オス単:2002年6月の日記より


 このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。

 日記形式だと、どうしても日にちが過ぎてしまうと大量の過去ログの中に個々の作品が埋もれてしまうため、このコーナーではダイジェスト的にまとめてみました。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則としてしませんので、普段日記を読んでくださっている方にとっては読む意味がないかもしれません。手抜きといえば手抜きなんですが、まあその点はご容赦ください。

 なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でもどんどん入れていきます。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、わりと省略しがちです。


▼女性向け

【単行本】「ラブレター」 アルコ 集英社 新書判 [bk1][Amzn]

 待ってました! 「スターレスブルー」[bk1][Amzn]に続く、アルコ2冊目の作品集。自分の少女漫画歴は非常に浅くて、まだ読み始めてから3年くらいしか経ってないのでこんなこというのもなんなんだけど、その乏しい読書経験の中で最もインパクトを受けた少女漫画の読切が、この単行本の表題作である「ラブレター」だった。

 「ラブレター」のストーリーは少女漫画としては実にありふれている。でもその表現が素晴らしい。学校の先輩に憧れラブレターを書いてはみたものの、思いきって渡すことができない。なんとか話のできる間柄にはなっても肝腎なことには触れられない。そんな少女の気持ちを描いていく。序盤はコミカルにお話は進み、後半に行くに従って恋という衝動を映し出す描写がどんどん透明感を増し純度が高まっていく。とくにラスト5ページの素晴らしさには鳥肌が立つ。それからこの作品は言葉がいい。「走る姿が」「とてもきれいだと思いました」という冒頭の言葉から始まり、主人公の少女視点からの、つたないけれど想いがいっぱいにこもったセリフの数々は、濾過され凝縮された純度の高い片想いのトキメキ、切なさに満ちあふれている。ほかの4作「ハローグッバイハロー」「みずいろ」「BACK MY HEART」「フォーゲットミーノット」もそれぞれいい作品なんだけど、やっぱりここは「ラブレター」。強くオススメします。


▼一般

【単行本】「ブラックジャックによろしく」1〜2巻 佐藤秀峰 講談社 B6 [bk1][Amzn:1巻/2巻

 超一流の大学病院の研修医・斉藤英二郎の目を通して、現代の医療の現場におけるさまざまな歪みを見つめ、それに対して行動を起こす彼の姿を描いていく。佐藤秀峰といえばヤングサンデーで連載された「海猿」においても激情あふれるアツいドラマを展開していたが、こちらもまた医療という人間の生死を預かる最前線の戦場というべき場を舞台としており、情熱的な作画、作劇が生きて非常にドラマチックな作品となっている。とくにとある心臓病患者をめぐり、大学病院内で絶対的な権力を持つ医局に対して、斉藤が刃向かっていくエピソードはボルテージが高くてものすごく読みごたえがある。このエピソードが語られるのが1巻の終わりのほうから2巻にかけて。というわけなので2巻同時発売はちょうど区切り良くまとめて読めるのでありがたかった。それにしても佐藤秀峰の作品を読むと、正攻法でドラマを語っていくことの強さを改めて感じさせてくれる。命とは、医者のできることは、患者との関わり、医療制度の抱える問題点……といった大きな命題に対して真っ向からぶつかって、安易にいいお話とかに仕立てちゃわないところが素晴らしい。

【単行本】「もっけ」1巻 熊倉隆敏 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 田舎の町に暮らす、霊感の優れた体質である姉妹、それからそのおじいちゃんの物語。小学生である妹の瑞生はすぐ妖怪に憑かれてしまいがちで、女子高生の姉・静流はそれらのものが常人よりもはるかに見えてしまう。おじいちゃんはそれらのものと長く接しおり、霊的なものとのつき合い方をわきまえている。そんな中で霊的なものと関わりながらの日常を、ゆったりと描いた佳作。霊的なものを扱ってはいるけれども、別に手から怪光線を出したり戦ったりするでなく、日常の中に普通にあるものとして折り合いをつけながらうまくやっていくさまを穏やかに描くアプローチは、派手ではないけれどもしみじみとした読み心地。絵も非常に好感度が高くて、人物についてはなめらかで親しみやすいタッチ、それから自然の描写のほうは細かく美しく。タッチが違うのでキャラクターの存在はしっかり浮かび上がるけれども、違和感とかは全然なくしっくりなじんでいる。いい作品です。

