」の部分の
"Just Making"を歌っておらず、単に「♪ Easy Money...」で締めています。

そんな「Easy Money」終曲と同時に始まるこの日2曲目のインプロは
鉄筋をカンカンと叩くミューア(だと思う)の音でスタート。暫くの間、
スネアの端っこやらカウベル(?)やら鉄筋やら木琴(だと思う)を叩く
ミューアとビル、そしてフリップ(ギター単音・ミュート気味)の
リズミカルなアプローチがあり、途中からベースも参加して聴き応えある
ジャンクサウンドが展開しています。
やがて各楽器音が散逸すると静かで不気味な神秘系のイメージに変容し、
8分20秒付近からはギターとヴァイオリンと鉄板こすり(?)で悲鳴の様な音を
暫く出し合っているシーンに突入。10分19秒付近では突然鉄板を叩き、
曲想にショッキングなイメージを挿れているミューアの様子も確認出来ます。
その後も各楽器の気だるい対話(しかし張り詰めている場の空気は感じられる)が続き、
明確な突破口を見出せないまま奇妙なノイズを張り上げて終曲。
・・・終曲・・・はしているのだけど、よく聴くと静寂の中で
風の音(恐らくメロトロン)が微かに聞こえており、やがて遠くから
ビルの叩くコンガ(たぶん)の不気味で軽快なリズムが浮かび上がり、
そのままおごそかに「The Talking Drum」へ繋がっています。

「Larks' Tongues In Aspic - Part U」は、前曲「The Talking Drum」終曲部の
歪んだノイズから繋がるブリッジが幾分スムーズになった印象があり、ぎこちなさが
希薄になっていると思います。演奏そのものも素晴らしくラウドでジャンクな
様相を剥き出しにしていますが、やはり10月の演奏と比べると若干整理された感じもします。
とはいえ後半部のヴァイオリンソロはこの日も混沌としており、殆どヒスノイズの様な
音で装飾しているのがこの時期らしいですね。(^^;)

ビルがカウントを4つ入れてから始まる「21st Century Schizoid Man」は
とてもパワフルで、序盤でウエットンも声を張り上げてエネルギッシュに歌い上げてます。
中間部のインプロパート終盤で聴ける全楽器でのユニゾンは完璧にアンサンブルが合っており、
この部分は大変聴き応えがあると思います。
・・・ところで、ここにきてようやくセットにこの曲が組み込まれている訳ですが、
5人編成でのこの演奏は素晴らしいものがあり、特にジェイミーの創意に溢れた
パーカッションが目立っているのが面白いと思うし、驚かされるのは彼の
ドラム・スタイルがこの曲に非常に合っている事ではないでしょうか。
オリジナルで叩いていたマイケル・ジャイルズも非常にアヴァンギャルドな
ドラミングをする人だったのでジェイミーの表現はオリジナルのそれに近いと思いますし、
それどころかこの曲を更に高い別の次元へと昇華させている感じがしてなりません。

最後に、収録されている音質とクオリティについて触れておくと、
まず全体的にピッチが速めで収録されているので、ピッチコントロール付きの
再生機があるとより安定した音で楽しめると思います。演奏音は若干遠く、少しこもった音で
収録されており、抜けがいまひとつなのも難でしょうか。
また「Easy Money」の開始直後(00分28秒付近)で急に音のレベルが(そしてピッチも)変わって
いるのだけど、これが使用したテープの劣化なのか、それとも別の同日テープを使って継いだ
編集跡なのか、僕にはちょっと判別付きませんでした。

尚、蛇足ですが北村昌士さんの名著「キング・クリムゾン 至高の音宇宙を求めて」には
この日のちょっとしたエピソードが語られています。それはこの日の演奏前、タチの悪い
オーディエンスから「早くやれ!!」というヤジが投げられ、これに憤慨したフリップが
機嫌悪そうに一人でステージに出てきて
「そんな客の前で演奏するのは願い下げだ。静かになったら演奏してやる」
とステージから言い返したというもの。
残念ながらそのシーンはここに収録されていませんが、しかしそうしたやり取りで
会場が「静かに」なった後からここで聴ける演奏が始まったのだと思うとより一層
楽しめるし、そしてより深く入ってゆけるんじゃないかと思います。(^^)

