町田ひらくコミックスリスト2

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「11.1」 「11.1」

 町田ひらく久々の単行本。「green-out」以来実に2年ぶりだ。しかし、その描写はまた鋭さを増し、クールに澄み渡っている。この単行本では少女だけでなく「勇者のはつ恋」などで大人の女性を描いているものの、基本的なテイストは変わらない。町田ひらくの作品には、安易なごまかし、癒し、救いがない。その分、これまたドラマチックに修飾された悲劇もない。退屈な日常の中の、苦く夢のない絶望がひたひたと迫る。それはいかにも手の届くところに存在しそうなものだ。だからこそ絵空事ではあっても、読む者に後味の悪さを与えてくれる。

 今回の収録作品を見ると、「とくにコレ」ってものがない。といってもいい作品がないってわけではもちろんなくて、どの作品も実に町田ひらくらしくて、クオリティが高いからだ。それぞれのあらすじを説明する必要もとくに感じない。それはどんな話であっても、絵と語り口でもって町田ひらくらしいモノにできてしまっているからだ。表現の美しさは今さらいうに及ばない。一つの光景を、印象的に切り出す構図取りや突き放したような作画は冴え冴えとして、まるで冬の空気のようなピリピリとした緊張感を持っている。少女たちを美しく気高く描けるからこそ、それが穢されたときの絶望感も身に迫る。他に媚びることなく、凜とした作風は、凡百の漫画とはやはり一線も二線も画する。頭悪い書き方で申しわけないのだがカッチョいいのである。

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「green-out」

 見てのとおり、なんとも意表をつくライトでポップな表紙。成年コミックマークが付いていなかったら、この表紙を見てエロ漫画だとはとても思えないだろう。今回は町田ひらくの単行本としては初めて、町田ひらくによる自作解説が付いている。これを余計と見るか、うれしいおまけと見るかは人それぞれだと思うけど、「阿修羅満開」の解説で、姪に電話口で「いちねんせいになったら」を歌ってもらったというのはいい話だなーと。あと、後書きにも出てくる、この姪とのお話もなかなかジンとくる。

 今回の単行本の核になっているのは、全4話収録の「お花ばたけ王朝紀」。母親とその情夫が毎日毎日繰り広げる浅ましい情事を見せつけられながら日々を過ごす少女・千秋。その醜さを嫌悪しつつも、淫らな想念は千秋に植え付けられていく。情夫(ちんぽのでかい醜悪なオヤジ)は千秋にも手を出そうとするが、まだ性器の小さい千秋はなかなかオヤジのデカチンポを受け容れることができない。その千秋の親友の窓花は恵まれた家に育ち、優しい婚約者までいた。窓花の清らかさ・幸福さに触れるにつけ、自分のみじめな境遇を振り返ってしまう千秋は、窓花を穢そうとする……って感じのあらすじ。
 今回の収録作品の中ではやっぱりこの作品が一番。悲惨な状況にある少女に対して、入れ込むでもなく突き放すでもなく、「ただそこにある絶望」を淡々と細かく描いていくさまはさすが。町田ひらくの特徴である、「乾いた絵」「映画的な視点」はもちろん健在。

 このほかの短編では「深海人魚」が、町田ひらくにはめずらしいホモショタもの。いつもの作品と雰囲気はあんまり変わらないけど。
 あとは「青空の十三回忌」も町田ひらくらしい作品。主人公の厚志は現在、教育実習生をしている。そして、その教え子の少女が自分を慕ってきているのだが、彼にとって「12歳の少女」には複雑な想いがあった。10歳のころ、近所の2歳年上の少女が変態にさらわれて暴行されたらしいがその後遺体が見つからずという事件があった。「まだ生きているかもしれない」「でもたぶん死んでいるだろう」。そんな想いの間で彼は13年間揺られ続けていた。そして今、彼女と同い年の少女を前にしている。ラストの皮肉な結論、それから過去をオーバーラップさせながら進めていく話の構成はいつもながら見事。