【単行本】「ラブやん」1巻 田丸浩史 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 なんの因果かオタクでロリで無職なダメ男・カズフサを担当することになってしまったキューピッドのラブやんが、ダメ男のぺースに巻き込まれてどんどんダメになっていくというお話ですよー。そのダメっぷりとやってることのレベルの低さが非常におかしい。とくに怪しいレストラン「本場アメリカン」編なんて爆笑モノだったのだが、そうかー、人気なかったのかー。部屋の押入れに住みついたラブやんに対し、カズフサが「ドラブやーん」と泣きついてくるシーンとか妙にツボ。「ドラブやん」という言葉が耳について離れない。困ったものだ。

【単行本】「竹易てあし漫画全集 おひっこし」 沙村広明 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 「無限の住人」の沙村広明による現代モノ。表題作「おひっこし」全5話と、「少女漫画家無宿 涙のランチョン日記」と「みどろが池に修羅を見た」を収録。「おひっこし」は大学生たちによる青春恋愛モノ。赤木さんというちょっと大人びた雰囲気のカッコイイ女性に憧れ、彼女に不器用な告白をぶつ青年・遠野が主人公。そこに遠野の幼なじみであり彼にずっと片想いしていた小春川さん、それから小春川さんのとりあえずの彼氏らがからんで、青春模様がごじゃごじゃと展開していく。大学生らしい馬鹿っぽさ、勢いのある立ち居振る舞いは、見ていて単純に楽しそうだし作品としても面白い。「無限の住人」が時代モノなんで、現代モノも描いてほしいなーと思っていただけにそこらへんはうれしい作品だった。

 「少女漫画家無宿 涙のランチョン日記」はちょっと合わなかった。少女漫画家の激動の人生をハイテンポで描くというギャグものなんだけど、なんか「ここで笑え」サインが見えすぎちゃってる感じがする。たぶん導入部分でスムースにノッていければ最後まで怒濤の勢いで楽しんでいけるだろうし、そこで失敗するとあとはずっと上滑りしているような印象になっちゃうタイプの作品だと思う。あともしかしたら絵がうますぎるというのもあるかも。整っているだけに、どうも安心して読んじゃう。ギャグの場合、やっぱり不安感とか意外性とか落差とかそういうものが重要だと思うんだけど、絵がうまくて整ってるからなんか安心して読めちゃう。

【単行本】「バカ姉弟」1巻 安達哲 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 ヤンマガで4ページずつ、のんびり連載されていた「バカ姉弟」がついに単行本化。ゆで卵みたいにつやつやしたおでこの持ち主であり、なぜか町の人気者である子供、人呼んで「バカ姉弟」の日常を描いていく。とくになんかすごいことをするわけではないのだが、実にまったりほのぼの。これ以上ないってくらいのマイペースぶりを発揮していて、得もいわれず不思議に面白い。これがあの安達哲か、という感じでもあるが、これもまた安達哲だ。

【単行本】「アグネス仮面」2巻 ヒラマツ・ミノル 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 べらぼうに面白いと思う。ブラボー。ヒラマツ・ミノルという作家の持つ、力強さ、アクションの激しさ、描写の確かさ、ギャグテイストなどといった特性のすべてが、プロレスというものと非常によくマッチしている。今回の単行本では猪木的人物であるところのマーベラス虎嶋が抜群にいい味を発揮しているし、アグネス仮面の相棒となったマチルダ仮面のキャラクターも面白い。ギャグのシーンでは思わず声を挙げて笑ってしまうくらいユーモラスであり、アクションシーンは息を飲むような迫力がある。正直いって早く続きが読みたくてたまらない。

【単行本】「ササメケ」1巻 ゴツボ×リュウジ 角川書店 B6 [bk1][Amzn]

 待望の初単行本。イタリアに留学していた元天才サッカー少年の楽市(16歳)が、昔住んでいた日本の地元に3年ぶりに戻ってきて、そこの高校に編入。サッカーは捨てたといってぷらぷらしていた彼だが、なんだか周囲の後押しもあって結局サッカー部に入ることに。そこには変わり者だが部類のテクニシャンである先輩とかいたりして、元天才である彼からしてもなかなか侮りがたいところであった……というのが大ざっぱなあらすじ。それまで学園系の、絵柄はかっこいいけどヘンな味のあるギャグをやっていたゴツボ×リュウジだけに、馬鹿サッカー漫画にでもなるのかと思いきや、意外にもまっとうに面白いサッカー漫画となっている。キレのいい描線が光るシャレた作画は「熱血」という感じではないけれども、一味違ったスポーツ漫画という風味が出ていてなかなかイケる。学園漫画としても一癖二癖ありそうなキャラが多くて面白く読める。果たしてこのままオーソドックスなサッカー漫画として盛り上がっていくのかどうかはよく分からないけれども、今後さらに面白くなっていきそうな気配はぷんぷんしているのでこれからも要注目。