音質75点。
2CDプレス盤。

『LONDON DECEMBER 13, 1972』 / (BLUE-178)
Live at : Rainbow Theater, London, England, UK. / 1972. Dec. 13

上段↑で紹介している『THE WIDE RECEIVER - LIVE 1972 / (SOILY 008-009)』と同内容。
元となっているマスターテープは本作も『THE WIDE RECEIVER - LIVE 1972』と同じものが
使用しているのですが、どうも音を聴き比べると収録に使用されたテープは別の経路で
伝わってきたものが使用されている様です。
大まかに言って本作は『THE WIDE RECEIVER - LIVE 1972』と比べて

(1).収録時間
(2).編集の痕跡
(3).右チャンネルの音の欠落とヒスノイズの有無

・・・が違っています。
また本作は音像がやや右寄りで収録されているのも特徴(・・というか難点)です。

細かく見てゆくとまず(1)の収録時間ですが、
本作は『THE WIDE RECEIVER - LIVE 1972』と比べて収録時間が短いです。
『THE WIDE RECEIVER - LIVE 1972』では収録されている
ディスク冒頭(トラック1)の開始〜00分45秒付近までの約45秒間が、
本作ではカットされて聴けません。
ちなみにこの失われた約45秒間には

(a) SE音が流れている(メロトロンかギターの歪んだ音。"No Pussyfooting"ではない)。
(b) そのSE音の中で突如大歓声と拍手が贈られているシーンがあり、これはステージに
上がってきたと思われるメンバー5人の登場シーンだと思われる

・・・が含まれていて、この(a)と(b)のシーンが本作では聴けないという事です。
2枚組ディスクですし、それぞれのディスクの収録時間もたっぷりある筈ですから、
これがカットされているのは収録に使用したテープが恐らくそうなっていたからでしょう。

次に(2)の、編集の痕跡についてですが、本作は「Book Of Saturday」開演前
(トラック2 / 2分17秒付近)に一瞬カットがあり、「Exiles」の2分52秒付近でも
不思議な切り貼りの痕跡があります。"不思議な"と書いたのは、カット部(c-1とする)から
直ぐにリカバリーされる演奏(c-2とする)が、(c-1)から数秒巻き戻した箇所から
再び始まっているからで、何故ここに編集跡があるのか謎です。

そして(3)ですが、まず本作は「Easy Money」後のインプロ後半19分25秒付近〜33秒付近、
及び19分44秒付近〜20分11秒付近まで右チャンネルの音が欠落しており、この部分のみ
左チャンネルのみの音で収録されています。
また「21st Century Schizoid Man」では5分37秒付近から「キチャッ、キチャッ...」という
収録に使用したテープの劣化に起因すると思われる奇妙なノイズが入っており、
これがディスク終了まで続いています。

更にもうひとつ言わせて貰えば、本作はインプロ曲にチャプターが割り振られていません。
だから「Book Of Saturday」と「Easy Money」の、それぞれの曲の後に続く
インプロまでもが一曲として換算されており、各曲を単体で聴けないという点も不親切です。

・・・と、長々と書いてしまいましたが、
こうした理由から音質と収録内容のクオリティは
73点ぐらいが妥当かなと思います。
2CDR。


尚、本作および『THE WIDE RECEIVER - LIVE 1972』の同一音源タイトルとして
『LONDON 72』というタイトルも存在しているのですが、残念ながら僕は
買いそびれて持っていない為、内容の比較が出来ません。
悪しからず。(-_-;)

『PORTSMOUTH DECEMBER 15, 1972』 / (BLUE-084)
Live Date : Guildhall, Portsmouth, Hampshire, England, UK. / 1972. Dec. 15

