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アスペクト・ASPECT COMIX
ISBN:ISBN4-7572-0153-2 C0979
価格:880円+税
初版発行:98/09/04
判型:A5
→新谷明弘ホームページ
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一部のマニア筋の間では、単行本の発売が待ち望まれていた新谷明弘だが、その願いが叶った初単行本。
新谷明弘の絵柄は垢抜けてないし、人によっては野暮ったく感じるかもしれない。しかし、線の末端までかっちり描かれた画風は実に丁寧。眺めているとホッとする、そんな懐かしさがある。学校の机や、教科書の隅に描かれたパラパラ漫画、そういった手作りの楽しさがあふれた絵柄なのだ。お話も絵の雰囲気そのもの。派手さはないんだけれど、各所にきっちりと遊びや仕掛けが施されていて、読んでいて実に楽しい。たぶん描いているほうも楽しいんじゃないだろうか。
「未来さん」は、いずれ訪れるかもしれない未来における、主人公・亜鉛子の生活を描いている。人々の持つ、「こんな未来が来たらいいな」という漠然としたイメージ、ちょっと子供っぽい期待。それをそのまま作品として定着させたような作品だ。
なんといっても素晴らしいのが、プリミティブなサイエンス魂とでもいうべきもの。
- 甘・辛・塩・酸・苦の五つの味を一つのブロックにし、味覚分離器で好きな味を好きな割合で抽出できる万能調味料
- 冬の間にしかけておいて冷気を吸収し、夏になったらその冷気を放出して部屋を冷房する「蓄冷機」
- バレンタインデーに贈られる、いかに無駄で複雑な構造を作るかを主眼に置いた「謎機械」
- 薬の錠剤のようなカプセルで販売されている、水力・火力・地熱・核融合といったエネルギーから作られた電力(ちなみに電力屋さんは屋台を曳いてそれを売りに来る)
といった、無邪気で科学的浪漫を燃え上がらせるアイテムがいくつも登場する。こういった空想科学的なところと、味わいのある垢抜けない絵柄からは、「西岸良平の正当なる後継者」って雰囲気も醸し出している(そんなこと考えるのは俺だけ?)。
全体を通じて、楽しく気楽にお話は進んでいくが、ラストはなかなか考えさせられる。憧れる夢の未来。でも、個々の人間は憧れるだけで何もできないのではないか? 人に踊らされて進み続けても落とし穴が待っているだけだし、何もしないでいればそのまま老いていくだけ。結局人間は個々の力ではどこにも行けない。未来とは残酷な幻影なのかもしれない。
それでも、それでもやっぱり誰かが何かをしない限り、憧れの場所は近づいてこない。自分には大したことはできないかもしれない。憧れの未来は来ないかもしれない。それを知りつつも、「いつかはきっと……」というその「いつか」を強く信じ続ける、そんな「絶望から始まる根源的な楽天性」が、ラストシーンから強く感じられた。俺は非常に感動した。
「未来さん」以外の作品でも、いくつかの短編や、コミックビームで「未来さん」の前に連載されていた「学園委員シリーズ」も個性的ですごく面白い。「未来さん」が売れれば、そのあたりの作品も単行本化されるかもしれない。っていうか、俺はそこらへんの作品がすごく読みたい。だから、これを読んで多少なりとも興味を持った人は「未来さん」を買うべし。まだそれほど多くないであろう新谷明弘ファン(俺も含む)のためにも。
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