【単行本】「流星のストライカー」1巻 秋月めぐる 秋田書店 新書判 [bk1][Amzn]

 やっぱり秋月めぐるはサッカー漫画を描くべき人だなあと思った。すごくしっかり面白い。ストーリー的には「谷間世代」と呼ばれているワールドユース日本代表に、乱暴だけれども抜群の得点感覚を持った野生児・織田流星が加わり旋風を巻き起こすというもの。この人のサッカー漫画の何がいいって、サッカーが好きってこと、サッカーを知っているということがページから伝わってくることだ。とくに感心するのが、ボールを持った選手の立ち姿がビシッと決まっていること。フォーメーションや各選手の動きなどの描写もなんだかすごく納得できる。物語的にはまだ序盤だけど、今後の展開にも期待が持てる。秋月めぐるのサッカー漫画としてはほかに「ビクトリー・ラン」「モカンボ」「W杯伝説 2002年のマラドーナ」とあるが、とくに「ビクトリー・ラン」「モカンボ」はオススメなんで、古本屋とかで見かけたらぜひどうぞ。

【単行本】「仮面ライダーSPIRITS」3巻 村枝賢一 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 アツい! 迸るようにアツい!! この巻はストロンガー、スカイライダー、スーパーワンなんだけど、とくにストロンガー編がいい。敵の改造人間チームの悪役としてのカッコ良さ、それから岬ユリ子=タックルとのエピソードの悲劇性など、このうえなくドラマチックでもう泣き泣き。そして鳥肌立ってゾクゾクする変身シーンのカッコ良さ。敵が十分に強く、それに対抗する正義もまた強い。光と影がともに強烈。なんかこう、玉虫色なんかではないハッキリとした正義というものの素晴らしさに酔いしれてしまう。村枝賢一の熱のこもった表現も素晴らしい。

【単行本】「青春ヒヒヒ」下巻 清野とおる 集英社 B6 [bk1][Amzn]

 ヤングジャンプで連載された奇矯な学園ギャグ漫画。読切「夢で逢えたら」「星に願いを」「鳥になりたい」を併録。やたらとアクの強い絵柄とクレイジーで意味不明なギャグの数々は、ヘンな漫画好きにはたまらない。「青春ヒヒヒ」本編の、なんだか主人公および読者を置いてけぼりにしていくような終わり方も趣深い。なんか登場人物の表情が揃いも揃ってイヤな具合にひねこびてて邪悪なのがいい。この人はあんまり作画はうまくならないで、この味を保持していってほしい。

【単行本】「幽玄漫玉日記」6巻 桜玉吉 エンターブレイン A5 [bk1][Amzn]

 これにて完結。最終回は個人的にかなりキた。桜玉吉の日常を淡々と描いていくというのはこれまでと変わらないのだが、笑いと寂寥感と普通な感じがまぜこぜになってどーんと迫ってくる。とくに桜玉吉の父の姉で、もう半分ボケてしまって童女のように邪気のない精神状態になっているおばあちゃんのエピソードは胸に響く。この巻で描かれているお話は、なんかもうすごく生だ。絶望とかいうほどドラマチックじゃないし、鬱ではあろうけれども別に同情を求めるとかでもない。しかもちゃんと漫画として読者を引き込むだけの面白さを維持しつつ、あくまで恬淡と綴りつづける。

 この作品の中で描かれている重要なモノの一つとして「老い」というものがあると思うんだけど、それについて露悪的にならずクールすぎもせず、悟りきるでもなしに、それを「ああ、こんなものだなあ」となんとはなしに受け入れている。哀愁という言葉は近いような気がするけど、いささかオーバーすぎるか。漠然とした不安という感じかなあ。なんだかとても泣けた。作家日常モノでこれほどダウナーな姿を、いやったらしくなく親しみやすく描いた作品というのもまれじゃなかろうか。傑作だったと思う。何はともあれお疲れさまでした。