なお、初版本では58ページと59ページの内容が入れ替わっているそうなのでご注意を。
「green-out」

一水社・いずみコミックス50
初版発行:1998/09/09
ISBN:ISBN4-87076-245-5 C9979
価格:860円(本体:819円)
判型:A5

●収録
「GUNと標的」
「青空の十三回忌」
「お花ばたけ王朝紀」全4話
「深海人魚」
「阿修羅満開」

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「Alice Brand」

「Alice Brand」
  • 出版社:コアマガジン
  • シリーズ:ホットミルクコミックス92
  • 初版発行:98/11/16
  • ISBN:ISBN4-87734-220-6 C0979
  • 価格:本体1000円+税
  • 判型:A5
タイトル初出
「Requiem White」'96・10 マシュマロくらぶ vol.2
「ASKARIAN」'96・6 アリスの城 vol.5
「Fairy's tale」'97・9 ホットミルク
「ROSWELL ANGEL」'96・12 マシュマロくらぶ vol.3
「アンフェール藝術院」COMICアリスくらぶ vol.5
「Shelter "pure"」COMICアリスくらぶ vol.1
「small small lady」'95・9 アリスの城 vol.1
「アンネリーゼの水晶球」'96・2 アリスの城 vol.3
「光の王国」COMICアリスくらぶ vol.3
「Cyanos Fortress」COMICアリスくらぶ vol.4
「A Water Girl」COMICアリスくらぶ vol.6
「高原天上楽」COMICアリスくらぶ vol.7
「夏の栞」'96・11 ホットミルク

 コアマガジンからは初の単行本。ロリ系のアンソロジーである「アリスの城」「マシュマロくらぶ」「アリスくらぶ」に掲載された作品を中心に収録されている。この単行本に掲載された作品で共通しているのは、「夏の栞」を除いてヒロインの少女が外国人(日本人から見て)であること。町田ひらくの描く少女はもともと非常に素っ気ない目つきをした、人形のような硬質な美しさを持っているが、それだけに外人さんがピッタリとハマる。エキゾチックな魅力をたたえている。表紙はますますエロ漫画っぽくないシックなものになっている。裏表紙も非常に上品。
 今回掲載の作品は町田ひらくらしい抑えた表現の中に、ちょっぴりの皮肉、ユーモア、諦念、ロマン、夢、不安、悪意といったたくさんの要素が、それぞれ少しずつ詰まっている。その中のどれかに偏るのではなく、いくつもの要素が絡み合って高いレベルで結実しているのが町田ひらくの非凡さの一つである。

 どの作品がとくにいいかというとセレクトに困る。どの作品もそれなりによくできているのだ。以下にいくつか気に入ったものを挙げるが、どれを読んでもそれなりに楽しめると思う。
 自分の娘が姦淫されているところをスケッチして裏の画壇の寵児となった男が、死の間際に自分の娘の絵を完成させる「Requiem White」。絵で身を立てるために自分の娘を売り、結局は自分の破滅を招いた画家の業が深くていい。ラストにもたらされるほんの少しの救いが時すでに遅しという無常感を感じさせる。
「アンフェール藝術院」では、伏し目であらぬところを見つめる少女の絵を見ていた少女が、その絵の奇妙さを指摘する。彼女は実はタチの悪い男によって犯され、その様子を東洋人向けの少女ポルノに撮影されている。彼女が指摘した絵から、ルネサンス時代の暗部にも思いをはせる陰鬱な雰囲気ある作品。
 男を拒むアリスと汚れたピーターの物語「Shelter "pure"」は舞台仕立ての構成。セリフの小気味良さ、くるりくるりと話を転がすテンポの良さなど、町田ひらくの技巧を感じさせる逸品。
 1900年代初頭、チベットに探検に出かけた文豪のアイザックの死に対する嫌疑で逮捕され獄死した同行の出版業者・オスカーの子孫が、その事件の真相を確かめんとしてチベットを行く「高原天上楽」は、オリエンタルな魅力を持つ少女が美しく、また因果応報を感じさせるストーリーが秀逸。

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