ジェイミー在籍時のポーツマス公演を収録した有名な古典ブートレグ。
オープニング「Larks' Tongues In Aspic Part T」だけ未収録ですが
それ以降はエンディングまでフル収録されており、ミューアのパーカッシヴな
イントロを伴った独立したインスト・プレイが延々と聴けるのが魅力です。
DGMにも存在しないレア音源で、この時期のワンステージが存分に愉しめる
音源だと思います。そしてこの日は1972年度の最終公演日でもあります。

冒頭の「Book Of Saturday」は、歌詞2番辺りからのフェイド・イン。
途中の「♪ル・ル・ル、ルールルー・・・」というハミング的な歌詞のある箇所は
まだ若干不安定で、試作段階にあることを伺わせます。しかし曲の輪郭はかなり
はっきりとした変化を遂げていて、スタジオテイクに近くなっています。
この終曲部から続く(2)のインプロはかなりアヴァンギャルド。
出だしは静かなフレーズで厳かに始まりますが、4分50秒付近から強いベースラインが
入ってきて次第にハードな曲想+ファスト・テンポに。ウエットン×ビルの
鉄壁リズム隊に加え、終曲付近ではクロスのヴァイオリンが
前面に出て他の4人を引っ張っているのも特徴です。

「Exiles」は、中盤から後半にかけてのウェットンの絞り込む様な歌い方が、
後年のエイジア時代を思わせる様な表現で興味深いです。
曲中盤、2分09秒付近から入ってくる鉄板をこする音(だと思う)はビルとミューアの
どちらがやっているのか分かりませんが、明らかに73年以降よりも派手で目立っているのが
面白いと思います。それにしてもこの曲想のうねり具合と浮遊感・重厚感は72年後期独特の
ものがありますよね。

続く「Easy Money」はまだ不安定なメロディーラインで展開していますが、
パンチのある出だしから一転してこの日はおごそかな雰囲気で演奏されているのが
とてもユニークです。一定間隔で発するフリップの印象的な和音も印象的ですし、
彼らしい奇妙なフレーズが幾つも飛び出す珍しいテイクにもなっていると思います。
2分40秒付近から始まる中間部はインプロヴァイズで引き伸ばされており、
チャカポコ・バイーン・シャリーン・チリーンと、奇妙なサウンドを入れてくるミューアの
動きがいちいち面白いです。まったくもう"72年後期独特のサウンドイメージここに極まれり"
・・・という感じですねぇ。素晴らしい。(^^)
ちなみにこの日の演奏でも終曲部直前の歌詞「♪Just Making, Easy Money...」の部分の
"Just Making"を歌っておらず、単に「♪ Easy Money...」で締めています。

そして当然、この「Easy Money」はコーダがインプロヴァイズされ、そのまま
次のインプロ曲へ雪崩れ込んでゆきます。この日のこの部分のインプロは混沌系。
5人が様子を伺いながら次の一手を模索している様子がビシビシ伝わってきますが、
ここでもミューアが変な打音をしきりに放っていて凄く面白い。(^^)
フリップのギタースライドを軸として鳥の鳴き声や鉄琴、鉄板などを駆使した
ミューアの狂想音が延々と鳴り響きます。ミューアはこうしたジャンクな音の乱発に
伴って音を探すように動き廻る事について、当時や後年のインタビューで
"インドの、ヴーンと鳴る楽器が私の頭の中で鳴って、それで私は動かされている"
・・・と語っていましたが、ここでのプレイもそうした呪術的とも思える観念が
音となって存在しているかの様です。

16分33秒付近からは更に曲想がアヴァンギャルドに変化し、終盤24分17秒以降からは
人の悲鳴(誰の声か不明)のやり取りが交わされる珍しいパートもあり(これもまた、
ミューアが語るところの"人声の魅力"だろう)、やがてスズメバチの羽音の様なノイズと共に
「The Talking Drum」が始まっています。そしてこの「The Talking Drum」はコンガの音色で
始まるという大変不気味なもの。そして曲の繋ぎがまだ未完成なまま金切り音と共に
いきなり始まる「Larks' Tongues In Aspic - Part U」は冒頭からツインドラムで迫力満点です。
中盤〜後半にかけて(6分25秒〜)ミューアが鉄板を叩きまくっており、曲は更にジャンクで
アヴァンギャルドな様相を呈して終曲。この後半の展開、凄まじいですよね。(^^;)