【単行本】「鶏肉倶楽部」 中村明日美子 太田出版 A5 [bk1][Amzn]

 マンガ・エロティクスFで耽美な作品を描いている中村明日美子の第2単行本で、今回は短編集。耽美なことは変わらないけど、今回はジョークのきいたユーモラスな作品もいくつか。表題作「鶏肉倶楽部」なんかも、鶏をこよなく愛する倶楽部に入った青年と鶏の愛を描き、最後は皮肉なようなオチで着地する気の利いた短編。でもやっぱりねっとりと艶めかしく美しい描線は健在。エロというよりも官能という言葉のほうが似合う。この人の描写ではお互いの体がとろりととけて混じり合うような感じの結合シーンがたいへん官能的であると思う。

【単行本】「マドモアゼル・モーツァルト」限定版 福山庸治 限定版 B6 [bk1][Amzn]

 「マドモアゼル・モーツァルト」が限定5000部で復刻。モーツァルトは、実はその才能を惜しむ父親により男装させられていた女性であった……という設定のもとで、その人生を追っていくという物語。すでに連載時から10年以上経った作品だけれども、今読んでも十分ポップだし内容も深いし、作画レベル的にも高いし、すごく面白かった。モーツァルトが女性であったという一点だけで、サリエリのモーツァルトに対する愛憎、それからモーツァルトの家庭状況に、通常の記述以上の深みが出てくる。ここですごいのはモーツァルトの才能に対するサリエリの嫉妬だとか、天才ならではの奔放な振る舞い、没落だとかいう、本来的なモーツァルト伝のディティールも損なっていないこと。女性であるという点がプラスアルファの要素となり、各要素が反響しあって物語の拡がりが増している。後半の息苦しい展開と、ラストシーンの開放感もお見事。26話/552ページと、一気に読み切れるちょうどいいボリュームだし、隙なく完成された傑作だと思う。


▼エロ系

【単行本】「アナル・ジャスティス 肉棒射精編」 上連雀三平 A5 [Amzn]

 やったー。ついに最後まで読める。うれしい〜。というわけで5年ぶりに2巻めが出た。念のためにストーリーを説明しておくと、フタナリの女の子たちで構成される「女の子のための勃起倶楽部」に憧れていた女装男子の七緒くんが、特別に勃起倶楽部への入部を許され愛とおちんちんと精液にまみれた学園生活を送るという物語である。とかいうと濃くて鬼畜なハードコアエロスを想像するかもしれないが、そんなことは全然ない。お話はラブコメチックなノリで、かつ「あたしもね……七緒さんの柔らかそうなお口にあたしのおちんちんをネジこんでみたいなって思ってたの」とか、素敵かつイカれたセリフ満載で楽しく展開する。

 そしてヴィジュアル的にはとにかくおちんちん。もう何本も何本も、あっちからこっちからにょきにょきと林立してぴゅうぴゅう射精しまくり。それを上連雀三平は実に楽しそうに描く。おちんちんという神々しいフォルムを持った物体への愛を、精神的にも表現的にもまったく隠すことなく開けっぴろげに描ききった本作は、おちんちんを愛する人間を強く魅了してやまない。この洒落っ気、愛敬は本当すげーなーって思う。セリフのセンスもいちいちグッドでスカッと笑わせてくれる。「男の子ばかりの女子校を作るのが先生の夢なの」「どーしたんだろなんか最近あたし変だ 気がつくとタマのことばかり考えてる タマがしゃぶりたい」「肛門の前にはすべてのおちんちんは平等である」……。ああ、先生、美しすぎます。

 上連雀三平といえばポケモンの漫画を描いていたことでも知られているが、前にも書いたことあると思うけど、ピカチュウのフォルムっておちんちんによく似ていると思う。あの頭なんか絶対亀頭だし、首のところのくびれもやばい。口についても、なんだか尿道を思わせるものがある。それを考えると、上連雀三平を登用したのもうなずける。なんにせよ何回読んでも上連雀三平は天才だなと思う。こんな輝いてる漫画はほかにないよ。

【単行本】「奥さまは少女」 甘詰留太 ティーアイネット A5 [eS]

 これはいいです。肋骨が浮くくらいのきゃしゃなロリ娘であるにも関わらずググッとエロい。とくに表題作の「奥さまは少女」シリーズが素晴らしい。成人女性の出産能力が著しく低下した近未来が舞台で、その対策として人類は法的な結婚可能年齢を大幅に引き下げ、少女と成人男性のカップルが大っぴらに存在できるようになった……!という設定のもと、年の差はあるけれどアツアツなアキラ&満子夫婦の性生活を描いていくという話。設定は一見SFチックな感じでもあるのだけど、まあ要するに超幼な妻との愛にあふれた生活を描くというほのぼの、かつハードHな漫画なのである。で、この生活の模様が実に幸せそうで微笑ましい。とくに満子ちゃんの見せる幸せたっぷりなオノロケ顔の、瑞々しく甘酸っぱくくすぐったく愛らしいことといったらない。この人は少女の「いい表情」を描くのがすごーくうまい。でもエロもちゃんと抜かりなく十分実用レベルでやっていて、非常に充実している。思わずアテられてしまう一作。

【単行本】「少女のままで。」 みかん(R) コアマガジン A5 [Amzn]

 期待の叙情派系少女エロスの新鋭の初単行本。ずっとお待ちしておりました。特徴としては繊細なタッチと、少女たちの切ない気持ちを映し出すセンチメンタルなお話作りといった点があげられるだろうか。この人の作画は白と黒のコントラストがすごく美しくて、輪郭線が光の中に溶け込んじゃうような、透明感のある儚さとでもいうべきタッチが少女たちの心根を現わしているかのよう。あんまりエロ漫画では見ないような下からの視点とか構図取りも良い。まだ長編を描くほど練れてはいないけれど、未完成の部分を残しているように思えるところがまた魅力でもある。コアマガジンのWebに単行本の表紙やサンプルがあるのでビビッと来た人は買い。ジャケ買いで後悔しないタイプの本だと思う。

【単行本】「家政婦が黙殺」 篠房六郎 ビブロス A5 [bk1][Amzn]

 現在アフタヌーンで「空談師」を連載中の篠房六郎の初単行本。カラフル萬福星に掲載された作品を中心に収録。この人の特徴はやっぱりやたら絵がうまいこと。線が美しくて完成度が高い。そんな絵のわりに内容は下品系のギャグ連発だったりして、そのミスマッチが味。とくに同級生のお嬢さまな女の子と、彼女によって肉奴隷(といってもなんか間違った形で)にさせられてしまったメガネっ娘がドツキ漫才的なドタバタを繰り広げる一連のシリーズは、女の子もカワイイし楽しいなと思う。ただこの人のギャグは、楽しいとは思うんだけど個人的には声を出して笑うって感じじゃない。やってることは面白いし光るセンスも感じるのだが、なんというか「ここで笑え」サインが見えすぎちゃう。あと画面がキレイで破綻がまったくない分、爆発力がスポイルされちゃってるかな〜という気もする。絵のすごくうまい人のギャグは得てしてこういうふうになりがち。北道正幸や沙村広明のギャグにも共通するものを感じる。

【単行本】「LOVE BITES」 天竺浪人 三和出版 A5 [Amzn]

 これはすごく面白かった。ひとことでいえば、愛と肉欲のアンバランスが生み出した、いびつに歪んだ家族のドラマということになる。若くて美人の母・美咲は、双子の息子の片方キヨシは普通の恵まれた少年として育て、もう一人であるツヨシを小学生ながら自分のアナルを掘らせるための肉人形として仕込み、彼は自分のアナルから生まれてきた息子として貶めながら育てている。自分をメスブタと罵らせスパンキングをさせ、それが満足にできないようなら容赦なく殴る蹴るといった虐待を加える。彼女をそのような行いに走らせたのは、学生時代に同級生から肉便所として扱われていた経験と、勃起不全の夫の存在だった。

 過去の記憶を嫌悪しつつも、熟れた身体はその刺激が忘れられない。しかもそうやって虐待されていた環境に救いの手を差し伸べてくれた夫への愛は存在し、欲情との間で板挟みとなった彼女は、自分の想念の中で「自分を思うさま蹂躙するもう一人の夫」を作り上げてしまう。そして夫のほうも妻の肉体を満足させられないことで、自分を苛み続けている。そんな状態で虐待されている息子・ツヨシは肉棒で母の尻を征服することを共用され、父母は愛し合いながらも狂気の度合いを強めていく。むしろかやの外に置かれているのは、健全に育てられているはずのキヨシともいえる。