「21st Century Schizoid Man」は、事実上72年度最後の演奏。その為かどうか分からないですが
ここでの演奏は単にお馴染みの曲をアンコールプレゼントとして披露しているのではなく、
「このツアーで培った現在(72年時)の手法を、過去の曲でテストしている」といった印象があります。
中間部に於けるフリップの狂った様なギターフレーズ、悲鳴の様なクロスのヴァイオリン、
そして轟音の様に攻め立てるリズム隊のアンサンブルはまさに圧巻。
原曲の基本骨格はきちんと踏襲しながらもその表現は意図的に現在(72年時)の手法に
置き換えられているかの様で、実に興味深い演奏だと思います。

音質80点。
演奏内容100点。
1CDR。
『COSMIC MUIR』 / (Highland-HL138#KC7)
Live at : Guildhall, Portsmouth, England, UK. / 1972. Dec. 15

同一音源に、上段で紹介してある
『PORTSMOUTH DECEMBER 15, 1972 / (BLUE-084)』
及び、下段で紹介している
『THE ULTIMATE LIVE RARITIES - Volume 1 (ZA 21)』
及び『MAD KING CRIMSON (KC-008 / Disc−2)』があって、
どれも同一のマスターを使用しています。

名門Highlandレーベルから出ていたブートCDの古典タイトルですが、
今となってはもうハードコレクター向けの一枚と言わざるを得ないと思います。
クリムゾンのブートCD黎明期では本作が一番音質が良かったのですが・・・。

音質76点。
1CDプレス盤。
『THE ULTIMATE LIVE RARITIES - Volume 1』 / (ZA 21)
Live Date : Guildhall, Portsmouth, Hampshire, England, UK. / 1972. Dec. 15

同一音源に、上段で紹介してある
『COSMIC MUIR (Highland-HL138#KC7)』
及び『PORTSMOUTH DECEMBER 15, 1972 / (BLUE-084)』、
及び下段で紹介している
『MAD KING CRIMSON (KC-008 / Disc−2)』があって、
どれも同一のマスターを使用しています。

上記タイトルも含めて聴き比べてみると
本作は一番音が遠く収録されており、
音質もどこか平たくて線が細い感じがします。
個人的には本作が一番音が劣っている様に感じました。

ブートCD黎明期から存在する古典タイトル(確か1992年頃の
リリースだったと思う)ですし、リリース当時はそこそこ人気もあった
タイトルですが、現在はもうハードコレクター向けの一枚なのかな、これは。(-_-;)

音質73点。
1CDプレス盤。
『MAD KING CRIMSON』 / (KC-008 B)
Live at :
Disc−1 / Greens Playhouse, Glasgow, England, UK. / 1972. Dec. 1
Disc−2 / Guildhall, Portsmouth, England, UK. / 1972. Dec. 15

Disc-2に、15日音源が収録されています。
同一音源に、上段で紹介してある
『THE ULTIMATE LIVE RARITIES - Volume 1 (ZA 21)』
及び『COSMIC MUIR (Highland-HL138#KC7)』
及び『PORTSMOUTH DECEMBER 15, 1972 / (BLUE-084)』があって、
どれも同一のマスターを使用しています。

音質面で言うと本作は最初から最後まで右チャンネルが極端に弱く、
殆ど左チャンネルのみで収録されているのが最大の難点。
また冒頭「Book Of Saturday」も歌詞2番の途中からフェイド・イン収録
されており、上記3タイトルと比べて約30秒程度短いのも難点です。

本作はクリムゾンのブートCDを数多く出していた"KCレーベル"の古典タイトルで、
紙ジャケ仕様・プレス盤というのはアイテムとしては魅力的なんですが、
やはり左チャンネルのみというのは収録音に難ありと言わざるを得ません。
でも音そのものはなかなか良いんですけどね・・・(-_-;)

という訳で、今となってはハードコレクター向けの一枚だと思います。

音質74点。
紙ジャケ(E式ダブル)仕様2CD・プレス盤。