 まずはツヨシとキヨシという双子の少年が恐ろしく対照的に扱われる序盤のインパクトは強烈だし、美咲のエキセントリックな行いを見せつけたうえで、その奥に潜むものを徐々に解き明かしていく展開は読む者を物語にぐいぐい引き込んでいく。最初は影が薄いかなーと思われていた夫の存在もだんだん重要性が増していき、愛と狂気が重なって悲劇的で刺激的な物語を構成している。関わった者たちを暗闇の中に引きずり込むかのような満たされない虚無って感じの雰囲気作りは見事だし、全10話の各話にそれぞれインパクトがあって読みごたえバッチリ。重さ、暗さ、妖しさを湛えた天竺浪人らしい一作。

【単行本】「大葬儀」 駕籠真太郎 太田出版 A5 [bk1][Amzn]

 マンガ・エロティクスとエロティクスFに掲載された短編を収録した作品集。大きく分けて前半が「大葬儀」から始まる「大××」シリーズ全5話で、後半が「六識転想アタラクシア」に出てきた紺野さんや遠目塚先生を主役にしたフェティッシュな読切となっている。どちらかといえば後半のほうが、刺激が強くて個人的には面白く感じた。「紺野しぐれの幸福なる日々」はイジメられっ娘だった紺野さんに彼氏ができたと思ったらそやつが好きな人に自分の身体の一部を食わせようとする変態だったり、「遠目塚先生の優雅な楽しみ」の遠目塚先生は自分の身体を蚊に食わせたり毛じらみをたからせたりしてその痒みを楽しむという奇矯な趣味を持っていたり。どちらも身体感覚にダイレクトに訴えかけてくる。最近の駕籠真太郎はわりとライトな感覚で読める作品が増えてきてる印象があるんだけど、個人的にはこういう肉体的なネタのほうがより味付けが濃くて好みだ。

 「大××」シリーズはクールな作品群。一話一ネタという感じでテーマを絞り、そこからお話を転がしていくというパターン。その中では「大酔狂」がいい。地上何百階もある団地で、すべての部屋の旦那さんが間違えて1階下の部屋に帰ってきちゃって自分の部屋とまったく同じように行動しちゃってトラブルを起こすという展開。延々と同じパターンを繰り返しつつ、少しずつズレ方を大きくしていってとんでもない事態にしていくという構成が面白い。表題作の「大葬儀」は、葬儀を巡って死体マニアと死体マニアマニアと未亡人マニアと未亡人マニアマニアがどんどん増殖していくというお話。マス目のごとく区切られた画一的な町並み、それからページ6分割ベースの画一的なコマ割りなんかも、どんどんコピーが増えていく……というイメージに繋がってて効果的。「大××」シリーズは全体的に、ネタを料理し盛りつける腕前に作者の頭の良さを感じさせる。

 単行本全体を通してみると、駕籠真太郎はやっぱりギャグの人だなあと思う。グロだったりブラックだったりするけど、基本は旺盛な遊び心に支えられている。「こういうネタを使ってこういうふうに遊んじゃうんだ、すげーなー」という感じでいつも読んでいる。

【単行本】「イエローハーツ」1巻 米倉けんご ワニマガジン社 B6 [bk1][Amzn]

 今村夏央名義で描かれた「ファイヤーキャンディ」とちょっと似たような雰囲気のある都会不良少年少女モノ。いろいろな迷走する青春が交錯するお話をトンガった感じに描き出しててカッコイイのだが、ちょっと錯綜しててお話としては今のところ分かりにくく感じる。登場人物も多いし。ヤクザの妾の子でヤクの売人もやってる小川鉄人、それからなんかまっすぐな感じの田中諒の2少年が中心となってお話が展開されていきそうな気配ではあるけれど、全体に混沌としていて先は読めない。あと1巻では、ホテトル嬢のアイちゃんのエピソードがファックシーン濃い目でかなりエロいいのも注目かな。

【単行本】「ピュアガール」 おがわ甘藍 松文館 A5 [Amzn]

 「best of Kanran Ogawa」と銘打たれた短編集で、全10本のうち6本が再録。というわけで4本は初収録なので、やはりファンとしては押さえなければならんでしょう。内容的には全編少女ロリエロス。首筋が細くて男の手にかかっては容易に手折られてしまいそうないたいけな少女が、快感に溺れていくというお話が基調。「いたいけな」とか「初」とか「ピュア」だとか、そういう言葉でついつい飾ってしまうけれども、実際おがわ甘藍の描く少女はとても可憐だ。それはもう古風なほどに。そういう現在にはいなさげな少女たちだからこそ、このエロスはファンタジーとして成立している。自分の指を甘く噛みながら快感に悶えるところとか、Hの内容はそれなりにハードなんだけど、あくまで仕草が乙女チックなのが最近のエロ漫画の中では珍しい。顔やしなやかな身体つきももちろんいいんだけど、手の表情でモノを語らせる呼吸がいい。それに反して男のほうは存在感が薄いというかボヤけていて、ただ単に「少女を穢す何か」」としてしか存在していない。まるで影のような存在で、その分女の子の華が際立っている。

「初少女」[Amzn]からの再録:「いけない子」「天の羽衣」「ジュリアは部屋で」
「いけない少女」[Amzn]からの再録:「スノウホワイト」「おとめの栄光」「「花芽摘き」
初収録:「魔叢」「蛍蔓」「観用蘭」「破瓜」

【単行本】「OLフラストレーションズ」 北河トウタ 司書房 A5 [Amzn]

 率直にいって巨乳は好きだ。んでもって人の良さそうな巨乳さんはすごくいいと思う。この「OLフラストレーションズ」シリーズの巨乳めがねっ娘OLの佐村チホさんもたいへん人がいいしたいへん乳が大きい。北河トウタの線が滑らかでキュートな画風は好みだし、いやよいやよも好きのうち〜って感じで悦楽に流されていく様子もソソる。というわけで最近の司書房系の作家さんの中ではかなりひいきにしている。明るくて気楽に読めるしカワイイしヌケるしいいよね。

【単行本】「リボルバー」 ZERRY藤尾 コアマガジン A5 [Amzn]

 ここ数年でこの人の絵はエロ漫画的にすんごくこなれたな〜と思う。「扉をコジ開けて」以降、実用度がグーンと増した。お話のほうも毎回なんらかの工夫が凝らされてて面白い。例えば主人公が風邪ひいて恋人が看病に来て「身体がアツい」とかいってやっちゃって最後は相手に感染ってオチがついておしまい〜的な、いかにもステロタイプなエロ目的のお話は一編もない。そういうビジネスライクなエロ漫画をやることに対する照れもあるのかもしれないけれども、なんというか常に「なんかやってやろう、読者を驚かしてやろう」というモノが感じられる。それでいながらそれが不自然になってなくて、肩が凝らずに楽しめるエンターテインメントになってるのがうれしい。あと随所にラブコメ色があったりするのもよろしいかと。

【単行本】「ミルク中毒」 友永楓人 一水社 A5 [Amzn]

 友永和から友永楓人にペンネームを変えて初の単行本。内容は、人気女子アナウンサーが、巨乳で乳首たちまくり母乳出まくりでやられまくる連載「SUZUKA」が中心。最近はこのような乳首がにゅーっと伸び、精液母乳愛液など、体液どぱどぱなハードエロスというのは珍しくなくなったけど、昔っからおなじみだしその描写は相変わらずエロい。エロ以外の何かがあるかといわれるとあんまりないタイプなのだが、個人的には自分の巨乳好きを強く意識させてくれ、学生だったころかなりお世話になった記念すべき作家であるし思い入れは深い。

【単行本】「琴線」 斉藤佳素理 ジェーシー出版 A5 [Amzn]

 蜈蚣Melibe=斉藤佳素理が、フラミンゴ亡き後、MUJINに舞台を移して描いてきた短編エロ作品をまとめた作品集。「バージェスの乙女たち」みたいな人体改造とかのグロめなネタはなく、エロのトーンは明るいというか無邪気というか。ノリが過剰なところはあるけれども、この人なりにすごく楽しんで描いている感じがする。そして情熱的な作風はやっぱり変わってなくって、とくにフェラチオシーンはテンションが高い。あと描写が全体にすごくねっとりとしてて濃いのは相変わらず。読んでて楽しかったのは、富豪になった人が貧民になった人にHなイタズラをしかけることができる大貧民ゲームをやっているクラブのお話「貧民同好会」、それから保険の男先生と彼をとりまく3人の女達との激しいエロシーンを描いた「保険医フルサワ」あたり。それからクラスの性欲処理係とされているイジメられっ娘の悲惨な生活を描く「オメガの日」は切ない幕切れが印象に残る。


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